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デジタルを融合した「新たな大学」を立教大とNECネッツエスアイが共同研究、つまずきの発見、VRのゼミや留学……

「オンライン授業」の先にあるものとは?

立教大学 経営学部の山口和範学部長(左)NECネッツエスアイの西川明宏執行役員(右)

 立教大学とNECネッツエスアイは、デジタルを用いた新たな学習方法の実現や、新たな時代におけるキャンパス環境の実現に向けた共同研究を開始した。

 オンライン授業において、デジタルツールを活用するだけでなく、データ分析などを通じて学習内容の改善などにつなげるほか、キャンパスに来ることができず、学生同士の接点が希薄になっていることを解消する手段にも、VRをはじめとした最新デジタル技術を活用することになる。

バーチャルとリアルをデジタル融合した「新たなキャンパス」の実現へ

 立教大学の経営学部を対象に今後3年間に渡って、共同研究を実施。その成果は、立教大学全体に活用するほか、NECネッツエスアイでは、同社のDX事業ブランドである「Symphonict(シンフォニクト)」のテンプレートとして、他の大学などにも横展開し、文教分野における新たな学びへの取り組みとして、今後3年間で100億円の売上高を目指す。

 立教大学 経営学部の山口和範学部長は、「新しい時代の大学を、デジタルと、若い力を結集し、コロナ禍やコロナ後における新たな学びの場と出会いの場を構築するのが共同研究の狙いである。リモートやバーチャルと、リアルをデジタル融合し、これまでの常識に捉われない空間を超えた新たなキャンパスの実現を目指すものになる」と意気込む。

新たな学びの場創出

 また、NECネッツエスアイの西川明宏執行役員は、「リアルの場での学習が難しくなり、学習機会の損失や停滞が起こり、慣れないオンライン授業を受け、楽しいはずのキャンパスライフが送れないという課題も生まれている。我慢のオンラインではなく、デジタルを活用することで、リアル以上のことができる新たな学びの場の実現を考えている」とし、「共同研究では、多様な学びの場に最適なデジタルの組み合わせと活用方法の模索のほか、オンライン活用において、リアルを超える付加価値を明らかにし、授業をより魅力的にするという取り組みを行う。ここでは、大学や学生のアイデアを活用していく。また、クラウドに蓄積した学習効果や学習意欲に関するデータを分析し、データ活用を行い、よりより授業や学生へのフィードバックを行う」などとした。

 具体的な取り組みとして、「学びを深化させるオンライン授業プラットフォームの提供」、「バーチャルキャンパスの構築」、「学生の意欲をサポートするStudent Engagementの導入」の3点をあげる。

3つの取り組み

「オンライン授業プラットフォーム」で学びを深化、学生のつまずきを可視化

 まず、1つめの「学びを深化させるオンライン授業プラットフォームの提供」では、これまでのZoomを活用したオンライン授業だけでなく、様々なクラウドサービスを活用し、授業のインタラクティブ化を実現。

 ポータルサイトから講義動画の配信を行うことで、いつでも学習ができ、効率化にもつなげることができるほか、視聴率分析などにより、学生がどこに興味があるのかといったことがわかり、オンライン学習の中身を改善していくことができるようになる。

 「講義映像をどこで一時停止し、再生をやり直しているのかといったデータから、学習者が理解しにくかった部分がわかり、教材の改善を図れる。また、学生一人ひとりの理解度にあわせて、学習速度を変えていくこともできるだろう」(立教大学の山口学部長)とする。

VRゴーグルで臨場感!バーチャルキャンパスで、ゼミやサークル、文化祭を……

 2つめの「バーチャルキャンパスの構築」では、オンライン上でのキャンパスライフを実現するために、VRデバイスなどを使用。バーチャルワークプレイスを実現するSynamonのNEUTRANS BIZを利用し、バーチャル空間上に学生が集まって各種活動を行うことを支援する。

 学生はVRゴーグルを装着して、バーチャル上のゼミに参加。臨場感のあるコミュニケーションを再現したり、ペンを使って、空間内でメモを取ったりできる。バーチャル空間には資料をアップロードして、プレゼンテーションを行うこともでき、3Dオブジェクトの利用も可能になる。ビデオ会議システムではわかりにくい参加者の反応についても、学生がアバターとなって参加しているため、参加者が拍手を送る様子から反応を確認しやすくなるという。

バーチャルゼミ室
プレゼンテーションのイメージ

 NECネッツエスアイの西川執行役員は、「ゼミのほか、サークル活動、文化祭などもバーチャル空間上で行うことができる。リアルを超えた体験を共有でき、学生間のコミュニケーションを誘発することができる」とする。

 さらに、バーチャル空間を利用したバーチャル留学も可能で、海外の学生との国際交流も可能であるほか、学生と企業の担当者がオンライン上でつながり、企業説明会を実施するなど、学生の就職活動に利用することも想定。バーチャル空間上にオフィスを再現して、会社の雰囲気を体験することもできるようになるという。

