LINEとニコ動が提携!? 2大国産プラットフォームが見据える世界展開とは


 デジタルマーケティングのカンファレンス「ad:tech Tokyo 2012(アドテック東京)」で30日、「ニコニコ動画」を提供するドワンゴ株式会社の代表取締役会長である川上量生氏と、無料通話アプリ「LINE」を提供するNHN Japan株式会社の執行役員である舛田淳氏が登壇。2つの国産プラットフォームを手がける両者が世界展開を見据えたコンテンツデリバリーのあり方を語り合う中、川上氏が突然切り出した業務提携交渉に会場が盛り上がる一幕もあった。

左からモデレーターを務めた日本経済新聞社の井上理氏、NHN Japanの舛田淳氏、ドワンゴの川上量生氏

 カンファレンス冒頭では、「スタンプはいっぱい買ってますよ。スタンプは新しいものを使っていないと恥ずかしい感じがする」と言い、LINEのヘビーユーザーを自認する川上氏と、「プレミアム会員で、よく夜中にほかの人には言えないようなものを見ています」との“ニコ厨”ぶりで会場を笑わせた舛田氏が、それぞれ自社のサービスについて説明した。

ニコ動が積極的な広告営業をしないたった1つの理由

 ニコニコ動画は現在、登録会員数は約2800万人、うち月額525円を支払っている有料プレミアム会員は約170万人に上る。「基本は動画にコメントが載っかっているだけだが、それによって世界のネット文化でも変わった発展をしている」と川上氏は語る。

 そんなニコニコ動画の特徴の1つは、ユーザーのサイト滞在時間の長さだ。人気のサービスでも1ユーザーあたり「月間1時間滞在することはまれ」だが、ニコニコ動画のサイト滞在時間は1日平均で1時間以上、ヘビーユーザーになると1日2~3時間も利用しているという。

ニコニコ動画の会員数ニコニコ動画の利用状況

 ビジネスモデルについては、収入の70%が有料会員の課金から。広告収益は11%にとどまるなど、「ユーザー課金で成り立っている」。広告をビジネスモデルの中心の据えていないことについて川上氏は、「会社にあったビジネスの仕方がある」と前置きした上でこう自虐的に説明した。

 「僕は基本、スーツを着て人と会うのが苦手。接待もやったんですが、相手の印象が悪くなって終わる。実験と検証結果に基づき、企業相手の営業はやめようと。B2Bはうちには無理だと。(ニコニコ動画の)広告の潜在的価値は高いはずですけど、ここにいる(会場の)方は広告を打っていただければ。ただ、営業はしないと思います。」

1000万円のスポンサードスタンプは「年内満稿」

 LINEはユーザー同士であれば無料で通話・メールができるアプリ。登録ユーザー数は世界で7000万人を突破、日本国内だけでも3200万人を超えている。「3週間に500万人ペース」で増えているというLINEだが、インストールしただけでなく実際にアプリを使っているアクティブユーザーの多さが特徴だ。

 月間のアクティブユーザー率(MAU)は86.1%、1日あたりのアクティブユーザー率(DAU)も50.0%と半数に上る。「普通のサービスでこの数字は出せない」というアクティブユーザー率の高さの要因について舛田氏は、「LINEは電話とメールをリプレイスしており、1日に1回はメールや通話をするため」と説明する。

 アクティブユーザー率を集計し始めたころは、あまりの数字の高さに「バグかと思った」と舛田氏。割合のあまりの高さに「そのほかのNHN Japanのサービスを評価しづらくなる。LINEがこれだけ高いのに、他のサービスはどうなんだとは言いがたい」と漏らすと、すかさず川上氏が「じゃあBLOGOSください」と返して会場が沸く一幕も見られた。

LINEユーザー数の推移LINEの世界展開状況

 こうしたLINEの人気を支えているのが、3200種類に上るスタンプだ。各170円で販売する有料スタンプの売り上げは、9月で単月3億5000万円を突破。さらに、企業やブランドがオリジナルスタンプを作成し、ユーザーに無償提供する「スポンサードスタンプ」も順調に成長している。

 スポンサードスタンプの料金は4週間の掲載期間で1000万円。「歯ごたえのある価格設定」(舛田氏)だが、1週間に多くて2社という広告枠は「年内は満稿」と売れ行きは好調のようだ。舛田氏はその要因について、ユーザーが主体的にスポンサードスタンプを送ることで、「見せる広告ではなく使われる広告になっている」と分析する。

スタンプは3200種類に上るスポンサードスタンプ

プラットフォーム化を掲げるLINEはどこへ向かう?

