イベントレポート

Slack Frontiers

Slack、読み込みを5.5倍高速化へ、年明け導入の新デスクトップアプリで~暗号化など法人向けの各種機能も実装予定

 コミュニケーションツール「Slack」を展開するSlack Technologiesは、9月5日~6日(現地時間)の二日間にわたり、米国カリフォルニア州サンフランシスコ市のPier 48において同社のテクノロジーや戦略などを披露するプライベートイベント「Frontier」を開催。2日目となる6日午前中には、製品関連の基調講演が行なわれ、Slackに今後実装される機能などが紹介された。

 その中でSlackは、Slackデータのロードが約5.5倍に高速化されたデスクトップアプリケーションの新バージョンを年内に公開する予定であることや、企業向けの有料版には「EKM(Enterprise Key Management)」と呼ばれる暗号鍵を企業側が保持することで情報漏えいを防ぐ仕組みなどを導入する予定であることを明らかにした。

増え続けるSlackのトラフィック、開設された5000万チャネルに、週2億200万のメッセージが投稿

 Slackは、組織内や複数組織にまたがって仕事するときに便利なコミュニケーションツールとして人気を集めており、既に多くの企業などで導入が進んでいる。6日午前中の製品関連基調講演で、冒頭に登壇したSlack Technologies CPO(Chief Product Officer、最高製品責任者)のエイプリル・アンダーウッド氏は「我々のミッションは、組織や企業のビジネスのやり方を変革していくことだ。組織や企業はそれぞれ仕事の進め方が異なっており、それに適合していくことが大事。Slackであればそれが可能だ」と述べ、日本語で言うところの働き方改革にSlackが貢献できるとアピールした。

Slack Technologies CPO(Chief Product Officer、最高製品責任者)のエイプリル・アンダーウッド氏
Slackのユーザー満足度

 アンダーウッド氏によれば、Slackを使っているユーザーの88%が、「よりよくコミュニケーションできるようになった」としているほか、86%が「よりよく共同作業ができるようになった」としているとのことだ。こうしたユーザーの好評を受け、Slackのトラフィックは増加するばかりだという。

 実際、5000万のチャネル(Slack上に作られるユーザーの集まりのようなもの)が既に開設されており、その上では、毎週2億200万のメッセージが投稿されているという。なお、Slackのユーザーのうち、いわゆるIT系の企業は42%のみで、58%は非IT系が占めているとのことだ。対応言語も増え続けており、日本法人が設立されたように、非英語圏でのローカライズも着々と進められている。

Slackのトラフィック
Slackの法人ユーザーでいわゆるIT系は42%、非IT系が58%

デスクトップアプリケーションの読み込みを5.5倍高速化、利用メモリ量も削減

 アンダーウッド氏は、今後Slackがリリースする予定のSlackアプリの新機能などについても説明した。アンダーウッド氏の講演や、その後に行なわれたテクニカルセッションで明らかにされた内容をまとめると、Slackが今後導入する予定の新機能のロードマップは以下の表のようになっている。新機能は短期、中期、長期という3つの導入時期が設定されており、それぞの機能の概要などが公開されている。

Slackに導入される予定の新機能
種類説明導入時期具体的な導入時期
性能デスクトップアプリのロード高速化中期来年の早い時期
低帯域化での利用中期
メモリ削減中期
コラボレーション検索機能の改善導入済み導入済み
発見性の改善中期
サードパーティー製アプリとの接続随時随時
アクション機能の実装導入済み導入済み
アプリUIの改善短期
コード書かずにアプリとの接続を実現中期
GridへのShared Channelsの導入中期来年の早い時期
法人向け機能アナウンスオンリーチャネルの導入短期
メッセージフォーマット機能の導入短期
リ・オーガナイズ・アウェア機能中期
アプリ管理機能の実装短期
Admin APIの導入短期
Analyticsの拡張中期
セキュリティAudit Log APIの導入導入済み導入済み
デバイス・レベル管理中期
EKMの導入短期

(Slack社の発表より筆者作成)

旧デスクトップアプリ(左)のデータ読み込み時間と、新デスクトップアプリ(右)でのそれの違い。新アプリは約5.5倍高速になっている

 改良されたデスクトップアプリケーションは、2019年の早い時期に導入される予定だ。現在SlackはWindows版、macOS版のデスクトップアプリを提供しており、ユーザーはウェブブラウザーやこれらのアプリからSlackにアクセスできるようになっている。

