第413回:Evernoteとの連携も可能なUSBデバイスサーバー
NTT西日本「N-TRANSFER」


 N-TRANSFERは、インターネットとの通信機能を備えたUSBデバイスサーバーだ。インターネット経由で2台の機器間のデータをやり取りしたり、USBスキャナから取り込んだデータをEvernoteに転送できるのが特長となっている。現在発売されている西日本の製品をテストしてみた。

NTTならではのアレンジ

 NTT東日本、およびNTT西日本から、USB機器をネットワークで共有できるデバイスサーバー「N-TRANSFER」が発売された(なお、本稿執筆時点で出荷されているのはNTT西日本製のみ)。

NTT東日本/西日本が取り扱っている「N-TRANSFER」。USBデバイスサーバーにEvernote連携やDATA TRANSFER機能を搭載した製品となっている

 本製品は、本コラムで以前に取り上げたアイ・オー・データ機器の「ETG-DS/US」、バッファローの「LDV-2UH」、そして本家サイレックスの「SX-3000GB」とほぼ同じ製品となっているが、従来製品がローカル環境での利用を目的にしているのに対して、ローカルだけでなく、インターネット経由での利用も可能となっているのが特長だ。

 もちろん、インターネット経由での利用といっても、WAN経由でUSB機器を使えるというわけではない。いわゆるUSB機器をネットワーク経由で利用できるデバイスサーバー機能はそのままに、新たにインターネット経由でのデータ転送機能、およびEvernoteとの連携機能を搭載している。

 前述したようにサイレックスのデバイスサーバーは、多くのメーカーにOEM供給されているが、今回のNTT東日本・西日本の製品は、単純なブランドの付け替えではなく、クラウドの利用というNTTグループらしいアレンジが施された製品と言えるだろう。

オンラインからセットアップ

 早速、製品を見ていこう。外観に関しては、手のひらサイズのコンパクトな設計となっており、前面側にUSBポート、背面側に1000BASE-TのLANポートとACアダプタ用のコネクタを備えている。

 この前面のUSBポートに、USBメモリーやUSB HDDなどを装着することでネットワーク経由で利用できるようになるわけだが、本製品では2つあるUSBポートのうちの1つに小型のUSBメモリーが装着済みとなっているのが特長だ

前面にはUSBポートを2つ搭載背面には1000BASE-T対応のLANポートを搭載
正面のUSBポートのうち1つには、標準で小型のUSBメモリーが搭載されている。ユーザーアカウントを複数登録したときのプロファイルを保存したり、一時的なデータ受信メモリーとして利用できる接続できる機器は基本的に1台。USBメモリーやUSBスキャナーなどを接続できる

 このUSBメモリーは、ユーザープロファイルの保存やデータの一時保存などシステムが利用する特別な領域となっており、取り外してPCに接続すれば内容を参照できるものの、クライアントソフト(SX Virtual Link)からはUSBメモリとして認識されず、ネットワーク経由では利用できないようになっている。

 このため、標準で利用できるUSB機器は1台となっている。もちろん、USBハブを利用すれば機器を複数台接続することも可能だが、この点は他社製のUSBデバイスサーバーとの違いの1つだろう。

 他社製品との比較ということであれば、セットアップ方法にも若干の違いがある。接続したUSB機器をローカルで使うだけであれば、これまでの製品と同様に付属のCDからクライアントソフト(SX Virtual Link)をインストールすれば良いのだが、Evernoteやインターネット経由でのデータ転送(DATA TRANSFER)は、インターネット上のサイト経由でセットアップする。

ローカルでUSB機器を共有する場合は付属の「SX Virtual Link」をインストールする。なお、個人的に利用しているアイ・オー・データ機器の「ETG-DS/US」も認識して一緒に管理することができた

 N-TRANSFERにLANケーブルを接続して電源を投入後、「http://n-transfer.net」にアクセスして、ユーザーIDとして利用するメールアドレスやパスワード、そして製品のシリアル番号を登録する。

