10代のネット利用を追う

「TikTok」なぜ人気? 不適切動画への対策は? 運営会社のBytedanceに聞いた

 「TikTok」がなぜ、10代に人気があるのか? 10代はどのような使い方をしており、運営会社はリスクに対してどのような対処をしているのか? 運営会社であるBytedance(バイトダンス)株式会社の執行役員/公共政策本部長である山口琢也氏に聞いた。

AIによるおすすめ動画で再生数が増加

 「TikTok」の日本でのサービス開始は2017年8月のこと。開始後すぐに人気となり、日本国内の月間アクティブユーザー数は2018年末で950万人に上る。ユーザーは1日平均42分、だいたい130~150の動画を見ていることになるという。

Bytedance株式会社執行役員/公共政策本部長の山口琢也氏

 「オリジナルコンテンツは必要なく、真似すればいいので敷居が低いことや、流行の音楽が使い放題なのも理由だろう」と、山口氏は一気に広まった理由について分析する。

 もう1つ、人気を語る上で欠かせないのがAIだ。TikTokでは、AIでユーザーごとに好みそうな動画を判断して表示している。動画を何秒見たか、「いいね」やコメントなどのアクションをしたかなどの情報から、ユーザーの動画に対する好みを機械学習しているのだ。

 「『こういう動画を好きな人はこういう動画も好き』というデータをもとに表示しているため、再生数が伸びやすい。フォロワーがいなくても動画内容で好きそうな人に表示することで反応率が伸びるようになっている」。動画の内容は、盛り上がり、音楽、カテゴリーなどざまざまな視点で判断する。

インカメラでクリエイティブに撮る10代

 10代に人気が高いTikTokだが、使い方は他の世代とどのように異なっているのだろうか。

 「10代はインカメラを使って自撮り動画を撮ることが多い」と山口氏。アウトカメラを使って撮る場合でも、全体にチャレンジ精神やクリエイティビティが高く、新しい使い方をしていることが多いそうだ。同時に、「10代の著名ティックトッカーは、プロデュース能力が高く、YouTubeやInstagramなどにも積極的に飛び出していく傾向にある」とも言う。

 例えば、「アイドルシャッター」はユーザー発で生まれたものだ。アイドルシャッターとは、「アイドルシャッター始めるよ」という歌声に合わせて指でポーズを取ると、シャッター音とともに静止画が撮れるエフェクトだ。元々あったエフェクト「ARシャッター」に、ruta君というティーンのユーザーが楽曲を付けて人気になったものだという。

 ユーザー間ではエフェクトの人気が高いため、開発にも力を入れる。例えば、回し蹴りでペットボトルのキャップを開ける「ボトルキャップチャレンジ」が流行したら、口を開けるとボトルキャップが開くエフェクトを入れるなど、世界中のトレンドをウォッチしてエフェクトに取り入れているそうだ。

不適切動画は制御、ペアレンタルコントロール機能も充実

 貯水槽に入ったり、線路に立ち入ったりなど、TikTokに投稿された不適切動画を原因とした炎上事件も起きている。最近は、警察官の前で踊るなどの挑発動画が流行した。「我々はすぐに止めたが、他のSNSで広がってしまった。不適切な動画はさらに早いスピードで止めたい」。

 そのためにまず、利用規約やコミュニティガイドラインで適切な使い方について明示。同時に、「プライバシー設定」で細かく設定できるようにした。例えば、アカウントを非公開にしたり、動画のダウンロードやコメント、デュエット機能を許可する相手を選んだり、メッセージを送れる相手も設定可能だ。さらに今年5月には、保護者のアカウントとリンクさせて遠隔で各設定ができるようになっている。

 不適切なコンテンツの排除にも力を入れる。機械学習と人の目でチェックをしており、動画に対して一定数以上リアクションがあると、良いバズり方か悪いバズり方かをチェックするために、人間の目で全件チェックするようにしている。

 暴力的な表現を含むなどの危険な動画にはラベルが付くようになっており、ラベルが付いた動画は見せないように設定できる。「ペアレンタルコントロール機能を付けたのは日本が最初」と山口氏は説明する。ユーザー数だけ見ると日本が最多というわけではないが、日本の方がクリエイティブな使い方がされていることもあり最優先で付けたという。

13歳未満のアカウントは停止処分に

 TikTokは利用規約で13歳未満は使えないことになっているが、プロフィールに「小学生」と明記しているアカウントは多く見かける。これに対しては、アカウント停止処分などで対処しているという。「親のアカウントで保護者の責任の元で使う分なら問題はない。プロフィール欄に年齢の記載があるなど、ユーザーが13歳未満であると分かったり、通報があれば、アカウント停止処分としている」。

