清水理史の「イニシャルB」

魅力は手軽さとデザイン 11ac対応となったau「HOME SPOT CUBE2」

 auから、新型のWi-Fiルーター「HOME SPOT CUBE2」が発売された。見た目は似ているが、通信速度が従来の150Mbps(IEEE 802.11n)から866Mbps(IEEE 802.11ac 2ストリームMIMO)へと向上したのが最大の特徴だ。その実力を検証してみた。

HOME SPOT CUBEの後継製品

 大きく、アンテナも多い機種も増えてきたことを考えると、ずいぶんとシンプル。

 auから発売されたスマートフォン向けの無線LANルーター「HOME SPOT CUBE2」は、なかなかコンパクトでスタイリッシュな製品だ。

auのHOME SPOT CUBE2。IEEE 802.11ac(866Mbps)に対応した無線LANルーター

 初代「HOME SPOT CUBE」のレンタルサービスが5月31日で終了し、既存のユーザーに無償譲渡されることが話題になったが、今回の「HOME SPOT CUBE2」は、その後を継ぐ製品。

 レンタルではなく販売と、提供方法が変更されたが、対応する無線LANの規格が最大866Mbpsの通信が可能なIEEE 802.11acとなり、その性能もアップグレードされたのが特徴だ。

 市販の無線LANルーターに比べると、性能や機能的には少し物足りないと思える部分もあるが、auのスマートフォンをメインに利用するユーザーにとっては、最寄りのauショップやオンラインショップ(au Online Shop)で入手できる手軽さは大きな魅力と言える。

 家電量販店の店頭で、アレコレと製品選びに頭を悩ませるくらいなら……、という理由で導入を決めるユーザーも少なくないだろう。

 とは言え、気になるのは、その実力となる。スタイリッシュなデザインや入手のしやすさと同じように、性能的な魅力も備えているのかを検証してみよう。

サイズもワンランクアップ

 まずは、外観だが、基本的には初代のコンセプトを継承している。清潔感のある白ベースの本体をクリアケースで囲ったデザインは、これまで通り、リビングなど、人の目に触れる場所に設置しても違和感のないものとなっている。

正面
側面
背面

 形状もほぼ立方体と言っていいが、サイズ的には、従来モデルから一回り大きくなっており、幅76×高さ80×厚さ76mmとなった。とは言え、市販の無線LANルーターと比べると、かなりコンパクトな製品と言える。

 アンテナが外付けとなる製品も少なくない中、IEEE 802.11ac対応で、このサイズとデザインを実現したのは、高く評価できるポイントだ。

 細かな部分を見てみると、従来モデルでは、上部に比較的大きなサイズで配置されていたWPS接続用のボタンが背面の小さなボタンへと変更された。接続の手軽さも象徴するデザインで個人的には好印象だったが、詳しくは後述するが、本製品ではスマートフォンのカメラを使った接続方式が推奨されている。このため、WPSをあえて強調する必要がなくなったというのが、デザイン変更の理由と考えられる。

新型(HOME SPOT CUBE2)と従来機(HOME SPOT CUBE)の比較。それぞれ、左側が新型

 また、背面には、新たにUSBポートが搭載された。最近の無線LANルーターは、USBメモリやUSB HDDを接続して簡易的なファイル共有やメディア共有機能を提供する製品が多いが、同じように使えるのかと思いきや、どうやらそうではない。

 取扱説明書によると、このUSBポートはメンテナンス用とされており、故障の原因にもなりかねないので機器は接続しないことが推奨されている。

 本製品の目的が、手軽にスマートフォンを無線LANに接続することであることを考えると、ユーザーが使い方に迷うような付加的な機能の搭載を見送ったのは、それはそれで1つの選択と言えそうだ。

撮影画像からパスワードを文字認識

 使いやすさも、かなり工夫されている。

 通常、無線LANの接続設定は、WPSなどのボタン設定方式、QRコードを利用した設定、手動によるSSIDとパスワードの登録のいずれかを採用する製品が多いが、本製品では、そのどれでもない。

 HOME SPOT CUBE2の底面に記載されているSSIDとパスワードをスマートフォンのカメラで撮影し、その画像をサーバー側で文字認識させて、接続設定に反映するという方法になる。

 いわば、QRコード方式とESSIDの手動設定をミックスさせたような方式だ。

 Android搭載スマートフォンからの接続の場合は「au Wi-Fi接続ツール」アプリ、iPhoneの場合は同社のWebサイトから、ウィザード形式の接続設定を進めることで設定が可能だが、文字の認識率も高く、思ったより手軽に接続できる。

 Webからのウィザードは、au以外のiPhone(NTTドコモで確認)でも利用可能なため、ユーザーによって通信事業者が異なる小規模なオフィスなどで利用しても、接続に困ることはなさそうだ。

アプリを利用して手軽に設定可能
底面のシールを撮影し、ESSIDとパスワードを文字認識する
iPhoneはWebページから設定可能。NTTドコモの端末でも設定できた

