イベントレポート
IIJ Technical DAY 2019
急増する動画トラフィック、通信事業者はどう受け止めるのか?
コンテンツ事業者や利用者回線側など、それぞれの立場から考える
2019年12月6日 06:35
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)は11月21日、年次技術イベント「IIJ Technical DAY 2019」を開催した。インターネット関連の技術について、同社のスタッフが解説するイベントだ。
「日本のインターネットは急増する動画トラフィックを受け止められるのか」と題したパネルディスカッションでは、YouTubeからNetflix・Huluのような動画事業者、AbemaTVのような国産事業者、あるいは登場が論議されているNHKのネット同時配信まで、動画トラフィックの流れ方とその量について、通信事業者の視点から語られた。
パネリストは、岡田裕夫氏(IIJネットワーククラウド本部デジタルコンテンツ配信部ビジネス推進課長)、田河裕氏(IIJネットワーククラウド本部ネットワークサービス部インターネット接続サービス課)、渡邉一平氏(IIJ基盤エンジニアリング本部ネットワーク技術部ネットワーク技術課)山田大輔氏(NTT東日本ビジネス開発本部第一部門ネットワークサービス担当課長)。堂前清隆氏(IIJ広報部副部長技術広報担当)が司会進行を務めた。
冒頭で、この人選は、コンテンツ事業者から視聴者への動画の流れの順に、CDN配信サーバーの部分の岡田氏、IIJバックボーンの渡邉氏、そこからユーザー側の回線につながる部分の田河氏、ユーザー側回線であるNTTフレッツの山田氏という並びだと説明された。
CDNを使った効率的な配信………ただし「予想を超えた事態」では、近くではないところから配信が来る
まず堂前氏は、動画トラフィックが増加している様子を、Ciscoの資料で示した。
このデータについて渡邉氏は、「大手事業者とIIJは直接接続しており、事業者ごとのデータの種類がだいたいわかる」ことから、やはり動画トラフィックの増加に同意できるとのこと。また、IIJから利用者につながる側の田河氏も、加入者あたりのトラフィックが2倍に増えていることから、動画トラフィックが増加しているだろうと推測した。
ここで配信のためのCDN(Content Delivery Network)の話となった。
CDNとは、事業者のオリジンサーバーにアクセスが集中して飽和しないよう、ユーザーに近いところに配信サーバーを置くもの。岡田氏によると、YouTube(Google)やNetflixは自社で配信サーバーを持ってISPと直接接続して配信しており、HuluやAbemaTV、TVerはCDN事業者の配信サーバーを使っているという。
そしてCDNには、配信サーバーを集中的に配置するタイプと、各ISPなどに分散配置するタイプがある。ただし、Googleなどは各ISPに直接ピアを張っており、両者に大きく違いはないと渡邉氏は説明した。
しかし、ユーザーに近いところから配信するようにCDNを構築しても、必ずしもそうならない場合もあるという。「イベントなどで(配信側の)予想を超えるアクセスがあると、必ずしも近くじゃないところからコンテンツが来ることがある。それも、結構ときどき」と渡邉氏。そのため、ネットワーク設備もそれを見越しておく必要があり、イベントがあることを事前に情報収集し、過去の実績を見てネットワーク設備を用意するという。
一方、ISPから見てCDNと反対側の視聴者側では、NTT東西のフレッツ回線のシェアが大きい。
NTTの山田氏は、NTT東で1200万回線という数字や、PPPoEとIPoEの2つの方式があること、IPoEは現在600万回線強でありPPPoEから移ってきているところということを語った。
「バーチャル甲子園」でのトラフィック実態「50万接続でも視聴率換算で1~2%」
続いて、動画のトラフィック量について。
まず、サービスごとの比較としては、岡田氏の示したSandvineの調査結果によると、圧倒的にYouTubeが強く、4割弱にのぼる。それに対して、NetflixやHuluは2~4%ぐらいで、YouTubeに比べると大した量ではない。
