イベントレポート
CEATEC JAPAN 2017
虫の眼・鳥の眼で「CEATEC JAPAN 2017」を振り返る<虫の眼編>
2017年10月12日 12:20
街にキンモクセイが香りはじめ、ノーベル賞ウィークのそわそわした空気が漂いはじめる10月初旬、毎年、十数万人を集め千葉・幕張メッセで開催される巨大展示会が「CEATEC JAPAN」だ。
筆者は過去数年にわたってCEATEC JAPANの公式ニュースを担当し、会期の全日を会場で過ごしてきた。アジア最大規模とうたわれる巨大展示会をクローズアップで定点観測し、IoTをテーマに据えることでイベントとしての賑わいを取り戻す様子も間近に見てきた。
そうした経験を踏まえ本稿では、虫の眼で今年の「CEATEC JAPAN 2017」の興味深い展示を振り返りつつ、鳥の眼で来年以降のトレンドを占ってみたい。読者のみなさんがこの展示会を楽しむヒントとなり、「来年は(も)行ってみよう」と思ってもらえれば幸いです。
静電気で毎分ご飯4膳分・1万2000個の処理能力、業界最速をうたう極小チップ部品の「6面外観検査機」
まず、とびっきりの虫の眼でないと見つけられない、極小の電子部品を扱う産業機器を紹介したい。株式会社東京ウエルズが出展した6面外観検査機「TW-4100series」だ――。と書いても「あぁ、あれのことね」という読者の方はほとんどいないだろう。チップコンデンサやチップ抵抗器など極小の電子部品を1個1個カメラで撮影し、良品画像とのパターンマッチングで判定し、不良品を弾き出す機能を持つ検査機だ。同社によれば世界シェアNo.1。私のAndroidもあなたのiPhoneもほぼ間違いなく、この検査機を通過した部品で作られているという。
驚くべきはその検査速度。0.6×0.3mm角の0603と呼ばれるサイズの部品を毎分1万2000個検査できる。ご飯1膳分の米粒の数が「3250個」(公益社団法人米穀安定供給確保支援機構調べ)というから、この検査機はご飯4膳分に相当する、米粒よりはるかに小さい部品を、毎秒200個のペースで検査する能力があるということになる。200Hz、もはや可聴音の領域である。
カギとなるのは極小チップを高速で搬送する技術。TW-4100seriesではそこに、回転するガラステーブルと静電気によるチャック(固定)を使っている。小さい部品や薄いフィルムを扱う生産ラインで静電気は忌避されるが、ここでは部品を吸い付け固定するため、あえてガラステーブルを帯電させている。ガラステーブルだから底面からも素通しで外観検査が可能となる点がミソ。強力に吸い付ければ、ガラステーブルの回転速度を上げても遠心力で飛び出すことがないので、スループットを高めることができる。毎分1万2000個という能力は、静電気力、回転数、画像処理能力など諸条件の拮抗する点として得られた、現時点での到達点ということなのだろう。
考えてみれば、インテリジェントなセンサーや高価なLSIを載せた電子基板も、たった1つの不良品の混入でパァになるわけだから、この種の検査機がなければ、世の中にこれほどの数のスマホが普及するはずもない。
巨大な電子機器産業を熱帯雨林にたとえるなら、すべての電子機器が必要とする部品の良品判定を行うこの検査機は、すべての生命体が必要とする水を土壌から吸い上げる、草木の毛根の役割にもたとえられる。ガラステーブルが高速回転しチップ部品が搬送される様子に見いれば、まるでネイチャー番組のワンシーンのようにも思えてくるのだ。
いたく感心し「初出展ですよね?」と聞いてみたら、昨年から出展していたという。「数年にわたり定点観測してきた」とエラそうなことを言ってみた筆者、いたく恥じ入った次第。なお、谷間強調露出度高めのコンパニオン嬢が来場者を呼び込んでいたので、製品とともに撮らせてほしいとお願いしたが「写真NG」とのこと。行って見るしかないわけです。
村田製作所に続き、オムロンも“タレント育成”に成功、毎年進化を続ける卓球ロボット「フォルフェウス」
多業種多業界を取り込むCEATEC JAPANには、大学生や制服姿の高校生も多数訪れる。そのため、ブツを見せスペックを紹介すれば足りる専門展示会とは異なる、見せ方の工夫が求められる。小型で高性能の電子デバイスではあればなおのこと、見ただけでは性能が分からないのだから、どうやってそれを実感させるかが工夫のしどころとなる。
定点観測する立場としては、毎年近接して出展ブースを構える村田製作所、アルプス電気、ローム、TDK、オムロンなどの電子機器・デバイス大手の競演は大きな楽しみだ。
村田製作所は自律制御の自転車ロボット「ムラタセイサク君」や、玉乗りロボット「ムラタセイコちゃん」というタレント育成に成功した。オムロンも2015年に発表した卓球ロボット「フォルフェウス」(命名は2016年)を毎年進化させ、長蛇の列を維持している。ロームはグループ会社のラピスセミコンダクタ製超小型マイコンボード「Lazulite」を搭載した羽ばたき飛行体「ORIZURU」(2015年初出展)が来場者の度肝を抜いた。
TDKはHDDのヘッド部に使われるTMR素子を、人間の動きを検知するセンサとして利用するデモを実施。さらに東芝から事業譲渡を受けたウェアラブル型活動量計「silmee」も紹介した。
6軸センサー内蔵の正12面体サイコロで練習すれば、思い通りの目が出せるようになる?
一方、展示テーマを「見せる」から「触ってもらう」に大きく転換したのがアルプス電気。触覚・力覚や温感・冷感など多彩な感触をフィードバックする「ハプティック」操作の製品群は、2016年のオープニングイベントで安倍晋三首相が体験するなどして注目を集め、今年はさらに体験コーナーを拡大。ボタンを押し込んだ感触や、温かい飲み物がコップに注がれたり、コップの中で氷が転がる感触を味わえるという、まさに展示会向きのデモが人気を集めた。
そんな中、筆者が虫の眼でロックオンした同社のデモは、超小型の地磁気+加速度センサーチップを内蔵した正12面体サイコロ。転がされたサイコロの、どの目が上にきているかをモニターに表示するだけの地味なデモではあるが、シンプルであるだけにむしろ見る側の発想を刺激してくれる。
説明員との会話で盛り上がったのは、高分解能のセンサーデータを見ながらサイコロの振り方を練習することで、必ず同じ目が出るサイコロの振り方を習得することができるのではないか、という話。全くイカサマではないのに思い通りの目が出せるサイコロ(の振り方)も不可能ではないはず。さらに会話の中で、このセンサーの新たな仕込み先についてもアイデアが生まれた。「そのアイデア、いただきますっ!」とのことだったので、うまく行けば来年以降の展示に反映されるかもしれない。こういうインタラクションも展示会の楽しみの1つだ。
(次回は<鳥の眼編>を掲載します)
喜多 充成
1964年石川県生まれ。科学技術ライター。週刊誌のニュースから子ども向けの科学系ウェブサイトまで幅広く手がける。産業技術や先端技術・宇宙開発についての知識をバックグラウンドとし、難解なテーマを面白く解きほぐして伝えることに情熱を燃やす。宇宙航空研究開発機構機関誌「JAXA's」編集委員(2009~2014年)、共著書に『私たちの「はやぶさ」その時管制室で、彼らは何を思い、どう動いたか』(毎日新聞社)ほか。「インターネットマガジン」の創刊から休刊まで見届けたほか、「INTERNET Watch」では、「あるウイルス感染者の告白」「光売りの人々」など短期集中連載。