インタビュー

「“人がもっと働きやすくなるソフト”を開発したい」…“テンダ”の目指すもの

マニュアルの自動作成ソフトや、「ありがとう」重視のビジネスチャット……

株式会社テンダ取締役副社長の中村繁貴氏

 「グローバルに通用する日本発のサービスを作っていきたい」――東京・池袋に本社を置く株式会社テンダは、ビジネスシステムの開発、クラウドサービスの提供、ゲームソフトの開発と多岐にわたる事業を展開する開発会社だ。

 ビジネス分野を例に挙げると、ソフトやウェブサービスのマニュアルを簡単に作れるマニュアル自動作成ソフト「Dojo」や、24種類もの「ありがとうスタンプ」やコミュニケーション構造の可視化を特徴とするビジネスチャット「TENWA」など、独自色のあるツールも多く、「働き方」に注目が集まる昨今、なかなか興味深い立場にある会社だろう。

 取締役副社長である中村繁貴氏は、技術者派遣業からスタートした同社の事業を拡大し、メーカーとしてのプロダクト開発など多様な事業展開を牽引してきた。「企業としてやることはもっとたくさんある」と話す中村氏に、同社のこれまでの軌跡と、今後、目指す方向について聞いた。

派遣の会社が「メーカー」になるまで技術力があったからできた、マニュアル自動作成ソフト「Dojo」

――事業領域が「ビジネスプロダクト事業」「WEBソリューション事業」「オンラインゲーム事業」、グラフィックデザインなどを担当する「クリエイティブ事業」と多岐に渡っていますね。

 現在は会社として24期目、従業員数200人体制で、さまざまな事業を行っていますが、もともとは技術人材をご紹介し、大手のお客様へ常駐する業務からスタートしました。

 その後、技術を持ったエンジニアが育ったことで事業が拡大し、携帯電話で利用するコンテンツが盛り上がった1990年代終わりごろはマルチキャリア向けの開発で、600サイト以上を開発・運用した実績があります。その当時、当社とお付き合いしていたお客様にとっては「テンダはケータイの会社でしょ?」と言われます。

 その後、「メーカーとして事業を展開したい」という声が社内で上がったことから、ビジネス向けプロダクトとして開発したのが「Dojo」です。マニュアルの自動作成ソフトで、約10年前にリリースしてから2400社以上に導入実績があります。

マニュアル自動作成ソフト「Dojo」とは(「Dojo」公式サイトより)
「Dojo」編集画面例
「Dojo」再生画面例

――社内にあった技術が事業として発展していったということですか。

 そうです。ベースはソフトの技術です。

 当社は技術オリエンテッドな企業で、技術を提供し、その技術がきっかけとなって別の技術を提供していく……そんな流れで新しいサービス、事業が生まれていきました。

 例えば、ケータイ向け開発でライブラリが貯まっていったことで、それを技術基盤としてCMS(コンテンツマネジメントサービス)を提供する事業を開始しました。当時のケータイコンテンツは、各キャリア・各端末向けに仕様変更する必要がありました。標準的なサービスを利用すると600万円かかるところを、当社のCMSを使えば標準金額の2分の1から3分の1の価格で済む。当時は、この点が評価されました。

 その後、ガラケーは一気にスマートフォンに移行しました。スマートフォンはウェブベースですから、新たにコンテンツ産業に参入する企業も多くなりましたが、「技術」を基盤とする当社は、それに対応してビジネスの主眼をASP(アプリケーションサービスプロバイダー)におき、それが例えば「TEんTO」などにつながっています。

――中村さん自身は、創業のときからテンダに関わっているのですか?

 昔の当社は、技術者派遣をやっていたと説明しましたが、私自身は当初、「技術者として外部に出る側」として関わっていました。

 入社した頃も、まだ従業員30人にも満たなかったのですが、その後、受託開発を行うようになり、大手企業のシステム開発、モバイルの開発といろいろな経験をしました。12年ほど前に取締役になりましたが、オーナーからの「受託開発だけでなく、メーカーとして商品を出したい」という要望を受けて、製品開発にも取り組みましたし、クラウドへの移行などさまざまなことを担当しました。

技術があったことで多岐の事業展開が可能に

――改めて、現在の事業である「ビジネスプロダクト事業」「WEBソリューション事業」「オンラインゲーム事業」「クリエイティブ事業」がどんな事業なのか、どんな特色があるのかを説明していただけますか。

