第183回:Viiv対応でリビングPCはどう変わるか?
日立の地デジ対応PC「Prius Deck P(DH75P2)」



 日立製作所から、Priusシリーズの最上位機種となる「Prius Deck P(DH75P2)」が発売された。地上デジタル放送の視聴・録画やムーブへの対応、HDMI端子を利用した大画面テレビとの接続などが特徴のリビングPCだが、インテルが提唱するコンシューマー向けエンターテインメントPCブランドである「インテル Viiv テクノロジ」に対応している点が注目されている。Viiv(ヴィーブ)対応によるメリットを中心にその機能を検証してみよう。





Viivの条件を満たしたPrius Deck P

Prius Deck(DH75P2)。店頭販売価格は32万円前後

 日立製作所から発売されたPrius Deck Pシリーズの最上位機種「DH75P2」は、なかなか個性的なPCだ。本体は幅59mmという極めて薄型のスタイリッシュなデザインとなっており、一般的なPCに見られる光学ドライブが本体のどこにも見あたらない。光学ドライブはどこにあるのかと目をこらすと、付属の20インチワイド液晶に内蔵されており、一般的なデスクトップPCといわゆる一体型PCの中間的な存在となっている。

 各社からリビング向けのPCが数多く登場しているが、確かに光学ドライブやUSB、メモリカードスロットなどのインターフェイスを本体から液晶側に移し、本体を裏方的な存在に徹しさせるというのもなかなか面白いアイデアだ。機能的にも充実しており、地上アナログ/地上デジタル対応チューナーユニットが内蔵されているほか、地上デジタル放送の視聴・録画やムーブにも対応。さらにHDMI端子を搭載しており、大画面テレビに接続して利用することも可能となっている。静粛性も高く、かなり家電に近いイメージのPCと言って良いだろう。


地上アナログに加え、地上デジタル放送の視聴、録画、ムーブに対応したDH75P2。テレビの視聴にはPrius Navistation 4という独自のアプリケーションを利用する

 充実したAV機能を備えるDH75P2だが、本コラムで注目したいのは何と言っても2006年1月にインテルが発表した「Viiv」に対応している点だ。Viivは、一定の条件を満たしたコンシューマー向けエンターテインメントPCに与えられる新ブランドだ。主な条件は以下のようになっており(このほかにソフトウェアやドライバの条件もある)、今回取り上げるDH75P2もこの条件を満たしている。

Viivの条件Prius Deck P(DH75P2
OSWindows XP Media Center Edition 2005Windows XP Media Center Edition 2005
CPUPentiumD/Intel Core DuoPentium D 920
チップセットIntel 945/955/975Intel 945G
LANIntel PRO ClientIntel PRO/1000 PL
HDDSerial ATA(NCQサポート)Serial ATA 500GB(250GB×2 RAID0)
SOUNDHD AudioRealTek HD Audio
リモコン必須専用リモコン/MCE用リモコン




Viiv対応で何が変わるのか?

 では、Viivに対応したことでどんなメリットがあるのだろうか? インテルがViivによって目指しているのは、テレビやブロードバンド、パソコンを融合させたデジタルエンターテインメントの実現と言える。このため、単に一定の条件を満たしたPCに「Viiv」というデジタルエンターテインメントPCのブランドを与えるだけでなく、Viiv対応PC向けに専用の映像や音楽、ゲームなどといったコンテンツも提供される。さらに将来的には、ネットワークによるコンテンツの共有なども実現される予定だ。

 要するにViivとは、CPUの性能などといったある意味あいまいな指標ではなく、できることとできないことを明確に打ち出すことで差別化を図るという狙いと言える。

 では現段階でViiv対応と非対応のPCで何が違うのかというと、Windows XP Media Center EditionのメディアオンラインでViiv専用コンテンツを利用することができる点だ。試しに、DH75P2でメディアセンターを起動し、メディアオンラインにアクセスすると、お笑い番組を配信する「zzz.tv」、Avex提供の音楽ビデオ配信の「PRISMIX」、インターネット経由での配信向けに制作されたドラマ「探偵事務所5」の3つが増えていることが確認できた。


メディアセンターのメディアオンラインに追加されているViiv専用コンテンツ。現状は、「zzz.tv」、「PRISMIX」、「探偵事務所5」の3コンテンツが提供されている