 警察庁が発表しているように、未成年の出会い系被害はSNSがきっかけのことが多く、最多はTwitterだ。「少ないが、TikTokで知り合ってLINEを交換して被害にあった未成年もいる。被害が起きているのは事実なので対処していきたい」。

 荒れているコメント欄を見かけることもある。「炎上や問題行動につながることがあるので内容は把握している。ただし、全部が悪いとは言い切れないので、まずは書き込める相手を制限するなど、ユーザーがコメント欄をコントロールできることを周知している」。問題があるコメントは通報も可能だ。

 「我が社としても安心・安全な使い方は大切な課題。安心ネットづくり促進協議会などに参加して、安全策について意見交換している」。

「オトナTikTok」セミナーで、シニアにも楽しさ伝授

 Bytedanceでは、CSR活動の新たな試みとして、「TikTok for good」をスタートした。第1弾として今年7月には、シニア層に向けてセミナー「オトナTikTok」を開いた。アカウントの作成、プライバシー設定など安全な使い方についての説明にとどまらず、実際に動画を撮影する時間も設けた。

 参加者は50代後半くらいから、最高齢は93歳という約50名が参加。TikTokでは自撮りすると美肌になったり目が大きくなる加工できるが、これが年配の女性に新鮮で大ウケだったという。

 セミナーでは、アイドルシャッターを練習。音楽のタイミングではなく手の格好ができたときにシャッターが切れるようになっているため、素早く動けなくても撮ることができる。「早い動きができなくても大丈夫と分かると、自分のタイミングで楽しんでいた」という。

 「若者のツールという印象を持たれているが、年齢は関係ないんだと感じた」と山口氏は強調する。今後、全国でシニア団体などと協力しながらシニア向けセミナーを行っていく予定だ。

 同社はそれ以外にもさまざまな場所でセミナーを行っている。「共通するのは、一度撮り出すとみんな夢中になること。エフェクトが面白いし、編集できるので楽しいようだ」。

リップシンク動画だけでなく、ハウツーなど動画の種類が拡大

 TikTokに投稿される動画といえば、いわゆるリップシンク(口パク)動画が有名だが、最近はそれだけではない。通常の動画は15秒までだが、公式アカウントなら1分、フォロワーが1000人を超えても1分までの動画が投稿できるようになる。それに合わせて、投稿される動画の種類も増えてきた。

 例えば、「#TikTok教室」はこの執筆の時点で7億2600万再生と人気が高く、英会話やExcelの使い方など、ためになるハウツー動画が多数投稿されている。「#海外旅行」では美しい海外の景色が15秒で紹介されており、「#グルメ」では動きのある美味しそうな料理が紹介されている。

 「#bmp100」はかなりユニークだ。「#BPM DANCE PROJECT」は、CPR(心肺蘇生)の認知度100%を目指すプロジェクト。「#bmp100」というハッシュタグを付けた動画を見ると、100回/分が目安と言われる胸骨圧迫のアクションとリズムを表現したダンスを見ることができる。

 振り付け1つ1つに意味があり、電話をかける手付きで「誰かに協力を求めて119番通報とAEDを手配」を表現していたり、指を組み合わせて心臓マッサージの動きをする振り付けもある。「興味を持ってくれたら、日本赤十字社が監修した正式なやり方の動画も見られるようにしている」。

「#BPM DANCE PROJECT」のウェブサイト

 グルメ情報/プレミアムレストラン予約サイトの「東京カレンダー」は、TikTok内で7話完結のドラマを配信している。港区女子や丸の内商社マンなどのキャラでドラマが進むが、最終的にはお店が紹介される。「メディアミックスが早くなってきた。15秒のコンテンツはCMの長さと変わらないのでは」。

大人世代も「TikTok」を手に取るべきときに来ている?

 今後、Bytedanceでは、10代など若者が多く使っていることを受けて、さらに安心安全を推進していく予定だ。「誤解を受けやすいので、個人情報管理などについてもきちんと説明して安心して使ってもらえるようにしていきたい」。

 さらに、「ぜひ大人世代にも動画撮影にチャレンジしてもらいたい」という。「お子さんとか同僚と一緒に楽しんでもらいたい。分からないからと子どもから取り上げるのではなくて、一度、手にとってみてほしい。みんなでワイワイと使うことで印象がガラリと変わるアプリ。年齢に関係なくハッピーになれるし、右脳的感覚が蘇るはず」。

 TikTokは若者層に人気だが、安全な利用をするためには保護者による設定が必要となる。現在のTikTokは使い方も拡大しており、ユニークな動画が増えているようだ。保護者側が対処法を学び、子どもが安全に使えるよう見守るべきときに来ているのかもしれない。

高橋 暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/