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自治体初の「データカタログサイト」を広島県が公開、広島発のイノベーションを促進
実証事業プロジェクトのデータなどを公開
2020年10月15日 07:30
広島県は、データの提供者と利用者をマッチングさせる「ひろしまサンドボックス データカタログサイト」を、2020年10月12日に公開した。自治体がデータカタログサイトを公開するのは初めてのことになる。
広島県が取り組んできたDX推進の成果や、各種の実証事業プロジェクトで得られたデータおよびメタデータを公開し、これらのデータを活用することで、様々な分野におけるデータ連携を促進。オープンイノベーションによる広島発の新たなサービスやビジネスの創出を支援するという。
広島県の湯﨑英彦知事は、「今回のデータカタログサイトは、ひろしまサンドボックスの取り組みのひとつが成果となったものである。個々のデータを組み合わせて、有機的に統合することで、データにさらなる価値を付加し、イノベーションや新たなサービスの創出を目指すことができる」とした。
自治体初のデータカタログサイトで広島発のイノベーションを促進
データカタログサイトは、「ひろしまサンドボックス」で取り組んできた「異なるプラットフォーム間での有機的なデータ結合を行い、新しいサービス創出に取り組めるデータ連携基盤の構築とその実証」において開発されたものであり、そのプロトタイプの利用を開始するものとなっている。
「まずは、ひろしまサンドボックスのモデル実証事業で集めたデータを公開する。また、企業が共有できるデータも公開する。さらに、企業の要望に応じて、データの希望者と提供者のマッチングも行う。そのほか、利活用ニーズの把握、分析も行い、データの流通や利用促進に役立てたい」(広島県の湯﨑知事)とした。
データカタログサイトでは多くの政府や自治体、企業などが利用しているオープンデータサイトで利用されているオープンソースソフトウェアの「CKAN」を利用して、データまたはメタデータの公開を行うデータカタログ機能を提供。さらに、サイトで利用するプログラムやトップページ構造、データカタログ機能も、オープンソースソフトウェアとして公開し、他の自治体にも利用を促す。
また、ひろしまサンドボックスデータ連携基盤には、内閣府で策定されたスマートシティリファレンスアーキテクチャーホワイトペーパー20200318版で提唱されている「都市OS」に準拠した機能を持ち、今後も用途に応じて機能拡張ができる仕組みとしている。「利用者のニーズを踏まえて成長ができる基盤としており、様々な分野間のデータ連携を促進することで、県内外の人たちとともに、オープンイノベーションによる広島発の新たなサービス、 ビジネスの創出を支援したい」(広島県の湯﨑知事)という。
「失敗してもいい」 広島を丸ごと実証フィールドに何度でもチャレンジ
広島県では、2018年度から、AI/IoT実証プラットフォーム「ひろしまサンドボックス」を推進。県内外の企業や大学などが参画し、農業、水産業、観光、交通、製造業などの各産業分野における実証実験プロジェクトが進行している。
「広島を、まるごと実証フィールドにした取り組みが『ひろしまサンドボックス』。行政としては珍しく『必ずしも、うまくいかなくていい。失敗してもいい』ことをコンセプトに、作ってはならし、みんなが集まっては創作を繰り返す『砂場』のように、何度でもチャレンジできるオープンな場としてスタートした」という。
2020年8月時点で、1267人が参加、実証実験参加者数は136人。89件の応募のなかから、9件を選定して、モデル実証実験を実施しており、そのうちの1件が、データ連携基盤に関するものだという。
このデータ連携基盤の取り組みでは、通信事業者であるソフトバンク、インフラ事業者の中国電力、金融機関である広島銀行、小売りのイズミという異業種企業がコンソーシアムに参加。異なるプラットフォーム間でデータを連携させ、新規サービスの創出を目指している。
ここでは、口座統計データ、電力統計データ、購買統計データ、人流統計データなどを活用して、結果を可視化して、地図上に表示する「地域スコアリングマップ」の取り組み事例がある。
また、広島県では、2019年7月に、デジタルトランスフォーメーション推進本部を設置し、「仕事・暮らしのデジタル化」、「地域社会のデジタル化」、「行政のデジタル化」という3本柱に取り組んでおり、「今回のデータ連携によるイノベーションの創出に向けたチャレンジは、DXを推進する上でも重要な要素になる」とした。
