コロナでオフィスはどう変わった? 2021年以降の「働く場所」を考える

第2回

変わっていく「オフィスの役割」

 2020年、コロナによって否応なくテレワーク活用が多くの企業で進みました。もちろんリアルの場に集まって働く必要のある業種・業態も多くありますが、その中でも一部のテレワーク活用を進めている声をよく聞きます。この特集は、都内でオフィス不動産を取り扱う不動産ベンチャーを中心とするメンバーが「アフターコロナのオフィスはどうなるか?」を語った非公開座談会から、公開できるギリギリを記事化しました。これからオフィスがどうなるかをかなり生々しくお届けします。

[目次]

※この記事は、オンライン出版サービス「グーテンブック」による、アフターコロナを考え、行動するチーム協働型出版プロジェクト「SHIFT challenge book」のスピンアウト企画として制作されたものです。

[お話いただいた皆さん(写真・向かって左から)]

  • 関口秀人
    株式会社IPPO代表。スタートアップ/ベンチャーに特化した不動産エージェンシー
  • 山本麻由
    株式会社IPPOメンバー。特にオーナーさん立場で不動産仲介に取り組む
  • 野田賀一
    株式会社ヒトカラメディアメンバー/Point Five。企業のオフィス選定から内装プランニング、施設プロデュースまで手掛ける
  • 源侑輝
    株式会社LIVMO代表。シェアハウス、民泊、ホテルの管理運営など、オフィスを飛び出して暮らす場所を実験
  • 高橋周平
    本企画の聞き手役。御社は『何のために存在するのか』という存在意義から、企業のミッション作りなどをサポート

[源]現状として、テレワークに移行したい企業って増えているんでしょうか?

[関口]増えていますね。ベンチャー/スタートアップ企業もそうですし、デザイン企業などの、いわゆるテレワークででも仕事がしやすい企業では特に加速しています。以前から業務委託の方に仕事を投げていた企業も多いですしね。

[源]テレワークを取り入れる企業の数は、全体の何%くらいなんでしょうか?

[関口]全体で見ると、10%から15%くらいではないですかね。そのほかの中小企業でもコロナ禍においてテレワークを試しているところも多いですね。ただし「やれないことはないな」と感じつつも、やはりリテラシーや管理の問題があるため、なかなか移行するのは難しいと判断されている企業もあるようです。

[源]なるほど。テレワークへ移行されている企業の方の考えをもう少し掘り下げたいのですが、例えば渋谷のスクランブルスクエアで坪単価1万円でオフィスが借りられるとしたら、その方たちはそこにオフィスを構えたいと思うのでしょうか。テレワークを導入してマイペースでやりたいという話なのか、高いオフィスの家賃を固定費として払うくらいならテレワークにしたいという話なのかがすごく知りたいです。

[関口]定性的なヒアリングではなく、あくまでも主観的な意見なのですが、実際にスクランブルスクエアのオフィスが坪単価1万円だったら、みなさん多分オフィスを設けるだろうなと思います。やはり今は固定費が高いという点が大きいのではないでしょうか。

[野田]あくまで持論ですが、今までオフィスを構えるということが当たり前だったんですよね。2020年3月までは。オフィスの広さとしては、少なくとも採用人数×2坪というような基準もありました。その「オフィスは構えるもの」という当たり前が、今ちょっと揺らいでいるように感じます。

 「テレワークができるなら、そのほうがオフィスに固定費を払わなくてもよくなる」「テレワークにしたほうが社員も幸せそう」という気付きの中で、今までやりたくてもやれなかった枷が外れ、そもそもオフィスって何のために必要なんだっけ?という課題が突きつけられているのではないかと思っています。

[源]なるほど。野田さんの考えるオフィスとは、どのようなものですか?

[野田]オフィスって、今までは企業のコミュニティだったと思うんですよ。労働集約型の従来の働き方では、オフィスでみんながコミュニケーション密にして働くことが是だったんですけど、だんだんと一人でも仕事ができる状況になってきています。いざそうなってみたら、オフィスに集まらなくていいのでは?という、今までのあるべき論がなくなってしまったのではないでしょうか。

 今まで自分たちでプロダクトをつくっていたような企業も、カスタマーサクセスと営業とエンジニア、ここの意見交換がオフラインでリアルに行われていて、それが自分たちのコアだと思っていた。でも、テレワークにしても意外とできたわけです。「あれ? オフィスが必要だと思っていた事例って何だった?」という感じですね。そうなると、オフィスに求められるものが変化していくように思うんです。

