イベントレポート

Microsoft Innovation Lab 2019

日本マイクロソフト主催のスタートアップ向けピッチコンテスト「Microsoft Innovation Lab Award 2019」

 日本マイクロソフト株式会社が8月30日、「Microsoft Innovation Lab 2019」を開催した。この記事では、同イベントで実施されたスタートアップ企業5社によるピッチコンテスト「Microsoft Innovation Lab Award 2019」の様子を紹介する。

「市場性」「社会性」など、5項目を評価

 今回のピッチコンテストは、AI、IoT、ブロックチェーンなどのテクノロジーを用いたプロダクト/ソリューションの革新性を競うコンテスト。書類審査による予選を勝ち抜いたスタートアップ企業5社が「Microsoft Innovation Lab 2019」の会場内で決勝ピッチを行い、優秀企業には、Microsoftが提供するスタートアッププログラム「Microsoft for Startups」の活動に基づいた支援が行われるというものだ。

「市場性」「実現性」「社会性」「技術力」「グローバル」の観点から6分間のプレゼンを評価。優秀企業には支援が行われる

 参加要件は、「テクノロジーを駆使して今後の世界を変えていくスタートアップ企業であること」「設立後5年以内の非上場スタートアップ企業であること」「自社のプロダクト/サービスを有していること」の3点。興味深い点として、Microsoftの製品を利用している必要はない、ということが募集要項に明記されている。真に革新性のあるアイデアを持った企業、これまでMicrosoftと接点の薄かった企業の参加を促し、新たな協力関係を築いていこうという試みでもあるわけだ。

日本マイクロソフト株式会社執行役員最高技術責任者/マイクロソフトディベロップメント株式会社代表取締役社長の榊原彰氏
審査員は榊原氏を含めた5名が担当

 1社あたりの持ち時間は6分で、持ち時間の終了後に4分間の質疑応答時間がある。評価に際してのポイントは「市場性」「実現性」「社会性」「技術力」「グローバル」の5点。審査委員を務めた日本マイクロソフト株式会社執行役員最高技術責任者/マイクロソフトディベロップメント株式会社代表取締役社長の榊原彰氏は、「スタートアップ企業の支援はこれまでもしてきたが、われわれとスタートアップ企業が接点を持つだけではなく、われわれのパートナー企業とももっと接点を持っていただこうというのがこのイベントの趣旨。そういった意味で、パートナー企業やベンチャーキャピタルなど、いろんな方の意見を聞いていただけるといい」とコメントした。

 ここからは5社の発表内容について、簡単に紹介していく。

ZEROBILLBANK JAPAN株式会社

ZEROBILLBANK JAPAN株式会社CEO & Founderの堀口純一氏

 ブロックチェーン事業を得意とするZEROBILLBANK JAPAN株式会社は、大量のデジタルデータを一元管理するのが困難になっていく今後の社会において、「企業が保有するアセットをつなげることが求められる」とし、その分野でブロックチェーンを活用。企業間でのデータのアクセス権の定義、個人情報基盤(PDS)の適切な管理といったポイントをブロックチェーンと組み合わせ、「企業間におけるデータ流通を再定義する」ようなプロダクトの設計をコンセプトにしていくと語る。

企業間でのデータ流通にブロックチェーンを活用
ブロックチェーン技術を基板にした健康エコシステムやコンソーシアムの構築を目指す

 また、将来的には「スーパーシティー構想」を見据え、健康情報を家族で共有する情報銀行口座「健康ジョイント口座」や補助金・税金に依存しない健康型ストックオプション「健康トークンオプション」といった新しい仕組みを提案しながら、ブロックチェーンとスマートコントラクトを組み合わせた健康エコシステムやコンソーシアムの構築を目指し、新しい社会を作っていきたいとした。

株式会社Linc'well

株式会社Linc'well取締役の山本遼佑氏

 「テクノロジーを通じて、医療を一歩前へ」をコンセプトにするのが、2018年創業のヘルスケアスタートアップである株式会社Linc'wellだ。病院の待ち時間が長い、会計は現金のみなど、現在の診療は「課題だらけ」とし、原因としては日本の診療所の95%が個人経営で経営者も高齢であり、IT化・効率化が進みにくいという点を挙げた。そこで、より若い年齢層のニーズを満たすために立ち上げたスマートクリニック「Clinic For」は、オンライン予約や事前問診、電子カルテの共有を実現。将来的には生活習慣のオンライン管理や薬剤配送なども実現していくとしている。

若い世代が気軽に医療を受けられない現状に問題提起
実際にスマートクリニックを開業したところ、年齢40代以下の患者が85%を占めたという

 実際に開業した店舗は10カ月で3万1000人の来院があり、8割以上の患者がオンラインから予約。年齢40代以下が85%を占めるなど、ワーカー層にリーチできているほか、医師側の働き方の多様化にも貢献できているという。今後はアプリケーションの強化によるオンライ相談や健康管理の実現、クリニックの拡充を目指していくとしている。

株式会社Laboratik

株式会社Laboratik CEO/Designerの三浦豊史氏

 株式会社Laboratikの「We.」は、「『チームが見える』を当たり前にし、組織変革を自律化する」がコンセプトのエンゲージメント改善ツールだ。現在、働き方改革を実感していない社会人の割合が68%、自社の人事評価制度に不満を持っている社会人の割合が62%というデータがあり、こうした課題を解決する可能性として「ピープルアナリティクス」に注目。組織や人事のデータを分析し、クリエイティビティや生産性の向上につなげる「データドリヴンな組織改革マネジメントを実現できる」としている。

