コロナでオフィスはどう変わった? 2021年以降の「働く場所」を考える
第4回
テレワークにおけるマネジメントの課題
2021年2月4日 07:30
2020年、コロナによって否応なくテレワーク活用が多くの企業で進みました。もちろんリアルの場に集まって働く必要のある業種・業態も多くありますが、その中でも一部のテレワーク活用を進めている声をよく聞きます。この特集は、都内でオフィス不動産を取り扱う不動産ベンチャーを中心とするメンバーが「アフターコロナのオフィスはどうなるか?」を語った非公開座談会から、公開できるギリギリを記事化しました。これからオフィスがどうなるかをかなり生々しくお届けします。
[目次]
- 大企業・中小企業 それぞれの「テレワーク」と「オフィス離れ」
1. 「オフィス縮小」の動きが加速している
2. 中小企業のオフィス事情も変化している
3. 高まる「コワーキングスペース」への関心 - 変わっていく「オフィスの役割」
4. 実はもともと「オフィス縮小」の流れはあった
5. 「会う」ことは仕事において本当に必要なのか - テレワークの広がりで見えてきた「オフィスの本当の役割」
6. テレワークが向いている人とそうでない人がいる
7. オフィスは「熱量」を感じる場所だった - テレワークにおけるマネジメントの課題(この記事)
8. オフィスにはマネジメントを補助する機能があった
9. 個人の効率性は上がっても、チームの生産性は上がっていない
※この記事は、オンライン出版サービス「グーテンブック」による、アフターコロナを考え、行動するチーム協働型出版プロジェクト「SHIFT challenge book」のスピンアウト企画として制作されたものです。
[お話いただいた皆さん(写真・向かって左から)]
- 関口秀人
株式会社IPPO代表。スタートアップ/ベンチャーに特化した不動産エージェンシー - 山本麻由
株式会社IPPOメンバー。特にオーナーさん立場で不動産仲介に取り組む - 野田賀一
株式会社ヒトカラメディアメンバー/Point Five。企業のオフィス選定から内装プランニング、施設プロデュースまで手掛ける - 源侑輝
株式会社LIVMO代表。シェアハウス、民泊、ホテルの管理運営など、オフィスを飛び出して暮らす場所を実験 - 高橋周平
本企画の聞き手役。御社は『何のために存在するのか』という存在意義から、企業のミッション作りなどをサポート
[山本]テレワークになってから、仕事の進め方としてはトップダウンのほうがやりやすくなっちゃったなと思っています。オンラインのコミュニケーションは、顔色を見てタスクを振ったり、何かを察知したりするということがすごくやりづらくて。手の届く感というか見える感というか、オフラインでの安心感のようなものが欠けているように感じます。
[高橋]オフラインのときには、リーダーシップとかマネジメントの力不足があってもフォローできていたけれど、チームの力が使えなくなったことによって、リーダーの力量とかチームの雰囲気の影響力がかなり大きくなってきていると思います。マネジメントを補助する機能が実はオフィスだったわけでですね。
[山本]今って個人で見たら生産性が上がっているんですよ。すごく働けているのに、チーム単位で見たら「あれ?」みたいな瞬間ありません? オンラインの感覚で想定していた値に、テレワークの中で戻していくことができていなんです。「一人一人は働けているはずなのに、チーム全体の生産性となったときにはあまり成果が見られないのはなぜだろう?」という答が、自分の中で出せていません。
[高橋]今いろいろなマネジメント形態がありますけど、マネジメントをうまく補助する機能が実はオフィスだったわけですよね。立地の条件とかはそれに完全に付随するものでしかない。オンラインでどこまでマネジメント能力を補助できるか、補完できるかがオフィスに求められていく機能となっていくのかもしれないですね。
[山本]これは私個人の話なんですけど、テレワークだと休憩が上手にとれないんですよ。みんながご飯食べてるからご飯食べていたんですよね。空間をともにしていて誰かに依存していたから、そのリズムに巻き込んでもらっていたんだと思います。そういうのって意識していなかったけど、なくなってみたら結構大きたかったんだと感じています。
