夏野剛氏が講演、HTML5で大きく変わるテレビのビジネスモデル


 「Interop Tokyo 2010」の併催イベント「IMC Tokyo 2010」では9日、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科・特別招聘教授の夏野剛氏による基調講演「ケータイからテレビへ。HTML5がもたらす変化とW3C。」が行われた。インターネット対応テレビやHTML5の重要性について、スマートフォンの登場によって変化した携帯電話ビジネスとの対比を折りませながら解説した。

ドコモ、Apple、Googleでそれぞれ異なるビジネスモデル

 NTTドコモの元執行役員で、iモード開発の立役者として知られる夏野氏だが、現在は、さまざまな企業の社外取締役を務める傍ら、Webに関する標準化作業を取り仕切る「W3C(World Wide Web Consortium)」のアドバイザリーボードとしても活動している。

慶應義塾大学大学院政策メディア研究科・特別招聘教授の夏野剛氏

 夏野氏は現在の携帯電話業界が、スマートフォンの登場によってビジネスモデルが大きく変化していると指摘。同様に、従来型のテレビがインターネット接続前提へと発展することで、新たなステージを迎えるだろうと予測。その論拠を1つずつ解き明かしていくかたちで講演は進行した。

 夏野氏が論拠の前提としたのは、日本国内の携帯電話キャリア事情。「NTTドコモのiモード公式サイトのコンテンツ情報料収入は年間2500億円前後。全世界を見ても、これだけの規模を誇るオンラインストアはないはずだ」と、極めて大きな成功をおさめていると強調した。しかし、それは本来の目的ではなく、通信事業者の本分である“通信料収入”の最大化のための過程でしかないと夏野氏は説明する。

 その理由について夏野氏は、「(ドコモの取り分9%を差し引いた)91%もの額がコンテンツプロバイダーに支払われている」と解説。魅力的な手数料設定で業者を惹きつけ、コンテンツ販売を促すことが、オンライン取引に伴ってトラフィックを発生させ、通信料収入の増大につながるという考えだ。手数料収入はあくまでも副次的なものとした。

 このビジネスモデルそのものに良い悪いの問題はなく、あくまでも手段の1つに過ぎないと夏野氏は主張。コスト度外視で本体販売を増大させてソフトウェアで稼ぐゲーム機ビジネス、初期導入コストを抑える代わりに1枚あたりのランニングコストを徴収するコピー機リース事業など、ビジネスモデルは業界や時代に応じて複数ある。日本国内の携帯電話は、販売奨励金を出して携帯電話の買い替えを促進し、トラフィックの発生を伴う新サービスを次々投入して売上増をねらう方向性が、結果的に成功したと分析する。


日本における、携帯電話の発展を振り返る海外との対比

 これに対し、AppleのiPhoneは、音楽プレーヤーのiPodを含めた機器販売台数を増大させることが目的だと説明する。魅力的なOSを開発したり、音楽をオンライン販売するiTunes Storeを運営することも、利便性を高めて販売台数を向上させるための仕組みであり、完成度の高いエコシステムをアップル自身が握ることが重要なのだろうと夏野氏は論じる。

 そして、Google主導で開発が進むAndroidは、広告料収入の増大が目的だという。「OSを無料提供し、PC以外の機器でもインターネットアクセスが増えれば、結果的にGoogleのサービスが利用され、広告との接触機会も拡大する」と解説。ライバルになりうる日本の携帯電話キャリアやiPhoneに対しても、Googleの各種サービスが最適化されているのはこのためだ。

 この3社はビジネスモデルこそ異なるものの、携帯電話端末をキーに、それぞれの目的を達成するための方策として、インターネットを活用している点は共通している。愚直に“ものづくり”だけにこだわるのではなく、何らかのビジネスモデルを組み合わせる“しかけづくり”も重要だと夏野氏は訴える。


近年は、国内外でスマートフォンが台頭国内の携帯電話キャリア、Apple、Googleとのサービス対比図

HTML5対応テレビが、ビジネスモデルを変える

 こういったビジネスモデルの大転換が、次に起こるであろう分野。それはテレビだと、夏野氏は主張する。その要因の1つが、HTML5だ。

 「HTML5では、これまでJavaやFlashのプラグインの追加が必要だったアプリケーション実行環境が、Webブラウザー単独で実現できる可能性が高い。つまりHTML5対応ブラウザーをテレビに搭載するだけで、アプリケーションのダウンロード販売が行える。」

 HTML5では、データの蓄積にも対応。専用ソフトをインストールしなければ難しかった複雑なソフトも実行できる。W3Cによって標準化されれば、全世界のWebブラウザー搭載テレビに採用され、同一のプログラムが動く可能性もある。インターネット業界のいち機関であるW3Cの一挙手一投足が、通信事業者やテレビ業界にも影響を与える可能性が高くなっているという。

 近年はネットブック用の安価なCPU「Atom」も登場しているため、Windowsが動作する非PC系機器が普及価格帯で登場するケースも考えられる。この際に、いかに魅力的なコンテンツを用意するかが課題だ。

 夏野氏は「日本におけるテレビとは、ものづくりの20世紀を象徴する存在。しかし、美しい液晶、素晴らしい映像を作るだけでは、海外とのコスト競争に負けてしまうだろう」とし、“しかけづくり”の重要性を繰り返し強調した。

 W3CではHTML5の標準化に向けて熱心な議論が行われているという。日本企業もこの作業に積極的に参加し、有利な仕様を持ち込むことがビジネスの世界展開にもつながると夏野氏は訴え、講演を締めくくった。


HTML5対応ブラウザーは、単独でアプリケーションを実行できるのが大きな特徴HTML5対応ブラウザーがテレビに搭載されることで、さまざまな可能性が広がる。放送波、ネット配信の垣根も崩れると予想

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(森田 秀一)

2010/6/10 06:00