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テレワークへの移行で山積した課題は「ハイブリッドワーク」で解決するか? NECネッツエスアイが実証開始

(左から)NECネッツエスアイ株式会社取締役執行役員常務の野田修氏、執行役員の菊池惣氏、ビジネスデザイン統括本部ビジネスデザイン戦略本部長の吉田和友氏

 NECネッツエスアイ株式会社は、オフィスとテレワークを組み合わせた働き方「ハイブリッドワーク」の実証を開始した。コロナ禍によりテレワークが広がったが、従業員同士のコミュニケーション不足や新入社員の教育などの課題が山積している。実証ではこれらの課題を解決していく。

コロナ禍の前にすでに「分散ワーク」

 7月27日行われたオンライン記者説明会では、まず、NECネッツエスアイ取締役執行役員常務の野田修氏が同社のテレワークの取り組みについて説明した。

 「働き方改革がさけばれる前から」として、NECネッツエスアイは2007年に「本社集約統合」を行い、ノーペーパーワーク、会議見える化、ノーディスタンスオフィスを実現。この時点では、人と人とのリアルでのコミュニケーションを重視している。

 しかし、2014年~2017年には、テレワークを進め、2018年7月24日にはテレワーク率が80%に達したほどだ。2018年からは、Web会議サービスの「Zoom」、Zoomを基盤として拡張した「SmoothSpace」、テレワークやWeb会議サービス、RPAを導入したオフィスやサービスのコンセプト「EmpoweredOffice」を採用し、コミュニケーションの充実を実現している。

 2019年からは、「分散型ワーク」に移行。「業務プロセス改革」として、「コミュニケーション変革」「完全ペーパーレス」「業務プロセスの自動化」を行った。具体的には、Salesforceでスマートフォンから見積もりの承認などを得る、Microsoft Teams、Slack、Box、DocuSignによる承認ワークフロー、SlackやWrikeで業務の進捗管理を管理しているという状況だ。

 そのような中、2020年からコロナ禍によるテレワークが推奨とされた。しかし、同社ではすでに行っていることであり、「コロナの前に分散ワークでノウハウを得ている」として、問題なくテレワークに移行したという。

NECネッツエスアイのオフィスの改革の歴史。2007年には本社を集約したが、2019年は分散型ワークに移行した
「分散型オフィスへの挑戦」。飯田橋本社の60%を首都圏の7カ所に分散。働く場所は、オフィス、契約サテライト、自宅から選べるようになった

「ハイブリッドワーク」がチームの共感を生み出す

 しかし、全てをテレワークに移行するのではなく、オフィスなどに出社することで「人と人が会うことで生まれる議論」や「共感、一体感、熱量」「学びあい、助け合い」が感じられるとしている。一方のバーチャルのメリットは、「組織・会社・国境を越えて人がつながる」として「デジタル活用でビジネス改革」「場所、時間を超える」を挙げている。

 このように、オフィスに出社することもテレワークもメリットがあるとして、「場所・時間を超えてチームの共感を生み出し、イノベーションを加速させる」のが「ハイブリッドワーク」だとしている。

「リアル」と「バーチャル」のメリットを生かし、「場所・時間を超えてチームの共感を生み出し、イノベーションを加速させる」のが「ハイブリッドワーク」
ハイブリッドワークで用いるサービスや技術。SlackやMicrosoft Teamsなどのサービスだけではなく、コロナ対策やサテライトオフィスなどオフィスにも変化が求められる

テレワークで社員が「同じ方向」を向けなくなった?

 次に、執行役員の菊池惣氏が、テレワークにおけるコミュニケーションについて説明した。

 NECネッツエスアイは、これまでに行ってきた働き方改革として、オフィスの分散化とテレワークによる出社率の低下によるオフィスの縮小などの「オフィス構造の最適化」を実施。コミュニケーションサービスが集約できる同社のDXブランド「Symphonict」により、「無駄なプロセスの排除」と「自動化による生産性のUP」を行う「業務プロセス改革の加速」、テレワークやサテライトオフィスでの勤務を認めることにより「社員が働きやすい環境の提供」が実現できたとしている。

NECネッツエスアイが2020年までに行ってきた働き方改革。同社のDXブランド「Symphonict」により、「オフィス構造の最適化」と「社員が働きやすい環境の提供」が実現できた

 しかし、テレワークは1人での作業のため、コミュニケーションや情報の共有が行いにくい。具体的には「学びの低下が顕著」、入社2年目の社員の「モチベーションが上がらない」「意思疎通しにくくなった」という3点を挙げている。

