週刊Slack情報局

“文春砲”のかげにSlackあり? 老舗出版社がSlack導入を決めたワケ

一般企業でも利用が広がっているビジネスコミュニケーションツール「Slack」。Slack Technologiesの日本法人であるSlack Japanはこのツールのことを“ビジネスコラボレーションハブ”と表現しており、あらゆるコミュニケーションやツールを一元化するものと位置付けている。本連載「週刊Slack情報局」では、その新機能・アップデート内容などを中心にSlackに関する情報をできるだけ毎週お届けしていく。

 Slack Japanは7月9日、Slackのユーザー導入事例を紹介するセミナーイベント「Why Slack?」を東京・大手町のGlobal Business Hub Tokyoで開催した。7回目となる今回のテーマは、メディア業界。今回は老舗出版社である文藝春秋のSlack導入事例を紹介する。

編集部を横断するウェブメディアが生まれて、横のつながりが求められるように

 文藝春秋は大正12年に創設され、100年近くの歴史を持つ老舗の出版社だ。芥川賞や直木賞の発表の場としても知られており、編集の力と紙の文化が特に強い会社だといえる。一見、Slackとは関わりが薄そうに思えるが、なぜSlackを導入するに至ったのだろうか。

 「まずは体制の変化が挙げられます。コンテンツを横断して扱うウェブメディアが増えてきたこと。そして何より大きな出来事は、『文春オンライン』の開設です。これで横のつながりがより必要になってきました。」(株式会社文藝春秋オール讀物・別冊文藝春秋編集長の大沼貴之氏)

株式会社文藝春秋オール讀物・別冊文藝春秋編集長の大沼貴之氏

 同社は従来、編集部ごとに組織が独立していたが、「文春BOOKS」や「CREA WEB」などのウェブメディアが生まれたことで複数の編集部を横断する必要が出てきたという。2017年に開設した「文春オンライン」では横断する部署がさらに増加した。

 複数の編集部が関わることで、2つの問題が発生した。「会議など調整業務の増大」と「関係者間の情報格差の拡大」だ。「ウェブに触れている部署と触れていない部署で、持っている情報に差が出てきます。これがストレスになり、何とか解決しなければと思いました」と大沼氏は説明する。

2017年に開設した「文春オンライン」で、横断部署がさらに増えた

 同社のデジタル・デザイン部に所属する浪越あらた氏は、前職でSlackを利用していた経験から「Slackならこの壁を乗り越えられるのでは」と考えたという。

 「社内の開発チームはまだ小さくて、自分たちでツールを開発できるような環境ではありませんでした。一方で、入社してすぐにこれはメールだと無理があるなということも感じていました。そこでSlackを使えればと考えました。」(浪越氏)

株式会社文藝春秋デジタル・デザイン部の浪越あらた氏

乱立していたワークスペースを統合し、役員向けのプレゼンを実施

 浪越氏が入社したのはちょうど文春オンラインがスタートしたころのことだ。当時はオンラインに関わる25名ほどでSlackを利用していたが、次第に社内でSlackのワークスペースが乱立し始めた。

 「乱立した状態だとまずいですよねということで、Slackの方とお話して、社内のワークスペースを統合していったのが、去年の末から今年の頭にかけてのことです。」(浪越氏)

社内で乱立していたワークスペースを統合したら、メッセージ数が右肩上がりに伸びていった

 ワークスペースを統合したことで、部署を横断したリレーションが取りやすくなり、交わされるメッセージの数も右肩上がりで伸びていった。その後、半年で、全社員344名のうち約半数がSlackに登録するまでになったという。そこで6月に役員と社内の関心のある人に向けて、Slackの担当者を呼んでプレゼンを行った。

 「役員プレゼンまでするSlackって何なの?と、多くの社員が興味を持ちました」と大沼氏は振り返る。このプレゼン後に登録者がさらに増え、交わされるメッセージの数はプレゼン前と比べて約1.6倍に増加した。7月現在では54%以上の社員がSlackを利用しているという。

Slackを導入して起きた社内の劇的な変化

 Slackを導入したことで、情報を探す時間が激減し、状況確認のための会議がなくなるなど目に見えて変化が起きた。編集者は外に出て席にいないことが多く、従来は情報を共有する場が週1回の会議ということもあったが、Slackにどんどん情報を投げていくことで、すぐにやりとりができるようになったという。

 また、「作業ボリュームを把握しやすくなったこともメリット」と浪越氏は説明する。従来のメールだと、誰にどれくらいの仕事が集中しているのか見えづらかったが、Slackでやりとりをすることでそれが可視化され、作業が重かったら誰かがリカバリをするといったことも可能になったという。

 さらにSlackに情報が蓄積されることで、本のプロモーションをする際に過去の良かった事例を活用する取り組みも行われている。

情報を探す時間や会議が減っただけでなく、作業の品質も向上した

Slackを浸透させるためにやった3つのこととは?

 浪越氏は「Slackを社内に浸透させるために3つのことを意識した」と説明する。

 1つめは「粒度粗めの情報を多く流す」ことだ。Slackでメールのように長文をやりとりしては意味がない。あえて1行のシンプルな情報を大量に流すことで「これがSlackのやり方で、じっくり推敲して投稿するものではない」ということを率先して示したという。

 2つめは「パッと見て伝わる情報を流す」こと。1つめとも通じるが、画像を入れた情報を率先して流すことでSlackの便利さや使い方を知ってもらえるよう工夫した。

 3つめは「趣味のチャンネルで空気を作る」ことだ。仕事と関係ない趣味や飲み会のチャンネルを作ることで、心理的なハードルを下げてSlackに慣れてもらう場を作ったという。

 こうした取り組みで社員の半数以上がSlackを使うようになったが、まだ利用していない社員もいる。これからの展開について、大沼氏は次のように語った。

 「残り40%の普及をどうするか。弊社は人事異動が多いので、Slackを使っている人が他部署に異動することでじわじわと浸透していくことを期待しています。どうしても現場の編集が強いので、なかなかトップダウンでは変わりません。」(大沼氏)

 最後に大沼氏は「確実に利用者は増えていて、社内でSlackだけでコミュニケーションができる日もそんなに遠くないのでは」と期待を見せて、セミナーを終えた。

西 倫英

インプレスで書籍、ムック、Webメディアの編集者として勤務後、独立。得意分野はデジタルマーケティングとモバイルデバイス。個人的な興味はキノコとVR。