インタビュー
今年の「CEATEC JAPAN」はどうだったのか?
~増える来場者、異業種の参加、協業につながる新しい体験~ / 鹿野 清氏インタビュー
来年は自動車や5Gも……
2017年11月20日 06:05
CPS/IoT(Cyber Physical System/Internet of Things)総合展示会である「CEATEC JAPAN 2017」が10月3日~6日に開催され、盛況のうちに幕を閉じた。
従来のIT/エレクトロニクスの総合展示会から舵を切って2年目となるCEATEC JAPANの成果は果たしてどうだったのか。CEATEC JAPAN実施協議会エグゼクティブ・プロデューサーである鹿野清氏に、CEATEC JAPAN 2017を総括してもらった。
大きな手ごたえがあったCEATEC JAPAN 2017異業種からの参加が増え、来場者は9年前の水準に回復
――CEATEC JAPAN 2017が幕を閉じました。その結果をどう評価していますか。
こうした大きなイベントが終了したあとは、みんなで「お疲れさま!」といって、ひと息つくことが多いのですが、CEATEC JAPANの場合は、閉幕した翌日から「よし、来年はどうしようか」という気持ちが盛り上がり、すでに新たなスタートを切っています。それだけ、今年のCEATEC JAPANには大きな手応えがありましたし、その一方で前向きな反省材料も多い。ワクワクしながら来年へのスタートを切っているというのが、いまの状況です。
――どんなところに手応えを感じたのですか。
1つは来場者が変化しているということです。展示会の場合には、来場者数が1つのバロメータになるのは明らかです。目標を16万人としましたが、それに対しては15万2066人と下回る結果になりました。しかし、前年実績は上回っていますし、1日平均来場者数は3万8000人以上となり、この水準となったのは、2008年以来、9年ぶりのことです。
特に、最終日となった金曜日は1日で4万5762人の方々に来場していただきました。今回のCEATEC JAPANは、幕張メッセの1~6ホールを使用していますが、この展示規模ですと、4万5000人というのはかなり混雑するレベルになります。金曜日に来場された方は、かなり混雑していたという印象があったのではないでしょうか。
ただ、こうした数字も重要な指標ではあるのですが、それ以上に重要なのは、来場者の50%以上が、初めてCEATEC JAPANを訪れた人だったということです。
約5年前は、初めてCEATEC JAPANに参加したという人が、30%台でしたから、新たな展示会に生まれ変わっていることが裏付けられる結果だといえます。まだ細かいプロフィールは集計できていないのですが、年齢層は若干上がり、営業職や技術職の人が多いという傾向はあるものの、異業種からの参加が増えていたり、IoTを活用するようなユーザー企業が増えたりといった傾向を感じ取ることができています。
来場者に対してアンケート集計を行っているのですが、自由回答で書き込んでいただいた人が約4000人にも上っています。これから集計を行い、どんな声が挙がっているのかを詳しく知りたいですね。また、こうした展示会でのアンケートの場合、その結果を集計して終わりということが多いのですが、今年は追跡調査をやってみるつもりです。一番知りたいのは、来場者が、何をきっかけに来場しているのかということですね。上司や同僚から言われたとか、出展者から招待されたからという人の比率は多いとは思いますが、その裏にあるものを追っていけば、来年のCEATEC JAPANの成長に向けたヒントが得られると思っています。
技術やデバイスでソリューションを創出し、協業を促進する展示が増加「BtoBtoCの体験で、多くの人に興味を持ってもらう展示会を」
――出展者の展示内容についてはどんな反応がありましたか。
従来のCEATEC JAPANは、新製品や新技術、新たなデバイスを展示することが中心でしたが、今年の展示内容を見ると、大手企業を中心に、新たな技術や新たなデバイスを使ってどんなソリューションを創出できるのかという提案を行い、協業を促進するような展示が多かった点が大きな変化だと言えます。
私たちも、直前までどんな展示が行われるのかといった詳細な情報は分からなかったのですが、開幕してみると、CPSやIoTといった観点からの展示が多く、私たちが期待したような内容であったことはうれしく思っています。印象的だったのは、ある出展者から「新たな時代の展示会に変化してきたことが、ようやく伝わってきたね」と言われたことでした。