 カンファレンスは続いて、「グローバルを見据えたコンテンツデリバリーのあり方」という話題となり、舛田氏が「LINE公式アカウント」を紹介した。LINE公式アカウントは「友だち登録」したユーザーに対して、有名人や企業がメッセージや写真、ニュース、占いなどを配信する仕組みだ。

 有名人のLINE公式アカウントとしては、第1弾としてタレントのベッキーさんが参加し、「友だち登録」(Twitterのフォロワーに相当)はサービス最多の170万を誇る。また、“しょこたん”こと中川翔子さんはグローバルに展開するLINEの特徴を生かし、日本だけでなく台湾や中国のファンとの接点として公式アカウントを活用しているという。

 10月からは、公式アカウントで連載小説「世界から猫が消えたなら」を配信。映画プロデューサーとして「電車男」や「モテキ」などを手がけた川村元気氏が執筆したこの連載小説は10月25日に書籍化されたが、「発売前に内容を全部公開する無茶な仕掛けがうまく機能して日本文学部門で2位になった」と売り上げに貢献したことをアピールした。

LINE公式アカウントのイメージ公式アカウントで配信した連載小説

 このように、通話・メールを中心としたコミュニケーションツールから、プラットフォーム化に向けての舵を切ったLINE。モデレーターの井上氏に「LINEのプラットフォームはどこへ向かうのか。(NHN Japanは「ハンゲーム」を運営しているので)狙いはゲームなのかという意見もある」と水を向けられた舛田氏は、こう答えた。

 「よく、どうせゲームやるんだろ、どうせガチャやるんだろと言われる。確かにゲームはLINEとの親和性が高く、お家芸ではあるが、LINEの1つのパーツに過ぎない。LINEが目指すのはインフラとなって、そこにさまざまなコンテンツやビジネスが走り出すこと。そこでは漫画も音楽もありうる。究極的には、産業を活性化させる存在になりたい。」

ドワンゴ川上会長「電子書籍に将来性はない」

 コンテンツデリバリーという観点では、ドワンゴも10月から「ニコニコ静画(電子書籍)」において、コミックやライトノベル、写真集などの電子書籍約3万2000冊の配信を開始。この狙いについて川上氏は、「とりあえずやってみた感じ」「電子書籍に将来性はない」と持論を展開した。

 「電子書籍はマーケットが成立しても、結局は外資系のプラットフォーマーが利益の大半を持っていく。コンテンツホルダーは利益を吸い取られて縮小してしまう」と川上氏。こうした状況を防ぐには、コンテンツごとの“都度課金”ではなく、“定期購読(サブスクリプション)”モデルが「本命」だと訴える。ドワンゴが8月に開始した、ブログやメールマガジンなどを配信する「ブロマガ」ではサブスクリプションを中心に展開していきたいという。

 「ネット企業はコンテンツに寄生して収益を上げている。にもかかわらず、広告収益はプラットフォーム側がもらう。それはニコ動もGoogleもそうだが、コンテンツに対する利益還元プログラムがエコシステムとして機能しなければ、プラットフォームがいずれ崩壊する。コンテンツが収益を上げられる仕組みを作るのは自分たちのためでもあり、社会的な責務でもある。」

LINE上でドワンゴとNHN Japanの業務提携交渉も

 また、ニコニコ動画の世界戦略について聞かれた川上氏は、「グローバルはニコニコ動画を作った時からのテーマ」と前置きした上で、海外で動画をスムーズに再生するには各国にサーバーを用意する必要があり、「1ユーザーあたりの維持コストが高くなり、海外では回収できそうにない」と問題点を指摘する。

 「そういう理由で僕らは、『ニコニコ動画』というカタカナと漢字のサイト名称にした。その段階で世界に背を向けている(笑)。むしろ海外のユーザーは来るな、という意思の表れ」。こうした問題があることから、海外進出時には「Facebookを使おうかと思っていた」が、「今日話してみてLINEさんと組んだほうがいいな」とも。

 「やっぱり、米国のプラットフォーム企業は米国の企業同士で組んでしまうので日本企業は不利。LINEさんは日本主体の企業なので、世界展開は実際に可能性はあるんじゃないかと。」

NHN Japanの舛田淳氏ドワンゴの川上量生氏

 この発言を受けた舛田氏は、「日本のコンテンツを外に出すには本当にうってつけ。なぜなら、契約書も日本語ですし、私たちは日本で税金払いますし、交渉役は私が出ていきますし、何かトラブルがあっても裁判所は東京ですし」と、業務提携に向けて“前向き”な姿勢を示した。

 今回のカンファレンスが初対面だったという2人。井上氏に「両社の業務提携が現実味を帯びてきた?」と投げかけられると、川上氏は「カンファレンスが終わったらLINEのふるふる(周辺のユーザーを検索する機能)でつながりたい。今後も粘り強く交渉を続けていく」と発言。これに対して、舛田氏が「LINE上で交渉したいですね。スタンプも使って」と返すと、会場はこの日一番の盛り上がりを見せた。

ヤフーとDeNAの無料通話アプリ参入は「想定内」

 カンファレンス終盤は、競争が激化しているスマートフォン向け無料通話・メールサービスの話題に。同分野は10月に入って大きな動きを見せており、ヤフーがカカオジャパンに出資して「KAKAO TALK」を共同展開することを発表したほか、ディー・エヌ・エー(DeNA)が「comm」を開始したばかり。

 ヤフーの動きについて舛田氏は、経営陣のほぼ全員が「想定の範囲内」という感想だったと説明。「スマートフォン向けメッセンジャーの領域には、遅かれ早かれ大企業がやってくると思っていたし、これから入ってくることも織り込み済み」と驚きがなかったと感想を述べた。

 競合視しているかという質問に対しては、「我々はプラットフォームにめがけて進んでいるので、単純に通話やメッセージだけでどうかというのは考えていない。今後競合となるのは、各国でインフラになっているサービス」と回答。DeNAのcommの印象に関しては、「同じヒカリエに入っている会社ですし、もともとcommのUI/UXディレクターはライブドアの人間なので仲良くしたい」と話した。


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(増田 覚)

2012/10/31 11:33