清水理史の「イニシャルB」

Windows 8.1の新機能、「テザリング」と「Miracast」を試す

 いよいよ発売日が間近に迫ってきた最新OS「Windows 8.1」。その特徴は、SkyDrive統合や改善されたUIなど、いくつか存在するが、今回注目したいのは無線LAN関連の機能だ。3G/LTE回線を無線LANで共有できるテザリングと、ワイヤレスで外部ディスプレイに出力できるMiracastを実際に試してみた。

Windows 8.1でテザリングを試す

 今やスマートフォンでは当たり前の機能となりつつある「テザリング」。これまでのWindowsでも、無線LANアダプタ向けのSoftAPツールなどを利用することで実現可能だったが、この機能がWindows 8.1でようやく手軽に使えるようになった。

 従来のWindows 8でもモバイルブロードバンド接続をサポートしていたため、3G/LTEのアダプタを接続し、画面右側から表示されるチャーム形式の設定画面からAPN設定などを登録して接続を制御することができたが、テザリングの機能は搭載されていなかった。これに対し、今回のWindows 8.1では、OS標準の機能としてテザリングが追加されている。

 前述したように、テザリングは、すでにスマートフォンで手軽に使える環境が整っているため、必ずしもPCで使える必要はないと考える人も少なくない。また、3G/LTE内蔵のPCはもちろんのこと、USB接続のデータ通信アダプタもあまり選択肢がない状況を考えると、PCで使えるようになったとしても、それが実用的かどうかは微妙なところと言える。

 昨年、Windows 8が登場した時点でサポートしていれば、少しは状況も違っていたかもしれないが、現在では、そのニーズは限定的と言えるかもしれない。

Windows 8.1で標準サポートされたテザリング。3G/LTE通信を簡単な操作でタブレットなどと共有することができる

 とは言え、新機能として使えるようになったことは歓迎したいので、早速、その使い方を見ていこう。

 今回、用意したのは、NTTドコモから発売されているUSB接続タイプのLTE対応データ通信アダプタ「L-03D」と、Windows 8.1にアップグレードしたソニーのVAIO Pro 11(SVP112A1CN)だ。L-03Dには、本家NTTドコモのSIMも試したが、異なるAPNでも使えるかどうかを検証するために、DTIがサービスを提供している「ServersMan SIM LTE 100」を利用した。

 まずは、L-03Dのセットアップだが、これは標準の方法で問題なく利用できる。Windows 8.1を搭載したPCに接続後、CD-ROMとして認識されるので、ここからドライバーと接続ツールをインストールする。前述したように、Windows 8以降ではモバイルブロードバンド接続がサポートされているので、接続ツールは不要なのだが、念のためインストールしてある。

 装着できたら、ひとまずPC単体から接続できるかどうかをチェックする。

   1)デスクトップのネットワークアイコンをクリックして、チャームを表示
   2)「モバイルブロードバンド DOCOMO」というアイコンをクリック
   3)「自動的に接続する」のチェックを外し、「接続」をクリック
   4)接続方法で「カスタム」を選択
   5)APNやユーザー名、認証の種類を設定
   6)「次へ」をクリックすると接続される

チャームからAPN設定を登録可能。今回はDTIのSIMを利用した

 特に問題なければ、これで接続できるはずだ。なお、余談だが、接続時のAPN設定などは、従来のWindows 8では、チャーム上の「モバイルブロードバンド」アイコンを右クリックして変更することができたが、Windows 8.1では、この操作が廃止されている。

 では、どこから設定するのかというと、これらの設定は「PC設定」の「ネットワーク」にまとめられており、テザリングも、ここから設定できる。

   1)設定チャームから「PC設定の変更」をクリック
   2)「ネットワーク」をクリック
   3)「接続」にある「モバイルロードバンド」のアイコンをクリック
   4)「接続の共有」が表示されるのでクリックして「オン」に変更

テザリングはPC設定の「ネットワーク」から有効化できる

 これで、テザリングが有効になり、自動的に設定されたSSID(PC名をベース)とネットワークパスワードが表示される。この値を使って、タブレットや他のPCからインターネット接続が可能になるというわけだ。