この方向性は、今後、自信を持って伸ばしていきたいと思っています。
ただ、その一方で、来場者からは「新製品が少なくて、ワクワクしない」といった声や、「BtoBの展示会になってしまった」という声も挙がっています。特に、何度もCEATEC JAPANに来場している人や年輩の方ほど、そうした声が多く聞かれます。その点では、CEATEC JAPANが目指す方向性が来場者にしっかりと伝わりきれてないという反省もあります。
もちろん、新製品の展示やBtoCの展示会を期待している来場者が多いことは認識していますし、こうした来場者を対象にしないということは一切考えていません。来場者の方々にも、CEATEC JAPANが目指す方向性を伝えながら、CPSやIoTという切り口の中に、最後は個人の利用にまで落とし込み、そこに新たな気付きを与え、BtoBtoCの体験をしていただけるような展示会を目指したいと考えています。多くの人に興味を持ってもらえるような情報を、継続的に発信していきたいと思っています。
主催者企画展示「IoTタウン」には常に多くの来場者「インドショーケース」に出展したスタートアップ企業との協業も
――CEATEC JAPAN 2017の目玉とした主催者企画展示の「IoTタウン」の反応はどうでしたか。
4日間の会期中、常に多くの来場者が訪れていたのがIoTタウンであり、主催者としては、期待以上の成果が挙がったと思っています。
従来はマス目状のコマ割としていましたが、中央に斜めのストリートを作り、さらに金融や玩具、旅行など多くの異業種企業がそれぞれの企業のカラーを出しながら展示をしていましたから、明るく賑やかなエリアとなりました。まさにタウンであり、ストリートのような雰囲気でした。そして、ここで展示された技術は、多くの人が近い未来に使えそうだという技術ばかりでしたし、ビジネスマッチングの場としても効果があったという声を出展者からも聞いています。
さらに、IoTタウンの横には、ファナックやアマダといった工作機器メーカーに初めて出展していただき、さらに地方自治体によるIoT推進ラボなど、IoTを取り巻く展示を行い、相乗効果を生み出すことができました。会期中に発表された「CEATEC AWARD 2017」でも、経済産業大臣賞、総務大臣賞の2つの大賞は、いずれもIoTタウンの出展に関連した企業であったことも手応えの1つです。
ただ、ここでもすべてのブースが盛況だったわけではなく、温度差が生まれていたという反省があります。新たなものを1カ所に展示したことで、1つ1つの出展者の訴求が分かりにくくなってしまった点もあったと言えます。これは来年の課題として解決していきたいですね。
――もう1つの目玉は、初めて設置したインドショーケースですね。約30社のインドの企業が出展をしました。
ビジネスマッチングの場として、インドのスタートアップ企業に出展をしてもらいました。インドのスタートアップ企業が持つ技術を見て、新たな協業も生まれています。一方で、インドショーケース以外にも、これまでと同様に米国や、台湾、中国といったアジアの企業が出展するエリアもあり、グローバルな展示会としての役割も見せることができたのではないでしょうか。来年は、ぜひ欧州の企業にも参加してもらいたいと考えており、いまからさまざまなルートを通じて打診を始めているところです。
ただ、海外からの来場者数が年々減少しているという傾向があります。もともと海外からCEATEC JAPANに訪れる来場者の多くは、日本の企業が持つ最先端技術や最新製品に、いち早く触れるということが目的でした。しかし、世界における日本企業の位置付けが変化し、CEATEC JAPANも最新製品だけを展示する場ではなくなってきたことで、自ずと来場者数が減少するという傾向に陥っていたのも事実です。もっと海外の方々に、CEATEC JAPANの変化を訴求していく必要があると考えています。
展示だけでは分かりにくい部分をコンファレンスで補完増えるカバー範囲を「テーマ別ガイド」でサポート
――今回のCEATEC JAPAN 2017では、コンファレンスを重視する姿勢を示していたのが印象的でしたが。
重視したのは、展示とコンファレンスをペアにするということでした。ソリューションを展示するケースが増えた結果、製品や技術を見せるだけではなかなか伝わりにくい部分が出てきました。そこで、展示を補完するかたちで、コンファレンスを位置付け、この組み合わせで「CEATEC体験」をしてもらいたいと考えました。