 ただし、最近のAndroid端末は、WPSによる接続がほぼサポートされているため、個人的にはWPSを利用した方が簡単な印象がある。

 おそらく、接続方式を一本化することで、端末による操作の違いや機種による違いを吸収しようという狙いだろう。ひとえにiOSがWPSをサポートすれば済む話なので、Appleにも、そろそろWPS対応を真剣に考えてほしいものだ。

やはり長距離は苦手か

 気になるパフォーマンスだが、まずお断りしておくと、今回の値は参考程度に考えてほしい。

 いつものテストでは、クライアントとして866Mbps対応のIEEE 802.11acを内蔵したMac Book Air 11(2013)を利用しているのだが、今回、HOME SPOT CUBE2とMac Book Airの組み合わせで、極端に速度が遅くなるという現象が見られた。

 計測結果は掲載しておくが、これが筆者宅のみの現象なのかを判断できなかったため、あくまでも参考と考えてほしい。

  1F2F3F
au HOME SPOT CUBE 2GALAXY S525418381.5
 MacBook Air31.329.418.1
 Surface Pro 324578.330.6
RT-AC68UGALAXY S5342247192
 MacBook Air34518185.1
 Surface Pro 325721491.2

 結果を見ると、やはり性能的には、あまり高いとは言いがたい。比較としてASUS RT-AC68Uでも同じテストを実施したが、例えば、GALAXY S5の場合、RT-AC68Uでは1Fで342Mbpsで通信が可能だが、HOME SPOT CUBE2では254Mbpsと100Mbps近く遅くなってしまった。

 長距離、障害物を間に挟んだ3Fでの差も大きく、RT-AC68Uが192Mbpsのところ、HOME SPOT CUBE2では81.5Mbpsと半分以下となっている。

 もちろん、長距離でも80Mbps以上と、LTEよりも高速な通信ができているので、Wi-Fiルーターとしての役割は十分に果たしてると言えるが、スマートフォンだけでなく、PCも接続することを考えると、少々、物足りない。

 実際、Surface Pro 3では、3Fで30Mbps前後とかなり物足りない。もともと、Surface Pro 3に内蔵されている無線LANはあまり性能が高くないのだが、同じ3FでRT-AC68Uでは90Mbpsオーバーと3倍の開きがあると、さすがに十分とは言いがたい。

 あくまでもスマホ中心、手軽さやデザインを優先した製品であることは理解しているが、せっかくIEEE 802.11acを使うのであれば、いくら近所のauショップで手軽に買えるとは言え、別の選択肢があることも考慮して、製品を選ぶべきと言えそうだ。

Mac Book Airからは、どうしても速度が出ない(30Mbps前後)。リンク速度は702Mbpsとなっているので、何らかの不具合が考えられるが、原因は不明

ほかにもいくつか制約あり

 製品としては、あまり多機能な製品ではないが、いくつか機能的に気になる点があったので、報告しておこう。

 まず、「お子様の利用制限」という機能が搭載されている。あらかじめMACアドレスを登録し、MACアドレスごとに利用可能な時間を設定できる機能となっている。この機能を利用するには、接続を許可する端末(保護者の端末など)のMACアドレスも登録しなければならないため、設定にかなり手間がかかる。

 他社製の無線LANルーターであれば、制限したい端末のMACアドレスだけを登録すればいいうえ、MACアドレスもPC名から自動的に設定できる場合もあるため、さほど手間がかからない。

 しかも、HOME SPOT CUBE2では、「お子様の利用制限」を有効にすると、WPSも使えなくなってしまう。

 もちろん、通信事業者として避けることができない機能であることは確かだが、接続設定など、ほかの部分をここまで作り込んでいるのだから、もう少し、この機能も使いやすくできなかったのかと残念な気持ちになる。

 またハードウェア的な点だが、背面に搭載されているWANポートとLANポートのうち、WANポートは1000Mbpsに対応しているのに、LANポートは100Mbps止まりとなっている。コストの問題だと思われるが、どうせなら、こちらも1000Mbps対応にしてほしかった。

 なお、アクセスポイントモードに設定した際、1000Mbps対応のWANポートもLANポートとして動作する。既存のLANへの接続、高速に通信させたい有線機器は、こちらにつなぐといいだろう。

 ちなみに、ルーターモードで動作する場合、本体のIPアドレスは192.168.254.1で固定となり変更できないが、アクセスポイントモードで動作する際はWAN側ポートの設定を変更できることを利用して、固定でIPアドレスを割り当てることができる。少々、分かりづらい設定だ。

アクセスポイントモードならIPアドレスを変更可能。ただし、WAN側ポートに接続した場合のみ

 以上、auから発売されたIEEE 802.11ac対応のHOME SPOT CUBE2を実際に試してみたが、手軽さという点では、かなりよくできている。デザイン的にも優秀なので、従来のHOME SPOT CUBEからの買い替えを検討してもいい製品と言える。

 ただし、市販のIEEE 802.11ac対応無線LANルーターと比べると、性能も機能も、少々、物足りない。au Online Shopでの販売価格が8424円(税込)であることを考えると、ほかの選択肢も視野に入れた方がよさそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。