 わざわざ「PC設定」にまで移動しなければならないのが面倒だが、「netsh」コマンドを使ったり、手動でインターネット接続共有を設定するよりは、はるかにマシになった。

 なお、SSIDやパスワードはもちろん変更可能だが、暗号化方式の指定はなく、単純に8文字以上のネットワークパスワードを指定できるのみとなっている。接続後に確認したところ、WPA2-AESで接続できていることを確認できた。WEPでしか接続できない端末というのは、なかなか見かけなくなってきたので、通常はこれで問題ないだろう。

 なお、一般的な環境であれば、テザリングについては問題なく可能だと思われるが、利用する無線LAN環境によっては、テザリングが有効にできない場合もある。

 テザリングでは、モバイルブロードバンド接続の共有先としてVirtual Wi-Fiアダプタが設定されるが、このVirtual Wi-Fiアダプタが作成できないと、テザリングがグレーアウトして有効にできない。今回、テストしてみた限りでは、PC内蔵のIntelの6250や7260などでは問題なかったが、NECアクセステクニカの「AtermWL450NU-AG」で上記のグレーアウトの現象が見られた。

ネットワークアダプタやドライバのバージョンによっては、テザリングを有効化できない場合もある

Miracastの利用環境をチェックする

 続いて、こちらもWindows 8.1で新たにサポートされたMiracastを利用してみた。Miracastも、スマートフォンやタブレットでは、すでにサポートされている機能だ。無線LANを利用することで、ワイヤレスで画面を家庭用テレビやディスプレイなどに出力することができる。

 もちろん、画面を表示するテレビ側の対応は必須で、通常はMiracastをサポートしたワイヤレスディスプレイアダプタを装着する。今回は、NETGEARのPTV3000を利用した。

無線LAN経由でテレビなどに画面を出力できるMiracast。今回は、NETGEARのPTV3000を利用した

 Miracstによる画面出力は、テザリングの場合と異なり、かなり環境が限定される。まず、システムの要件として、WDDM1.3以上のディスプレイドライバ、NDIS6.3以上の無線LANドライバが必要となる。Miracastでは、Wi-Fi DirectによってPCとテレビ側のアダプタとの間で通信するが、このサポートがNDIS6.3からとなるためだ。

 事前の確認方法としては、ディスプレイドライバの場合は、DXDIAGから確認可能だ。スタートボタンを右クリックして、「ファイル名を指定して実行」から「DXDIAG」を実行し、ディスプレイダブを開くと、右側のドライバーモデルの欄に「WDDM1.3」と表示される。

 Intelの内蔵グラフィックスの場合、いわゆる第2世代のCoreシリーズ(SandyBridge)に搭載されているHD3000シリーズはWDDM1.2対応となるため、Miracastでは利用できない。IvyBridgeのHD4000シリーズ以降を利用する必要があるだろう。

 一方、無線LANだが、こちらはPowerShellを利用してバージョンを確認できる。PowerShellを起動後、「Get-NetAdapter | Select Name,NdisVersion」と入力すると、PCに装着されているネットワークアダプターの情報のうち、名前とNDISのバージョンを抽出して表示できる。

ディスプレイドライバはDXDIAGからバージョンを確認できる。WDDM1.3以上が必要
無線LANドライバはPowerShellでバージョンを確認できる。NDIS6.3以上が必要

 ただし、これは規格上の要件であり、これらの条件を満たしていたとしても、実際にドライバー側でMiracastやWi-Fi Directが使えるようになっていないと接続はできない。現状は、ドライバー側でWindows 8.1へのサポートが完全ではないため、これらの機能が実装されていない場合が多いためだ。

 以下は、筆者の手元にあるPCで試した結果だが、残念ながら利用できた環境は限られていた。今後、Windows 8.1のさまざまな機能を想定したドライバが提供されるようになれば、多くの環境で利用できるようになると考えられるが、現状は環境に要注意といったところになりそうだ。

PCVideoWi-Fi結果
Let's Note CF-AX2Intel HD4000Intel 6250AGN
AtermWL450NU-AG×
VAIO Pro 11Intel HD4200Intel 7260×
MacBook Pro 11Intel HD5000Broadcom BCM4360×
自作GeForce GTX660AtermWL450NU-AG×