 N-TRANSFER自体は、電源投入後にシリアル番号などの自らの情報を自動的にサーバーに登録するため、ユーザーがサイトから登録したシリアル番号を元に、サーバー側で利用する端末を識別するというわけだ。

 ちなみに、付属の取扱説明書では携帯電話を使った設定方法がメインに紹介されるなど、全般的に携帯電話からの利用が想定されている。確かに、スキャンしたデータをそのままEvernoteに登録したり、端末のUSBメモリー間でデータを転送するというのは、PCレスの使い方そのものだ。極端な話、本製品をEvernoteなどの利用を目的としてだけ使うのであれば、PCは必ずしも用意する必要はないわけだ。

Evernote連携やDATA TRANSFERなどのクラウド機能を利用する場合は、オンラインのサイトからユーザー登録と製品登録を行った後、サービスの設定をするPCレスでの使い方が想定されているため、設定や実際の利用なども携帯電話やスマートフォンから可能となっている

EPSON EP-903FでEvernoteを使ってみる

 さて、N-TRANSFERのサービスサイトに端末を登録したら、あとはサービスを有効にするだけだ。製品情報ページ(http://www.ntra.jp/)などによると、将来的にさまざまなサービスに対応させていく予定だとしているが、現状使えるのは、前述したEvernoteとDATA TRANSFERのみとなる。

 まずは、Evernoteだが、これは単純にアカウントを登録するだけで良い。設定ページから「サービスの設定」を選択し、Evernoteのアカウントを登録。その後、USBポートにスキャナを接続し、同じく設定ページから利用するUSB機器として登録すれば完了だ。

 現状、サポートしている機器は、PFUのScanSnapとEPSONのColorioシリーズとなっており、すでに利用しているユーザーの間ではScanSnapを利用している例が多いが、今回はColorioシリーズの複合機「EP-903F」を利用してみた。

筆者宅で利用しているEP-903Fを接続してみた。ScanSnapも利用可能

 EP-903Fは、標準で有線LAN/無線LANに対応した製品となっているため、N-TRANSFERでネットワーク化する必然性が高くないのだが、それはローカルでのみ利用する場合の話。EP-903Fには、スキャンしたデータをメールで送る機能なども搭載されているのだが、これはスキャンしたデータをPCに送って、メールに添付するという機能となっており、PCを使ったオペレーションが前提となっている。

 これに対して、N-TRANSFERを利用すれば、PCを一切介さず、データをEvernoteに送信できるわけだ。しかも、EP-903Fは、USB接続とLAN接続の同時利用ができるため、N-TRANSFERを利用した場合でも、標準のネットワーク機能はそのまま継続して利用することが可能だ。

 実際にデータをスキャンして転送してみたが、これは確かに手軽だ。原稿をセットしてEP-903Fのパネルからスキャンを選択。データの転送先で「USB接続しているパソコン」を選べば、データがN-TRANSFER経由でEvernoteに登録されるというわけだ。

 転送が完了すると、アカウントとして登録したメールアドレスに通知が届く。後はクライアントからEvernoteにアクセスしてデータを確認すれば良いだけだ。

Evernoteを利用する場合は、設定ページでスキャナの登録とアカウントの登録をしておくEP-903FからスキャンしたデータをN-TRANSFERに送る場合は、スキャン時にパネルで「USB接続されているパソコン」を選択する
フラットベットなので厚みのあるカタログなどもスキャン可能スキャンしたデータは自動的にEvernoteに送られる

 ちなみに、ここまでの操作を実際に試してみると、取扱説明書が携帯電話からの設定や操作をなぜ推奨しているのかがよくわかる。通知の宛先が携帯電話のメールアドレスになっていれば、スキャンが完了したことが、直接手元に、そしてほぼリアルタイムに通知されるからだ。

 これがPCのメールアドレスになっていると、メールを受信して確認してみるまでは、転送が終わったのか、きちんと登録されているのかがわからないため、若干、不安になってくる。

 頻繁に使うと、メールがたくさん届くので、それはそれで、若干うっとおしいとろこではあるのだが、スマートフォンなどを使えば、通知が届くと同時にEvernote上のデータを見ることもすぐにできる。こういう使い方を見せられると、これまでPCの周辺機器だと思っていたスキャナなどの機器も、工夫次第では、必ずしもPCは必要ないのかもしれないと考えさせられるところだ。

