イベントレポート

仮想通貨・ブロックチェーン企業 合同企業説明会

仮想通貨・ブロックチェーン技術者の熱い人材争奪戦

この分野で求められる職種のスキルセットや資質とは?

 仮想通貨・ブロックチェーンという特定分野に特化した日本で初めての「仮想通貨・ブロックチェーン企業 合同企業説明会 in 東京」の第1回が、株式会社withBと株式会社グラコネの主催、一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)の後援で、2月24日に東京都千代田区で開催された。そこでは、すでに少ないと言われている仮想通貨とブロックチェーンの技術者に対して、熱い人材争奪戦が繰り広げられていた。

 2017年後半ごろから、ビットコインの高騰や一部の仮想通貨交換所の資産流出事件が社会問題として大きく報道されている。それもあり、明るい話題でも暗い話題でも、「仮想通貨」と、その基盤技術となる「ブロックチェーン」という単語は一般にも広く知られるようになった。

 しかし、残念ながら、多くの人にとって、“投機的資産の交換技術”というように、狭義に捉えられているのが実情だろう。さらに、肝心の技術的な側面について、エンジニアですら十分な理解、知識、経験を持っている人が圧倒的に不足している。それにもかかわらず、国際的にはこの技術に対する取り組みは拡大し、その影響の大きさから、行政や政策面においても、推進策と規制の両面が検討されている状況にある。

会場後方には立ち見が出るほど盛況だった(写真提供:withB)

26社の募集企業、400人の応募候補者が集う業界特化型の合同企業説明会

 主催者によると、説明会への参加企業は、想定を上回るおよそ40社からの申し込みに対し、会場のスペースや時間の都合から下表の23社に絞られたという。この点を見ても、求人の勢いがあることが分かる。そして、その多くはすでに知られているような大手ではなく、スタートアップであるということも特徴的だ。

 また、その事業内容は、仮想通貨交換所だけでなく、交換所の仕組みを取引所向けに開発していたり、信頼性が担保された分散台帳(データベース)という技術特性を生かしたシステムの企画・開発など、既存事業の情報流通への導入を目的とした企業も多い。いずれにしても、各社とも、調査・研究段階ではなく、事業化を実現したいとするフェーズにある。

「ブロックチェーン・仮想通貨企業合同企業説明会」参加企業23社(登壇順)

参加企業23社のバナー

 一方、参加者はおよそ400人。職種がエンジニアということもあり、その多くは20~30代半ばくらいまでの男性だ。転職活動のイベントということもあり、個別にはその気持ちを語ってはもらえなかったが、今後の中核になり得ると見られる技術に対し、自分のキャリアパスとして取り組みたいテーマと捉え、高い関心や意欲を持っていることが伝わってきた。ただし、情報がいまだ少ないことからか、なかなか転職の決断に結び付かないという不安も見せていた。

主催者と参加企業の代表者

仮想通貨にまつわるネガティブなイメージを払拭有能なエンジニアの発掘で市場活性化に寄与

 主催のwithBは、2018年1月24日に設立された仮想通貨・ブロックチェーン業界向けの求人情報サービスやイベントを行う企業である。設立した藤本真衣氏は、すでに株式会社グラコネという企業を立ち上げていて、「つながるをつくる」というコンセプトの下、ビジネスマッチング事業を手掛けてきた。

 そこで、さまざまな企画に取り組む中で、2011年ごろに難民支援のために、国をまたがって寄付を募る企画に関わったという。そこで気付いた国際間送金の非効率さや手数料の高さを解決する方法を模索する中で、仮想通貨の利用に着目。以来、関係する著名エンジニアや企業経営者との人的ネットワークを作ってきたとのことだ。

 そうした中、企業側では仮想通貨の技術者を求める声が高まっている。一方、エンジニア側では、これまでない業界で情報も少なく、個々の技術力や関心はあっても応募に至るまでにはハードルがあることに気付き、この株式会社withBを設立して、業界へ特化した人材マッチングサービスへ本格的に進出することを決めたという。