初回のみ「デバイス」から検索して接続

 というわけで、今回、唯一利用可能だったLet's Note CF-AX2での設定を紹介しておこう。なお、無線LANやディスプレイのドライバに関しては、今回は、Windows 8.1インストール後にWindows Updateによって自動的にインストールされたバージョンを利用している。いろいろな環境で試してみたが、現時点では、このドライバーがもっとも安定して動作するようだ。

 Miracastで接続するには、まずPCからアダプター(PTV3000)に接続できるようにする必要がある。前述したように、Miracastでは、Wi-Fi Directによって端末間で直接無線LANによる接続をするため、PCからアダプターを検索して接続するという流れになる。

   1)設定チャームから「PC設定の変更」をクリック
   2)「PCとデバイス」にある「デバイス」をクリック
   3)「+デバイスを追加する」をクリックしてPTV3000を検索
   4)PTV3000が「テレビ」と「その他」の2種類で検索されるので「テレビ」をクリック
   5)テレビ側に表示されたWPS PINをPC側に入力
   6)デバイスがインストールされる

PTV3000の場合は、デバイスの一覧で、必ず「テレビ」の方を選択する必要がある。ネットワークドライバが未対応だと、ここか、WPS PINの入力画面で失敗する
正常に認識されるとPTV3000側に接続用のWPS PINが表示されるので、そのまま入力
接続がうまくできると、自動的にドライバがインストールされる。ディスプレイドライバが未対応だと、ここで失敗する
正常に認識された場合のデバイスマネージャー。Miracastディスプレイデバイスが追加されている

 ひとまず、ここまででPCに認識させるのが第一関門となる。ポイントは手順4だ。PTV3000が2種類のデバイスとして検索されるが、このうちMiracastで利用するには必ず「テレビ」を選択する必要がある。

 前述した対応表のNGとなっていたPCの場合、ここで「その他」としてしか表示されなかったり(無線LANがNDIS6.3未対応の場合の問題)、「テレビ」と認識されてもWPS PINの認証で失敗したり、認証できてもデバイスのインストールが開始されないなどの状況が見られた(いずれもビデオドライバー側の問題だと考えられる)。

 さて、うまく認識できたら、ディスプレイがワイヤレスで接続されているだけで、あとは普通のマルチディスプレイ環境と同じだ。初回セットアップ後、2回目以降も以下の手順でMiracastで出力することができる。

   1)チャームから「デバイス」を選択
   2)「表示」をクリック
   3)「Push2TV xxxx-PTV3000」が表示されるのでクリック
   4)PTV3000経由でテレビに画面が表示される

 なお、画面の表示方法に関しては、通常のマルチディスプレイ環境と同じく「Windowsキー」+「P」で「複製」や「拡張」などを切り替えることが可能だ。

一度認識させてしまえば、次回からはチャームから簡単に接続可能
正常に接続できれば、PCの画面がテレビに出力される。

表示用と割り切って使えば便利

 実際に使ってみると、やはり無線LAN経由で出力しているため、手元の操作が画面に反映されるまで、若干のタイムラグが発生する。このため、Miracast側の画面を見ながらのマウス操作はストレスを感じるが、表示専門と割り切って使えば実用性はありそうだ。

 たとえば、PowerPointのプレゼンに使うといった王道はもちろんのこと、ニュースやSNS系のWindowsストアアプリを起動させて常時表示させておくといった使い方は快適なうえ、動画も再生自体はスムーズなため、早送りなどの操作をしなければ視聴には十分耐えられる。

 サブディスプレイとして常用するは難しいかもしれないが、会議室やイベント会場のPC出力用として利用したり、たまにリビングのテレビにPCをつないで写真や動画などを再生したいという使い方には便利だろう。

 というわけで、実際に使えるようになれば、なかなか便利なWindows 8.1のMiracastだが、前述したように、現状はいかんせん利用環境が限られるのが難点となる。もちろん、Windows 8.1が正式リリースされれば、ドライバーの対応も進むと考えられるが、しばらくの間は、様子を見た方がよさそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。