また、サプライ側とデマンド側が一緒に登壇して議論するといったことも行いました。特に、バイオやスマートハウスといった領域では、双方向の議論が注目を集めました。全体を通じて、サプライ側からの一方通行型のコンファレンスではなく、双方向で議論をすることを心がけたわけですが、この点には高い評価をいただいています。
さらに主催者側では、来場者の目的に合わせて、どの展示とどのコンファレンスに参加するのがいいのかを示した「テーマ別ガイド」を、公式サイト上に初めて用意しました。これも来場者の参考になったのではないでしょうか。ただ、どうしても出展内容が直前にならないと分からないものですから、サイトの公開したのが開催1週間前になってしまったことは反省材料の1つです。
一方、初日の基調講演では、定員1000人規模の会場に入りきれなくて立ち見が出るという状況になり、満席のセミナーも数多くありました。しかし、中には、重要な新たな技術であるのに聴講者が少ないというケースもあり、そこは、私たちが来場者にメッセージを伝え切れていなかったという反省があります。
許諾をいただいた講演やセミナーは、すべて撮影をしていますから、年内には重要なコンファレンスをサイト上から視聴できるようにしたいと思っています。見逃したコンファレンスは、ぜひここでフォローしていただければと思っています。実は、私もすべてのコンファレンスを見られたわけではないので、年末にはじっくりと見ようと思っています(笑)
- CEATEC JAPAN 2017コンファレンス セッション動画
- http://www.ceatec.com/ja/conference/conference_movie.html
- CEATEC JAPAN 2017テーマ別見どころガイド
- http://www.ceatec.com/ja/guide/guide02.html
政府提唱のスマート社会「Society 5.0」への関心を喚起「つながる社会、共創する未来」をCEATEC JAPANで作っていく……
――CEATEC JAPAN 2017では、CPS/IoTの展示会であるとともに、「Society 5.0」という切り口からの訴求を行いました。その感触はどうですか。
政府が提唱しているSociety 5.0は、まだ、なんのことだかわからないという人が多いのが実態です。しかし、IoTタウンで配布した小冊子「Society 5.0―Society 5.0を知れば、未来の日本にきっとワクワクできるはず―」は、8000部を用意したものの、3日間で配布が終わってしまうなど、多くの人が関心を持っています。
開幕前日に関係者800人以上を集めたレセプションでは、経済産業省の世耕弘成大臣、総務省の野田聖子大臣、経団連の榊原定征会長に挨拶をしていただきましたが、それぞれの立場からSociety 5.0の重要性について触れていただき、その上でCEATEC JAPANが重要な役割を果たすことが示されました。
また、そのレセプションの前には、コネクテッドインダストリーに関する会合が、CEATEC JAPAN会場の近くで開催されており、その流れでコネクテッドインダストリーとCEATEC JAPANとの関連性も示されました。
今回のCEATEC JAPAN 2017は、日本の社会が、Society 5.0の入口に立っていることを示せたという意味で、新たな役割を果たせたと思いますし、今後、CPS/IoTやSociety 5.0、そしてコネクテッドインダストリーの実現においては、CEATEC JAPANが、それを具体的に見せる場になっていくことを示せたと思います。
――毎年、新たな言葉が増えて、混乱しそうですが(笑)
その点は多くの人に指摘され、我々ももっと整理をして発信をしていかなくてはならないと思っています。単に説明するだけでなく、どんな絵を描けば理解してもらえるのかということにも取り組みます。Society 5.0は、我々が目指すスマート社会のことであり、それを実現するためにはさまざまな業界がつながることができるコネクテッドインダストリーでなくてはいけません。そして、それを具体的な技術によってつながるのがCPS/IoTということになります。
ただ、CEATEC JAPAN 2017では「つながる社会、共創する未来」というテーマを打ち出しましたが、この言葉こそが、今年は最も重要なメッセージでした。来年のCEATEC JAPANでも、テーマとなる言葉が最も重要になると考えています。それによって、CPS/IoTの展示会として発展し、コネクテッドインダストリーを具現化する場となり、Society 5.0の実現に貢献できると考えています。
「多業種が出展し、協業を実現する場」がCEATEC JAPANの役割来年は自動車や5G、4K/8Kなどにも注目?
