イベントレポート
Inter BEE 2017
「Inter BEE 2017」で見た“スマート社会”――「Society 5.0」で変わる新しいメディア体験
2017年11月24日 18:40
「Inter BEE 2017」が11月15日~17日、幕張メッセで開催された。Inter Beeは、音と映像と通信のプロフェッショナルのための展示会であるが、「Society 5.0」という言葉に象徴されるスマート社会に関する講演や展示も多数あり、注目を集めていた。ここでは、Inter BEE 2017で見た“スマート社会”について紹介したい。
Inter BEE初日の11月15日には、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)による主催者特別企画として基調講演「Society 5.0で変わる新しいメディア体験」が開催された。この基調講演は2部制となっており、第1部では新たなメディア体験に取り組むソフトバンクロボティクス株式会社、株式会社i.JTB、楽天株式会社の3社によるライトニングトーク、第2部では登壇者によるパネルディスカッションが行われた。ここでは、第1部の様子を紹介する。
人型ロボットは「人類初の、目的がよく分からない道具」
まず、ソフトバンクロボティクス取締役兼CCROコンテンツマーケティング本部長の蓮実一隆氏が「人とロボットの共存から生まれる新しいメディア体験」と題する講演を行った。蓮実氏は、テレビ朝日やソフトバンクモバイルで、コンテンツ制作に長年関わってきており、その経験を生かしてソフトバンクロボティクスでPepperに関するコンテンツマーケティングに携わっている。その要旨は以下の通りだ。
ロボットの台数は数十年で地球の全人口を超えると言われているが、日常に当たり前のようにロボットが存在するようになったときに、ロボットはメディアになり得る。Pepperは、世界初の感情認識ロボットとして2014年6月に登場。Pepperの認知率は90%近くに達した。
ソフトバンクロボティクスでは、「エンゲージメント」という言葉をとても大事にしている。エンゲージメントとは結び付きのような意味で、ロボットというと何の役に立つのかという話が多いが、それは表面的な話であり、ヒューマノイドロボットは、特にエンゲージメントが命だと個人的には思っている。スマホでもEchoでもなく、Pepperにしかできないことを考える、人間の発想が重要であり、今は、人間がロボットを育てる時代である。
Pepperならではのコンテンツとして、胸にタブレットがあることを生かして平面カエルのぴょんきちが登場する「ロボドラマ」や落語、観葉植物、実物のサイズを示せるロボショッピングなどさまざまなものに挑戦してきた。ヒューマノイドロボットと3年間関わってきた結論は、「人型ロボットは、人類初の目的がよく分からない道具である」(蓮実氏)である。プロダクトとしてはまだまだ原始的なものだと考えており、今後もいろいろな角度から生活に溶け込んでいくロボットの実現に向けてチャレンジを行っていきたい。
実はJTBは“メーカー”としての機能を持っている!?
続いて、i.JTB執行役員の三島健氏が「旅の感動を伝える・生み出す新しいメディア体験」と題した講演を行った。その要旨は以下の通りだ。
JTBに来て驚いたことは、実はメーカーだったということだ。旅行会社は、AとBを組み合わせてCにして、それをお客様に別の価値提案をしていくということで、メーカーとしての機能を持っている、と。また、インバウンドが注目されているが、JTBグループはもともとインバウンドを対象として創立された会社であり、世界34カ国に360近くのオフィスを構えている。
JTBグループとして、何ができてなかったかというと、デジタル化とお客様のことをデータで理解するということの2点。Society 5.0の旅行業的なイメージとしては、「テクノロジーを基盤として、あらゆるお客様が最適化されたサービスを享受できる観光インフラの実現」「旅行者の多元的データを収集し、顧客ニーズに沿ったサービスを提供」「必要なときに必要なだけ。効率的な資源の活用を実現」の3点が挙げられる。
今年の世界のオンライントラベル市場規模は147兆円であり、年間成長率5%で伸びており、すでに43%の客がオンラインで予約している。特にアジアの成長が著しく、10年後にはアジアが世界の中産層の50%を占めるようになる。日本の観光産業も成長を続けており、2020年には10兆円を超えると予想される。日本のオンライントラベル市場規模は3兆円であり、米国、中国、英国、ドイツについて世界第5位となる。
また、別の軸として、インバウンド市場が急速に伸びており、10年前には850万人弱だったが、今は2800万人を超え、国内消費金額は4兆円を超えている。政府の目標は2020年に4000万人であり、国内消費は10兆円となり、国内の自動車産業総体に匹敵する規模となる。さらにミレニアル世代の登場と台頭により、新たな消費行動が生まれている。
世界のトラベルマーケットを見てみると、ミレニアル世代への対応をどうするのかということが軸になる。彼らはデバイスを持ち歩いており、常にオンラインに接続する、コネクテッドトラベラーである。SNSの発展により、インフルエンサーの影響が無視できなくなっている。また、VRへの関心も高まっており、政府観光局やクルーズなどでのコンテンツの開発や利用が進んでいる。Alexaなどの音声インターフェースの発展により、トラベル業界でも音声インターフェースの重要性が高まっており、海外ではすでにクエリーの7割が音声からになっている。
さらに、中国などではシェアリングエコノミーが急成長しており、自転車などさまざまなシェアリングサービスが広まっている。また、車についても、自動運転の発達により、移動中に旅行先について調べたり、バリアフリー化が進む。JTBが現在取り組んでいる課題としては、カードなどを持たずに指紋認証で決済を可能にしたり、スマートスピーカーへの対応などが挙げられる。
AIやIoT、VR/AR/MRなど新技術の普及で、未来の買い物体験はどう変わる?
