第454回:スマートフォン連携でルーターをさらに活用 NECアクセステクニカ「AtermWR8600N」
NECアクセステクニカから、新型の無線LANルーター「AtermWR8600N」が発売された。IEEE802.11n/a/b/gの同時通信対応の製品だが、新たにスマートフォン向けの連携機能を搭載し、アプリなどを利用して外出先から自宅にリモートアクセスすることも可能となっている。その実力を検証してみよう。
●リーズナブルな同時通信対応モデル
自宅でスマートフォンを無線LANに接続できるだけでなく、外出先からも自宅に設置した無線LANルーターを活用できる。そんな環境を手軽に構築することができるのが、NECアクセステクニカから新たに登場した「AtermWR8600N」だ。
製品としては、IEEE802.11n/a/b/gに対応した無線LANルーターで、5GHz帯のIEEE802.11n/aと2.4GHz帯のIEEE802.11n/b/gの同時通信が可能な製品となっている。
NECアクセステクニカの「AtermWR8600N」。イーサネットコンバータの「WL300NE-AG」が付属したセットモデルもラインナップする |
同時通信対応の無線LANルーターは、ハイエンドとなる高価格帯に位置づけられる製品が多いが、本製品は本体のみの実売価格で1万円前後、イーサネットコンバータの「WL300NE-AG」セットモデルでも17000円前後と、比較的リーズナブルな価格設定となっている。
同社のハイエンドモデルとなるAtermWR8700Nに比べると、ギガビットイーサ対応が省略され、有線LANが100BASE-TX対応となる点が異なるが、新たにUSBカメラによる映像配信機能や「ホームIPロケーション」と呼ばれる無償の簡易ダイナミックDNS機能が搭載されるなど、使い勝手が重視されているのが特徴だ。
現状、無線LAN製品は、3x3のMIMOによる450Mbps対応が進んでいるものの、PCやタブレットなど接続機器側の対応がなかなか進まず、実力を発揮できる環境が整えにくい。このような状況の中、単純な通信速度よりも、同時通信による干渉の回避やスマートフォン対応といった新しい使い方をリーズナブルな価格で提供しようというのが、今回の新製品の目指すところとなっている。
●アンテナレスでも十分な実力
それでは、早速、製品をチェックしていこう。まず目に付くのは、そのスッキリとしたデザインだ。既存モデルと共通のアンテナレスの筐体は、シンプルで場所を選ばず設置することができる。
最近の巨大アンテナブームを考えると、物足りない印象が受ける場合があるかもしれないが、同社ならではのハイパーロングレンジ設計によって、アンテナレスでも安定した通信が可能になっている。
正面 | 側面 |
実際の通信速度を筆者宅(木造3階建て)で計測したのが以下の値だ。イーサネットコンバーターセットモデルを利用し、付属のWL300NE-AGをThinkPad X200に接続して、1階に設置したアクセスポイントに対して各階でFTPによる計測をしてみた。
筆者宅(木造3階建て)での計測結果 |
フロア | 通信規格 | GET(Mbps) | PUT(Mbps) |
1F | 802.11a | 89.97 | 92.78 |
802.11g | 65.75 | 64.77 | |
2F | 802.11a | 59.38 | 63.45 |
802.11g | 40.58 | 39.36 | |
3F | 802.11a | 34.67 | 39.70 |
802.11g | 23.69 | 25.08 | |
※サーバー:Core i7 860/RAM8GB/HDD2TB ※クライアント:ThinkPad X200(Intel Core 2 Duo P8600/RAM8GB/OCZ Vetex2 120GB/WL300N-AGを利用) ※サーバー上に作成した4GBのRAMDISK上に900MBのMTSファイルを保存しFTPにてファイル転送した際の速度を計測 |
混雑している2.4GHz帯に比べると、やはり5GHz帯の成績が良い。1階の同一フロアでは有線90Mbps前後とAtermWR8700Nの有線LANの上限まで速度が出ているうえ、3階でも30Mbps後半と日常的な利用には十分な速度を実現できている。
また、通信も非常に安定している。製品によっては、速度の上下が激しく、計測するタイミングによって大きく値が変化する場合もあるのだが、本製品の場合は、いつ計測してもほぼ一定の速度でバラツキがあまりない。
本製品には、「TVモード」と呼ばれる通信モードが搭載されており、QoS規格の「WMM」対応によって、映像配信サービスなどで安定した通信ができることも特徴の1つとなっているが、干渉の心配がない5GHz帯と合わせて利用すれば、途切れのない安定した映像を楽しむことが可能だ。
スマートフォンやゲーム機などは2.4GHzで利用しつつ、帯域が必要な映像配信サービスを快適に楽しめるのは、本製品ならではのメリットと言えそうだ。
●USBカメラで自宅を監視可能
