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カーボンニュートラルを目指すGreen×Digitalコンソーシアム、CO2データ連携の実証実験に成功

「データ連携のための技術仕様(Version 1.0)」公開

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が事務局を務め、環境関連分野のデジタル化や新たなビジネスモデルの創出などに取り組む「Green×Digitalコンソーシアム」は、仮想サプライチェーン上において、CO2データの連携に成功したと発表した。

 サプライチェーン上でのCO2データの連携とは、素材から製品に至るまでのサプライチェーンにおけるCO2データを算定し、異なる企業・異なるソリューション間で受け渡すことで、サプライチェーン上の全ての企業の共通認識のもと、最終製品のCO2データを算出、つまり“見える化”すること。同コンソーシアムでは、この成果をもとに、サプライチェーン上で交換されるCO2データに関するデータ項目や共通データフォーマット、APIなどの連携仕様を示した技術文書「データ連携のための技術仕様(Version 1.0)」を公開した。今後、グローバルおよび業界横断でCO2データの交換を実現することを視野に入れた活動を進めていくことになるという。

 サプライチェーン全体におけるカーボンニュートラル(脱炭素。CO2をはじめとした温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡)の実現に向け、同コンソーシアムの「見える化ワーキンググループ」では、CO2データの算定や共有に関するルールの策定など、CO2消費の“見える化”に取り組んでいる。今回のCO2データ連携の実証実験には32社が参加。同コンソーシアムが策定したCO2データ算定方法と技術仕様を用いて、仮想サプライチェーン上で、CO2データの連携および算定を行った。

PCの仮想サプライチェーンで最終製品のCO2データ“見える化”に成功

 2023年1月には、異なるソリューション間でCO2データ連携を実証する「フェーズ1」を成功させており、今回の実証実験は「フェーズ2」として、ソリューションユーザーによるCO2データの算定実務を含めた検証を行ったという。

見える化ワーキンググループの活動・目標
見える化ワーキンググループの体制と活動、これまでのアウトプット
フェーズ1、フェーズ2の活動

 具体的には、PCを題材として、素材や加工材、製品で構成する層で、それぞれに仮想サプライチェーンを構築。参加企業を各層に配置し、見える化ワーキンググループが策定した「CO2可視化フレームワーク」に基づくCO2データの算定と、「データ連携のための技術仕様」に基づくCO2データのソリューション間の連携を実施した。

 これにより、素材から製品に至るまでのCO2データを算定し、異なる企業や異なるソリューション間でもデータの受け渡しができ、サプライチェーン上の 全ての企業の共通認識のもとで、最終製品のCO2データを見える化することに成功したという。

サプライチェーン全体におけるCO2データ排出量算定のイメージ
仮想サプライチェーンの構造(製品レベル)
仮想サプライチェーンの構造(組織レベル)

 実証実験では、2023年2月からユーザー企業単体での算定実証を行い、4月から複数ユーザー企業での連携実証を行った上で、5月からサプライチェーン全体での実証を行い、6月に実証を完了した。

実証実験のスケジュール

成果を踏まえ先行する「WBCSD PACT」への働きかけも

 Green×Digitalコンソーシアムで実証フェーズ2チームプロジェクトマネージャーを務める塩入裕太氏は、実証実験の成果を次のように振り返った。「32社による大規模実証実験により、CO2可視化フレームワークに基づく製品レベルや組織レベルでのCO2算定や、データ連携のための技術仕様に基いてサプライチェーンの上流企業から一次データを取得すること、エンドユーザー企業におけるCO2排出量削減のための継続的な改善に向けた活用を検討するといった当初の目的を全て達成できた」。

 実証実験においては、先行する国際的な枠組みであるWBCSD PACT(Partnership for Carbon Transparency)には含まれないGate to Gateデータを連携させることで、ある程度のホットスポット分析が可能であることも確認できたという。「排出削減に向けたエンゲージメントを促進させる有効なツールとなり、今後は、WBCSD PACTのPathfinder Frameworkに反映してもらえるように働きかけをしていきたい」と、塩入氏は語った。

Green×Digitalコンソーシアム 実証フェーズ2チームプロジェクトマネージャーの塩入裕太氏(富士通 サステナブル・トランスフォーメーション事業部シニアマネージャー)
実証実験フェーズ2参加企業

 実証実験に活用した「CO2可視化フレームワーク」は、2023年6月30日に同コンソーシアムが発表したCO2データ算定方法であり、サプライヤー企業のCO2削減努力を、一次データを活用して、CO2の削減効果を評価できるものだ。CO2データを算定、共有するサプライヤー企業やソリューション企業、データを受領するバイヤー企業、データの検証および保証を行う検証会社などの利用が想定されている。

 Green×Digitalコンソーシアムの柴田昌彦氏(見える化ワーキングループ副主査兼ルール化検討サブワーキンググループリーダー)は、このフレームワークの特徴を、次のように語った。「CO2可視化フレームワークは、日本企業が国際的に通用する方法論、データ品質を実現する道を整備するとともに、間口を広げるために多様な事業者の参加を可能とする仕組みとしている。一次データの活用を促進しながら、企業の秘密情報は保護するデータ開示の考え方を整備している点も特徴だ」。