 WEBソリューション事業からお話ししますと、この事業のベースは先ほどお話ししたワンソースでマルチデバイスに対応する技術です。スマートフォンが普及したことで、ウェブデザインもワンソースでスマートフォン、PCとさまざまなデバイスで最適表示する“レスポンシブウェブデザイン”が求められるようになりました。

 そこで、効率的で、容易にCMSを構築・運用できる「Responsive Krei」を提供しています。テンプレートを選択するだけで、任意のCMSの構築と運用が行えるようになります。

 WEBソリューション事業では、こうしたプロダクト提供だけでなく、ウェブサイトをクローリングし、市場調査を行うクローリングサービスも提供しています。

 次にビジネスプロダクト事業ですが、これは企業をターゲットとした事業です。先ほどお話しした、「受託開発からメーカーに転身する」ということで開発したプロダクトがベースとなっています。現在はパッケージ製品というよりも、クラウドベースのサービスとなっています。

 オンラインゲーム事業はコンシューマー向け事業で、ソーシャルゲームからPCゲームまで、企画、制作から保守、運用までトータルで対応することができます。

 クリエイティブ事業は、LIXILさまのカタログ制作を請け負っていた50年以上続いていたデザイン会社をM&Aしたことで誕生した事業です。デジタル化への移行で悩んでいるという状況だったのですが、デジタルビジネスを展開する当社が買収することで、ブランディング、コミュニケーション提案などに取り組んでいます。

オンラインゲーム事業はコンテンツホルダーに対する技術サービスとして提供されている。さまざまなプラットフォームに柔軟に対応できるのが特徴という

自分たちに必要な製品を商品としても提供工程管理の「Time Krei」、ビジネスチャットの「TENWA」など……

――会社概要を見ると、事業が多岐にわたるのが不思議だったのですが、ベースにソフト開発という技術があって、そこから派生的に事業が広がっていったわけですね。しかし、ベースに「ソフト開発技術」があっても、例えば受託開発からメーカーとして活動することはそう簡単にできることではないと思うのですが。

 エンジニアは開発のプロではありますが、「メーカーとして製品を開発する」ために必要な、例えばブランディング、マーケティング、販売戦略といったノウハウを持っているわけではありませんでした。エンジニアばかりだった会社が、メーカーとして活動するための意識改革を行うことは容易ではありませんでした。

 ただし、当社の場合、製品として提供しているものの多くが、自分たちにとって必要で開発したものなんです。

 例えば開発の工程管理を行う「Time Krei」という商品は、全行程のうち、誰が、どれくらいできているのか直感的に把握したいと考えて開発したものです。オープンソースでなければ同様のツールは存在していたのですが、オープンソースではいいと思うようなものがなかった。それなら自分たちで開発をしてしまおうと開発を行いました。ウェブ版なので、プロジェクト管理に関わるスタッフとは社外も含めて誰とでも情報を共有することができます。不況になると売れ行きが伸びる商品で、1000社以上に導入実績があります。

――自分たちにとって必要なものを開発し、それが商品として売れるというのは理想的ですね。

 IT業界では自社で使っていない商品を販売している企業も多いのですが、テンダは自分たちで使っているものを自分たちで作っています。

 3年前から提供しているクラウドサービス「TEんTO」も、自分たちが必要だと考えて開発したサービスです。クラウドサービスを利用する際、もっとリーズナブルに、使いたいサービスを、使いたいだけ使うことができるサービスがあればいいんじゃないか?と考え、TEんTOというストアから使用したいサービスを選択してもらえば、必要なサービスを必要なだけ利用してもらうことができます。

 そして、こうしたプラットフォームは、「良いアプリケーションがある」からこそ評価されるものだと思います。ゲーム専用機の世界などを例に出せばご理解いただけるかと思います。

我々はアプリケーションを提供する企業です。プラットフォームがクラウドとなっても、良いものを作れば、「うちのクラウドに載せてくれませんか」と言われるはずだと開発を進めてきました。

 その1つ、ビジネスチャットサービスの「TENWA」は、大手金融機関にも導入され、リリースから6カ月で5万ユーザーを獲得し、現在は6万5000ユーザーに導入されています。