このように、実用性が非常に高い「AtermWR8600N」だが、今回、新機能としてUSBポートの機能とスマートフォン機能が強化された点も大きく注目される。
まず、USBポートだが、これまでのUSBメモリやUSBハードディスクに加え、新たにUSB接続のカメラにも対応した。本製品はUSBハブに対応しないため、USBメモリなどと併用したいときはつなぎ替えが必要だが、これによってAtermWR8600Nで留守中の自宅を監視することなどが可能になった。
使い方は簡単で、本体のUSBポートにUSBカメラを接続し、設定画面にある「USBカメラ設定」で機能を有効化すればいい。これで、ポート15790経由でカメラ用のWebページにアクセスすることが可能となり、カメラを通じて撮影された映像をPCや後述するスマートフォン用のアプリから見ることができる。
対応するUSBカメラは、「UVC(USB Video Class)」規格(Ver1.0a/1.1)対応のものに限られるが、対応機器情報のページを確認すると、主要なメーカーの製品の多くが利用可能になっている。
今回は、手元にあったマイクロソフトの「LifeCam Cinema」を接続してみたが、対応リストには掲載されていないものの、問題なく認識された。
対応するUSBカメラはUVC規格対応のものとなる。マイクロソフトの「LifeCam Cinema」を利用した | 後述するホームIPロケーションと組み合わせることで外出先から簡単に自宅をカメラで監視できる |
映像のサイズや更新間隔は、接続するカメラによって異なるが、今回の製品では160×120~640×480のサイズまで選択可能で、更新間隔は250/500/1000/5000msecの選択が可能だった。更新感覚を短くすると、カメラの前で動く対象物もリアルタイムにとらえることができるので、自宅で留守番しているペットなどを監視したい場合は、設定を切り替え表示するといいだろう。
なお、標準では、Web設定画面を表示するためのパスワードでUSBカメラの表示画面が保護されるが、任意のユーザー名やパスワードも設定可能だ。家族や親類などに映像を公開したい場合や、ピアノや学習塾などでレッスンの様子を公開したい場合など、用途によってはユーザーを別途登録しておくといいだろう。
ネットワーク対応のWebカメラを購入するよりも低価格で導入できるうえ、設定も難しくないので、なかなか便利な機能だ。工夫次第でいろいろな用途に使えるだろう。
標準では管理者アカウントを利用するが、これとは別のユーザーを設定することもできる。第三者に公開する可能性がある場合はユーザーを登録しておくと便利 |
●簡易DDNS機能やアプリの対応で使い勝手が向上
一方、スマートフォン対応の機能については、2つの点で使い勝手が向上している。1つは、USBカメラでも利用するが、外出先からアクセスする際のアドレスとして、簡易ダイナミックDNS機能が無料で利用できるようになった。
従来製品では、BIGLOBEのサービスにしか対応していなかったが、今回のサービスでは、これに加えて「お名前.com」に対応したほか、無償で利用できる「ホームIPロケーション」が利用可能になっている。
「ホームIPロケーション」では、「sk7g83nh8d33z7.home-ip.aterm.jp」のようなランダムの英数字+home-ip.aterm.jpというホスト名が自動的に割りあてられるため、一般的なダイナミックDNSサービスと使い勝手が異なるものの、設定画面からチェックボックスを1つオンにするだけで使えるという非常に手軽なサービスとなっている。
ホームIPロケーションの設定はチェックボックスをオンにするだけと非常に簡単。ランダムなホスト名となるものの、無料で利用できるので重宝する。設定されたホスト名は設定画面の「現在の状態」から確認できる | USBメモリやUSB HDDを接続した場合、外出先からホスト名を利用してファイルにアクセスすることもできる |
ルーター機能を無効にしたアクセスポイントモードでも利用可能となっているため、プロバイダーから提供されたルーターがすでに設置されいてる環境でも利用可能だ。
これにより、USBストレージは「http://sk7g83nh8d33z7.home-ip.aterm.jp:15789」、USBカメラは「http://sk7g83nh8d33z7.home-ip.aterm.jp:15790」といったように、グローバルIPアドレスを気にすることなく外出先からアクセスできるようになった。これだけでも、かなり使いやすくなった印象だ。
スマートフォン対応で、もう1つのポイントとなるのは、アプリによるアクセスが可能になった点だ。
「PicupShare for Aterm」(プライムワークス)と「ホームコネクト for Aterm」(AnchorZ)というAndroid向けの2つのアプリがサードパーティから登場し、これを利用することで、スマートフォンから手軽にAtermWR8600Nに接続したストレージやUSBカメラにアクセスできるようになった。