ちなみに岡田氏によると、ログで見ていると、動画をスマートフォンで見ている人が増えているという。ただしスマートフォンでも回線はモバイルキャリアだけでなく、家などのWi-Fiがあればそちらを使っているという傾向がわかるという。
1人あたりのデータ量としては、画質によって異なるが、IIJが配信プラットフォームを提供する「バーチャル高校野球」の経験で、ライブ配信系は1Mbps前後、モバイルでは0.5Mbps程度だという。また、放送局の人の話で、「iPadぐらいの画面で綺麗に表示するなら1~2Mbpsは欲しい、50インチTVなら8Mぐらい欲しい」という声を岡田氏は紹介した。
最近はスマートフォンでも4Kぐらいの解像度があるため、送り出す側としてはできるだけいい画質で出したいものの、CDN料金や転送料のコストとの兼ね合いで絞っていると岡田氏は事情を語った。
全体のトラフィック量としては、2018年の「バーチャル高校野球」の例では、最大帯域550Gbps、最大同時接続約50万接続だったという。ログから見たクライアントの割合は、モバイルが8割以上。そして、その視聴スタイルとしては、「ずっと見続けているわけでなく、ニュースを見ていてちらちら配信を見ているのではいか」と岡田氏は推測した。
IIJのプラットフォームとしては、「日はだいたい決まっているので、それに合わせて準備している。今年は、早い段階で『1Tbpsまで出したい』と聞いていたので、春先~梅雨ぐらいの時期に増強した」と渡邉氏。「ただし、トラフィックは試合の盛り上がりかたで違う。雨天順延で休日になると、テレビになるのでネット配信のトラフィックが少なくなる。それはそれで寂しい(笑)」
とはいえ、これらの数字はネットの中でのこと。岡田氏は「実際のテレビと比較するとこうなる」という文脈での試算を紹介。
NHKでの甲子園大会のピーク視聴率「20.3%」の視聴人数を「約800万人ぐらい」と計算した上で、「ネット中継が50万同時接続といっても、視聴率換算でいうと1~2%程度」だと語った。
テレビ番組はテレビでなくネットで見る時代に
ではこれからどうなるか。
岡田氏は、若い人はテレビを持っていないが、人気ドラマには興味があり、結局、TVerや各局のアプリを使ってスマートフォンから見ている、という傾向を総務省のデータをまじえて紹介。「やがて、テレビ番組はテレビで見るものでなくネットで見るものになるかもしれない」と語った。
また、渡邉氏によると「人気ドラマの配信が始まるとぐっとトラフィックが上がるのが感じられる」という。
こうして動画配信のトラフィックが増えたときにどうさばくか。
バックボーンの渡邉氏は、「技術が進歩するため、需要から最適なネットワーク構成を考えて作りなおす。ただし、トラフィックに合わせて右肩上がりというわけではない」と語った。
一方、利用者回線側の田河氏は、フレッツ回線でPPPoEよりIPoEのほうが1人あたりのトラフィック増加に応じて増やしやすく、コンテンツがリッチ化するのに対応しやすいと語った。NTTの山田氏も、PPPoEも条件は緩和してきていることや、IPoEが増えていることを説明し、「NTT東のフレッツ全体で10Tbps弱ぐらい」と説明した。
動画データの側も、これから4K/8Kとデータ量が増える。これについての質問に渡邉氏は「ネットワークは物理的限界があるので、近くするなどの新しい工夫が必要だ」と答えた。
岡田氏も送り出す側の立場として、「なるべくエンドユーザーに近いところから、ぐらいしかできない」として、「国によってはブロードバンド回線が細い、潤沢にない、といったところもある。そういうところでは、みんながよく見る番組などは、家のCDN箱に夜中に送られていくる、といった方法をとる必要がある」と語った。
それをどのプレイヤーがやるか。ISPやフレッツ網、携帯3キャリアの役割が議論され、堂前氏が「事業者横断で考えましょう、というのがこれからの流れなのかなと思う」とまとめていた。
(協力:株式会社インターネットイニシアティブ)