コロナでオフィスはどう変わった? 2021年以降の「働く場所」を考える
第1回
大企業・中小企業、それぞれの「テレワーク」と「オフィス離れ」
2021年1月27日 07:30
「コロナでテレワークがある程度進んでいるけど、オフィスってどうなってんですかね?」「オフィス、なくてもいいって思ってる会社さん、ほんとに増えてますかね?」――そんな疑問に、都内オフィス不動産のプロ(&働く場所・暮らす場所のプロ)の皆様に集まっていただき、実際のところを教えていただきました。
この特集では、オフィスデベロッパーさん視点、オーナーさん側視点で、そしてオフィスを利用する企業視点で、「コロナ以降のオフィスと働く場所はどう変わるか?」を掲載。話題は、都内のオフィス市場の動向に始まり、オフィスが必要な/必要ないチームのカルチャーとは何か、未来の「働く場所/暮らす場所」まで広がります。
[目次]
- 大企業・中小企業 それぞれの「テレワーク」と「オフィス離れ」(この記事)
1. 「オフィス縮小」の動きが加速している
2. 中小企業のオフィス事情も変化している
3. 高まる「コワーキングスペース」への関心 - 変わっていく「オフィスの役割」
4. 実はもともと「オフィス縮小」の流れはあった
5. 「会う」ことは仕事において本当に必要なのか - テレワークの広がりで見えてきた「オフィスの本当の役割」
6. テレワークが向いている人とそうでない人がいる
7. オフィスは「熱量」を感じる場所だった - テレワークにおけるマネジメントの課題
8. オフィスにはマネジメントを補助する機能があった
9. 個人の効率性は上がっても、チームの生産性は上がっていない
※この記事は、オンライン出版サービス「グーテンブック」による、アフターコロナを考え、行動するチーム協働型出版プロジェクト「SHIFT challenge book」のスピンアウト企画として制作されたものです。
[お話いただいた皆さん(写真・向かって左から)]
- 関口秀人
株式会社IPPO代表。スタートアップ/ベンチャーに特化した不動産エージェンシー - 山本麻由
株式会社IPPOメンバー。特にオーナーさん立場で不動産仲介に取り組む - 野田賀一
株式会社ヒトカラメディアメンバー/Point Five。企業のオフィス選定から内装プランニング、施設プロデュースまで手掛ける - 源侑輝
株式会社LIVMO代表。シェアハウス、民泊、ホテルの管理運営など、オフィスを飛び出して暮らす場所を実験 - 高橋周平
本企画の聞き手役。御社は『何のために存在するのか』という存在意義から、企業のミッション作りなどをサポート
[高橋]野田さんも関口さんも、いちばん詳しいのはスタートアップ企業の状況に関してでしょうか。どのような動向があると感じられていますか。
[野田]そうですね。2020年3月まで、移転を考えているという案件が110件ぐらいあったんです。そのうちの半分がペンディングになりました。軽やかに。移転やめますみたいな。まあまあ先行き不透明な中なのでそうだろうなとは思ったんですけどね。
[関口]僕のお客さんで、もともと100坪のオフィスから200坪への移転を検討していた方も同じような考えでした。もうテレワークで回せるから、オフィスとしては、ビジネス部門とバックオフィスとシフト出社する2割の社員の席があればいいということで、30坪ぐらいのオフィスに縮小しました。
[野田]コロナ前の2019年から起きていた現象として、居抜き退去をする理由が「オフィスをもうちょっとシュリンクして小さくしたいから」というお客さんが出てきていましたね。事業は伸びているんだけどスペースはいらない。アウトソースしたり、テレワークでできるようになりましたという企業がちらほらと。コロナ禍を機にテレワークをどんどん主流にしていこうという動きは、スタートアップ企業では活発になっているんじゃないかなと肌で感じているところです。
[関口]今後の採用に関してはフルリモートで回していきますという、スタートアップの企業も多いですね。
[野田]渋谷で100坪くらいのオフィス、社員数50名ぐらい、社歴が10年ちょっとという企業があるのですが、実は今までもテレワークはやられていたようなのです。2割、3割ぐらいの割合で。ただ、相手が上場企業の場合、情報の取り扱いやクライアントワークの関係で出社しないといけなかったので完全にテレワークにはできなかったんです。でも今回は、その取引先自体がテレワークに切り替わったので、いい機会だということで完全にテレワークに振り切ったそうなんですね。すると、やっぱりできるんだなということが分かってきたそうです。このテレワークの流れを戻したくないからオフィスを解約しちゃおう、という流れもあるようです。
[高橋]大企業でも一気にテレワークを取り入れる風潮になったこともあって、大企業と取引のあったスタートアップ企業への影響も大きいのですね。今極端な判断をされる方の中には、コワーキングスペースでもいいという方もいますけど、この波が終わったらオフィスを小さくしようと考えている方もいらっしゃいます。
[野田]私のほうでも、大企業ではオフィスを増床するんじゃなくて地方の郊外のコワーキングスペースを契約しようとしているという動きがあると聞いています。去年からあったテレワーク化の動きは、だんだん慣れていくという感じのだと思っていたんですけど、一気にグイッときましたね。
[高橋]コワーキングスペースといっても、主にオフラインとオンラインの2パターンに分かれるんですね。リアルコワーキングというか、オフラインで実際にそのコワーキングスペースに行って仕事をするという形態のところはちょっと弱気になっています。どちらかというと、オンラインでコワーキング的な素養があるところは伸びている感じがしますね。
