第444回:電源ONから10秒で使える軽快WiMAXモバイルルーター アルチザネットワークス「AZ01MR」


 アルチザネットワークスの「AZ01MR」は、電源ONからわずか10秒で使える軽快さが特徴のWiMAXモバイルルーターだ。実際の起動時間や連続通信時間などを検証してみた。

「使う」ことにこだわった製品

 少々古い表現で恐縮だが、クルマで例えるなら、ライトウェイトスポーツとでも言ったところだろうか。

 使いたいときに電源ONですぐに起動し、使わないときは電源をオフにしておくという、当たり前と言えば当たり前の使い方がストレス無く、軽快にできるアルチザネットワークスの「AZ01MR」は、まるで街中の道をヒラヒラと軽快に駆け抜ける小型軽量のスポーツカーのような印象の製品だ。

 現状、モバイルルーターは、大容量バッテリーを搭載することで長時間駆動を目指す製品が多い。実際、前々回、本コラムで取り上げたシンセイコーポレーションの「URoad-8000」は、9時間以上の連続稼働時間を誇っており、電源ONのまま、通信させっぱなしで利用することを想定している。言わば、排気量重視、パワー重視といった考え方だ。

 一方、今回登場した「AZ01MR」は、これとは対照的だ。バッテリー容量は1700mAh(リチウムイオン)とそこそこに押さえられている一方、電源ONまでの待ち時間を極限まで短縮することで、常時ONではなく、頻繁に電源をON/OFFしながら使う事を想定している。

アルチザネットワークスの「AZ01MR」。高速な起動が特徴のWiMAX対応モバイルルーター

 クルマのアイドリングストップよろしく、自動的にON/OFFまでしてくれれば、冒頭で「エコカー」と例えてもよかったのだが、燃費にこだわったというよりは、使い勝手や軽快感を重視した製品になっている。

 おそらく開発者の方は、日常的にモバイルルーターをON/OFFするという使い方をしているのだろう。その上で、どうすれば快適に使えるのかを追求した製品という印象だ。

サイズにも見えるコダワリ

 では、実際に製品を見ていこう。まず気づくのが、そのコンパクトさだ。本体は縦99.5×横59×高さ13.9mmとなっており、重量はバッテリー込みで94gとなっている。

 たびたび比較して恐縮だが、シンセイコーポレーションの「URoad-8000」(幅91×奥行き57×高さ20.4mm/98g)に比べて、縦横のサイズは若干大きいものの、大幅に薄く、重量も若干軽い。

正面側面
付属のACアダプタも小型で持ち運びやすい

 イメージとしてはまさにカードサイズといった感じで、ポケットなどに入れても違和感なく持ち歩くことができる。底面カバーを開けて装着するタイプのストラップホールも備えられているうえ、付属のACアダプタも小型になっており、「持ち運ぶ」ことに対して、かなり配慮された製品となっている。

 デザインも悪くない。同社の新ブランド「Artiza Design(アルチザデザイン)」の第一弾となる製品となっており、表面はピアノとマットのツートンのブラック、底面はステンレスのような印象を受けるシルバーのシックなカラーで構成されている。

 実物を手にすると、素材の質感と軽さから、高級感を感じるというほどのものではないが、BEAU DESSIN(ボーデッサン)とコラボした専用レザーケースがオプションとして提供されるなど、所有感を満足させるような工夫がなされている。

BEAU DESSINとコラボの専用レザーケースも用意される表面の有機ELディスプレイ。たくさんの情報を表示可能となっている

 表面には、有機ELディスプレイが搭載されており、ここにWiMAXの電波状況や無線LANで接続しているクライアントの数、バッテリー残量などが表示されるようになっている。また、SSIDを表示したり、購入直後は「Open Browser」などのガイドメッセージも表示されるようになっている。

 表示系に関しても、最近のモバイルルーターは簡素化する方向に進みつつあるが、本製品には、ルータ上で動作するソフトウェアをダウンロード提供する「REVO(Router EVolution Online)」というサービスに対応している関係もあり、充実した表示機能が搭載されている。

 なお、REVOでは、無線LAN接続を空チャンネルを検索できる「WLAN Channel Finder」の提供がすでにアナウンスされているが、今回の評価時点では、残念ながらこのサービスを利用することができなかった。

 多機能を追求していくと、スマートフォンのテザリングとの競合も視野に入ってくるが、このあたりも起動時間短縮やサイズへのコダワリ同様、モバイルルーターにあると便利な実用性重視のアプリが提供されることを期待したいところだ。

起動時間と通信時間をチェックする

 少々、前置きが長くなったが、実際の使い勝手について見ていこう。まずは、本製品の最大の特長とも言える起動時間をチェックしてみた。

 本体側面の電源ボタンを2~3秒ほど長押しして電源をONにすると、8秒ほどでディスプレイにWiMAXの電波状況を示すアイコンが表示され、さらに3秒ほど経過すると「Connecting....」と表示される。2~3秒ほどで、この接続処理が完了し、最終的に電源ボタンを押し始めてから15~16秒前後で使えるようになった。


