10代のネット利用を追う

子どものスマホのセキュリティ、リテラシーでなければ防げない部分にどう対処する?

トレンドマイクロの「保護者向けセキュリティカフェ」から学ぶ

 トレンドマイクロ株式会社において2月下旬、「保護者向けセキュリティカフェ~お子さんのスマホ利用にあたって、保護者ができること~」が行われた。主に小中学生の子どものスマホ/インターネット利用に不安を抱えている保護者を対象とした、セキュリティについて学べるイベントだ。当日の様子をお伝えしたい。

話し合える「ディスカッション形式」が好評

 「保護者向けセキュリティカフェ」は2018年1月スタート。「子どもといる時間が一番長い保護者が、子どものIT利用に関して最も影響力がある」と考える同社が、保護者の理解促進を目的として始めたものだ。同社が得意とするテクノロジーで防げる部分ではなく、リテラシーでなければ防げない部分をカバーすることを目的としている。

「保護者向けセキュリティカフェ」開催概要ページ

 現在は不定期開催だが、参加者に「とても良かったのでうちの学校で開催を」と呼ばれて出張開催となったこともある。そのような出張開催も含めると、昨年1年間で20回ほど開催している。平日夜と土曜日に行われているが、平日の参加者は男性が多く、週末は女性が多い傾向にある。新学年を迎えるにあたりスマホを持つことを検討している家が多いため、1~3月は参加者が多くなる。なお、このカフェは保護者向けだが、親子一緒にセキュリティについて楽しく学べる親子向けセキュリティ教室も、夏休みなど、東京・大阪・名古屋などで開催している。

 参加者からは、他の参加者の意見が聞けるディスカッション形式が好評だ。「当社は一方的な講義のみより、参加型のディスカッション形式を組み合わせることで、参加者がヒントを持って帰っていただきやすいと考えています」(トレンドマイクロ人事総務本部の狩野園佳氏)。

スマホが普及し、多くの子がトラブルに

 取材当日は、女性6名・男性11名の計17名の保護者が参加。前・後半に分かれており、前半で今どきの子どもたちのネット利用上の危険を知り、後半は対策を知るとともに保護者同士でディスカッションする時間となっている。

トレンドマイクロ株式会社コーポレートバリューマネジメント室の中村江里氏

 前半は、同社コーポレートバリューマネジメント室の中村江里氏が登壇した。現在のスマホの利用率は、小学生で約3割、中学生で約6割、高校生では10割近い。

 「気を付けたいのは、必ずしも所持率=利用率ではないということ。小学生は家族のスマホを使っていると考えられるが、すでにスマホを介してネットを利用しているとみて、早めに親子でコミュニケーションをとる必要がある。」

 また、小学4~6年生がスマホやインターネットを利用する際に、7.3%がサイバー犯罪のトラブルを経験していることを指摘。

 「トラブルは不正アプリ、不正ログイン、個人情報公開などさまざま。7.3%というと少なく感じるかもしれないが、618人中45人が実際経験している。」

 東京都のネット/スマホ相談窓口「こたエール」では、最近は全国からメールや電話での相談が多く寄せられており、内容をデータベース化して対策を検討している。それによると、中学生からは「架空請求」「交際」「削除方法」に関する相談が多い。

 「相談のきっかけの約7割がスマホ。タブレットや契約が切れたSIMなしスマホもある。SIMなしスマホでもWi-Fi環境があれば利用できるので注意が必要。」

子どものスマホ利用は危険に囲まれている

 続いて、こたエールに寄せられた相談と、トレンドマイクロの社員の子どもが遭った被害から、実例が紹介された。

 ある少年が掲示板で「中2女子です。LINE友達募集中です! QRコードこれです!」という書き込みを発見。QRコードを読みとって友だちになった。少年はやり取りするうち相手が好きになり、女の子の方から「ちょっとだけHなビデオ通話をしよう」と誘われ、ビデオ通話で裸の姿を見せあってしまった。

 後日、その子から「このアプリインストールしてみて」とURLが届いた。少年は、言われたとおり公式マーケットでないところからダウンロード。ところが後日、知らない男性から電話が来て、「アプリを使って動画を見た代金3万円を払え」と言われてしまった。少年は要求を断ったが、女の子と撮影したビデオ通話が録画されており、電話帳に登録している友だちにばらまかれてしまったという。「アプリをダウンロードしたときに電話帳が流出した可能性がある」(中村氏)。

 少年は保護者に付き添ってもらい、警察に相談。中村氏は、相談に行く際にできることとして、「相手に教えてしまったこと、相手のことで知っていることを整理しておき、やり取りした内容は消さずに保存しておくことが大切」とした。さらに、「ネット上で知らない人とやり取りしない」「ネット上にプライバシーをさらさない」「怪しいアプリはダウンロードしない」ことを注意点として挙げた。

 続いて、同社社員の中学3年男子に起きた事例を紹介した。ある日、登録がない番号から男子生徒のスマホに電話があった。「サイトを登録後、利用していないので登録は削除しますか?」という内容。覚えがないので削除を依頼したところ、今度は「登録料を支払っていないので削除できません。支払えますか?」という連絡が来た。支払いを断ると、年齢と住所を教えるよう言われたという。サイトについて問うと、「アダルトサイト」という。