バーチャル留学
オンライン就職活動

 バーチャルキャンパスの先行体験会に参加した学生からは、「VRを利用すると、臨場感があり、リアルで会うよりもリラックスできるというメリットもある」、「1年間、Zoomの画面上だけのつながりであり、家のなかで、1人で学生生活を送ってきた。VRを体験して、周りに人がいるという感覚や、参加している感覚が体験でき、新鮮だった」などの声があがった。

 立教大学の山口学部長は、「学生が孤立することなく、デジタルの力でつながり、必要なときに対面で会える状況が必要である。先輩と後輩など、学生が学生を支援し、お互いが学びあうということをデジタルで支援したい」と語る。

学生の意欲を測定、その改善もシステムで

 そして、3つめの「学生の意欲をサポートするStudent Engagementの導入」では、エンゲージメント測定ツールのwevoxを活用。2分程度のアンケートで、学生の学習や大学に対するエンゲージメントを測定。現時点の学生の状況を把握して、学習意欲やメンタル不調の有無などについてモニタリングし、その結果をもとに改善につなげ、意欲をもって学生生活に取り組めるように手助けを行うことになる。

 「学生に会うたびに、必要に応じて声掛けをしてきたが、オンラインになったことで、そうしたことができにくい状態になっている。教員は、一人一人に寄り添いながら、学びのモチベーションを高めることも役割である。オンライン環境において、学びのモチベーションがどれぐらいあるのかといったことも、今回のエンゲージメントツールで測定が可能なのかといったことも研究していく。また、学習意欲を高めるだけでなく、学生生活に対する期待感にも応えていく必要がある。学生のプライバシーに配慮しながら、学生を理解し、学生の声が反映できる仕組みにしたい」(立教大学の山口学部長)とする。

 wevoxによるエンゲージメント測定は、NECネッツエスアイ社内でも導入しており、アンケートへの回答だけでなく、オンライン会議の参加数や、コミュニケーションツールへの投稿頻度などと組み合わせて、社員の意欲などを分析しているという。こうしたノウハウも活用することになる。また、山口学部長は、統計学が専門であり、そのノウハウも活用したいという。

 山口学部長は、「教育の質を向上させ、それをエビデンスに基づいて評価し、改善する仕組みを作る。また、NECネッツエスアイと立教大学が持つ技術、経験、メソッドを組み合わせることで、本来、大学が持つ機能を十分に発揮することができるようにし、さらなる高見を目指したい。学生にも主体的にかかわってもらい、新たな学びや新たなキャンパス環境を、学生自ら考え、構築する場にもしたい」と述べている。

 NECネッツエスアイでは、DX推進のためのソリューションサービスやプラットフォームサービスを「Symphonict(シンフォニクト)」のブランドで展開しており、今回の共同研究でもこのプラットフォームを活用する。同社からは、約10人の社員がこの共同研究に参加しているが、入社から5年以内の若い社員が中心となっており、学生とともに新たな学びの場の創造に取り組みやすい世代が取り組んでいる点も特筆できよう。

学生同士のつながりもデジタル技術でフォロー

 立教大学経営学部は、2006年4月に創設された学部で、グローバル化やリーダーシップをテーマに、新たな学びの場を構築してきた経緯がある。

 山口学部長は、「コロナ禍において、対面での講義ができないなかでも、学びを止めないということを優先し、経営学部は、2020年4月9日から、すべての授業をオンラインで行ってきた」としながら、「東日本大震災が発生した際に、大学とはどういう機能を持ち、どんな役割を果たすのかといったことを考えなおしてきた。学びの場であるとともに、キャンパスのなかで学生同士が出会い、人のつながりができるというのは、大学が果たしてきた機能のひとつである。その役割の大きさを強く認識している。だが、自宅に閉じこもらざるを得なくなり、授業がオンライン化したことで、この機能が果たせなくなっている。講義をオンライン化するためだけに技術を使うのではなく、学生のネットワークづくりや、一人ひとりに寄り添う仕組みづくりも、デジタルの力で実現することが必要である」とする。

立教大学
研究の趣旨

 一方で、今回の取り組みは、2019年以前のリアルだけの教育体制には戻らないことを前提にしたものであるとも位置づける。

 立教大学の山口学部長は、「立教大学でも、2021年4月以降は、対面を増やしていくことになるが、制約がある対面にならざるを得ない。人が密の状態で、長時間にわたってディスカッションをすることは当面できない。リアルのキャンパスが持つメリットは大きいが、次の時代の大学像を考えると、リアルだけの教育環境には戻らないのは明らかであり、リアルとバーチャルを組み合わせて、新たな大学像を作らなくてはならない。オンラインなしの大学は生き残れないと考えている。なにが対面で、なにがオンラインに適しているのか。1年間やってきて、オンラインのすばらしさもわかった。オンラインでは、長時間のディスカッションができ、大人数の講義でも、全員が最前列に座り、教員の接することができるメリットがある。組み合わせることで、よりよい学習の場が構築できる。また、データを低コストで取れるため、教育の質の改善にも積極的に取り組める。Zoomを補足するツールも数多く存在しており、それらを試しながら質をあげていくことに取り組む」などとした。