――CEATEC JAPAN 2017は、CPS/IoTの展示会として2年目となりましたが、総括すると、合格点といえますか。
それはまだまだです。5合目にすら到達していません。昨年のCEATEC JAPANで新たな展示会への踏み出したわけですが、今年はその足を地に着けることができたという段階だといえます。これから踏み出した足を上げて、次の一歩につなげる段階にあるといった方がいいでしょうね。2年目の難しさということを感じて取り組んできた今年のCEATEC JAPANですが、すでに3年目の難しさということを痛感していますよ(笑)。
――CPS/IoTの展示会として3年目を迎える来年のCEATEC JAPANはどうなりますか。
CPS/IoTという名称をどうするかといったことについては、まだ何も考えていませんが、継続し続けることの重要性は認識しています。その中で、3年目としてどんなことに力を注ぐかということを改めて検討しているところです。例えば、今年は50%以上が初めてCEATEC JAPANを訪れた来場者でしたが、「3年目以降もそれを繰り返していいのか」ということも考えなくてはいけません。
ただ、そうした中でも、「さまざまな業種の企業の方々に出展をしていただける展示会」というCEATEC JAPANならではの方向性はさらに強化していきたいですね。
今年は出展と講演で3大メガバンクに参加していただき、フィンテックにおける最先端の取り組みをお見せすることができましたし、工作機器メーカーの出展により、スマートファクトリーの世界に関しても幅を持ったかたちでお見せできました。さらに、バイオ関連のコンファレンスも高い人気を誇っていましたし、スマートハウスの展示にも注目が集まっていました。こうした展示は、コンファレンスと連動させながら、さらに深堀ができるようにしたいと考えています。
また、今年は同じ10月に東京モーターショーが開催されたことで、国内自動車メーカーの出展が1社だけでしたが、東京モーターショーの開催がない来年は、多くの自動車メーカーの出展が期待されます。EVや自動運転、スマートモビリティの実現においては、自動車業界とIT/エレクトロニクス業界は切っても切れない関係にありますから、積極的な出展を期待しています。そして、5Gや4K/8Kといった新たなトレンドに関する展示も注目を集めると思います。
しかし、これらの展示に共通しているのは、技術そのものや製品そのものを前面に押し出すのではなく、それらの技術、製品を使って、どんなソリューションを生むことができるのか、それによって、どんな提案ができるのか、どんな協業ができるのかといったことを実現できる場にしたいということです。そこに新たにCEATEC JAPANの意義があります。
また、来年のCEATEC JAPANの開催時期は例年から2週間ほど遅くなり、2018年10月16日~19日に幕張メッセで開催する予定です。
これまでのように、10月第1週の開催ですと、中国の国慶節に当たったり、ドイツ統一の日に当たったりといったように海外からの出展や来場を獲得するのに不利なところもありました。数年前から時期の移行を模索していたのですが、その時期に会場を確保できるようになり、ようやく新たなタイミングで開催できるようになりました。CEATEC JAPANをグローバルで存在感を持った展示会にするためには、海外からもさらに多くの方々に来場していただくことが必要です。その点でも、いい時期に移行できたと考えています。
いろいろとアイデアはあります。やりたいことも山積みです。出展者の方々にも今年以上にご協力をいただき、さらに盛り上げていきたいですね。来年のCEATEC JAPANも、ぜひ楽しみにしていてください。