コロナでオフィスはどう変わった? 2021年以降の「働く場所」を考える

第3回

テレワークの広がりで見えてきた「オフィスの本当の役割」

 「コロナでテレワークがある程度進んでいるけど、オフィスってどうなってんですかね?」「オフィス、なくてもいいって思ってる会社さん、ほんとに増えてますかね?」――そんな疑問に、都内オフィス不動産のプロ(&働く場所・暮らす場所のプロ)の皆様に集まっていただき、実際のところを教えていただきました。

 この特集では、オフィスデベロッパーさん視点、オーナーさん側視点で、そしてオフィスを利用する企業視点で、「コロナ以降のオフィスと働く場所はどう変わるか?」を掲載。話題は、都内のオフィス市場の動向に始まり、オフィスが必要な/必要ないチームのカルチャーとは何か、未来の「働く場所/暮らす場所」まで広がります。

[目次]

※この記事は、オンライン出版サービス「グーテンブック」による、アフターコロナを考え、行動するチーム協働型出版プロジェクト「SHIFT challenge book」のスピンアウト企画として制作されたものです。

[お話いただいた皆さん(写真・向かって左から)]

  • 関口秀人
    株式会社IPPO代表。スタートアップ/ベンチャーに特化した不動産エージェンシー
  • 山本麻由
    株式会社IPPOメンバー。特にオーナーさん立場で不動産仲介に取り組む
  • 野田賀一
    株式会社ヒトカラメディアメンバー/Point Five。企業のオフィス選定から内装プランニング、施設プロデュースまで手掛ける
  • 源侑輝
    株式会社LIVMO代表。シェアハウス、民泊、ホテルの管理運営など、オフィスを飛び出して暮らす場所を実験
  • 高橋周平
    本企画の聞き手役。御社は『何のために存在するのか』という存在意義から、企業のミッション作りなどをサポート

[野田]「オフィスに行かないことがマイナスでしかない」と言う若手もいます。先輩に聞くこともできないし、自分で仕事を取りにいこうと思っても取りにいけない。ストレスを抱えているようです。

[関口]企業の方向性や自分の仕事の役割がある程度決まっているメンバーであれば、自由に伸び伸びできるテレワークが楽しいと思いますが、そうでない方もいることはすごく感じていますね。

[野田]オンラインってやっぱり熱量が伝わらないんですよ。プレゼンや営業トークのときって、相手の一挙手一投足を見ながら、次の言葉を組み立てて変えていくじゃないですか。それがすごくしづらいんですよ、オンラインって。

[関口]オフラインでの偶発的なコミュニケーションの必要性は高いと思います。オンラインの中でも、週に2回、30分はチームで雑談をする時間を設けている企業もあるそうです。オフィスとしての機能を持った場は残しておいて、ただし常時出社はしない、そういう活用方法が広まっていくのでは。

[野田]オンラインでは、個人単位での気付きが少なくなるんですよ。オフィスに行くと、偶発的に自分の中の世界観以外の情報にいっぱい触れられる。そこで気付るものがあって、学んで、チャレンジしていける。

 オフィスって、組織において捉えると、部室みたいな感じなんだろなって。そこに行ったら同じ目標を持った意識高い仲間がいて、時にはワイワイ騒いだり、戦術について真剣に語り合ったり。それって熱量とか匂いとか視覚とか聴覚とか、そういう五感で感じる部分なんだろうなって。

ポイント6:テレワークが向いている人とそうでない人がいる

 テレワークは、すでに業務に必要なスキルを習得し自分で仕事を進められる人には非常に向いている働き方だといえる。移動による細切れ時間も発生しないため集中して業務を行うことができ、遠方の方ともコミュニケーションがとれ、情報収集も行いやすくなる。

 また、今まで通勤や出張などで使えなかった時間帯を業務に充てることで、新しいことを考えたり、家族との時間やプライベートの時間が拡充される。

 こう考えると良いところずくめだろう。

 しかし、まだ自分で仕事を進められない方、新入社員で何から手をつけたら良いか分からないという方にとっては、果たして働きやすいといえるだろうか。

 オフィスであれば、隣の席に座っている先輩に気軽に質問ができるが、テレワークではその都度ミーティングの時間を取ってもらわなければならない。そこにストレスを抱える新入社員は多いようだ。

 また、教育する側もテレワークには悩まされている。その企業のカルチャーにどうフィットさせるか、どのように自社のミッションを落とし込むか、同期との仲をどのように深めてもらうか。今までであればオフィスの雰囲気などから自然と理解できたことを、テレワークでいかに学ばせるか、模索している企業は多い。

 新入社員に限らず、テレワーク中のコミニュケーションの取り方には工夫が必要となるだろう。ある企業では、業務中にあえてオンラインでの「雑談」をする時間を設定するよう促しているそうだ。週に2回、30分ほどの時間を雑談タイムとして設けることで、普段のテレワーク中ではできないような砕けた話などを行うことができる。以前であれば休憩時間などに行っていた雑談を半ば強制的に取り入れることによって、チームワークを育てる狙いがある。

ポイント7:オフィスは「熱量」を感じる場所だった

 新入社員教育のほかに、オフィスでの業務にはできて、テレワークでは代用できないものはあるだろうか。

 先日、あるお客様から「テレワークではこちらの熱量が伝わりづらい」という話を伺った。対面の商談や会議などで多くの方が経験されていると思うが、自分が話す際には相手の反応を見て話をする。相手の一挙手一投足を見ながら、次に紡ぐ言葉を変えて説明を円滑に進めていく。

 しかしオンラインでは、どうしてもそういったところが見えづらく感じてしまう。これは個人のタスクを進める分には関係がないのかもしれないが、チームで進めるプロジェクトでは致命的な欠陥となってしまう。なぜなら、お互いの熱量も伝え合うことができないからだ。

 学生時代の部室を思い出していただきたい。そこに行けば、同じ目標を持った意識の高い仲間がいて、戦略を話し合ったり、関係ない話でワイワイ盛り上がったり、そうやってお互いの熱量を高め合うことができた。オフィスにも、そのような一面があるのではないだろうか。テレワークでは、そういったやり取りはどうしても難しくなってしまうように感じられる。

 とはいえ、熱狂を伝播させる媒体とするためだけに広大なオフィスを借りるとなると、非常にコストが嵩む。例えば、もともと500坪近いオフィスを持っていたけれど、テレワークを試してみたところ、それまでよりも業績が上がったという企業がある。その企業はオフィスの必要性を感じられなくなったため、オフィスの解約を申し込んでこられた。ただし、コミュニケーションを図るスペースだけは残しておきたいと要望されていた。まさに、熱量を共有するというオフィスの機能は、最低限設けておきたいと考えているのだ。

 また、オフィスは一艘の船に例えることもできる。社長という船頭が舵を取り、弱っている乗組員がいればサポートし合う。そうして船は大きな仕事を生み出していく。その船では、社員同士の情熱的なディスカッションが行われ、そこからストーリーが生まれていく。そこがオフィスの持つ魅力の1つでもある。

 このように、熱狂とバーチャルの両輪を回していくということが、アフターコロナのオフィスに必要な要素となっていくだろう。

[目次]