 男子生徒は、「請求書を送る、警察にも電話をする」と言われ、保護者とともに警察に相談に行き、番号は着信拒否した。関連性は不明だが、アニメのアイテムを無料で配布するサイトに登録したことと関係あるかもしれないとのことだった。その後も相手からSMSを受信したが、無視。該当のアダルトサイトは被害者が多く、そのサイト自体が詐欺サイトだったという。

「親子の話し合いと約束事」「抑制効果」も大切

 後半は、同社ジェネラルビジネスSE部の星野貴章氏が担当した。星野氏によると、保護者の心配ごとは大きく2つに分けられる。

トレンドマイクロ株式会社ジェネラルビジネスSE部の星野貴章氏

 そのうち「設定による対策が可能なもの」は、セキュリティアプリや携帯電話サービスの設定など“技術”で対策できるものだ。フィッシング詐欺や不正請求を行う不正なサイトへのアクセス、不正なアプリのインストールなどが該当する。

 一方、技術ではなく、「モラルによる対策が必要なもの」もある。LINEやSNSの利用、個人情報・プライバシー情報の取り扱い、ネット上での出会いやいじめ、炎上などがこちらに当たる。

 「お金が取られる被害もあるが、個人情報漏えいのほうがもっと大きな被害。そしてそれよりも、子どもが事実を知ったときの精神的・身体的ショックはさらに大きな被害では」と星野氏。

 それに対して保護者ができることとして、「スマホやネットの危険を知る」「利用方法について親子でルールを決める」「セキュリティ対策機能を設定する」の3点を挙げた。

 親子でルールを決める具体例としては、「Gregory's iPhone Contract」(Janell Burley Hofmannの英文記事AOLニュースの日本語記事)や「父から息子へ贈る『スマートフォン貸与契約書』」(BuzzFeed JAPANの記事)などを紹介した。また、対策として、OSの設定、携帯電話会社の無償サービス、セキュリティ対策アプリなどを紹介。iOS 12の新機能「スクリーンタイム」や、トレンドマイクロのセキュリティアプリ「ウイルスバスター モバイル」などがあるとした。

 トレンドマイクロ社員でも、子どものスマホ利用において、「ゲームやYouTubeのやりすぎによる睡眠不足、体調不良、勉強やコミュニケーションの時間が減ること」「有害サイト、不正サイトへのアクセス」「不正プログラム、怪しいプログラムのインストール」などが不安という。共通していた対策としては、「親子の話し合いと約束事」「テクノロジーの利用」「抑制効果」があったそうだ。テクノロジーで防げるところは防ぎ、残りは抑制効果となるものを活用しながら、話し合いや約束事で防ぐと効果がありそうだ。

スマホの悩みに振り回される保護者たち

 参加者の保護者の声を聞いてみた。中学生の保護者が多く、「スマホを渡したばかり」「渡すことを検討中」という家庭が多い。中学2年生の子どもを持つという父親は、「中3で渡すと受験前に夢中になり、リズムが狂ってしまうかもしれない。だから渡すなら今かと思っている」という。

 3週間前にスマホを買ったばかりという中学生の子を持つ父親は、不安から話を聞きに来たという。「ペアレンタルコントロールや時間制限など制限はしっかりかけているが、子どもが手に入れてからずっと手に持っているのが心配」。

 「知らない人とやり取りしてほしくないため、スマホは禁止」という小学生の子どもがいる父親は、最近驚いた体験を語る。「うちにあるゲーム機で知らない人とゲームし、コミュニケーションをしていた」。驚いて聞くと、住んでいる地域や学年、ヤクルトファンということなどを話していたという。「ダメと言っていたのにやってしまった。しかもスマホではなくゲームでというのは盲点だった」。

 別の小学校では、2つのクラスでテストの期間がずれていた。すると、まだテストを受けていないクラス内に回答が回ってしまったという。「子どもから申告があって分かった。学校では、スマホを持っていることを友だちに伝えることも禁止となった」。

 セキュリティカフェの終了後は「同世代の方との意見交換ができ大変よかった」「ディスカッションで活きた情報やケースを聞くことができ、今後の参考になった」という声が多く聞かれた。

「関心があること」が最大の抑止効果

 保護者向けセキュリティカフェ企画・立ち上げの主要メンバーである狩野氏は、「せっかくルールを決めても、子どもが『お父さんが勝手に決めたルールでしょ』と言って守らないという話を聞く。ルールは親子で決めるといいのでは。また、一度決めても、年齢や学年などで状況が変わったら、話し合いの上で決め直せばいいと思う」とアドバイスする。

 また、参加者からよく聞くのが、「ここに来たらスマホやアプリの設定を全部教えてくれて、設定してしまえばそれで済むと思っていた」という声だ。しかし、実際はテクノロジーでカバーできる部分だけでなく、リテラシーでなければ防げないところがある。その部分をカバーするために「家族の話し合いや関わりを持ってほしい。『知らない、分からない』ではなく、一緒にやってもらいたい。関心があることが抑止力につながる」とした。

 スマホの問題は多岐にわたり、テクノロジーだけで防げる部分は限られている。保護者がリテラシーを身に付けねばならない点は敷居が高いかもしれないが、「関心を持つだけでも抑止力につながる」という言葉が印象に残った。

高橋 暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/