 デスクトップアプリケーションの新バージョンでは、データのロードが高速化されるとのことで、披露されたmacOS版では、読み込み速度が約5.5倍も高速となっていた。また、例えば、回線の速度が十分に確保されていない機内Wi-Fiなどの環境でも、過去のデータなどを読み込んで作業を継続できるようにする機能も実装される。このほかにも、アプリケーションが利用するメモリ量も削減される。

ネットワークの速度が遅くてサーバーからダウンロードができない状態でも表示できるようになる
旧アプリ(左)と新アプリ(右)のメモリ利用量、新アプリが半分以下になっていることが分かる

 検索機能の改良は、既に現在のバージョンに実装されているが、将来のバージョンでは、関連するスレッドなどの発見性などが、さらに改善される。また、サードパーティー製アプリとの接続は、Slackの特徴の1つと言えるが、今後もその機能は随時改善されていく予定とのことだ。

検索機能の改善
発見性の改善

 実際、今年の6月にはGoogle Driveとの接続が実現され、Google DriveのファイルをSlack上で共有したりという使い方が可能になっている。Slackでは、今後も接続が可能なアプリを増やしていくとしている。

6月からサポートされているGoogle Driveとの接続機能
Google Driveのファイルを簡単に共有したりできる
アクション機能

 そうしたサードパーティー製アプリとの接続ユーザーインターフェイスも改善される予定で、例えば現状ではGoogleカレンダーと接続するとテキストが表示されるだけだが、近い将来には、よりグラフィカルなユーザーインターフェースの導入が計画されている。

アプリ接続のUIもテキストベースからグラフィカルに

 また、そうしたサードパーティー製アプリとの接続で標準でサポートされていない場合には、ユーザー自身がプログラムを書いて接続させる必要があるが、将来はそれをコードを書かなくてもGUIから接続できるようにするツールの提供なども計画されている。

プログラムコードを書かなくてもアプリケーションの接続が可能になる仕組みが導入される

 Slackが「Enterprise Grid」と呼ぶ企業向け有償プランの中で、チャネルをシェアする「Shared Channel」という新機能が使えるようになる。これは来年の早い時期には導入したい意向とのことだった。

「Grid」の新機能である「Shared Channel」

暗号鍵を利用する法人向けの暗号化機能「EKM」が導入

 今回発表された新機能のロードマップでは、法人向けのアップデートが多数含まれている。Slackが発表した2018年5月時点のユーザー数は800万以上となっているが、うち有料課金のプランを選択しているユーザーは300万以上となっている。

 その全部が法人向けとは限らないが、法人向けユーザーが少なくない割合で利用していることが、この点からもよく分かるだろう。5日には、ヤフー株式会社が社員約1万1000人に導入することも発表しており、日本でも法人ユーザーが増えつつある状況だ。

 そうした中で、上の表に示したような、法人向けの各種管理機能やセキュリティ機能などが追加予定であることが明らかにされた。中でも最大の注目は「EKM(Enterprise Key Management)」の導入だろう。

 その詳細こそ明らかにされなかったが、暗号鍵を何らかのかたちで法人の管理者などが保持し、Slackのワークスペースやチャネルなどを暗号化することが可能になるという。それにより、情報漏えいに敏感な伝統的な企業などでも、Slackを導入しやすくなるメリットがある。このEKMは導入時期が「短期」になっており、早ければ年内にはベータテスターなどに入っていく可能性が高い。

EKM

 そのほかにも、ダウンロードできるファイルなどをデバイスごとに細かく設定できる「デバイスレベル管理」、メッセージのフォントなどを設定できる「メッセージフォーマット機能」、外部アプリとの接続を管理できるアプリ管理機能、従業員が部署を移動したときに簡単にワークスペースやチャネルへのアクセス権を設定し直すことができる「リ・オーガナイズ・アウェア機能」などが導入される予定と説明された。

デバイスレベル管理
メッセージフォーマット機能
アプリ管理の改善
リ・オーガナイズ・アウェア機能
Admin API
Analytics

【お詫びと訂正 9月10日 20:10】

※記事初出時、Enterprise Gridの新機能に関する記述が不正確でした。お詫びして訂正いたします。