イベントレポート

「アイデア次第」な自由なホームオートメーションを実現する「CL-SYSTEM」とは? クリティカが技術セミナーを開催

将来はマインクラフトとも連携可能?

 12月11日から13日まで東京ビッグサイト青海展示棟で開催された、次世代のビル設計・工事・管理に関連する技術の展示会「スマートビルディングEXPO」。

 会場には展示ブースのほか、出展社の製品・技術セミナーが用意されており、12月13日には、有限会社クリティカ取締役の川畑善之氏によるホームオートメーション(HA)に関連したセミナー「『CL-SYSTEM』による、ホームオートメーションの実現」が実施された。

有限会社クリティカ取締役の川畑善之氏。眼科医院の院長としての業務の傍ら、「Fit IT to Life」をキャッチコピーに「CL-SYSTEM」や電子カルテ開発などの活動を行う

 鹿児島県の医療法人「川畑眼科医院」の院長としての顔も持つ川畑氏は、医師としての活動の傍ら有限会社クリティカを立ち上げ、独自のホームオートメーションシステム「CL-SYSTEM」を開発したことで注目を集めている。

 「CL-SYSTEM」の詳細については、すでにInternet Watchに掲載済みのインタビュー記事に詳しいが、ターミナル、コントローラー、スイッチといった独自の機器を製造しつつ、「openHAB 2」などのオープンなサーバーや技術を用いることで、LAN内で完結する自由度の高いHA環境を実現しているのが大きな特徴だ。

 システムは川畑眼科医院の診療所、およびクリティカの事務所で実際に稼働しており、「CL-SYSTEM」構築のための製品群は一般販売も実施されている。

スマートホームに“自動化”を加えるHA

 約1時間のセミナーは、“HAの概説”、“HAで実現可能な自動化について”、“「CL-SYSTEM」の概要と各製品の解説”の三部構成で展開された。

単にIoT機器を導入するだけでなく、あらゆる動作を自動化するのがホームオートメーション(HA)の基本的な理念
「openHAB 2」などのオープンソース系HAサーバーと、コントローラーやターミナルといった制御デバイスを組み合わせることで「CL-SYSTEM」を構築できる

 まず川畑氏は、前提となるHAについて「近年はスマートホームという言葉をよく耳にするようになったが、スマートホーム自体は非常に大きなくくりに過ぎない。言ってしまえば、家の中にIoT機器を入れれば、それでスマートホームを名乗ることができてしまう。

 HAは、ここに“自動化”を加えたもの。日没になると自動的に家の電気が点く、帰宅して家の鍵を開けると電気が点き、連動してエアコンが起動する、といったことを実現するのがHA」と説明。

 「壁のスイッチがスマホに入っただけ、スイッチの代わりに音声認識を使うだけのスマートホームで満足できるのかという問題がある。もっと便利に色々できるだろう、ということを実現するのが『CL-SYTSTEM』」と、CL-SYSTEMの利点を述べた。

 ただし、現時点の「CL-SYSTEM」は単に製品を購入すれば使えるというものではなく、あくまでHAサーバーと機器を繋ぐインターフェースにすぎない。川畑氏はこれについて「世の中にはすでに便利でオープンな規格があるから、積極的に使っていくほうがいい」とコメントしている。

サーバーとコントローラーの通信プロトコルには、HTTPに比べて軽量なMQTTを採用

デメリットもメリットに、既存アプリやプラットフォームの活用

 「CL-SYSTEM」は、HAサーバーに対し、MQTTプロトコルでデータを送受信する仕組みを採用。MQTTを採用した理由について、川畑氏は「データ量が軽くなるように設計されており、組み込みに向いている」とした。

 実際にCL-SYSTEMを活用する際は既存のHAサーバーを使うことになるが、川畑氏が推奨するのは「openHAB 2」。「大前提として、MQTTの実装が容易であること。各社の各製品に対応するアドオンが豊富で、設定や連携が簡単。Home Assistantも利用してみたが、サードパーティとの接続などがやや面倒だった」とコメントしている。