「TENWA」PC画面

――「TENWA」はどのような点が評価されているのでしょうか。

 大手金融機関の場合、M&Aでさまざまな企業の出身者が集まっていることから、コミュニケーションを活性化させることが必要になったそうです。その話を聞いて、リッツ・カールトンなどが採用している「サンキュー・カード」の考え方をTENWAに取り入れました。「ありがとう!」というカードを相手に渡してコミュニケーションを取っていくやり方です。必要な書類を送って、「見ました」と返事をもらうよりも、「ありがとう!」というカードを受け取ったほうが、書類を送った側にとっては気分がいい。返信する側も、メールで宛名を書いて「ありがとうございました」と返信するのに比べ、「ありがとう!」というカードを返信すればいいのですから、簡単に済みます。この点が、「コミュニケーションが活性化した」ということで評価していただきました。

 製品ジャンルとしては、企業用グループウェアになりますが、コンシューマー用に比べセキュアな環境で利用できること、手軽に導入できるものの、コミュニケーションの様子を把握できるので企業にとってはメリットが大きいと評価をいただいています。

「TENWA」の特長(「TENWA」公式サイトより)

心理学+ITのアプローチ?「埋もれている人を見つけ出し、活躍できるようにするツールを作りたい」

――「業務効率アップ」だけでなく、「モチベーションアップ」や「メンタルヘルスケア」にも効果がある、というのが面白いですね。

「TENWA」ダッシュボード画面

 結局、企業経営で最も難しいのは人間だと思うんです。TENWAを使うことで、人の中に埋もれている可能性を見つけ出して、活躍できるようにしたい、と真剣に思っています。

 例えば、「営業職で採用した人間が、さっぱり成績を上げてこない。ところが、他の部署に移したところ会社を牽引するような働きをしたりする」なんてことも実際にあるわけです。世の中には「うちの会社にはろくな人材がいない」という経営者もいらっしゃいますが、そうした方は人間に対する見方が一面的で、人材を十分に生かせていない、という可能性があると思っています。

 多義図形って分かりますか? 心理テストに使う図で、ある角度から見るとウサギに見えていたものが、別な角度から見ると男の人に見えるといった具合に、「同じ図形なのに見方を変えると違うものに見える」図形です。つまり、普通の評価では評価が高くないようなスタッフでも、実はムードメーカーになっているとか、相談相手としてのキーマンになっているとか、そういう側面があるかもしれないわけです。

 TENWAは、「ビジネスチャット」としての機能をしっかり持っているだけでなく、そうした「見えにくい価値」を可視化でき、「コミュニケーションの意味と価値」に気が付けるようになる、というのが本当の強みだと思っています。

 ちなみに、個人的には、こういうツールを活用することで、鬱で会社に出社して働くことができない人でも働くことができるようになればいいなと思っています。

――鬱の人ですか?

 はい。今、人手が足りなくて、女性、高齢者、外国籍の人に働いてもらうことが議論されていますが、本当は能力があるのに精神的な課題があって働くことができない人を戦力にすることができれば、企業にとっても、本人にとってもメリットがあるんじゃないかと。

 これは、個人的に学生時代に学んだのが心理学で、いろいろと調べているうちに孤独死している人が増えている、ということに大きな違和感を覚えたことが起因しているのかもしれません。

 こうしてIT業界で働いて感じたのは、現在は「人がパソコンに使われる」ようになっているが、本来、ITを使えばもっと上手につながって、仕事をしていくことができるはず……ということです。人と人がもっと上手につながっていくことで、仕事をもっと効率よく、楽しく働くことができるんじゃないか、そのための製品を開発していかなければとも思うんですよ。

 ソフトは用途によって“BtoB””BtoC”に分けますが、実は企業の中でソフトを使うのは「人」でしょう? 働いている人が使って、「良いものを使っている」と思えるサービスが必要なんではないかと思っています。当社のビジネス向け製品のイメージは「楽しそう」なものが多いと思いますが、それはこうしたコンセプトを表現したものでもあります。

 あと、企業経営はあるビジョンがあって、それを実現するために働いているスタッフにはそれぞれの役割があります。みな、異なる役割を持っていて、誰が偉い、誰が偉くないってことではないんですよ、本来は。一緒に働いているスタッフそれぞれが、自分の価値をきちんと作っていくことで企業の世界ができあがっていくべきなんです。

 当社は、そうしたビジョンを持って、これまでも進んできましたが、3年くらい前から、それぞれの事業がうまく連携できるようになってきたと思っています。

 今期は、売上や利益も過去最高になりそうですが、やりたいことや、やらなければいけないことは山積みです。私は日本発でグローバルに通用するサービスを作りたい。グローバルで通用する、新しいサービスを生み出していくことができる企業となっていくために、まだまだやることはたくさんあると思っています。

 みなさま、よろしくお願いいたします。

(協力:株式会社テンダ)