インタビュー
千葉県警がサイバー犯罪に関わった少年の立ち直り支援、「今の時代、インターネットを取り上げるわけにもいかない」と全国初の取り組み
2026年8月21日 07:30
千葉県警は2026年6月に、サイバー犯罪に関わった少年に対する「立ち直り支援」の取り組みを始めた。最初の取り組みでは、2026年4月に不正指令電磁的記録保管の容疑で書類送検された滋賀県の15歳の男子高校生と、2025年12月に同容疑で児童相談所に通告された愛媛県の13歳の男子中学生の2人が対象となった。
罪を犯した少年の立ち直り支援はこれまでにも行われているが、今回の取り組みは、サイバー関係の特別なプログラムになっており、従来のものとは多少異なるようだ。
同取り組みの発案者である千葉県警察本部 サイバー犯罪警察課の星尚氏(千葉県警察本部 生活安全部 サイバー犯罪警察課 警部)と、サイバー犯罪警察課長の庄村浩一氏(千葉県警察本部 生活安全部 サイバー犯罪警察課長 警視)に、取り組みの内容や狙いを伺った。
オンラインで、保護者も同席して実施
立ち直り支援プログラムは、オンラインで1人ずつ個別に、それぞれ1日かけて行われた。少年は自宅からアクセスし、保護者も同席している。
内容は、3つのプログラムから成る。1つ目は「なぜ犯罪はダメなのか」という、そもそもの話。これについては千葉県警の少年心理の専門家である少年補導専門員からも話をする。
2つ目は、防犯ボランティアによる「ITについて正しく学ぶことの大切さ、楽しさ」の話。一緒にCTF(「Capture The Flag」の略。サイバーセキュリティ技術競技で行われる、クイズの一種)形式の問題を解き、正しい知識を体系的に学ぶことで、このようなこともできるようになると体験してもらう。
3つ目は、進路についての話。千葉県警のサイバーセキュリティパートナーシップ協定締結企業であるトレンドマイクロ株式会社の専門家が、学生時代にどのようなことを勉強したか、どのようなことに悩み、今はどんな活動をしているか、といった話を聞かせ、ITの知識を生かして社会で活躍するモデルケースを見せる。
「なぜ犯罪はダメなのか」の語り方はさまざまに考えられるが、星氏は、犯罪行為をするということは、被害者が生まれる。被害者が生まれることは、やらない方がいい。社会の中で活躍するのであれば、被害者を生むようなことより、皆が幸せになることをした方が、社会としても本人自身としてもいいのではないか、といった話をするという。
今回の取り組みを終えて、少年自身からは正しく使ってプログラマーになりたいとの声もあり、また、保護者からも、自分の子どもに対して多くの人が関わってくれたことへの感謝や、子どもの興味によりそっていきたいとの声があったそうだ。このことから、「一定の成果があったかなと考えています」と、庄村氏は語る。
同様の取り組みは、対象となる少年(千葉県警が携わった事件で逮捕・送検・または児童相談所に通告した少年)で、知識や興味の内容などから、同様のプログラムが効果的だと判断される者がいれば、今後も行われる予定だという。
「インターネットを取り上げることはできない時代」
同プログラムのアイデアは、2025年11月に幕張で行われた若手向けの国際的なサイバー技術競技会「ICC 2025」への参加がきっかけとなり、生まれたという。
星氏らは、ICC 2025に千葉県警としてサイバー犯罪抑止をテーマにしたブースを出展した。そして、会場で海外からの参加者と情報交換する中で、オーストラリア連邦警察(AFP)らが運営する「リブートキャンプ」(re_B00TCMP。若者にテクノロジーの合法的な利用について教育するプログラム)の情報を得て、それがヒントになった。
サイバー犯罪に特有の事情として「インターネットを間違った風に使ってしまった子たちから、インターネットを取り上げることはできない時代です」と、星氏は言う。現代社会においてインターネットは必須の生活インフラとなっており、サイバー犯罪に手を染めたからインターネット使用禁止、とはいかない。また、ITに関心がある少年には、もともと関心があったITを「正しく使う」ことを身に付けてもらった方がよい、という前向きな理由づけも、リブートキャンプの事例から意義のあるものと考えられた。