「PicupShare for Aterm」と「ホームコネクト for Aterm」というアプリがサードパーティから提供され、スマートフォンからリモートアクセスなどの機能が使いやすくなった |
まず、「PicupShare for Aterm」だが、こちらは主に写真を楽しむためのアプリだ。アプリ内からスマートフォンのカメラを制御できるようになっており、撮影した写真をAtermWR8600Nに接続したストレージへとインターネット経由で保存することができる。
細かな撮影設定こそできないものの、撮影後、保存先としてAtermWR8600Nを選択し、保存したいフォルダを選んでダブルタップすると、そこに直接写真を保存できる。ダブルタップで選ぶという操作に若干の慣れが必要だが、AtermWR8600Nを、まるでmicroSDメモリーカードのように使えるのは新鮮な感覚だ。
もちろん、保存だけでなく、AtermWR8600N上の写真を表示することも可能なうえ、コピーや貼り付けといった操作もできる。
また、アクセス先として複数のAtermシリーズを登録可能となっているため、たとえば自宅だけでなく、友人宅のAtermWR8600Nシリーズに写真を保存したり、サークルなどで共有のAtermWR8600Nを設置しておき、そこにみんなで写真を保存し合うといった使い方も可能だ。
PicupShare for Aterm。カメラで撮影した写真をAtermのストレージに保存したり、保存されている写真を外出先から表示することができる | 撮影した写真をAtermのストレージに保存可能。複数の保存先を登録できる。外出先とローカル、さらに友人宅のAtermといったように使い分けることが可能 | 写真の表示やコピー、貼り付けといった操作も可能となっている |
もう1つの「ホームコネクト for Aterm」は、より汎用的なアプリだ。ホームIPロケーションやローカルIPなどの接続先を登録してAtermWR8600Nにアクセスできるようにすることで、USBカメラやUSBファイル閲覧、WOL機能(LAN上のPCを遠隔で起動する機能)を利用できる。
これにより、USBカメラで外出先から自宅の様子を見ることができるうえ、実際に表示するにはファイルに関連付けされたアプリがスマートフォン上に必要になるものの、PDFやEXCELなどの文書などの汎用的なファイルにスマートフォンからアクセスすることが可能となる。
また、簡単設定タブにAtermWR8600Nのアドレスを登録すると、USBカメラやUSBストレージなどの機能をスマートフォンから設定することも可能だ。無線LANなどすべての設定ができるわけではないが、ここからAtermWR8600Nの管理ができるのもなかなか面白い。
いずれも無償で利用できるアプリとなっているうえ、AtermWR8600Nだけでなく、他のAtermシリーズでも利用できるので、試してみる価値はあるだろう。
ホームコネクト for Aterm。USBカメラの映像表示やUSBファイルの表示、WOLなどの機能をアプリから利用可能 | USBカメラを接続している場合はスマートフォンから手軽に映像を確認できる |
汎用的なファイルの参照が可能。ダウンロードしてアプリに受け渡すという形になるため、オフィス文書などは別途アプリが必要 | 簡易設定によってAtermの一部の設定もスマートフォンから変更可能 |
●買い換えや入門用として最適な無線LANルーター
以上、NECアクセステクニカのAtermWR8600Nを実際に使ってみたが、有線LANが100BASE-TXであること以外は、ハイエンドモデルと遜色なく、さらにUSBカメラ対応などの新機能までも備えた非常に高機能な製品となっている。
スマートフォン対応については、実際のニーズがどこまであるかがわからないが、カメラを統合したり、簡易設定まで可能なアプリが使えるのは、他の製品にはない大きな特徴と言えるだろう。
個人的には、何と言っても2.4GHz帯と5GHz帯が同時に使えるメリットが大きいと感じる。現状の2.4GHzの混雑状況を考えると、この製品によって5GHz帯に待避することを真剣に検討することをおすすめしたいところだ。
また、今回は詳しく紹介しなかったが、本製品はネットスター株式会社のフィルタリングサービス「悪質サイトブロック ファミリースマイル」に対応しており(60日間無料でその後は年間1980円)、スマートフォンの無線LANアクセス時のフィルタリングを実施できるようになっている。これにより、キャリアによる3G経由でのフィルタリングだけでなく、現状、抜け穴となっている無線LAN接続時のフィルタリングも可能になるわけだ。
今後、スマートフォンが増え、子供が利用するケースも増えてくることを考えると、今からしっかりと環境を整えられる本製品の魅力は大きいだろう。
現状、無線LANを利用していないユーザーはもちろんのこと、2.4GHzのみに対応した無線LANを使っているユーザーの買い換えに、おすすめしたい製品だ。
関連情報
2011/8/23 00:00
-ページの先頭へ-