ポイント8:オフィスにはマネジメントを補助する機能があった
テレワークでは、相手の顔色を見て仕事を依頼することはできない。そのため、上司に提案を上げることも、部下に仕事を振ることも以前よりやりづらくなったと感じる。
今までであれば、周りの人との立ち話でプロジェクトの進捗を共有しあい、同時に熱量も共有できていた。しかしテレワークでは、会議をしてもすぐに一人に戻るため、熱量や相手の心情が把握できず、安心感の共有もできなくなってしまった。
オフィスの持つ利点の1つに、自分の外の世界の情報が強制的に与えられるということがある。オフィスに行ってさまざまな人と話すことにより、自分が持っていない情報を得ると同時に、自分一人では思いつかなかったような気付きも得られ、そこから新たなチャレンジへと移れる。
それが管理職者や周りの先輩によるマネジメントの一部分でもあった。テレワークでは一人で働くため、どうしても個人単位の気付きしか得られない。
仕事に慣れている人であれば、テレワーク環境下でも個人単位以上の気付きを得られることもあるが、新入社員や仕事にまだ慣れていない人には、その気付きを用意してあげる必要がある。
このテレワークの環境でチームとしての成果を出すには、上司のマネジメント能力に依る部分がかなり大きくなり、また、上司にかかる負担も大きくなるだろう。
これらのことから、オフィスにはリーダーのマネジメント能力を補助する働きがあったことも見えてきた。これからのオフィスには、テレワーク環境下でのマネジメント能力をいかに効率的に補助できるかが求められていく。
ポイント9:個人の効率性は上がっても、チームの生産性は上がっていない
日本では、もともと対面を重んじる文化がある。そのため多くの企業では、オフィスに出勤して業務を行うほうが仕事を進めやすいのではないだろうか。
個人でタスクをこなす文化の企業や、個人単位でのタスクを行う業務内容の場合は、テレワークでも業績を上げやすいかもしれない。一方で、社員同士の仲が良く、団結力を重んじる組織や、人と積極的に関わるマネジメントが主な業務である場合は、テレワークで生産性を上げることが難しくなるだろう。
そのためか、個人では生産性が上がっているのに、チーム全体での生産性は下がっていると感じる企業も多いようだ。これは先述のとおり、テレワーク環境下で必要とされるマネジメントスキルのレベルがかなり上っているためだと思われる。
また、多くの人は個人の生産性が上がったと感じているかもしれないが、実は上がったのは効率性であり、生産性自体はあまり上がっていないケースが多く見受けられる。
例えば、移動がなくなったことにより無駄な時間が減ったため、仕事の効率は確実に上がっている。しかし、その分、何かを生み出す「価値」の量を上げられたかというと、必ずしもそうではないだろう。削減できた時間でこなすべき仕事が早く終わっても、その仕事の単価自体が上がったとは言えないはずだ。
見積もりを作成する時間に余裕ができても、見積もりの金額自体を上げられるようなサービスのクオリティを再考することはできない。
つまり、個人の効率性は上がっているが、チーム全体の生産性は変わらない。むしろ、直接的なディスカッションが減ったことにより、サービスや商品の価値は下がっているかもしれない。
これからのオフィスとテレワークを考えるにあたって、この点は重要な課題となっていくと考えられる。
[目次]
- 大企業・中小企業 それぞれの「テレワーク」と「オフィス離れ」
1. 「オフィス縮小」の動きが加速している
2. 中小企業のオフィス事情も変化している
3. 高まる「コワーキングスペース」への関心 - 変わっていく「オフィスの役割」
4. 実はもともと「オフィス縮小」の流れはあった
5. 「会う」ことは仕事において本当に必要なのか - テレワークの広がりで見えてきた「オフィスの本当の役割」
6. テレワークが向いている人とそうでない人がいる
7. オフィスは「熱量」を感じる場所だった - テレワークにおけるマネジメントの課題(2月4日掲載予定)
8. オフィスにはマネジメントを補助する機能があった
9. 個人の効率性は上がっても、チームの生産性は上がっていない