イベントレポート

第20回東京国際ブックフェア

Kindle国内責任者が語る「電子書籍の理想郷」、現状と課題は

 7月3日から5日まで東京ビッグサイトで行われている「第17回国際電子出版EXPO」の2日目に、eBooksフォーラム「緊急特別企画!電子出版最前線2013、そして未来はどうなるのか!? 現場を知り尽くしたプロフェッショナルたちが熱く語る?」と題したセミナーが行われた。

 セミナーにはアマゾンジャパン株式会社Kindleコンテンツ事業部長の友田雄介氏をはじめ、株式会社PHP研究所デジタル事業推進部チーフディレクターの太田智一氏らが登壇。無料セミナーということもあり、会議棟1階の1000席あるホールは満席となった。

 ここではアマゾンジャパンの友田雄介氏の講演をレポートする。PHP研究所の太田氏、Gene Mapper発行人の藤井氏らの講演内容については、別稿(※)でレポートする。

「電子出版最前線2013」セミナー

Kindleは「デバイス」ではなく「サービス」

 友田氏はまず「Kindleの現状と書店として悩んでいること(=ユーザーが不満に思っていること)」について紹介した。

 それによれば、Kindleのビジョンは「あらゆる時代の、あらゆる言語の、全ての本を、世界中のどこにでも、60秒以内でお手元に」。既に米国の英語書籍に関してはかなりこの「電子書籍にとっての理想郷」のようなビジョンに近いところまできているという。ただ、日本語に関してはまだこのビジョンに程遠い状態なので、この理想郷に一歩一歩近づいていきたいと考えているそうだ。

 Kindleというとデバイスを想起してしまう人がまだまだ多いが、Kindleというのはサービス名称だと友田氏は強調する。「Kindleデバイスがなくても、マルチプラットフォームで読める」ということを、ぜひ心に止めておいて欲しいとのことだ。

米国ではKindleデバイス購入後の電子書籍の販売数が5倍に

 続いて「我々が誇りに思っている数字」として紹介されたのが、米国でのKindleデバイス購入前後の比較だ。前後12カ月間の購入冊数を比較すると、2008年には2.56倍だったのが、2009年には3.5倍、2010年には4.21倍、2011年には4.62倍、2012年の数字はまだないが恐らく5倍近くになるという。

 つまり、Kindleデバイスを購入した人は、それ以前より圧倒的に多く本を読むようになるそうだ。紙の購入数は10%くらい減っているそうだが、電子書籍の購入数はそれを補ってあまりあるという。

なぜ日本は紙と電子版が同時発売されないのか

 日本では2012年10月25日にKindleストアがオープンしたが、年末年始のKindleコミック売上冊数は紙の冊数の50%を超えたという。6月28日に開始した1日1冊限定の「Kindle日替わりセール」では、今のところ対象タイトルはすべてランキング1位を獲得。定価販売の紙ではできない「価格をいじること」によってディスカバビリティー(コンテンツ自身が発見される能力)を上げられる、1つの成功事例だと語った。

 その一方で、ユーザーからは「いつ電子化されるのかわからない」と「話題になっている新刊がKindleでは売っていない」という2点の不満が毎日のように多く寄せられるという。解決策として、紙と電子の新刊同時発売をぜひお願いしたいと述べた。

 同時発売ができない理由として出版社からよく聞かれるのが、「紙の販売に悪影響を及ぼしてしまうのではないか」という危惧と、「電子化の運用が追いつかない」という実務上の問題だという。

 実はこれは、3年くらい前の米国と非常によく似た状況なのだそうだ。当時は大手出版社でもハードカバーから3〜4カ月遅れで電子版を出す状況だったが、2012年には大手6社の新刊のうち93%が紙と電子を同時発売しているという。これは、電子版を遅れて発売するより、紙と同時に発売したほうが全体としての売上は伸びるということが分かってきたからだそうだ。

同時発売が難しい場合は「予約機能」を活用

 さらに、日本の事例として、集英社の「アド・アストラ」のケースが紹介された。3巻は紙の発売から電子の配信が92日遅れ、4巻は紙と電子が同時発売。発売から1週間の売上を指数化して比較をすると、3巻は紙が100で電子版は39だったのに対し、4巻はなんと紙が128で電子が331だったという。

 現実問題として「電子化の運用が追いつかない」という場合は、ひとまず電子版の予約機能を活用することを勧めていた。書誌データさえあれば登録できるので、紙の新刊発売と同時に電子は予約可能な状態にしておくことで、後からプロモーションし直す必要がないため「話題」の時期を逃さずに済むし、「いつ電子化されるかわからない」というユーザーの不満も和らぐという。そうやって、徐々に電子版のリードタイムを短くしていき、将来的には同時発売体制に移行していって欲しいとのことだ。

セレクションを増やし関連商品のリコメンドでロングテール

 また、モデレーターを務めた株式会社インプレスホールディングス取締役の北川雅洋氏は、友田氏に「Kindleでは『売れるものをもっと売る』という動きが中心で、いわゆるロングテール部分にユーザーの目を向ける動きに乏しいように感じる」という厳しい指摘を行ったが、実際問題としてアマゾンでもディスカバビリティーは非常に難しい問題だと捉えているそうだ。

 テールの部分へユーザーを誘引するのは、紙以上に困難だという。というのは、Kindleには購入された商品の関連でリコメンドを行う仕組みがあるが、過去の書籍の多くがまだ電子化されていないため関連書籍に表示できない場合が多いそうだ。だから、まずはセレクションを増やしていくことが重要だと友田氏は語った。

(鷹野 凌)