今回のデータカタログサイトや、データ連携基盤はこうした取り組みの第一歩と位置付けている。今後は、DX推進の基盤として、行政が保有する再利用可能なデータをオープン化し、産学官金民の様々な主体が連携。新たなビジネスモデルの創出や、高付加価値情報が生まれるデータ連携の仕組みの構築を目指すという。
湯﨑知事は、「国内のオープンデータは、政府や自治体から提供されるものが主体となっており、企業同士がデータの共有を行い、オープンイノベーションの協業や共創を推進している例は限定的である。そこに一石を投じるものとして、データカタログサイトを構築した」と位置付けた。
データの流通によりサービス連携が容易なスマートシティを目指す
会見で、ソフトバンク代表取締役副社長執行役員兼CTOの宮川潤一氏は、「ひろしまサンドボックスの実証事業では、国が推奨するスマートシティ・アーキテクチャーに準拠しながら、データ連携基盤アーキテクチャーを構築しているため、他の都市OSのデータも引き継ぐことができる構造になっている」とその特徴を示した上で、「データの利活用においては、公共データのオープン化、データ取引の環境整備、データ互換性を向上させる仕組みの構築という3つの段階で進めていくべきと考えている。また、事業創出を阻害する個別の規制があり、これを改革したり、データ利活用促進のためのルールや仕組みを構築したりする必要がある。ソフトバンクでは、データが円滑に流通し、サービス連携が容易なスマートシティの実現を目指している。そのなかで大切なのは、都市OSにおいて、分野横断型のサービスが生まれること。これが、地域の活性につながる」とした。
例えば、病院と交通事業者がデータ連携を行うと、高齢者の定期健診における診療予約と配車手配が同時にでき、さらに新型コロナウイルスへの感染の疑いがある場合の対応も柔軟に行えるといった事例を示した。
また、一般社団法人データ流通推進協議会(DTA)代表理事兼事務局長の眞野浩氏は、「データは、デジタル化における血液のようなものである。コロナ禍で、データ共有やデータ活用の価値、重要性が再認識された。だが、データの標準ガイドラインが示されていても、それが活用されていないこと、データが生成される現場では実務が優先され、データの価値が認識されていないこと、活用する側も自らが活用したい形式に変えるだけで、データが移動するたびに派生形式が増えるといった課題がある。」
「また、データ流通は、業界、業態、分野、エリアごとに閉じられている。データ流通の促進を図るには、データ提供者と提供先の間を、公平、中立な立場で仲介する場や制度づくりが必要である。日本では、官民協調によるグローバルなデータ流通経済を構築することが目指されている。ここに、偽物のデータなどが取引される闇市場のようなものが出回ると、情報に信頼性がなくなる。それを排除するためには、公設市場が必要である。安心、安全な取引が必要であり、そこに自治体が絡めば公設性が高まる。大切なのは、データを見つける、探す、巡り合う、そして握手ができるということである。データの地産地消だけでなく、地産他消ということも想定すべきである。また、データカタログには、必要な項目を記すこと、表現を統一することなど、最低限のルールを作ることが必要である」などと述べた。
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長の須賀千鶴氏は、「データに大切なのは、相互運用性である。海抜5メートルの道路を作っている自治体の隣で、海抜10メートルの道路を作っている自治体があったら、県境では道路がつながらず、結果として自動車が通行できない。こうしたことが、デジタルの世界では頻繁に起こっている。」
「だが、海抜3メートルのところにすべての道路を作ればいいというわけではない。なかには3メートルの高さでは水没する場所もある。システムも同様で、それぞれの状況に最適化して構築されていなくてはいけない。ここで大切なのは、ブラックボックス化しないということである。隣の自治体を見にいけば、どれぐらいの高さで道路を作っているのかということが理解でき、どうしたら、道路がつなげられるかといったことを相互に考えて、投資することが必要である。これを自治体だけでなく、現場の事業者もしっかりと理解できる環境でなくてはならない。このようにして、それぞれのデータがつながらないことがない環境ができあがる」などと述べた。