週刊Slack情報局

電通デジタルが2カ月で全社1400人にSlackをスピード導入! その秘訣とは?

一般企業でも利用が広がっているビジネスコミュニケーションツール「Slack」。Slack Technologiesの日本法人であるSlack Japanはこのツールのことを“ビジネスコラボレーションハブ”と表現しており、あらゆるコミュニケーションやツールを一元化するものと位置付けている。本連載「週刊Slack情報局」では、その新機能・アップデート内容などを中心にSlackに関する情報をできるだけ毎週お届けしていく。

 7月に行われたSlackのユーザー導入事例を紹介するイベント「Why Slack?」。文藝春秋ハフポストに続き壇上に上がったのは、企業のデジタルマーケティングを支援する株式会社電通デジタルの橋本訓氏。

 同社は1400人の従業員を抱えるが、メールに代わるコミュニケーションツールとしてたった2カ月でSlackを全社にスピード導入した。規模を考えると驚異的なスピードだ。なぜ、メールを置き換える必要があったのか? 社内への導入は具体的にどんなステップを踏んだのか? 橋本氏が経緯と取り組みを紹介した。

株式会社電通デジタルの橋本訓氏(コーポレート部門情報システム部企画グループマネージャー兼インフラ/保守運用グループマネージャー)

目的は「質の向上」。キックオフから10週間で全社導入

 橋本氏は「ひとことで言うと、質の向上という課題があった」と説明する。同社にはメールのほかにもチャットツールなどコミュニケーションツールが複数存在していて正規化されておらず、同氏は部門をまたがるとスピードが落ちることを問題としてとらえていた。

 また、メールだと一定の確率で送信先を間違えるといったミスが発生する。人がやることなのでミスはゼロにはならないが、コミュニケーションに使うツールを変えることでそれを解決できないかとも考えていたという。

社内で複数あるコミュニケーションツールを正規化することで目指したのは「質の向上」

 「ほかのネット企業はどうしているの?と思ってDeNAやクックパッド、メルカリなどの事例を勉強させてもらったら、みんなSlackラブでした。大きく4つ挙げると、全社への連絡、チーム内の連絡、報告、コミュニケーション。これらを強化するのに本気で取り組もうと思い、会社を説得しました。」(橋本氏)

 2018年5月のゴールデンウィーク明けから取り組みをスタートし、10週間後の7月23日に全社導入を行った。プロジェクトはSlackと協働で立ち上げ、CEOをトップとして20名ほどのメンバーで進められた。

 「エンジニアはもうSlackを使っていたので、詳しい人にはアドバイザーとして入ってもらいました。Slackの方には、うまくいった事例だけでなくうまくいかなかった事例も教えてくださいとお願いして、いろいろ勉強させてもらいました。」(橋本氏)

ニーズ調査、設計、トレーニングを10週間で行い全社導入した。驚異的なスピードだ

100人の「Slackチャンピオン」を育成! 社内向けの広報も全力

 同社の取り組みで面白いのは、社内に100人の「Slackチャンピオン」を育成したことだ。1400人中100人なので単純計算では14人に1人となる。チャンピオンに選ばれた人はスーパーユーザーとして、それぞれの現場に合ったポジティブな変化を推進する。全社導入の前にチャンピオン参加型のアイデアソンを開催し、どうしたらより良くなるかのアイデア出しをしてブラッシュアップした。

社内で100人の「Slackチャンピオン」を選出して、現場ごとの環境に合わせたポジティブな変化を促した

 もう1つ、社内向けの広報も全力で行ったというのもいかにも同社らしい。2~3週間前から紙のポスターやデジタルサイネージを使って「7.23 Slack導入」と告知し、新しいことが始まるワクワク感を演出したという。また、全社導入に先駆けてランチコンテストのキャンペーンも実施した。新橋近辺のランチ写真を専用のチャンネルにアップロードし、多くの反応を獲得した投稿者には簡単な賞品が出るというコンテンストだ。

 「ランチの写真を撮るときはモバイルですよね。写真を撮って、Slackのチャンネルに投稿してコメントを書いてもらう。これがSlackの練習になります。間違えたって構いません。そういう体験を作り出して、できるだけハードルを下げるように工夫しました。」(橋本氏)

オフィス内のポスターやデジタルサイネージで社内向けの広報活動を行った

 ほかにも同社のトイレにセンサーを取り付けて「Slackでトイレの空き状況がわかる!」という告知も行った。「ライトでわかりやすい例も伝えて、こういうこともできるんだ、とさらにアイデアが出てくるのを期待した」と橋本氏は説明する。「短期間で全社導入」の裏には、社内向けの広報活動にも手を抜かない同社らしい努力があったわけだ。

導入後の成果を定期的に振り返り、さらに改善していく

 同社のSlackは、社員だけでなく社外のパートナーも加えると2661人のユーザーが存在するという。特に、よろず相談を行う「ResQ Helpチャンネル」が盛り上がっており、橋本氏は「コミュニケーションの質が向上したことを実感する」と語る。HR部門では次年度入社予定の学生ともSlackでライトなコミュニケーションをしており、学生のエンゲージメントを高めるのにも寄与しているという。

 それだけで終わらせないのが同社だ。全社導入から2カ月後の9月、100人のSlackチャンピオンにアンケート調査を行い、振り返りを行った。結果は「レスポンスが早くなった」が8割、「コミュニケーションが改善された」が7割。さらにSlackから同社の「Slack習熟度スコア」を出してもらい、定着度、コミュニケーション、情報活用などをスコア化。2019年3月には全社でアンケート調査を行い、当初の目的をどのくらい満たせているかを計測した。

アンケート調査を行うことで導入の成果を定量的に振り返った

 これは会社を説得するときに「定期的に効果を振り返り改善する」ことを掲げたからでもある。導入だけで終わらせず、振り返りを行うことでPDCAを回してさらに改善していくという姿勢を実行しているわけだ。

 「テレワーク制度もこれからオフィシャルに始まっていきます。こうした柔軟な働き方はSlackなしでは考えられません。これからワークフローやタスク管理、勤怠管理などさらなるシステム連携もしていきます。」(橋本氏)

 同社はシステムの連携にも積極的だ。すでにカスタマーサポートのプラットフォーム「Zendesk」とSlackを連携して、社内のIT系の問い合わせをSlackのチャンネルに集約しており、さらにAIやチャットボットと連携することで、Slackに質問を投げればチャットボットが応えてくれるシステムを間もなく導入予定だという。

西 倫英

インプレスで書籍、ムック、Webメディアの編集者として勤務後、独立。得意分野はデジタルマーケティングとモバイルデバイス。個人的な興味はキノコとVR。