 同フレームワークは、仮に一次データ非対応のサプライヤーが存在しても、二次データを活用することで、排出量の遡及が途切れない仕組みを採用しているという。ほかのスタンダードとも相互補完的な関係も構築しており、どこに大規模なCO2排出があるのかといったことが分かるホットスポット分析も可能にで、サプライチェーン全体を網羅し、ここに参加する企業のCO2排出量削減に向けた検討を支援できるとした。

Green×Digitalコンソーシアム 見える化ワーキングループ副主査兼ルール化検討サブワーキンググループリーダーの柴田昌彦氏(みずほリサーチ&テクノロジーズ サステナビリティコンサルティング第2部次長)

 一方、「データ連携のための技術仕様(Version 1.0)」は、世界共通で、業界横断的にCO2データを連携することを目指し、国際的な仕様も取り入れてまとめたという。これを実装することで、ソリューション間でのデータ連携が可能となり、サプライチェーンの上流から下流までを、一気通貫でCO2データの見える化を行えるとする。

連携のため「データフォーマット・連携検討サブワーキンググループ」で活動

 見える化ワーキンググループでは、CO2データを交換する際の共通データフォーマットや連携仕様を示すため、2022年4月に、データフォーマット・連携検討サブワーキンググループを発足。WBCSD PACTによるPathfinder Network に立脚しながら、今回の仕様を策定したという。

 CO2可視化フレームワークと組み合わせることで、算定方法と技術仕様という「共通言語」を用いることが可能になり、CO2データ見える化ソリューションを開発する企業は、複数のソリューション間でのデータ連携が可能となる。また、他社との仕様上の個別調整が不要となるため、開発の効率化が期待できる。

 ユーザー企業にとっては、ソリューション導入時の選択の幅が広がり、取引先と異なるソリューションを用いていても、CO2データの受け渡しが可能となる。こうしたことが、サプライチェーンCO2データの見える化の実現につながるという。

 Green×Digitalコンソーシアムの永宮卓也氏(見える化ワーキングループ副主査兼データフォーマット・連携検討サブワーキンググループリーダー)は、これまでの取り組みの経緯と意義について「CO2データを、デジタル技術を活用して交換する際の共通データフォーマットとデータ連携プラットフォームの考え方などを示すものとして、サプライチェーン内のさまざまな規模の企業がグローバルで利用できる共通的な仕組みを検討した。また、WBCSD PACTの技術仕様のデータ項目とAPI仕様を活用することで、グローバルなデータ交換に対応した。これらにより、データ連携の際にサプライヤーの負担を大幅に軽減できる」と語った。

Green×Digitalコンソーシアム 見える化ワーキングループ副主査兼データフォーマット・連携検討サブワーキンググループリーダーの永宮卓也氏(富士通 総務本部環境統括部環境デザイン部部長)

 見える化ワーキングループの今後の活動としては、「CO2可視化フレームワーク」と「データ連携のための技術仕様」を、さまざまな業界に広げ、活用してもらうための取り組みを推進。また、WBCSD PACTにおける規則のアップデートにあわせた更新や追加検討を、タイムリーに実施していく考えを示した。

今後の取り組みの計画

 企業の環境対応においては、サプライチェーンにおけるCO2データの可視化が重要であることが指摘されているものの、ソリューション間でデータを連携するための共通的な仕様がなかったため、サプライチェーンのなかで異なるソリューションを使用している場合には、上流から下流まで一気通貫でのCO2データの把握が難しいことが課題となっていた。

 Green×Digitalコンソーシアムの稲垣孝一氏(見える化ワーキングループ主査)は、サプライチェーン全体でのCO2データの扱いに関して、次のように見解を示した。「Scope3カテゴリ1において主流となっている排出量の算定方法は、調達した部品や製品の購入金額に、相当する業界平均の排出原単位データを掛け合わせるものとなっている。その結果、企業がサプライチェーンのCO2を減らそうとすると、金額を減らさなくてはならないというおかしな状況が生まれている。同時に、サプライヤーが努力をして排出量を削減しても、サプライチェーン全体では減少しないということにもつながっている。見える化ワーキングループでは、サプライヤーが減らした分を、引き継いで集計する方法を考えた。モノのやりとりのように、CO2データもやりとりし、それをグローバルで実現する姿を目指している」。

Green×Digitalコンソーシアム 見える化ワーキングループ主査の稲垣孝一氏(NEC環境・品質統括部シニアプロフェッショナル)

 見える化ワーキンググループの組織についても、見通しを示した。「当初は47社でスタートした見える化ワーキンググループだが、現在は133社に増加している。東証プライム上場企業は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への対応が必要になり、Scope3の算定を開始した企業が増えたほか、将来のカーボンニュートラルを宣言する企業が増加しており、サプライチェーン全体でCO2排出量を削減する取り組みが重視されている。正しい数値を把握するには、この取り組みをしっかりとやらなくてならないと判断した企業が増え、見える化ワーキングループへの参加が増えている。今後もこの流れは進むだろう」と指摘した。

 Green×Digitalコンソーシアムは、企業のカーボンニュートラル化の促進と、産業、社会の変革につながる新たなデジタルソリューションの創出、実装に向けた活動の場として、2021年10月19日に設立。155社が参加し、業界の垣根を超えて、課題テーマごとにワーキンググループを設置。見える化ワーキングループはそのひとつとなっている。

2023年7月19日時点での、見える化ワーキンググループメンバー

 Green×Digitalコンソーシアムの座長は東京大学大学院情報学環の越塚登教授。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が事務局を務めている。