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ギーク公務員が行く! 町史ウィキ、ひぐまの出没マッピングなどIT技術で社会課題を解決
“シビックテック”のためのイベント「Code for Japan Summit 2017」レポート
2017年10月25日 12:05
行政が公開するオープンデータを企業らが公開するオープンソースやAPIを組み合わせ、地域課題を解決するアプリやWebサービスを開発する“シビックテック”の輪が全国に拡がっている。世界的にも注目を集めるシビックテックをテーマにした国内最大のイベント「Code for Japan Summit 2017」が神戸市のしあわせ村で開催され、9月22、23日の2日間で30を越えるセッションが実施された。
主催する「Code for Japan」は、今年10月で設立5年目を迎え、各地域で活動する公認団体は40に達している。4回目となる今回のサミットは、西日本では初の開催。テーマの「BOREDERLESS」のとおり、プログラムは幅広く、技術系では、アプリ開発からVR、機械学習まで、実際に自治体で採用されている事例も数多く紹介された。
デジタル化の最大の壁は、できないと決めつけること
「ギーク公務員が行く!」では、IT活用で知られる3つの自治体が事例を紹介。活用のきっかけや運用のノウハウなどが共有された。
宮崎県が無料で公開する地理情報システム「ひなたGIS」は、きれいな地図を高速で表示でき、3Dにも対応している。UIにもこだわり、使い続けられるよう新しいデータを次々と追加。地域外でも使えるよう全国対応を目指しており、九州北部豪雨でも活用された。運用に関わる宮崎県報政策課の落合謙次氏は、「普通の公務員でもこれだけの技術を活用できるのは、たくさんの人たちの助けを借りているから。最大の壁はできないと決めつけること。考えすぎず、いろんなコミュニティに参加して協力先を拡げ、一緒に創っていくことが大事」と言う。
北海道森町役場は、町史をウィキにまとめる「HOWMORI」や、給食メニューが見られる「OGARUCO」など、数々のアプリを開発するだけでなく、クオリティの高さで数々の賞に選ばれていることで注目を集めている自治体である。最近では、ひぐまの出没ポイントをマッピングした「ひぐまっぷ」を実験しているが、「行政には仕事を早く終わらせるという考えがないが、環境を変えれば一瞬で仕事が終わる」ことを実践したのだと、IT化を担当する山形巧哉氏は説明する。
対住民コストは千代田区と差がないが、IT化が進まないことがネックとなっているといい、コミュニティとのつながりも大事で、それが新しい発想にもつながるといい、職員が外へ出るのが大事だとも言う。
オープンソースを積極的に活用する自治体として全国でも知られる会津若松市では、オープンストリートビューに公園のベンチの数までぎっしり入力されるなど、市民の参加も積極的である。活用アイデアも先進的で、GISを空き家の疑いを抽出するために活用するといったことも始めている。「オープン化を進めるには、それが役立つことを知ってもらう必要がある」と言う。職員が自ら開発や運営に参加し、公式サイトのPR情報を表示する順を、事業部ごとの更新や管理頻度でランク付けするなど、ITを活せざるを得ない状況にしている点は、自治体以外でも参考になりそうだ。
パーソナルデータを個人で扱うためのリテラシーが不可欠になる
「データヘルスと行政と企業と私」というセッションでは、パーソナルデータをテーマにした議論が行われた。
東京大学の橋田浩一教授によると、今後は在宅医療などで24時間365日対応するのに、一人の患者データを複数の診療所で共有するといった動きが不可欠になるという。方法としては、データを暗号化して分散管理するPLR(personal life repository:個人生活録)クラウドが安くて安全だとされており、EHR(Electronic Health Record/医療情報連携基盤)と連携し、将来的には本人に管理させるのが、世界的な流れで必然であるという。
だが、行政の多くは5年で健康データを廃棄してしまい、そもそも個人で見る仕組みもないという。だからといって、個人に生データを渡しても理解できず、扱いにも困るので、企業がポータル化してサービスとして提供する動きが進みつつある。扱うための判断基準や社会のルールづくりが進められているが、パーソナルデータを情報資産と考えるリテラシーもあわせて必要だとしている。
日本クラウドセキュリティアライアンス(CSAジャパン)の有田仁氏は、「ビッグデータの活用ルールに関するドラフトは策定途中。セキュリティ(全体)とプライバシー(個人)は相反するものなので、セキュリティーポリシーをどうするかが重要になる」とコメントした。
地域活動への参加でITへの耐性を高める
全体的に参加型のプログラムが多く、GovHackという地域課題をテーマにしたハッカソンイベントの開催ノウハウを紹介するワークショップでは、福岡市や渋谷区で始まっている自治体サービスにLINE活用する方法をテーマにした、実践的な内容となっていた。また、ユニークなところでは、日本独自の“ハンコ文化”をデジタル社会にどう対応させていくかを考えるアイデアソンなども開催。短い時間ながら、白熱した議論が行われたようだ。
技術系のセッションで常に課題とされていたのは、テクノロジーを扱えるエンジニアの参加が少ないこと。また、ITに対する食わず嫌い的な反応も少なくなく、IT化に関心がある自治体とそうでないところの格差は、今後ますます大きく拡がる可能性がある。オープンソースで便利なツールがあるのに、セキュリティや前例が無いことを言い訳に、使うのを拒否する姿勢は社会全体に影響しており、企業の判断の遅さやビジネスの遅れにもなっている。
まずは身近な生活にデジタルを活かし、便利にすることが、そうした考え方を変える一歩になるかもしれない。そのためにも、全国でシビックテックの動きが広がり、活動に参加できる場が増えてほしいところだ。
サミットで行われたセッションはすべてグラフィックレコーディングとオンライン議事録にまとめられ、すべて閲覧可能になっている。興味のある方は、タイムテーブルからそれぞれの議事録のリンクにアクセスしてみてほしい。