 実際にDH75P2でこれらのコンテンツを利用してみたが、その完成度はなかなか高い印象を受けた。たとえば「zzz.tv」ではHDコンテンツ(WMV)などもダウンロードでき、Viiv非対応のストリーミング映像などと比べると、格段に高い画質の映像を楽しめるようになっている。今回はうまく再生することができなかったが、PRISMIXなどでもAvex所属のアーティストのミュージッククリップが多数用意されており、コンテンツとしては悪くない印象だ(PRISMIXは現在リニューアル準備中)。

 ただ、このようなコンテンツはユーザーの好みが分かれるため、それがViivのアドバンテージに直結するかというと、少なくとも現段階ではそうともいいがたい。個人的には、ハードウェアで利用できるコンテンツを差別化するというのはあまり賛成できないのだが、Viivというプラットフォームを成功に導くためには、今後さらにViiv対応のコンテンツを増やし、非対応PCとの差別化しなければならないだろう。





Viivの特徴をいかに取り込むか

 このように、Viiv対応によってオンラインコンテンツの充実が図られたことは歓迎すべきことだが、それによる弊害がないわけでもない。国内のメーカー製PCでは従来から独自のテレビ機能と10フィートUIが搭載されており、リモコンで操作するというスタイルが確立されていたが、OSがWindows XP Media Center Edition 2005となったことで、場合によっては、メディアセンターの機能と独自のテレビ機能をある程度使い分けなければならないケースもあるからだ。

 今回のDH75P2の場合、このような使い分けが極力ないように工夫されている。具体的には、テレビの視聴、録画などには専用のソフトウェア「Prius Navistation 4」を利用し、メディアセンターでテレビを見たり録画することはできないようになっている。また、メディアオンラインのViiv向けコンテンツもPrius Navistation 4から「Intel Viiv Zone」というメニューをで直接アクセスできるため、一般的な使い方においてはメディアセンターを起動しなくても済むようになっている。


Prius Navistation 4の10フィートUI画面。テレビの視聴などに加えて、「Intel Viiv Zone」を選択することによりViiv向けコンテンツにアクセス可能。ただし、すべてのコンテンツにアクセスできるわけではないので、メディアセンターを併用しなければならない

 しかしながら、完全にメディアセンターを起動しなくて済むわけではない。前述したPrius Navistation 4からアクセスできるメディアオンラインのコンテンツは「BIGLOBEストリーム」「zzz.tv」「探偵事務所5」の3つのみとなっており、「GyaO」などこれ以外のコンテンツにアクセスするためにはメディアセンターを起動する必要がある。このため、DH75P2には独自のリモコンとメディアセンター用のリモコンの2つが付属しており、用途によって使い分けなければならない。

 せっかくPrius Navistation 4から一部のメディアオンラインコンテンツにアクセスできるようになっているのだから、ほかのコンテンツにも同様にアクセスできるようにして欲しいし、リモコンも統合してしまえば済むような気もするのだが、このあたりはマイクロソフトやコンテンツプロバイダーなどの関係もあるので、なかなか簡単に統合するというわけにはいかないのだろう。極端な話、メーカー製のアプリケーションからViivの独自コンテンツにアクセスできるようになってしまえば、OSは通常のWindows XPで良いという話にもなりかねない。

 さらに将来的にViivはネットワーク経由でのコンテンツ共有も可能になる予定だが、これも今回のDH75P2ではDiXiM Media ServerとPrius Navistation 4ですでに実現されている。将来的にViivがアップデートされたときにどう使い分けるのかが非常に悩ましいところだ。

 要するに、現状はインテルやマイクロソフト、そしてPCメーカーが、同じような目的に向かって、別々の手段で進もうとしているため、そのバランスがあまり良くないのだ。今回のPriusでは、前述の通りPrius Navistation 4の中に「Intel Viiv Zone」が統合されているように、独自機能とViivの機能の融合が若干ながら行なわれているが、それでも2つのリモコンと2つの10フィートUIが個別に存在することに変わりはない。現状は、Viiv対応のコンテンツが少ないためにさほど気にする必要はなさそうだが、今後コンテンツや機能が充実してきた段階で、メーカー独自の機能とどう融合させていくのかがポイントと言えそうだ。


関連情報

2006/2/7 11:02


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。