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脱炭素社会の実現へ、CO2データの「見える化」を。共通プラットフォーム構築に向けた資料を公開
Green x Digitalコンソーシアムが取り組みへの参加・協力を呼び掛け
2022年5月16日 17:00
環境関連分野のデジタル化や新たなビジネスモデルの創出などに取り組む「Green x Digitalコンソーシアム」は、サプライチェーン全体におけるカーボンニュートラル(脱炭素。CO2をはじめとした温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡)に向けた活動の一環としてまとめたレポートを公開した。CO2データの算定や共有に関するルールの方向性を示し、今後の検討スケジュールを明らかにするとともに、広く取り組みへの参加・協力を求めている。
レポートをまとめたのは、同コンソーシアム内で、デジタル技術を活用してCO2のデータを共有できるプラットフォーム(データ共有基盤)の構築を目的とした活動を行っている「見える化ワーキンググループ」。レポートは「サプライチェーンCO2の見える化のための仕組み構築に向けた検討」と題したもので、見えるかプラットフォームの必要性と目指すべき姿を明らかにし、実現する上での課題や対策について取り上げている。
Green x Digitalコンソーシアム 見える化ワーキングループ主査の稲垣孝一氏(NEC サステナビリティ推進部シニアプロフェッショナル)は、「カーボンニュートラル実現に向けては、グローバルでの対応、サプライチェーン全体での取り組みが重要になり、そこにはデジタル技術の応用が鍵になる」と、活動の意義を語った。
そのうえで「データ共有基盤の構築では、できるだけ多くの企業が参加することが必要である」とした上で、一次レポートでは、企業がサプライチェーン全体で、なにを共有すべきかを議論してまとめたものであるとして、「今回の一次レポートを多くの人に見てもらったうえで、活動への賛同とともに、積極的な協力、参加を期待している」と述べた。
2050年の脱炭素実現に向け、目標や成果の「見える化」を図る
世界的なカーボンニュートラルの動きが加速している一方、日本政府は、2050年のカーボンニュートラル実現を宣言し、2030年のGHG排出削減目標を、2013年度比46%削減に引き上げている。
Green x Digitalコンソーシアムは、こうした動きを捉え、企業のカーボンニュートラル化の促進と、それを実現するための新たなデジタルソリューションの創出、実装に向けた活動の場として、2021年10月19日に、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が中心となって設立。現在、93社が正会員として参加している。ITおよびエレクトロニクス業界だけでなく、自動車、運輸、素材、建築、金融、コンサルティングなど、業界の垣根を超え、課題テーマごとにワーキンググループを立ち上げて活動を推進しているのが特徴だ。
今回のレポートは、見える化ワーキンググループがとりまとめたもので、同ワーキンググループには、全会員数の約8割となる74社が参加しているという。
見える化ワーキンググループでは、サプライチェーン全体の排出削減に向けて、サプライヤーとそれを購入する企業が連携し、削減を促し、その削減努力が正しく反映されるCO2見える化プラットフォームの確立を目指している。素材や原材料から、輸送、倉庫、製造、販売、使用、回収・リサイクルに至るまで、それぞれで発生したCO2をデータとして共有できる基盤を構築するという。ここでは、グローバルデータとの連携や、この仕組みを運用するための組織を作ることも検討項目に盛り込まれている。
また、サプライチェーン排出量におけるスコープ3排出量(自社が直接排出するスコープ1、供給されたエネルギーの使用に伴う間接排出のスコープ2以外の活動によるCO2排出量。具体的には製品の使用、原材料の生産や運送、従業員の通勤や出張など)の算定においては、企業間で一次データが共有できること、それに向けて、センサーなどのデジタル技術を活用して、リアルタイムで自動的に取得できること、GHGや化学物質、水資源などの環境データにも対象に広げ、連携を国内に閉じず、海外とのデータ流通ができる仕組みの構築も目指すという。