電源ONからの起動時間をチェック

 これは文句ナシに速い。イメージとしては、鞄の中に手を入れて電源ボタンを長押し、その後、ポケットなどからゲーム機や携帯情報端末を取り出して画面ロックを解除している間に、すでにAZ01MRが使える状態になっており、ほぼタイムラグなく通信できるといった感じだ。

 通常のモバイルルーターの場合、電源ONから1分程度待たないと接続できるようにならないため、端末で無線LANが見つかるまで、ちょっとした空き時間があるものだが、そういった待ち時間は一切必要ない。まさに、使いたい時にスグに使える印象だ。

 なぜ、これほど速いかというと、答えは単純で、すでに起動していて、スリープしているからに他ならない。AZ01MRは、バッテリーが装着され、通電が開始した段階でバックグラウンドで起動を開始する。起動が完了した段階で、必要最低限の機能のみを残してスリープへと移行し、電源が押されるまで待機しているわけだ。Windowsのスリープ、レコーダーなどの電源制御と同じと考えればいいだろう。

 実際、この動作は電源OFFのときの様子をみているとよくわかる。起動中に電源ボタンを長押しすると、4~5秒前後で電源がオフになる。しかし、さらに4~5秒待つと、画面に「Please Wait...」と表示され、起動処理が実行されていることが確認できる。この起動処理は30秒前後続き、トータルで45秒前後で、再びスリープ状態となる。

 つまり、電源ONはスリープからの復帰で、電源OFFは終了&起動&スリープの移行となっているわけだ。

 蓋を開けてみれば、「なんだ」と思わなくもないが、こういった工夫をハードウェアに実装した功績は大きい。今後、同様の手法が他製品でも採用されていく可能性は十分にあるだろう。

 一方、連続動作時間についてだが、これは意外に悪くない。カタログスペックでの駆動時間は約5.5時間となっているが、バッテリー切れになるまで、PingとHTTP GETを数秒おきに繰り返すといういつものベンチマークテストを実施したところ、15:06開始から22:33の終了まで、トータル7時間27分の動作を確認できた。

バッテリーは1700mAh(リチウムイオン)。取り外しも可能設定画面で自動電源OFFまでの時間などを工夫すればより長時間の利用も可能

 最近のモバイルルーターは、カタログスペックと実動作時間がほぼ同じことが多いのだが、本製品ではかなり控えめに表記されているようだ。このため、こまめに電源をON/OFFしながら利用すると、ほぼ一日使ってもバッテリー切れになるようなことがない。

 USBケーブルで充電しながら利用することもできるうえ、設定画面から「省電力」の項目を開くと、画面点灯時間や自動電源OFF(標準は無通信から30分)までの時間も変更できるので、うまく使いこなせば、かなりの長時間利用も可能と言えそうだ。

モバイルルーターとしては良い選択肢

 以上、アルチザネットワークスの「AZ01MR」を実際に使ってみたが、短い駆動時間を電源ON/OFFで工夫して使う製品と思いきや、普通に使ってもバッテリー駆動時間は十分にあるうえに、起動が速く、使い勝手の良い製品に仕上がっている。サイズも小型で、非常にバランスの良いモバイルルーターと言えそうだ。

 ただ、マルチSSIDがバージョンアップ対応となっていたり、注目のREVOのサービスがまだ利用できないなど、仕上がりとしては80~90%ほどにとどまっているという印象を受ける。

マルチSSIDはバージョンアップ対応予定。注目のREVOサービスもまだ利用できない

 ルーターとしての機能も、ポート転送やパケットフィルタ、DMZなど一通りそろっているが、設定画面がシンプルすぎるため、誰でも簡単に使えるかと言われると難しい印象を受けるところだ。なので、今後は、ソフトウェア面でのさらなるブラッシュアップを期待したいところだ。

 個人的には、電源ボタンとWPSボタンの形状をもう少し工夫してほしかった。この手の製品は、鞄やポケットの中に入れたまま、手探りで電源を入れることが多い。特に、本製品の場合、起動が速いので、わざわざ起動を確認することなく、手探りで電源を入れるという使い方が適してる。

電源ボタンの形状はもう一工夫ほしかった

 慣れれば、隣り合う電源ボタンとWPSボタンを押し間違えることもなくなるのだが、最初のうちは、どちらがどちらかわからなくなることも少なくない。WPSボタンは頻繁に使うものでもないので、ツラ位置にして指に触れないようにしておくなど、形状を工夫してほしかったところだ。

 とは言え、このような些細な点を除けば、完成度の高いモバイルルーターと言える。同社には、こうした特色のある製品を今後も発売し続けてくれることを期待したいところだ。


関連情報

2011/6/14 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。