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新gTLDはすでに1200件以上がDNS委任完了、次期新gTLDの募集に向けた動きも
2017年2月1日 11:00
ドメイン名・IPアドレスの割り当て管理を行う非営利法人のICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)により2012年から募集が始まった新gTLD(generic Top Level Domain)では、多様性と競争を促す方針のもとに大幅に自由化がなされ、1200以上のgTLDが追加された。現在では登録もほぼ収束し、ICANNでは次のラウンドの検討が始まっているという。
2016年11月にインドのハイデラバードで開催されたICANNの国際会議「ICANN57」について報告する「第47回ICANN報告会」が都内で先月開催された。この中で、新gTLDの現在のラウンドの振り返りと次ラウンドについて、報告とパネルディスカッションのセッションが開かれた。
1215件の新gTLDがDNS委任完了、申請処理中は残り90件
2012年からのラウンドの報告と次期ラウンドについて、一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の山崎信氏が解説した。
山崎氏はまず、現ラウンドに関する2016年12月時点の各種数字を報告した。申請の処理状況としては、1215件のgTLDがDNSの委任が完了している。取り下げられたものが584件、承認されなかったものが41件で、申請処理中が残り90件だという。
新gTLDのガイドブックで対応が定められた文字列競合の解決状況については、218件がICANNのオークション以外で解決、16件がICANNのオークションで解決している。未解決が同じく16件で、中断しているものが64件だという。
ICANNと申請者の間での契約の状況については、1241件が完了。Specification 13付きの契約(公益のために制約)となったものが481件、行動綱領の適用除外になったものが67件。契約プロセス中のものが残り10件だという。「契約プロセス中の10件と、先ほどの契約プロセスが済んで申請処理中の90件と合わせると、残り100件ぐらい」(山崎氏)。
委任されたgTLDを種別別に見ると、コミュニティベースが51件、地名が49件、国際化ドメイン名(IDN)が92件。これは、カテゴライズされていないものは除いているほか、「.osaka」はコミュニティベースかつ地名であるというように重複もあるという。
サンライズ登録(商標保有者向け優先登録)はほぼ完了しており、進行中が8件、未開始が4件。TM claims(商標保護の異議申し立て)は、完了が605件、進行中が171件、未開始が25件だという。
現ラウンドの新gTLDプログラムの評価について、レビューを実施中であることも山崎氏は紹介した。競争・消費者からの信頼・消費者の選択(CCT)としては、新gTLDのプログラムの実装、DNSの悪用、知的財産権の保護の調査が行なわれている。そのほか、Trademark Clearinghouseや、ルートサーバーシステムの安定性についてのレビューも実施されているという。
続いて山崎氏は、次期新gTLD募集ラウンドの動向を紹介した。次期gTLD募集手続きポリシー策定プロセス検討(New gTLD Subsequent Procedures PDP)のワーキンググループ(WG)が活動を開始している。現ラウンドで使われたポリシー勧告を変更する必要があるかどうか議論するのがいちばんの目的だという。
WGは2016年2月に開始。1回目のICANNのコミュニティに意見を聞く調整(CC1、Community Comment 1)が8月までなされ、2回目が今年1月~2月に開始予定。夏には勧告内容をWGで合意して、10月には暫定報告書を公開して意見を募集、2018年1月には意見結果を公開して、2018年7月には最終報告書完成というスケジュールだという。
WGでは、月2~4回程度の間隔で電話会議を開催。作業トラック(WT)ごとの電話会議も月1~2回行なわれているという。
WTは4つ。WT1が全体プロセス、サポート、アウトリーチを検討、WT2が法規制関係、契約のあり方を検討、WT3が募集実施方法、次期ラウンドのあり方を検討、WT4が技術・運営事項を検討していることを山崎氏は紹介した。
独自ドメインよりSNSのアカウントを使うという人も
ICANNのKelvin Wong氏(Head of Outreach and Public Responsibility(APAC))は、新gTLDに関する調査結果を報告した。gTLD Marketplace Health Index(gTLD市場健全性指標ベータ版)と、Global Registrant Survey Results(世界のドメイン名登録者向け調査の結果)の2つの調査だ。
まずは、gTLD Marketplace Health Indexについて報告された。2015年に始まった、gTLDに関する統計および動向調査のプロジェクトで、ICANN重要業績評価指標(KPI)ダッシュボードの一環だ。
さまざまなメトリクスがあり、大きく分けて「健全な競争」「信頼」「安定性」の3種類からなる。その例として、gTLDにおける第2レベルドメイン名累計登録数の推移や、gTLDの分類、gTLDレジストラの認定数および認定取消数の推移、登録者が負けたUDRP/URS裁定の割合が紹介された。
2016年12月21日にICANNが更新版のgTLD Marketplace Health Index(Beta)を公開し、2017年前半ぐらいでバージョン1を公開する予定。そこからパブリックコメントを受け付け、今後は半年ごとに最新データを公開していく予定だという。
