イベントレポート

New Norm Meeting Vol.1

本社集中型か分散型か? リモートワークの実践で見えてきたオフィスの役割

withコロナの働き方・暮らし方を経営者らが討論~「New Norm Consortium」発足イベント<2>

 IT事業者やメーカー、広告企業などが集まり、オンラインワーク前提の職住環境やサービスのあり方を探っていく「New Norm Consortium」が発足した。New Norm(ニューノーム)とは、「新しいあたりまえ」を意味する。

「New Norm Consortium」の参加企業は20社。調査研究を経て、サービス、ツール、プロダクト、コンテンツや活動主体に対する「ニューノーム」認定マークの整備にも着手する

 緊急事態宣言下の4月28日、その発足イベント「New Norm Meeting Vol.1」がZoomを使ってオンラインで開催され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への各社の対応と今後の働き方について企業経営者や有識者が語り合った。その中の3つのセッションに注目して紹介していく。

オフィスは「いなきゃいけない」ものから「偶発性を創る場」へ

 テレワーク(リモートワーク)の浸透は、これまで都市部の本社に多数の社員を集中させていた大企業にとって、オフィスに集まることの意味を問い直すきっかけとなった。

 「オフィスのNew Norm」と題したセッションでは、MUFGのスピンオフ企業であるJapan Digital Design株式会社(JDD)代表取締役CEOの上原高志氏、株式会社電通クリエイティブ・ディレクター/ゼネラルマネージャーの吉川隼太氏、リコーWS事業本部RSI統括室室長の堀場一弘氏、株式会社tsumug代表取締役社長の牧田恵里氏が参加。集中型と分散型オフィス、それぞれの役割を語り合った。

(上段左から)上原高志氏、司会の池澤あやか氏、牧田恵里氏、(下段左から)吉川隼太氏、堀場一弘氏

 初めに上原氏は、銀行員経験から、JDDの立ち上げ、現在までを振り返り、「オフィスは『いなきゃいけない』ものから『偶発性を創る場』に位置付けが変わる」と述べた。銀行では当たり前に出社をし、情報を収集、メールでアポをとり稟議書と会議で意思決定をすることが通常のプロセスであった。人によっては「出社」が存在感を示す手段ともなっていた。

 JDDでは金融、テクノロジー、デザインと、バックグラウンドも働き方も違う多様なメンバーがプロジェクト型で新サービスを生み出していくため、会社の立ち上げ時からリモートワークを推進してきた。ただ、リモートワークも事業創出の段階では一体感が生まれず苦労したこともあり、社員同士の横のつながりをつくりやすいオフィスの再配置やモビリティ家具のある新しいオフィスレイアウト、出社・リモートメンバーのステータス(雑談可能かなど)が気軽に分かるアプリなどを半年程前から企画、検討していた。その最中に、新型コロナウイルス感染拡大で原則全社員リモートワークに舵を切ったという。

 上原氏はリモートワークでは会議での透明性が高く、生産性も高い。しかし新サービスを生み出すために最も重要な良い意味での「予想していないことが起きにくい」という課題を挙げた。

街中の空きスペースを「分散型オフィス(ミクロ支社)」として利用可能に

 「うちはもともと会社に来る人は少ないが、それでもプロジェクトが進んでいく理想的なかたちとよく言われる」と語るのは、本コンソーシアムの発起人でもあるtsumugの牧田氏だ。

 同社はもともと街中のさまざまな空きスペースをスマートキーで入退室管理できるようにしてフリーランサーやテレワーカーにワークスペースとして使ってもらう「TiNK Desk」を提供していたが、これを法人向けの分散型オフィス(ミクロ支社)として提案する「TiNK VPO」をリリースした。LINEで利用手続きができ、クラウドで労務管理する。

「TiNK Desk」「TiNK VPO」。自宅近くの遊休空間をオフィスにできる

 牧田氏は「今後はいろんな人が働く場所をフェイズごとに自由に選べるようになり、その結果、自律的に働く人が増えていく」と考えている。

COVID-19で顕在化した問題をtsumugの牧田氏がスライドで解説

本社のオフィスは「セレンディピティ(偶発性)や出会いが起きやすい場」

 電通クリエイティブ・ディレクター/ゼネラルマネージャーの吉川隼太氏は、TiNK VPOのように「IT、ワークスペース(空間)、マネジメント(労務管理)の機能が提供されるのであれば、オフィスになりえる」と言い、企業にとっては「本社集中も分散型の支社も両方必要になるのではないか」と述べた。

 「オンラインワークではいつも同じ人としか仕事しなくなるという問題があるが、本社ではいろんな業種の人間と仕事ができる。本社オフィスは、セレンディピティ(偶発性)や出会いが起きやすい場としてITサービスやインテリアを考え、新しい価値やプロジェクトを生み出していく。それを進めていくのがミクロ支社という棲み分けができるのではないか。」(吉川氏)

 上原氏も「在宅ワークとリモートワークは本来違うもの。在宅ワークは制約が多いが、リモートワークは自由な場所で働くことができ、通勤時間もかからず、会議の透明性や生産性も高い。個人が自分の時間を大切にしてクリエイティビティを発揮できれば、集中と分散の仕方はそれぞれが状況に応じて構築できるようになる。大事なのはプロジェクトの熱量を最大化できる環境だ」と加えた。

「同じ空間で得られていたもの」をオンラインでどのように獲得していくか?

 今後、リモートワークは大企業に定着していくのだろうか。堀場氏がいる海老名事業所はリコーの研究開発拠点として5000人が働いていたが、感染拡大を受けて出勤率はすぐ10%程度になった。もともと東京、神奈川、福岡、グローバルと結んでリモートコミュニケーションを行っていたため、移行に問題はなかったという。

 堀場氏は「本社集中型は、もともと効率や生産性を追求したかたちであったが、今は知識創造も生産性の1つであり、ただの効率化ではないケイパビリティが評価されるようになった。COVID-19がきっかけで、数年先に来る変化が早まっただけ」と見ている。ただ、本社にいると、近くにいるので周りが何をしているのかが分かるというメリットがある。

 「同じ空間で得られていたものを、オンラインでどのように獲得していくか。人材育成もその1つだが、コミュニケーションのあり方を社会インフラにどう反映させ、実装していくのかが課題。大規模な職場での取り組みが大事になってくる。」(堀場氏)。

 今後は地方で働くことにも関心が高まってくると予想される。