 外部の調査では、2020年は従業員の学習が前年比2.1ポイント減少している。ほかの年では、2017年は前年比0.5ポイント減、2018年は1.2ポイント増、2019年は0.6ポイント増となっている。そのため、2.1ポイント減はどれほど大きいのか分かるだろう。

 入社2年目の社員は、「仕事の進め方がわからない」「周りからの刺激が少なく、モチベーションに繋がらない」「コミュニケーション格差」「アイデアが思い浮かばない」「気分の浮き沈みが激しい、なんかモヤモヤする」という意見があるという。

 意思疎通・コミュニケーションは、「コミュニケーション広くなった」が約5%、「コミュニケーション狭くなった」は約50%、「コミュニケーション取りやすくなった」は約5%、「コミュニケーション取りにくく」は約55%、「社内外メンバーとの意思疎通しやすく」は約5%、「社内外メンバーとの意思疎通しにくい」が約50%という結果だ。

「テレワークの長期化により浮かび上がった本質的な課題」。「人材育成、成長しにくくなった」「なにをしているのかわからない」「本当は困っているけど相談できず孤立」などの不安の声があるという
「テレワークの長期化により浮かび上がった本質的な課題」

 これらの状況や統計から判断すると、社員が同じ方向を向いていない、ミドルマネージャーが疲弊している、若手のエンゲージメントの低下、人材成長ができていないといった現状は、企業成長の危機であり、重大な経営課題だとしている。

ポイントは「コミュニティ構造を変える」こと

 このようなコミュケーションに関する不安や人材育成について、ビジネスデザイン統括本部ビジネスデザイン戦略本部長の吉田和友氏が具体的な解決策を示した。

 「ポイントは『コミュニティ構造を変える』」としている。これまでのテレワークは、上司と部下のコミュニティに閉じているとしている。しかし、これからはプロジェクトなどで所属部署を超えたチームを結成。そうなると、1人が複数のチームに参加することもある。これで、ほかのチームからのアイデアが得られるなど相互作用が生まれる。

(左)これまでは上司と部下という1対1の閉じられたコミュニティだった。(右)プロジェクトなどでチームを結成すると、1人が複数のチームに所属することもあるため、1対1ではない相互作用が生まれる

 このチームは、「地球サイズで考えるオフィス」として、自社だけではなく、組織・企業・国を越えて形成できるとしている。

若手社員の育成などに「ハイブリッド環境」を

 今回の実証では、「若手社員の育成サポート組織」「組織横断チーム活動支援」「OneGlobeOffice」「バーチャル共創ラボ」「日本橋IB オフィス実証」を行う。

「若手社員の育成サポート組織」「組織横断チーム活動支援」「OneGlobeOffice」「バーチャル共創ラボ」「日本橋IB オフィス実証」

 若手社員の育成サポートでは、上のつながりの上司だけではなく、先輩や同期ともつながり、テレワークで抱えている課題の解決策を検証する。

「若手社員の育成サポート」

 組織横断チーム活動支援では、東名阪にまたがる営業を「TeaRoom(お茶の時間)」として、情報を共有する。

 OneGlobeOfficeでは、組織・企業・国境を越えたコミュニケーションを図る。バーチャル共創ラボには、NECネッツエスアイのバーチャル空間に従業員はもとより、顧客やパートナーが参加し、情報を交換する。

「OneGlobeOffice」では、組織・企業・国境を越えてビデオメッセージ、掲示板、ロボットで国境を越えた出社などを行う予定だ

 バーチャル共創ラボは、「人×場×デジタルを融合させ、リアルでできていた“以上の”価値を生む共創ディスカッションエリア」としている。構想段階だが、顧客やパートナーがNECネッツエスアイにデータや情報を送り、4Kのプロジェクターなどでテレビ会議や資料、タスク管理を写し出すことで、リアルを超えた多くの情報が把握できるようになる。

「バーチャル共創ラボ」の構想

 日本橋IB オフィス実証では、同社のオフィスをハイブリッドワークに最適化する。「ハイブリッドワーク 戦略エリア」はオフィスワーカーとテレワーカーがディスカッションを行う場。意思決定がスピーディーに行える。「ハイブッド会議 設備・デバイス検証」では、「Microsoft Teams Rooms」と「Zoom Rooms」を評価。「オープンエリアのハイブリッドイベント」では、デジタルイベントや教育機関のハイブリッド授業に向けた実証を行う。

同社のオフィスで行う「日本橋IB オフィス実証」