稲垣氏は「製品を輸出入する際にもCO2排出量を把握することが問われており、サプライチェーン全体でCO2排出量の表示を求める動きが世界的に出始めている。国内においても、東証プライム企業は、スコープ1、2だけでなく、スコープ3までの開示が要請されている。だが、サプライチェーン排出量の正確な把握については、大きな課題となっており、同時にサプライヤーの削減努力が反映されていないという実態もある」とし、サプライヤーの削減努力が反映できるデータ連携基盤づくりが必要であるとの考えを示した。
その上で、取り組みの始め方については「最初から一次データを共有することは難しいため、当初は一次データと二次データを共有する形で運用することになるが、最終的には一次データの共有を目指す。究極の姿は、サプライチェーン上の温室効果ガスが、原価計算などの経済価値と同等レベルで扱える仕組みになるように、データ共有基盤を構築したい」と見通しを述べた。
CO2データの算定や共有に関して方向性を一本化
今回のレポートは、準備フェーズと位置づけ、参加企業の意見をまとめ、共通で目指す見える化の姿を方向性として一本化することを狙ったという。
具体的には、CO2の算定・収集方法、共通データフォーマット、データの共有方法、データの活用方法、グローバルデータ連携、データ運用管理体制、その他という7つの内容でまとめた。
CO2の算定・収集方法では、サプライチェーンでデータを共有した際に基準に差がないような算定方法や共通ルールを定めるほか、物流視点から想定されるユースケースごとの課題や、間接部門からの排出量の扱いなど、具体的な事例にあわせた検討を行う準備も進めた。
また、業種やプロセスの違いに関係なく共通的に使えるフォーマットによって管理することや、川上の素材原材料から製造段階、輸送、倉庫において排出されるCO2が順次積みあがる排出量データの共有方法、素材などの上流企業にとっては秘匿性の高いデータを含むことから共有範囲を制限することも検討。データの信頼性確保、改善対策へのデータ活用、グローバルデータ連携を必須条件としてルール検討を行うこと、データ運用管理体制として、データ共有基盤を構築し、適切に運営していくために専門組織の役割や体制も検討していくという。
そのほかの検討準備としては、スコープ3とCFP(Carbon Footprint Products:原材料から廃棄・リサイクルまで製品やサービスのライフサイクル全体を通じたCO2排出量を表示する仕組み)との関係性の整理、国内外の関連機関や関連活動との連携、各社が持つ管理ツールに関する情報の共有、検討項目の優先順位付けなども準備項目に挙げた。2022年3月には、各社が持つ関連ツールやソリューションを紹介しあう場を設けたという。
「準備フェーズでは、主に製造業のサプライチェーンをイメージしながら議論を行ってきたが、今後はほかの業種にも広げていく」と稲垣氏は述べた。また、検討項目がサプライチェーンの川上が中心となっていることから、これを川中、川下にも展開していく必要があるとした。
今回の一次レポートは、目指す姿を具体化したものだが、まだ粗いとして、「これをどう実現するのかといった点では、データ連携やデータ共有、技術検討などを通じて、共通データフォーマットや取扱いルールづくり、ガイドラインの一次案などの策定を目指す必要がある」と述べた。
7月ごろからは「実証フェーズ」としてシステムの実証実験を予定
見える化ワーキングループは、2021年度下期に行ってきた準備フェーズの実績を経て、2022年度からは検討フェーズに入り、2022年8月ごろまでを目途に検討すべき項目を具体化。さらに、2022年7月ごろからは、実証フェーズとして、検討した内容を実現するシステムを構築し、実証実験を行い、社会実装につなげていくという。
稲垣氏は「検討フェーズで具体化が必要な項目については、テーマごとにサブワーキンググループを組成し、具体的な検討を進めていく」とした。ルール化検討サブワーキンググループと、データフォーマット・連携検討サブワーキンググループを立ち上げて、検討を進めていくという。