DATA TRANSFERは次回の課題に

 実は、個人的にN-TRANSFERに期待していたのは、Evernote転送ではなく、もう一つの機能であるDATA TRANSFERの方であったのだが、実はこの機能は今回試せなかった。

 この機能を目当てに2台購入しておいたのだが、そのうちの1台が初期不良で動作せず、結局、1台しか利用することができなかったからだ。

 ちなみに、製品が故障したおかげで、ひとつ実感したことがある。本製品はNTT東日本とNTT西日本の両方で発売されているが、できれば自分が住んでいる地域の製品を購入した方が良いということだ。サポートのフリーダイヤルに電話をかけたものの、自動的に東日本につながったため問い合わせができず、フリーダイヤルではない通常の番号で西日本のサポートにかけ直したり、連絡先を聞かれて東日本の地域だとわかるとそっちにかけ直して欲しいと言われたりと、かなり手間がかかった。

 東日本側でも製品が発売されるようになれば、どちらでも対応してくれるようになると思われるが、基本的には自分が住んでいる地域の製品を購入することをお勧めしたいところだ。

 話を元に戻そう。というわけで、もっとも注目していた機能は使えなかったのだが、設定画面や取扱説明書を見る限り、このDATA TRANSFERという機能はなかなか将来性のあるサービスだと感じられた。

 USBメモリー間で直接データをやり取りするという発想が面白いうえ、筆者のようなSOHO環境が取引先などとデータを転送するのに使ったり、小規模な地方拠点や全国展開する店舗などのデータ転送手段として活用できそうだからだ。

 具体的には、転送したいデータ(1度の転送は500MBまで)が保存されているUSBメモリーをN-TRANSFERにセット後、PCや携帯電話などからサービスサイトにアクセスしてデータを送信したい相手を選ぶ。すると、相手にメールでデータが送られたことが通知されるので、同じくサービスサイトにアクセスする。画面の指示に従ってN-TRANSFERに自分のUSBメモリーを差し込んで、受信指示を出せば、相手のUSBメモリー内のデータがP2Pで自分のUSBメモリーに転送されるというわけだ(不在の場合は標準のメモリーに一時的に受信可能)。

DATA TRANSFERの流れ。工夫次第ではもっと実用性は高くなりそう

 もちろん、相手側もN-TRANSFERを使っていないとファイルを受け取れないが、これが逆の一種のセキュリティとして作用することになる。仕様を見る限り、転送方式や暗号化の有無などが記載されていないので、現状は一概に推奨することはできないが、場合によっては機密性の高いデータを転送したいときなどにも活用できそうだ。

 このように、本製品はEvernoteの利用に注目が集まっており、どうやら製品ターゲットがハイエンド個人に絞り込まれているようだが、もう少し企業向けの機能に振った方が、面白いように思える。

 たとえば、DATA TRANSFERの機能に関して言えば、いつ誰がどこにどんなファイルを送ったか、相手がそれをいつ受け取ったかをトラッキングできれば企業ユーザーの利便性は確実に向上する。また、BitLockerなどの暗号化されたUSBメモリーにも対応できるようにしたり、あらかじめ2本のUSBメモリーをペアリングしておきその組み合わせでしかファイルを転送できないようにするという工夫も考えられそうだ。このほかにも、複数端末への一斉転送によって、本社から全国の支店への一斉配信のような使い方もできれば、活用の幅も広がりそうだ。

今後、オンラインストレージなどへの対応も進むと思われるが、単純なサービスへの対応ではなく、専用ハードウェアならではの特長を活かした他にはない機能の実装を期待したいところだ。

 以上、NTT東日本、NTT西日本のN-TRANSFERを実際に試してみたが、なかなか面白い製品だ。USBデバイスサーバーの購入を検討している場合は、さらなる付加価値を持った本製品の購入を検討するのも良さそうだ。


関連情報


2010/10/26 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。