そのようなことから考え出されたのが、ITの知識を正しく使う意義を体験してもらい、その先の進路のイメージを持ってもらうことを狙った、前述のプログラムだ。
低年齢化の傾向があるサイバー犯罪
「サイバー犯罪が低年齢化している」と言われることがある。警察庁が発表している「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」によると、不正アクセス禁止法違反被疑者において、極端な低年齢化が起きているわけではないが、近年若年層(14~19歳)の人数が増加している傾向が伺える(なお、下図にない令和2年=2020年以前のデータを見ると、右肩上がりが続いている状況ではないことが分かる)。
現場の感覚として、10年ほど前には、少年が容疑者・犯人のサイバー犯罪事件はほぼなかったと、庄村氏・星氏は振り返る。サイバー犯罪では、捜査開始の段階では犯人像は見えず、捜査が進むに従い少年であることが明らかになるが、それが少年であると分かると、やはり驚きがあるという。
しかも、近年では14歳未満の子どもであるケースも少なくない。いくつか「生成AIを使ってマルウェアを作成した」という事例が報道されているように、生成AIにより、本人に知識がなくてもサイバー攻撃の手段を手に入れられてしまうことが、低年齢化の要因のひとつになっている印象はあるという。
立ち直り支援の軸は「関わりを感じてもらうこと」
従来から行われている立ち直り支援では、大勢で稲作(田植えから稲刈りまで)を行い、カレーを作って食べるような内容もあるそうだ。
前述のようなプログラムは、いうなればITに関心がある少年向けの特別プログラムであり、個別に行われたのは、初の取り組みであることや、少年のプライバシーへの配慮もあってのことだったという。今後、同種のプログラムが複数人の参加者で行われる可能性もある。
少年のサイバー犯罪がニュースになると、その知識を生かして更生させ、将来はホワイトハットハッカー(合法的な活動をする、サイバー犯罪に立ち向かう側のIT技術者)にという声が上がったり、そもそもホワイトハットハッカーの仕事をするには知識不足であるとか、サイバー犯罪に手を染めるような人物には任せられないといった意見が出たりする。こうした声が上がる状況についてたずねたところ、ホワイトハットハッカーについて全てを把握している訳ではないが、まずは、しっかりしたITの知識を身につけてもらえるよう、立ち直り支援を行っていく、とのことだった。
まず、この立ち直り支援の狙いは「将来、興味のあるITの知識を生かして社会で活躍してもらう」というもので、特定の仕事を斡旋・推奨するものではない。将来IT以外の進路に関心が向くのなら、それでも構わない。職業選択以前に、自分の力を正しく使う、二度と犯罪を起こさない、といった意識を持ってもらうことが、取り組みの第一歩となる。
立ち直り支援の軸には「周囲との関わりを実感してもらう」ことがあるそうだ。大勢で田植えや稲刈りをするのも、そこで助け合ったり経験を共有したりすることが大切で、今回のサイバー犯罪向けの支援プログラムに複数の人が参加して話すのも、そのような狙いがあるようだ。
周囲とのつながりを実感することで、世の中は皆で助け合って生活しているということを分かってもらい、犯罪に向かわず、戻ってくるためのブレーキとなることが期待される。
少年のサイバー犯罪は、親など家族にとっても気付いたり防いだりすることが難しいと思われる。服装の傾向が変わる、言動が荒れるといった「分かりやすい非行の兆候」が見えるとは限らないためだ。そのような質問をすると、庄村氏は「年齢に応じてある程度の配慮も必要だと思うが、親から子へデバイスを貸し与える際に、事前にある程度のルールを決めておくことも大事です」と語った。
そして、家族が日頃から声をかけることも大事だという。「日常的に、『気をつけなさい』のような一言でも、声をかけることで親が関心を自分に向けていることが伝わり、それがストッパーになるものです」(庄村氏)
親としては、子どもがサイバー犯罪に手を染める前に引き戻したい。そのためには、子どもに向き合い、話すことが大切だと、アドバイスをいただいた。


