イベントレポート

Blockchain for Enterprise 2018

NEM(ネム)を元にした「mijin」ブロックチェーンが作る今と未来

APIは共通、食肉トレーサビリティでは既に実用も

 ナノオプト・メディア主催のイベント「Blockchain for Enterprise 2018 ―名古屋―」が22日、JPタワー 名古屋ホール&カンファレンス(愛知県名古屋市)で開催され、テックビューロ株式会社による「明日から使える『mijin』ブロックチェーンが選ばれる理由と実サービス利用事例」と題した講演が行われた。

 NEM(ネム)プロトコルを活用したプライベートブロックチェーン「mijin」の最新事例や製品情報を紹介。提供を予定しているmijin/NEMのブロックチェーンコアエンジン「2.0 Catapult」についても説明した。

NEM(ネム)を元にしたプライベートブロックチェーン「mijin」

 テックビューロ広報でmijinマネージャーの青木貴之氏は、「なぜ、mijinが指名されるのか。それには4つの理由がある」と切り出した。

テックビューロ 広報/mijinマネージャーの青木貴之氏

 2015年9月の提供開始から2年半で300社以上に採用されている実績を持つこと、さらに、製品として完成していてデモストレーションがすぐに可能であること、最後にNEMパブリックブロックチェーンで実運用された実績を適用。ブロックチェーンのプロトコルから一度もアセットを盗まれたことがない点を挙げた。

 さらに、mijinでは、公開鍵認証方式による「認証・暗号化」、計算処理までを行える「アセット勘定」、改ざんが不可能な「恒久記録」、取引データ履歴を可視化して連携させる「ブロック概念」、ゼロダウンタイムを実現「完全分散」という5つの要素を、プロトコルレベルで実装できる点を強調した。

 単なる分散台帳ではないため、多くのデータベースと置き換えることができ、不特定多数の大量計算処理、所有権の情報管理の実現など、多用途に使用できる「分散勘定エンジン」、複数のアセットを同時に、かつ自由に発行・管理できる「マルチアセット定義」、最大32人の複数処理に対応し、複雑なトランザクションや権限管理などのワークフロー構築にも活用できる「マルチシグネチャー」に加えて、要件定義が不要であり、申し込み後すぐに利用が可能であるという点を示し、「これらの5つの要素と、3つの特徴を兼ね備えているブロックチェーンはほかにはない。汎用・多目的ブロックチェーンとして、ほかの製品を凌駕する圧倒的な強みがある」と語った。

 テックビューロマーケティング・マネージャーの藤田綾子氏は、mijinとほかのブロックチェーンを比較。「Ethereumは、スマートコントラクトを実行する環境として世の中に登場し、複雑なコントラクトが書けることが特徴。ただし、コントラクトにバグが発生したときに修正が難しいという課題がある」とした上で、NEM/mijinについて、「セキュアで安く、簡単にコントラクトを実行できるという評価を得ている」と述べた。

 その理由については「NEMが100%オリジナルで開発されたものであることに加え、ブロックチェーンのプロトコル部分にトークン発行機能を標準で備えており、スマートコントラクトをプロトコルの中で実行する機能を備えている」ことを挙げた。そして「トークンの発行やスマートコントラクトを実行する際には、追加のアプリ開発やプログラミングが一切必要ない。しかも、設計されたトークンやスマートコントラクトは、ブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムの中で実行されるため、バグで止まることがない」とした。

 さらに、「多くのブロックチェーン技術は、既存の企業システムとの連携が難しいことが分かってきたが、NEMとmijinは、マルチティア構造を有し、既存システムへの統合が容易で、小さく始めて大規模に拡張することが可能」とした。「一度、NEMとmijinのブロックチェーン技術に触れた開発者からは、ほかのブロックチェーン技術は複雑で扱いにくいという声が挙がる」という。

実サービスでも既に活用食肉のトレーサビリティを実現

 次に、mijinのこれまでの活用事例についても触れられた。

 テックビューロの青木氏は、「ブロックチェーンは、金融分野での利用が先行しているイメージが強いが、mijinの場合には、金融分野からの問い合わせは10%ほど。金融以外にも、プリペイドカードなどのポイント、クラウドファンディングなどの資金調達、SNSなどのコミュニケーションのほか、認証、シェアリング、商流・物流管理、コンテンツ、公共、医療、データストレージ、資産管理、教育・人材、IoTなど、あらゆる分野から問い合わせがある。mijinは、さまざまな分野での適用が可能だ」と述べた。

 事例として紹介したのが、一般社団法人日本ジビエ振興協会およびジャパンネット銀行である。

 日本ジビエ振興協会の事例は、農林水産省の受託事業として取り組んだもので、日本で初めて農水省が、ブロックチェーンを実サービスに採用したケースと位置付けている。「改ざんできない商品台帳としてmijinを採用。これまで流通規格がなかったジビエの食肉データをmijinで管理することで、加工地から消費者までの経路で改ざんや偽装がないよう、流通の経路でデータに異常があると自動検知し、商品データの信頼性を担保している」という。