安価で汎用性が高い反面、システム構築にスキルが必要というデメリットはある

 また、こうした既存アプリやプラットフォームを活用するメリット・デメリットを「まずは導入費用がかからない、あるいは廉価で済むし、ソフトウェア開発の手間もない。自前でサーバーを持つことで外部にも依存せず、オープンウェアを使うことで連携できる機器が非常に多く、カスタマイズの自由度は高い。

 デメリットとしては、システムの構築スキルが必要なことと、メンテナンスやトラブルも自前で解決しなければならないことが挙げられる。ただし、システムの構築費用は外部に販売することで収入になり得るし、メンテナンス費用も同じ。交換部品をあらかじめ用意しておけば、メンテナンス時間は短時間で済む」と、デメリットがメリットになり得ると述べた。

「CL-SYSTEM」構築の概念図

 川畑氏は、「結論として、誰でも使えるようなシステムは、素人がいじっても大丈夫なように非常に制約が強い。誰でもできるわけではないほうがスキルが活き、世の中が良くなっていくのではないかという提案も含め、『CL-SYSTEM』を作っている」と語る。「最終的には、“怠け者が楽をできるシステム”を作ること」が目標であるとした。

「アイデア次第で何でもできてしまう」オープンなシステムを採用

実際に行える自動化の具体例
機器同士の連携の自由度も高いことが分かる

 CL-SYSTEMで実現可能な自動化については、「アイデア次第で何でもできてしまう」とする川畑氏だが、いくつかの事例として、日の出や日没時刻に合わせて街灯の点灯、消灯を行う「時間や気象現象に依存した自動化」、店舗で営業時間に入り口を開錠、閉店時間に入り口を施錠する「時間+条件に依存した自動化」などを紹介。

 「実際にクリニックで運用する際は、Googleカレンダーとも連携を行い、休業日や入院患者がいる時・いない時で動作を変えている」という。また、トイレの電気をつけると換気扇が自動で回る、トイレの電気を消すと洗面台の照明が自動で10秒間のみ点灯するといった機器同士の連携も行っているとのこと。「家庭で言えば、枕元灯を部屋に入った30分後に消すとか、テレビを消すといった応用ができる」とした。

連携の設定については、実際にJavaScriptのソースが提示された
非接触鍵ユニットとの連携では、店舗などのロックされた扉を開いた人物のIDを読み上げるような動作も可能
whenとthenで連携の設定を実現

 連携の設定については、IFTTT(イフト。TwitterやFacebookなどのアプリ同士のトリガーで連携させるサービス)などと同じく、“when(何があった時)”“then(何を実行する)”といったトリガーを設定することで実現している。

 設定はGUIとテキストどちらにも対応しているが、GUIではできることが限られるため、「現時点では基本的にテキストを想定したほうがいい」とのこと。スライドでは「トイレの照明を消した時、洗面台の照明を10秒間だけ点灯させる」場合や、「非接触鍵ユニット『CL-RFID Key』で扉を開いた人の名前を読み上げる」場合など、実際にJavaScriptのソースが提示された。

「CL-CYSTEM」の機能解説。通信方式はいずれもロイヤリティフリーのMQTTやI2Cが利用されている

 また、「CL-CYSTEM」の機能についても解説が行われた。システムは、それぞれの機器を制御する「チャンネル」、8チャンネルまでを制御する「ターミナル」、4つまでのターミナルと接続しネットワークと通信する「コントローラー」といった概念で構成される。
 コントローラーとターミナル間はI2C(アイスクエアシー。フィリップスが開発、特許失効済み)による通信を採用。コントローラーとネットワーク間の通信は、先に述べた通りロイヤリティフリーのMQTT経由となる。

一定時間ごとの生存情報の出力、ターミナルのセンサーによる温度・湿度・気圧のモニタリングといった障害対策機能も備えている

 MQTTのトピックは「AREA」「PLACE」「機器名」で構成しており、建物自体やフロアへの一括命令から単一の機器の操作にまで、幅広く対応できる。

 ファームウェアのアップデートについては、USB経由やWeb経由など、複数の経路を用意しているとのことだ。加えて管理機能として、定期的に(デフォルトでは30秒ごと)機器の生存情報を出力する。