 今後の計画としては、ウェブメディアを3月に立ち上げ、4月には金融業界出身者と仮想通貨・ブロックチェーン企業とのマッチングを目的とした合同企業説明会の実施を計画しているとのことだ。

 さらに、今回のイベントに参加できなかった企業や、転職希望のエンジニアに向けて、2018年度には追加で合同企業説明会を10回程度開催することも予定しており、延べ1万人の動員を目指しているという。

 藤本氏によれば、仮想通貨・ブロックチェーンは、今後のソーシャルインパクトが大きいと見られる技術にも関わらず、仮想通貨にまつわるネガティブな事件が散見されたことから、残念ながら現在のところ決してイメージがよい業界だとは言えないという。このため、こうしたイベントを通じて、技術の重要性や各社の今後のビジョンなどを共有することで、ネガティブなイメージを拭い去るととともに、有能なエンジニアを発掘し、市場の活性化に寄与したいとした。

株式会社withB代表取締役で、株式会社グラコネ代表取締役の藤本真衣氏

ブロックチェーン・仮想通貨企業を目指すエンジニアのスキルセット

 そもそも、ブロックチェーンの技術者は、日本にそれほど多くはないと言われている。藤本氏によれば、この分野における本当に優秀なスーパーエンジニアは20人くらいではないかということだ。ここには自ら起業している人も含まれており、人材市場で採用可能な数は非常に少ない状況であり、こうした技術を持つ優秀なエンジニアの年収は非常に高騰しているのだという。

 一方、企業側が求めている人材は、登壇した人事担当者の何人かに話を聞いたところでは、「この分野において、十分な知識や経験があり、採用後に即戦力としてチームをリードできる人はとても少ないか、いないということは想定内。むしろ、過去の経験やすでに持っているスキルにこだわらず、新しい技術にチャレンジして、目標を達成できる能力のある人を求めたい」ということだった。

 つまり各社とも、事業とともに成長するエンジニアの将来性に賭けるというスタンスである。まさに、人材への「投資フェーズ」にあると言えよう。そのため、企業によっては、勉強をするための費用を積極的に負担したり、社内での勉強会や技術共有をするための制度や、1週間のうち一定時間を自己研鑽のために充てることを認める制度を設けているところもある。

 人事担当者によれば、個別相談において最も多いのは「現在の自分のスキルセットが通用するか」との懸念や、「この分野は一時のブームに終わらずに続いていくのか」という技術トレンドの見通しについてだという。

 昨今の技術トレンドやスキルは変化が早く、ある期間、経験を積んでせっかく身に付けたスキルセットが、ひとつ風向きが変わるとあっという間に陳腐化してしまって次の技術を取得しなければならなくなったり、今勢いがある分野でも、急に縮小してしまったりして、転職を余儀なくされることもある、エンジニアとして、自分の価値を維持し続けることがいかに重要かを意識していることの現れだろう。

求人企業である株式会社オウケイウェイヴによる会社説明(左)と個別相談会(右)(写真提供:withB)

不足するエンジニアに限らない職種での技術知識

 この分野で求められている職種は、コードの書けるエンジニアのみではない。withBでは今後、金融機関出身者と仮想通貨事業者などをマッチングする合同企業説明会も計画しているという。業界をまたがった求人や転職は互いにとってハードルが高いが、そこをつないでいくことも、今後の産業発展にとって重要であるということだ。

 技術的な知識を持つ人材を広報やマーケティング、ビジネスデベロップメントの分野に登用したいという企業もあり、さらに、急速にユーザーが増加したことで、技術知識のあるカスタマーサービススタッフの拡充も必要だという。自社の事業がブロックチェーンに立脚するようになると、事業の中核を成す技術に関する知識を持たなければ、どのような職種であろうと対応が困難になることを見越してのことだ。