 ジャパンネット銀行では、世界で初めて、mijinとHyperledger Fabricの2つのブロックチェーンを連携。会社間の契約書管理をシステム化し、文書やメールで行っていた契約締結作業の承認・編集・却下の履歴をブロックチェーンに記録することで、ペーパーレス化と効率化を目指している。2つのブロックチェーンを連携させることでセキュリテイレベルを高め、可用性の高い業務システムの構築を目指す実証実験を行っているところだ。

 さらに、「mijinには、仮想通貨のXEMで、2年以上の実績がある開発チームが携わっている。中国CERTが行った安全性評価では、mijinを手掛けたチームによるnem.coreが、コード1000行あたりのバク数が少ないこと、重度の瑕疵が存在しないことが証明されている」と述べ、「汎用性を重視し、高速動作が行えるようにしているほか、ネイティブ勘定、マルチシグネチャーを実現。複雑なコーディングなしに、ブロックチェーン上にアセット勘定を作ることができる」とした。

mijin/NEMの新エンジン「2.0 Catapalut」C++で再構築、IoTなどでの応用も?

 藤田氏は、提供予定のブロックチェーンコアエンジン「2.0 Catapult」についても説明。「2.0 Catapultでは、すべてのプログラムコードをC++で再構築しており、IoTなどでの制御系プログラムと相性がいい。また、秒間4000トランザクションという超高速を実現したり、マルチレベル・マルチシグネチャー、アグリゲート・トランザクションといった新機能を追加している」とした。

テックビューロ マーケティング・マネージャーの藤田綾子氏

 マルチレベル・マルチシグネチャーは、決められた人数がサインすると、決められた約束を実行するマルチシグネチャーのコントラクトを、複数階層にまたがって利用できるもの。ブロックチェーンの基本技術を使いながら、より高度なセキュリティを実現できるという。有効期限を持たせることもでき、規定時間内に実行されない場合には無効化することなども可能だ。マルチレベル・マルチシグネチャーの管理ツールは無償で提供するという。

 アグリゲート・トランザクションについては、「例えば、WAONからnanacoにポイントを交換したい場合なら、直接は交換できなくとも、一度WAONポイントをJALマイレージに交換し、それをnanacoに交換することで移行できる。こうした交換ルールをアグリゲート・トランザクションで決めておけば、1回の取引で交換できるようになる」と、その使い方を紹介。

 アグリゲート・トランザクションは、複雑なコーディングを不要にしながら「異なる性質や価値を持つポイントを一回で交換できるサービスが提供できる」とした上で、管理ツールを用意し、管理画面を見ながら簡単に設定が可能になるとした。

 藤田氏は「2.0 Catapultは4階層で構成され、Core Blockchain Layerから、API Servers(Mongo DB)を切り出して、さらなる高速処理を実現している。アプリケーションとはSDKやAPIを介してシンプルにデータをやり取りでき、NEMとmijinで相互にアプリケーションを利用できる」と、その優位点を強調した。

NEMとmijinは共通APIパブリックで非中央集権のNEM、プライベートで中央集権のmijin

 NEM(New Economy Movement)とmijinとの関係についても紹介。NEMについては「2015年3月に始動した世界的なブロックチェーンプロジェクトで、4000人のボランティアが、世界中から参加して仕組みを支えている」とした。NEMが発行している仮想通貨のXEM(ゼム)は、時価総額2500億円、世界ランキングでは5位だとのことだ。

 そのNEMコアの開発者全員が、テックビューロに合流して開発したのがプライベート型ブロックチェーンのmijinだという。「テックビューロ代表の朝山貴生が、NEM.io財団の理事を務めている。そして、2.0 Catapultは、テックビューロが開発して、NEMとの共通コアエンジンとして提供している」とした。

 「NEMとmijinは、それぞれにパブリックとプライベートの両方を使うことを念頭にブロックチェーンが設計されており、世界中のNEMのボランティア有志から、NEMとmijinを組み合わせて使うといった案件が入ってきている。NEMとmijinはAPIが共通であり、NEMで作ったアプリケーションサービスと、mijinで作ったアプリケーションサービスが相互に乗り入れしやすい」のだという。

 「パブリック型ブロックチェーンのNEMは非中央集権型で、誰でもネットワークにノードとして参加が可能であり、恒久的な記録もできる。これに対して、プライベート型ブロックチェーンのmijinは、中央集権型であり、企業内や組織内のあらかじめ指定された人が参加するため、ハードウェアのスペックもそろえられ、高速処理の実現も可能である」とその違いを解説した。

 さらに、NEM上でさまざまなサービスが提供開始されていることを示しながら、「ioNEM」を紹介。「NEMのブロックチェーン上で、IoT端末の所有者情報を登録し、その端末を操作するときのログインコントロールや制御などを行える」と語った。

ブロックチェーンは実証から実用の時代に1ノード5万円/月から利用可能

 最後に、テックビューロの藤田氏は、「mijinは、APIを使って豊富な標準機能を利用でき、月額1ノードあたり5万円。完全分散型であるため1台から使用でき、明日からでも要件定義なしにすぐに使える。また、2.0 Catapaltはベータテストをすでに実施しており、すぐに申し込みが可能となっている。このようにブロックチェーンは、実証から実用の時代に入ってくる。もし、期末予算が余っているなら、mijinにかけて欲しい」と笑いを誘いながら講演を締めくくった。

【お詫びと訂正 3月5日 18:17】
 発言内容に関して指摘がありましたので、内容の一部を修正しました。