自然言語処理により、Slackのコミュニケーションデータを可視化
個人間のコミュニケーションを促し、チームをより強固にすることを目指す

 「We.」は、Slackと連携し、自然言語処理を用いてチャットコミュニケーションデータを解析、独自のスコアリングを実施して組織の特性を可視化する。部署間の繋がりの量を可視化したり、推移・変化のグラフ表示、大きな変化が起きた場合に通知を届けるといった機能を利用できる。エンゲージメント把握のほか、月次レポートによる定点観測にも利用できるとしている。すでに上場企業含め30社以上の導入事例があり、今後はSlackだけではなく、さまざまなプラットフォームに拡大していきたいとのこと。

株式会社T-ICU

株式会社T-ICU代表取締役/医師の中西智之氏

 集中治療やICU分野での医師不足を解決するために「遠隔ICU」を実現するのが、株式会社T-ICU。現在、国内のICUでは専門医の不足・偏在により「70%の確率で専門医の治療を受けられない」状態だが、専門医をサポートセンターに24時間体制でサポートさせ、画像情報を共有した上で現場へのアドバイスを実施する「遠隔ICU」を導入することで、1人の専門医が約30ほどの病院をカバーできるようになるとしている。アメリカでは20年前から導入されている仕組みで、20%のICUが遠隔管理され、導入後に死亡率が26%低下する効果が出ているという。

専門医が常駐するサポートセンターを設置し、ICUの医師へのアドバイスを行う遠隔ICU
「クラウドホスピタル構想」では、海外への遠隔医療展開も視野に入れる

 また、医師不足や医療格差はICUに限らず医療現場全体の課題であることから、「クラウドホスピタル構想」を提唱し、病院に所属せず専門医の能力をシェアする遠隔医療プラットフォーム「DaaS(Doctor as a Service)」を提供するとしている。すでに麻酔や救急領域での遠隔医療も提供しており、海外展開も見据えて事業を進めている。遠隔医療プラットフォームは開業・病院勤務に続く第3の選択肢となるため、医師側にもメリットとなる。遠隔手術では5G、電子カルテにはブロックチェーン、医師の診断にAIといったテクノロジーを組み合わせ、新しい医療の現場を作っていきたいとのこと。

株式会社Scalar

株式会社Scalar CEO/COOの深津航氏

 株式会社Scalarは、ブロックチェーンによりデータベースに信頼性を与え、デジタライゼーションを推進していく試みを実施している。従来のデータベースは、それを預かる会社によるコントロールのリスクがあるが、データの所有者自身がデータのコントロールやトレースを可能にすることでリスクを排除し、よりデジタライゼーションを推進できるとしている。改ざんが困難なブロックチェーンを使用しつつ、スケーラビリティを向上させる特許出願済みの技術を活用することで、スループットやパフォーマンスを向上させていくことを目指すとしている。

「紙や人手によりデータを管理し続けないとデータの信頼性が担保できない」という問題提起から、ブロックチェーンによる信頼性担保を実現
改ざんが極めて困難なブロックチェーンの特性上、情報銀行での同意管理などに利用できる

 エンジンはデータベース向けに改修しており、データベースの操作とコントラクトの実行を1つのトランザクションとして実行する機能などを実装。ユースケースとしては、埋め込み型保険における申請の電子化や保険支払いのエビデンスの確保、情報銀行における同意の管理が挙げられるとのこと。

最優秀賞は遠隔医療の「T-ICU」に

 5名の審査員による審査の結果、最優秀賞はT-ICU、優秀賞はScalarに送られた。榊原氏は審査の最優秀賞のT-ICUについて、「医師不足という問題の解決が、社会性という面で大きく評価された。現在の社会のニーズにマッチしている」とコメントした。

最優秀賞は株式会社T-ICUに授与され、支援プログラムの提供が約束された
優秀賞は株式会社Scalarに授与。マイクロソフト社の製品が贈られた

会場の展示ブースで見かけたスタートアップを一部紹介

 当日のメイン会場では、ピッチコンテストに参加した企業以外にも、いくつかのスタートアップ企業が展示ブースを設置していた。画像とキャプションで一部を紹介しよう。

株式会社BONXの「BONX for BUSINESS」。専用マイク付きイヤホンとスマートフォンアプリでグループ通話を可能にするソリューションで、実際に会場でも本社とグループ通話を繋いでのデモを実施していた。
ピッチコンテストにも出場した株式会社Scalarのブース。情報銀行のほか、勤怠管理システムでの改ざん防止基盤なども提供している
企業の広報などを支援するサービス「PRテーブル」のブース。ヒアリングをもとにコンテンツ執筆や展開を行い、すでに1000社以上の利用実績がある
モビリティIoT分野でSaaS型解析プラットフォームを展開するPSYGIG株式会社のブース。ドローンや自動運転車などのセンサーからデータを取得し、可視化や統計分析を実行するソリューションを展開
動画ファイルに直接ペンツールで修正箇所を書き入れて共有できるブラウザーサービス「FILE GO」を展開する株式会社Viibarのブース
将棋AI技術のノウハウを活用した「HEROZ Kishin」などのAIや未来予測・異常検知ツールを開発するHEROZ株式会社のブース。アクセス傾向などをAIが学習することで、異常系データなしでも異常検知が可能だという