 その上で、イベントで各社が述べた仮想通貨・ブロックチェーンのエンジニアとして求める資質をまとめると、次のようになる。


    ・社会的な課題を解決する革新的な事業を生み出したいというクリエイティビティと経営をリードする視点や熱意のある人

 仮想通貨・ブロックチェーンの業界はまさに立ち上がりつつ段階である。そこでは、積極的に世界初/国内初の事業や、多くの先端企業と関わりたい人、技術だけでは満足できないという人が求められている。


    ・国際的な視点のある人

 すでに、ベトナム、シンガポールなどに研究開発拠点を持つ企業があったり、開発するサービスが国内向けだけでなく国際とつながることが必然となっていることから、国際的な視点や語学力が必要とされている。もちろん、単なる語学力という意味ではなく、国際的な課題に対する解決力や交渉力も必要とされるということだろう。


    ・技術だけではなく、ビジネス的な視点をあわせ持つ人

 仮想通貨・ブロックチェーンの技術だけを追い求めれば、その知識を身に付けるのはそれほど難しいものではないともされる。これに加えて、ビジネス的なセンスもあわせ持つ人材はさらに不足している。つまり、コードが書けるだけではなく、課題を認識して顧客に価値を提案できる実務能力が重視されるわけだ。少数精鋭で取り組むスタートアップ企業では、特にこうしたマルチプレイヤーを求める声が強いという。

集合と分解、そして再集合が産業を強くする

 インタビューに答えていただいたある企業の人事担当者は、こうした新しい分野では、すでにできる人材を採用するだけではなく、企業が人材を育てていくことが、社会的にも産業的にも責務だと考えているという。

 一方で、そうして優秀な人材は、ある時期を迎えると独立して起業をしたり、条件のいい他社に転職してしまう可能性もある。しかし、同じ場でともに成長し、同じDNAを持つ人たちが業界内に広がることで、将来は再び協業関係を構築し、新たなビジネスをともにできる可能性がある。このことの方が、より広がりのある事業を実現できるのではないかとの見方を語ってくれた。

 一般的に「できるエンジニア」とされる人材の中には、現時点での技術を極めているとしても、それに捕らわれるあまり、新しい技術をアグレッシブに習得することが困難な人もいるという。そうした過去の実績にこだわらず、この分野を信じて新しいことに取り組む姿勢を求めている企業が多いようだ。

 こうした点には「浮き沈みの激しい業界なので、この技術の将来を信じて、今何ができるかということではなく、将来に向けて実現をしていける人材でなければ、仕事を継続していくことは難しいのではないか」とした。

さらに高まる採用意欲と技術者の転職意欲

 本イベントは、今後の仮想通貨・ブロックチェーンに関する技術者や技術知識を背景とする職種の採用について、業界を先取りしており、今後の人材市場のトレンドを象徴している。

 ICT業界では、次々と新しい技術や開発手法が登場しては消えていく。はやり廃りが早いということは、それだけ活性化していて、新陳代謝も早いということでもある。とりわけ、その先端で活躍したいと考えるエンジニアという職種においては、“常に適応していかなければならない”という努力が、半ば義務付けられているようなものでもある。

 しかし、努力の方向性を間違えると、ある数年間に得た知識や経験が無に帰すという厳しい結果が待っている可能性もあるわけだ。そうしたことを考えると、すぐに今の技術や業務に見切りを付けて転職を考えるわけではなくとも、各社の話が聞けるこうしたイベントはもちろんのこと、業界内のさまざまな技術勉強会への参加や、他社との人的ネットワーク作りなどを通じて、常にアンテナを高く掲げておくことが必要なのだろう。

 仮想通貨やブロックチェーンの技術は、多様な分野での応用も期待されている。このため、業界をまたがる理解やマッチングも必要になる。こうした場の重要性は、今後さらに増していくことだろう。