 また、ターミナルの基板上には温度・湿度・気圧センサーが実装されており、情報を出力することで、ある程度までは火災などの発生予知、異常感知が可能だ。

CL-SYSTEMの構成。クリティカはコントローラーやターミナルのほか、非接触鍵ユニットや熱帯魚飼育用の水温・流量監視ユニットも販売している
コントローラーはタッチパネルによる状態表示・操作・設定に対応し、Wi-Fiと有線LAN双方でのネットワーク接続に対応する
鍵ユニットはマスターカードと127枚までのユーザーカード、計128枚を登録可能。未保証だが音声の発音も可能。WebhookでSlackなどに通知を送信できる
熱帯魚管理用の「TANK STATE」。水温・流量監視のほか、メンテナンス時の異常通報停止機能にも対応している

汎用性が高く将来の不安も少ない『CL-SYSTEM』、協力できる人材を募集

 川畑氏はセミナーのまとめとして、「『CL-SYSTEM』導入の利点は、発想次第で極めて自由度の高いシステム構築ができる。一般的なシステムに比べて安価で、オープンウェアを使っているために定期的なメンテ費用は必要ない。

 MQTTやI2Cといった汎用性の高いシステムなので、仮に弊社が倒産したとしても、代替方法はたくさんある。単一のメーカー製品に比べ、将来に対する不安が少ない。プログラミング可能なので、カスタマイズの委託なども容易」。

 なお川畑氏は、I2CやMQTTの送受信方法については標準化を目指しているとのことで、これに協力できる人材を募集している。「コンソーシアムを立ち上げる予定なので、興味のある方はぜひご協力いただきたい」とした。

現在はMQTTとI2Cの送受信方式の標準化とコンソーシアムの立ち上げを目指しており、協力者を募っているとのこと

セミナー最後の質疑応答「オープンなシステムなので、学習結果が無駄になる、ということがない」、マインクラフトとも連携可能?

 セミナーの最後には、フリーライターの柳英俊氏を招いての質疑応答も実施。『CL-SYSTEM』の導入にあたってひとつの課題となる学習コストについて、柳氏は「HTTPは思っているより無駄なデータが多く、MQTTはIoTの世界だとほとんどデファクトになりつつある。

フリーライターの柳英俊氏(画像左)を招いての質疑応答

 オープンソースのソフトウェアをうまく使っているため、結局はオープンソースの勉強になり、他のシステムでも絶対に役に立つので、学習コストは無駄にならないと思う」と言及した。

 実際のシステムの応用についても話が及び、システムを借りて試したという柳氏は「猫にセンサーを付けてグラフィカルに居場所を表示しようかなとか、そういうことも頑張ればできる。

 また、『マインクラフト』のようなゲームと連携して、ゲームの世界でボタンを押すと『CL-SYSTEM』で自宅の電気をつけるようなことも可能。Teslaのバッテリーの充電状況を確認することも可能。本当にやろうと思って、技術力さえあれば何でもできるのがCL-SYSTEMの特徴」と述べている。

 配電盤の工事や配線については、川畑氏が「普通の電気工事と変わらない。一般の電気屋であれば誰でもできるような対応。あとはサーバーを設定すればすべてをコントロールできる。Excelのマクロを組めるぐらいのスキルがあれば自由にルールが作れると思う」とした。

 また、会場から出た「遠隔地にいる家族の見守りにも使えるか?」という質問について、川畑氏は「『openHAB 2』がWebカメラのアドオンを持っているので、カメラを使ったリアルタイム監視も可能。また、部屋の電気が点いたどうかやトイレの水を流したかどうかもその気になれば見られるので、やろうと思えば24時間、生活動向をすべて監視できる」とコメントし、汎用性の高さをうかがわせた。

(協力:クリティカ)