イベントレポート
Consensus 2020
急成長する金融ブロックチェーン「DeFi」のリスク、そして規制課題は? [Consensus2020レポート]
昨対150%成長のマーケットを待ち受ける未来とは
2020年5月28日 10:34
ブロックチェーンに関する世界最大級のカンファレンス「 Consensus2020」(主催:CoinDesk)が、5月11日から15日にかけて開催された。
カンファレンスの中でも筆者が注目していたのが、急成長を遂げている分散型金融「DeFi 」だ。本稿では、DeFiに関するセッション「DeFi Risk and Regulation Workshopを通して垣間見えた、ブロックチェーン上の金融システムのリスクや政府規制の懸念に関する筆者の考察をお届けする。
カンファレンス全体概要をまとめた記事は別途掲載しているので、興味のある方はこちらも参考にしてほしい。
DeFiとは何か
本セッションの解説に入る前に、分散型金融(DeFi : Decentralized Finance)について簡単に説明しておこう。
DeFiは、一般的にパブリックブロックチェーン上の金融サービス群やそのエコシステムを総称する概念として認識されている。従来の金融サービスと比較した際のDeFiの利点及び特徴は、次の5つに分類できるだろう。
1.資産はユーザー自身で管理
ユーザーは自身で秘密鍵を保有し資産を管理できる。そのため、一般的な暗号資産取引所のようなハッキング被害を受けるリスクはない。
2.信頼性と透明性
サービスのソースコードとスマートコントラクトの実行内容は誰でも閲覧可能だ。運営者を信頼せずとも、取引の正しさを検証することができる。
3.グローバルに誰でもアクセス可能
インターネットにアクセスできる状態で暗号資産を保有していれば、いつでも誰でもDeFiサービスの利用を開始できる。
4.開発難易度の低さ
サービスのソースコードやAPIが公開されており、外部の開発者は既存のDeFiサービスに様々なロジックを組み合わせ、新しいアプリケーションを次々と構築できる。
5.検閲耐性
政府などの中央主体によって取引が無効にされたり、サービスが停止させられたりすることがない。
ブロックチェーンは元々、金融領域における技術として誕生している。そのため、金融×ブロックチェーンであるDeFiは、市場の成長速度が速く世界各国で莫大な資金が投下されているのだ。今、ブロックチェーン業界で最も注目されているトピックといって良いだろう。
急成長を遂げたDeFiのリスク
DeFi市場で流通している資金の総額は、ここ1年で急激に増加してきた。昨年末には一時10億ドルの大台に到達している。
しかし、急成長を遂げた2019年とは対照的に、2020年のDeFiエコシステムは荒波続きだ。2月にはbZxと呼ばれるレンディングサービスが2度のハッキング被害に合い、総額約3億円相当の暗号資産が流出した。攻撃者は複数のDeFiサービスを巧みに利用し、その連鎖性の穴を突く形でハッキングを成功させたのだ。
この事件により、DeFiの開発難易度の低さに対する脆弱性が浮き彫りとなった。「DeFi Risk and Regulation Workshop」に登壇したスマートコントラクトのセキュリティ企業GuntletのTarun氏は、DeFiにおける開発難易度の低さを「リスクジェンガ」と揶揄し、次のように話す。
「DeFiにおける開発難易度の低さは、レゴブロックと表現し持てはやされています。しかし1つの欠陥が連鎖的かつ瞬時にエコシステム全体に広がってしまうため、実はジェンガのように脆く高リスクなシステムなのです。いくつものサービス同士が複雑に繋がり合うと、単体のサービスだけでは予測不可能なリスクが生まれてしまいます」。
氏によれば、DeFiのリスクはスマートコントラクトのハッキングリスクとマーケットリスクの2つに分けられるという。これらのリスクを抑えるためには、スマートコントラクト監査とリスクモデリング技術の向上が必要だと指摘する。
bZxに続いて3月には、ステーブルコインDAIを発行管理するMakerDAOが、暗号資産市場の大暴落によって生じたプロトコルの脆弱性を突かれ、約4億円相当の暗号資産を失った。その後4月には、レンディングサービスdForceに対するハッキングで、約25億円相当の暗号資産が盗難される事件が発生している。
以上のような問題を背景に、過去の注目や賞賛が一変し、最近はDeFiに対する批判や懐疑的な視線が強まっている。これらのリスクを軽減していく術はあるのだろうか。
