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世界初、300GHz帯におけるビームフォーミングと高速データ伝送に成功。NTTと東工大

今回の実験で使われた300GHz帯フェーズドアレイ無線機によるビームフォーミングのイメージ図と、本実験の位置付け(これまでに報告されているビームフォーミング可能な無線機と、本実験の成果の比較)

 日本電信電話株式会社(NTT)と国立大学法人東京工業大学(東工大)工学院 電気電子系の岡田健一教授らは6月13日、ビームフォーミングを用いた300GHz帯における高速無線データ伝送に世界で初めて成功したと発表した。

 300GHz帯は、サブテラヘルツ帯とも呼ばれる周波数帯で、広い周波数帯域が確保可能なことから、6Gにおいての活用が見込まれている。しかし、300GHz帯は空間を伝搬する際の電波損失が大きく、このことが課題となっている。

 課題の克服のため、ビームフォーミング技術が検討されていた。しかし、5Gの28GHz帯や39GHz帯で使われているものと同じ「CMOS-IC」という集積回路のみだと、300GHz帯では出力が不足してしまう。

 そこで、高出力なIII-V族の化合物IC(ガリウム、インジウムなどの周期表の13族に属する元素と、窒素、リン、ヒ素などの15族に属する元素による化合物からなる半導体で作られるIC)との組み合わせによるビームフォーミングの実現が期待されていた。だが、化合物IC内やCMOS-ICとの接続部で発生する大きな損失が高出力化を阻害するため、 300GHz帯でのビームフォーミングによる高速無線データ伝送は、まだ実現されていなかった。

 今回の実験では、東工大が周波数変換回路や制御回路等を搭載した、高集積なCMOS-ICを作製。NTTが同社独自のInP HBT(インジウム・リン系ヘテロ結合バイポーラトランジスタ:III-V族半導体のリン化インジウムを用いたヘテロ接合バイポーラトランジスタで、高速性と耐圧に優れる)技術により、高出力なパワーアンプ回路とアンテナを一体集積したInP-ICを開発した。

 さらに、CMOS-ICとInP-ICとを同一プリント基板上に小型実装した4素子フェーズドアレイ送信モジュールを実現。この本送信モジュールは36°の指向性制御範囲と通信距離50cmで最大30Gbpsのデータ伝送速度を達成し、300GHz帯において、ビームフォーミングを用いた高速無線データ伝送に世界で初めて成功したという。

 本実験の技術的なポイントは、2つあるという。1つは、300GHz帯で高い出力電力を実現可能なパワーアンプ回路の設計だ。

 複数の増幅素子から出力される電力を、独自の低損失合波器を用いて束ねることによって高出力化。CMOS-ICから出力された信号を同回路によって増幅し、同一チップ上に形成されたアンテナから受信端末に向けて電波を放射することで、高速データ伝送に必要な大きな電力を、受信端末に送り届けられるという。

本実験で開発された300GHz帯フェーズドアレイ送信機と、伝送特性実験時の写真

 もう1つは、4素子フェーズドアレイ送信モジュールを実現した高周波帯低損失実装技術だ。従来、300GHz帯で異なる種類のIC同士を接続するためには、それぞれのICを導波管モジュールに実装して接続していた。しかし、本実験では、同一基板上にフリップチップ実装(金属バンプと呼ばれる小さな金属突起を介して双方を接続する実装法)し、数十µmの微小な金属バンプを介して接続する工夫を施した。これにより接続損失を低減し、高出力化を実現したという。

300GHz帯フェーズドアレイ送信機の3次元分解図、フリップチップ実装の解説図、およびチップ写真

 NTTおよび東工大では、今後の展開として、2次元アレイ化よる2次元ビームフォーミングの実証やアレイ数を増やすことによる通信距離の拡張、利用用途に応じた受信モジュールの開発などに取り組み、従来よりも10倍以上の伝送容量を有する無線通信の実用化を目指すとしている。

 なお、この技術の詳細は、6月11日(現地時間)から米サンディエゴで開催されているIMS2023(2023 IEEE MTT-S International Microwave Symposium)で発表予定だという。