[高橋]そうですよね。10年ぐらい前に、もはやオフィスっていらなくなっていたのかもしれないですよね。それにみんなが気付かなくて、今もオフィスを持ち続けているのかもしれない。オフィスというものの捉え方が、この20年をかけてグルンと変わっていたんじゃないのかなと思うんです。

 今って、立地や外観、階数などでオフィスを選ばれることが多いですよね。でもこれだけいろいろなツールが発展して、「実はオフィスはいらない」という観点で考えると、今後オフィスに求められるものは変わってきますよね。

[野田]「コロナが終わっても今までのようには戻らない」ってよく言われるじゃないですか。今までオフィスが必要だったのなら、コロナが終わったらまたオフィスに戻ればいいわけですよね。なんでその考えがこのコロナで変わったのか、というところをひも解いていったほうがいいなと思っています。

ポイント4:実はもともと「オフィス縮小」の流れはあった

 オフィス縮小移転の考え方は、コロナがきっかけで発生したのかと問われれば、「No」という答になる。もちろん、コロナ禍においてその動きが加速したという感覚はあるが、実はもっと以前からオフィス縮小の流れは始まっていたのだ。

 これまで長い間、「企業の成長=オフィスの拡大」という方程式が成り立っていた。しかし、2019年ごろから少しずつ、企業の業務はその社内の社員が行うという概念に変化が見え始めた。

 その背景として、業務のアウトソーシング化(外部委託)が進んだことが関係している。総務や人事、経理などといったいわゆるバックオフィス業務を外部で請け負ってくれるサービスや、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)と呼ばれる、定型的な作業をITを活用して自動で処理するというサービスが、安価な価格で台頭し始めている。

 これらのサービス使用料のほうが、常に人を雇っておく人件費よりも安くなると判断する企業が増えたのだ。

 仕事をアウトソーシング化したことで、人件費の削減のほかに企業がもう1つ気が付いたメリットが、オフィス費用の削減だった。社内で抱える社員数が減るということは、これまでのような広いオフィスを借りる必要もなくなるわけだ。

 このような事情から、オフィス縮小という流れがもともと進んでいたところにコロナが直撃し、その流れは加速することとなった。

ポイント5:「会う」ことは仕事において本当に必要なのか

 コロナ以前からあったオフィス縮小の動きは、アウトソーシング化やRPAの普及のみが原因だったのだろうか。

 例えば、もし今1坪5万円もするような渋谷の駅前一等地のオフィスが、1坪1万円、1000円、100円だったとしても、オフィス縮小を選ぶ企業は増え続けるのかをどうか考えてみてほしい。

 「その金額だったら、オフィスを借りたい!」という企業が必ず出てくるはずだ。都心の坪単価が極端に安くなるとしたら、今、オフィス縮小を考えている企業の一部は考え直すことだろう。

 これは、「オフィス」という場に対するその企業の考え方が、大きく判断に影響してくるということだと考えられる。

 海外の例を見てみると、国土が広すぎるために移動に時間がかかったり、インフラが整っていないために移動が困難な地域があったりと、直接会うことのハードルが高い場合がある。そのため、IT技術を活用し、同じオフィスにいなくても仕事ができるようなサービスが多く利用されていた。

 一方、日本では、日本独自の慣習や文化の影響もあってか、IT技術を使うよりも「会う」ということに重きが置かれてきた。海外の流れとは隔たりのある、日本独自のオフィス業界があるのもこのためだ。

 しかし今回のコロナ禍によって、「会う」ことを制限された日本人は、海外と同じようにIT技術を多く利用することとなった。その結果、会うことでしか進まないと思っていた仕事が、実は会わなくても進められるということに気付き、オフィス縮小を考える人たちが増えてきたのだ。

 ここで大切になってくることは、オフィスは本当に必要なのかということと、「会う」ことは仕事において本当に必要なのかということを、今一度考えることである。

 オフィスはなくても仕事はできる。そもそも自分たちの働き方にオフィスは必要なかったのかもしれない。しかし、オフィスに行くことでコミュニティが生まれやすくなっていたことも事実だ。

 今までは、オフィスでコミュニケーションを取りながら仕事を行うことはあまりにも当たり前だった。これからオフィスが必要なくなるのだとしたら、そのコミュニケーションまで失われてしまうのではないだろうか。

 次回は、この「オフィス」と「コミュニケーション」の関係について、さらに掘り下げて考えていく。

[目次]