実は、標準化されたリスクモデリングを元に、DeFiサービスごとの信用スコアを提供するサービスが既に登場している。ConsenSys CodeFiのJordan Lyall氏によって紹介された、DeFiのリスク評価サービスDeFi Scoreだ。サービスについて次のように説明している。
「DeFi Scoreは、いわばDeFiエコシステムにおける格付け機関です。スマートコントラクト監査の有無や流動性、分散性などの要素をそれぞれ評価し、各サービスの総合的な信用スコアを算出します」。
DeFiの良い点はソースコードがオープンである点だが、全ての投資家がソースコードを読めるわけではない。DeFi Scoreのようなツールが充実していくことで、より簡単に投資に参加できる環境が整っていくだろう。
政府によるDeFi規制の懸念
DeFiのリスクは、何もマーケットや技術に関するものだけではない。金融は規制産業ともいえるのだ。すなわち、DeFiにとってもう1つの大きな課題は、当局による規制リスクである。特筆すべきポイントは、アンチマネーロンダリング(AML)をいかにして適応するか、という点である。
既存金融システムでは、政府の代わりに事業者が監視的役割を担い、犯罪者による送金を検知し報告を行うなどの運用業務を実施している。しかしDeFiでは原則的に、その監視的役割を代行させる中央主体が存在しない。
ただでさえAMLの遂行が困難な暗号資産領域において、政府はこれまで暗号資産取引所やカストディアンに対して規制を課すことで対処してきた。ただDeFiとなると話は変わってくる。一体どのようにDeFiは規制されるべきなのだろうか。
DeFiのレンディングサービスCompoundで顧問弁護士を務めるJake Chervinsky氏は、DeFiに対する規制について次のように指摘する。
「現状DeFiサービスの中でも、集権性と分散性の境界線は不明確です。米国財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCen)でさえ、その点を十分に精査できていません。DeFiの市場規模が未だ小さいため、解決に乗り出すほどの合理性がないことも事実です」。
つまり、DeFiに対する明確な枠組みは定められておらず、AML規制が必要か否かについても、今後の市場の成長次第ということになる。その上で、氏は特定の秘匿化ツールによって生じるリスクにも言及した。
「一般的なDeFiサービスは取引履歴が全て閲覧可能なため、資金移動の追跡は簡単です。しかし、何らかの形で取引を秘匿化した場合は追跡が困難になります。例えばTornadoのようなミキシングツールを使えば、AML規制の対象になる可能性が高まります」。
パブリックブロックチェーンは全ての取引履歴がオープンに公開される。そのため、単純に個人情報の保護を目的に秘匿化ツールを求めるユーザーも多い。来たるべき日に、DeFiはプライバシーとAMLのトレードオフを解決することができるだろうか。
DeFiの検閲耐性が示す可能性
あるセッションでは、DeFiが経済検閲におけるゲームチェンジャーになり得るとの意見もあがっていた。電子フロンティア財団の特別弁護人を務めるMarta Belcher氏は次のように主張している。
「Wikileaksのように、政府の経済検閲によって政治団体などが金融システムから排除された事例はいくつもあります。そのため、検閲耐性を持つDeFiの存在は彼らにとって活路になり得るでしょう」。
機密情報共有サイトWikileaksは、米国政府によってPayPalやVISAといった決済ネットワークへのアクセスを遮断され、一時的に寄付の受け入れ手段を断たれた。しかし、同団体はその後ビットコインでの寄付送金を受け入れ可能にし、事業継続を果たしている。(※参照)
この事例のように、検閲を受けた組織や活動家が、預金や資金調達の手段としてDeFiを利用する日は来るのだろうか。
まとめ
本セッションでは、各分野の専門家が集っただけに、多種多様な角度からいくつもの鋭い指摘がなされていた。実は本稿で言及したもの以外にも、多くのリスクや懸念点が話題にあがっている。
DeFiの支持者にとっては興味深いトピックであった反面、避けては通れない内容であったことは間違いないだろう。しかしそれら全てのリスクや懸念を1つずつ乗り越えていかなければ、本当のゲームチェンジは達成不可能である。