[関口]そうですね。いろいろなVC[*1]にも話を聞きに行っていますけど、VC自身がスタートアップ企業を受け入れるための「バーチャルオフィス」の提供をしたり、「シェアオフィス」の席を貸したりという方向で動いています。コロナ禍において、バーチャル特価プランみたいなのをつくるところもあるようです。
[*1]…… ベンチャーキャピタル。株式上場前の成長の見込みがある企業に投資をする会社のこと。経営支援やシェアオフィスの提供などを行うこともある。
ポイント1:「オフィス縮小」の動きが加速している
2020年4月以降、都内の中小企業(ベンチャー/スタートアップ企業)を中心に、自粛による「オフィス離れ」が進んだ。
3月までは数多くの企業でオフィス拡大のための移転プロジェクトが動いてたが、4月に入るころにはその半数以上が移転をペンディング。移転プロジェクト自体が消失してしまった企業も少なくない。また、移転するとしてもオフィス自体を縮小させる「縮小移転」が増えてきている。
6月に緊急事態宣言が解除されてからは、徐々に移転計画が動き始めた企業もあるが、縮小移転の波が収まることはない。業界全体を見ても、縮小移転が増加傾向にあることは否めない。
オフィス縮小化と切り離せないものが、テレワークの動きだ。
今まではオフィスの家賃に充てられていた費用が、オフィスのインターネット増強の費用へと移行し始めている。
大企業の中には、オフィスのネットワーク投資だけでなく、社員のテレワーク環境への投資も始まっている。大手IT企業を中心に、「住宅手当」ならぬ「テレワーク手当」が支給される動きがあるようだ。テレワーク手当とは、自宅のインターネット環境の整備や、オンラインミーティングに必要な設備の購入費用に充てられる手当てである。
このように大企業では、もともとあった働き方改革の波もあり、テレワークを推奨する企業が増えてきている。中には、テレワークを常態化し、3年かけて現在のオフィス面積を50%に削減するという計画を立てている大企業もある。
大企業の他の施策として、地方の郊外にあるコワーキングスペースと契約するという流れが大きくなっている。これにも、テレワークによる経費の削減や、地方の優秀なビジネスマンの囲い込みなどといった目論見があると思われる。
ポイント2:中小企業のオフィス事情も変化している
ベンチャー/スタートアップ企業を中心とする中小企業でも、大企業と似た現象が起きている。新型コロナウイルス感染者数が増えたり減ったりと、なかなか落ち着きを感じられない状況も影響し、大企業以上にオフィスの縮小化に踏み切る企業が増えているのだ。
これまでオフィス市場では、「居抜きオフィス」といわれる、前の入居者が原状回復をしない代わりに内装や家具をそのまま引き継げるという形態のオフィスが人気となっていた。居抜きオフィスの供給が追いつかず、1つ出れば10社が飛びつくというような状況だった。
その背景としては、急成長を目指すベンチャー/スタートアップ企業の特性が関係していた。
ベンチャー/スタートアップ企業の場合、1年後と2年後では業績の成長スピードが大きく変わることがあるため、最初はなるべく費用をかけずに入居したいという企業が多い。特に人気のベンチャー/スタートアップ企業を数多く排出した居抜きオフィスは「当たりオフィス」といわれ、入居を希望する社があとを絶たなかった。
ところが、コロナ禍の現在、居抜きオフィスは供給過多となり、逆転現象が起きている。コロナの影響による業績悪化とテレワークへの移行により、オフィス賃料を節約したい企業が増え、現状復旧しなくて済む居抜きでの退去を希望する企業が増加した。
しかし、退去して縮小移転を望む企業もあれば、現状維持で移転せずそのままのオフィスを使い続ける企業も多いため、なかなか居抜き物件の入居者が決まらず、一昨年までとは正反対の状況となっている。
ポイント3:高まる「コワーキングスペース」への関心
オフィスを縮小化していく企業の中には、完全にテレワークで事業を回しているところが多く、コワーキングスペースを利用することも増えてきている。
コワーキングスペースとは、オフィスとしての設備が整った空間で、月額料金などで好きな席を好きなだけ使える、という形態のオフィスだ。全く異なる企業や業種の人々が、1つのコワーキングスペースを利用することとなる。
コワーキングスペースを企業の登記住所にできる場合があることから、もともとはフリーランスの人の利用が多い場所だった。しかし最近では、数人から数十人規模の企業が1席分だけを登記し、事業自体は完全にテレワークで行っているというケースも増え始めている。
もともと30坪前後のオフィスを持っていた企業で、事業内容がテレワークに適している場合、オフィスの家賃を払うよりも社員の自宅でのインターネット環境に投資したほうが効果が高いと考えるようになっているようだ。
コワーキングスペースの利用を考えているのは中小企業だけではない。大手企業でも同様に、オフィス増床よりコワーキングスペースを選ぶというケースが増えてきている。
コワーキングスペースには多種多様な人が集まるため、他業種やライバル企業と接する機会が多くなる。その中で生まれるイノベーションや協業ビジネスのチャンスを、大企業の中だけでは実現しにくいスピード感とともに実現していきたい、そういった狙いもあるようだ。
[目次]
- 大企業・中小企業 それぞれの「テレワーク」と「オフィス離れ」(この記事)
1. 「オフィス縮小」の動きが加速している
2. 中小企業のオフィス事情も変化している
3. 高まる「コワーキングスペース」への関心 - 変わっていく「オフィスの役割」
4. 実はもともと「オフィス縮小」の流れはあった
5. 「会う」ことは仕事において本当に必要なのか - テレワークの広がりで見えてきた「オフィスの本当の役割」
6. テレワークが向いている人とそうでない人がいる
7. オフィスは「熱量」を感じる場所だった - テレワークにおけるマネジメントの課題
8. オフィスにはマネジメントを補助する機能があった
9. 個人の効率性は上がっても、チームの生産性は上がっていない