Wong氏は続いて、Global Registrant Surveyについて報告した。
1つ以上のドメインを登録している18歳以上の人に対するオンライン調査で、ICANNがニールセンに委託して実施した。2014年に開始し、第1フェーズの報告書は2015年に完成、第2フェーズが2016年6~7月に開催されて、9月に発表された。
Wong氏は結果の中から4つを紹介した。1つめは、新gTLDに対する認知度は一定に保たれているが、既存gTLDは若干低下していること。南米とアジア太平洋で新gTLDの認知度が高いという結果と、既存gTLDの認知度(パーセンテージ)が5~7ポイント程度下がっているという結果が紹介された。
2つめは、以前から続いて、登録する新gTLDドメイン名は1つだけという回答が最も多いという。回答者のうち、30%を超える人が新gTLDでドメイン名を登録し、その52%が1ドメインだけ登録している。なお、新gTLD登録が最も多かったのもアジア太平洋地域だったという。
3つめは、一般に登録者はドメイン名業界を信頼しているということ。これも、アジアでドメイン名業界に対する信頼が高いという。また、登録の制限があると信頼性が高いと感じるという結果も紹介された。
4つめは、多くの登録者がドメイン名以外のアイデンティティを選択しているということ。 24%が独自ドメインよりSNSのアカウントを使うと回答し、17%がほかのアイデンティティを使うのでドメイン名を更新しなかったと回答したという。これは具体的には、Facebookページがあるから個人ドメインのサイトはいらなくなったということだと説明された。
新gTLDは期待されていない? 必要性が分かりづらいgTLDも
2つのセッションをふまえて、新gTLDを中心としてドメインに関するパネルディスカッションが開かれた。
パネリストは、村上嘉隆氏(株式会社日本レジストリサービス)、Jacob Williams氏(株式会社インターリンク)、安高元気氏(楽天株式会社)、Michael Flemming氏(GMOブライツコンサルティング株式会社)、田村宣丈氏(GMOドメインレジストリ株式会社)と、WGにも参加しているドメイン事業者の中にドメインのユーザーである楽天が1社参加した。モデレーターをJPNICの前村昌紀氏が務めた。
最初に前村氏が会場に「新gTLDに期待している人は」と尋ねると、ぱらぱらと手が挙がるという微妙な結果だった。こうした状況についてFlemming氏は「個人的な意見だが、gTLDの必要性が分かりづらいのではないかと思う。例えば『.shop』や『.bank』は意図が明確なので今後も申請されると思うが、『.pink』や『.blue』といった一般的な言葉はどう使うか考えにくい」とコメントした。
2012年からの新gTLDラウンドの振り返りとして、Williams氏は映画「The Good, the Bad and the Ugly」(邦題:続・夕陽のガンマン)にちなんで、申請のプロセスのGood(良かった点)、Bad(悪かった点)、Ugly(ひどかった点)を挙げた。Goodは文字列混同のプロセスをとても気にして決めたこと、それでも明確でない部分があったことがBadだと氏は語った。
Uglyとしては、「優先順序の仕組みを聞いたときに『絶対うまくいかない』と思ったら、やはりうまくいかなかった」こと、「文字列混同についてICANNでは判断ができず、ユーザーが有利に使えるものではない」ことをWilliams氏は挙げた。
Flemming氏は現ラウンドについて「苦しい思いもあったと思うが、それはICANNのプロセスが意図を満たしていなかった、というのが回答だ。今度のポリシーのWGでは、より明確で透明なポリシーと、それを意図通り実行できることを目的に見直している」とコメントした。
会場からは現ラウンドについて「類似文字列は取らせないという話だったが、『.mail』と『.email』や、『.audi』と『.audio』のようにいろいろ出ている」という指摘もなされた。これについて「例えば、『.game』ドメインが高いので悩んでいたが取得したら、翌月に『.games』ドメインが出て安く取得できてがっかりした、ということも起こりうる」という意見も出た。
これについては、「『.audi』と『.audio』は商標と文字列なので、どちらかを退けるのは難しい」という意見や、「例えば『net』と『ntt』と『nec』が紛らわしいかどうかは知識によるし、母国語によって類似性の感覚も違う」という意見も出た。
前村氏は、こうした混乱について「初めてだったので、後から問題が分かって決めたこともある」とコメント。村上氏は「ICANNはIT業界の部分と官僚的な部分とがあって難しい。『ずっと問題を指摘していたのに、逆の意見が集中して後回しになり、始まってから問題になった』と怒っている人もいた。ICANNは、威厳を保ちつつ、バランスを持って問題を見ていく必要があある」と語った。
また、「先に全部決めたほうがいいか、やりながら考えたほうがいいか」という質問に、村上氏は「WGの見解は『どんどん上げてもらって先に決めよう』というもの。前回のときは予想していなかったことを言われたので、今回は今の時期に言ってもらって、報告書を書くときにはないようにしようという対策をとっている」と答えた。
また、「現ラウンドではすべてのドメインを同じように対応しようとしたが、ブランドgTLDについてはうまくいかなかった部分がある」という意見も出た。これについて、gTLDは本当に“generic”なのか、今後はgTLDというくくりではなく、ブランドgTLDやコミュニティgTLDなど違いを明確にして優先度を分けるといったことができるのではないか、という声もあった。
そのほか、どこに軸足を置いて成功を判断するかといった議論や、匿名で登録されているドメインの問題、楽天がgTLD「.rakuten」を取るかどうかといった話などが語られた。