最後に、楽天の益子宗氏(楽天技術研究所コンピューテショナルインタラクショングループ/ビジュアルコンピューティンググループマネージャープリンシパルサイエンティスト)が「ショッピングを媒介にする新たなメディア体験」と題した講演を行った。その要旨は以下の通りだ。
楽天は現在、1億人を超える会員に70以上のサービスを提供しているが、今後、新しい技術革新やイノベーションを起こすために、楽天技術研究所がある。その研究領域は多岐にわたっており、インターネットサービスのインフラ周りの技術や言語処理、データ解析などから、益子氏が担当しているVR/MRなどの領域までカバーしている。大学との連携も盛んに行っている。例えば、楽天イーグルスの球場で、大きなビジョンと観客数千人のスマホを連携させてボートレースをするという、新しいデジタルサイネージ広告を実現したのも楽天研究所の成果だ。
テクノロジーの進化により、ショッピングの体験も変わってきた。インターネットがない時代は、実際にデパートやスーパーに行って実際の商品を手に取って見てたわけだが、インターネットによりオンラインショッピングが可能になり、さらにスマートフォンの普及によって、どこからでも買い物ができるようになった。今後、AIやIoT、VR/AR/MRなどの新しい技術が普及することによって、どのように未来の買い物体験が変わるかということに興味をもち、常日ごろから考えている。
現在すでに、ショッピングメディアは、単純に一企業が商品を売るというだけではなく、CGMと呼ばれる消費者が発信するメディアが出てきている。例えば、キュレーション型や動画配信型、チャット型など。最近だと“ライブコマース”と呼ばれる、一般の消費者が動画配信をしながら多数のお客様と繋がって、商品を売るというテレビショッピングのようなことが個人でもできるようになっている。
そこに今後は、AIが1つキーになってきて、AIのボットがお客様と会話をしながら「こんな商品をあなたは欲しいんじゃないんですか」というような時代になってきている。実は、我々の「ラクマ」というCtoCのフリーマーケットのサービスでも、ディープラーニングというAIの技術が導入されている。商品を売るときに商品写真を投稿すると、画像解析でそれがなんのカテゴリーの商品かを推測して示してくれるというものだ。また、Microsoftの「HoloLens」を使った新しいショッピング体験の実験も開始している。これは、HoloLensをかけて実際の商品を見ると、その情報が重なって表示されるというものだ。
「楽天市場」は現在、4万5000店舗近い店舗様が参加しているが、そのうち少なく見積もっても、10~20%の店舗様がリアルの店舗も持っている。そのオンラインとオフラインのいいところをうまく繋げていって、新しいメディア体験を実現できないかと考えており、店舗とスマホ、店舗と店舗をつないだリモート接客や店舗の賑わいを可視化したらどうなるのかといった実証実験を行っている。例えば、原宿のNESCAFEとお茶ノ水のNeco Cafeをつないで、NESCAFEから猫とインタラクションする実験も行った。NESCAFEからタブレットを使って、Neco Cafeのポインタを操って猫と遊ぶというものだ。
「Inter BEE 2017」展示会場で見つけた“スマート社会”
次に、Inter BEE 2017の展示会場で見つけたスマート社会関連の展示を紹介したい。