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DX推進に不可欠な「共助」、日本が抱える課題とは? デジタル庁で「国民向けサービス」を担うトップが講演
2021年10月22日 07:05
完全オンラインで開催されているCEATEC 2021 ONLINEの開催初日となる10月19日、デジタル庁 統括官 国民向けサービスグループ長の村上敬亮氏が、「誰一人取り残さない、人に 優しいデジタル化を」をテーマに講演。デジタル庁が目指すべき方向性と課題について触れた。
まず、村上統括官は、同氏が統括する国民向けサービスグループという組織名を初めて聞いたときに、「国民向けのサービス以外に何があるのか」と、違和感を持ったことを明かしながらも、これが霞が関を対象にした省庁業務サービスグループに対して名づけられたものだとし、「国民向けサービスグループでは、教育、医療、防災、マイナンバーなど、国民に使ってもらうサービスのシステムを担当することになる」と説明した。
また、署名、認証、セキュリティなどは、デジタル社会共通機能グループが担当。経営企画などを行う戦略・組織グループとともに、4つのグループで構成されていることを示した。
スマートシティに向けて、技術はあるが「共助」がない
続いて村上統括官は、戦後の日本や、中国・大連(旧満州)のまちづくりの歴史が、道路や鉄道などのハードウェア整備が、公共事業などによる「公助」によって進められる一方、それらのインフラ上で観光、物流などの産業を育てるというソフトウェアの部分は、民間事業による「自助」で成長し、共創が重要であったことを示した。続けて「昭和の時代はこの考え方によってうまくいった。だが、公助と自助の間に、新たに共助というものを作らないとDXが進まないと感じている。大きな変化がいま起きようとしている」と切り出した。
説明のための事例としてあげたのが、スマートタウンやスマートシティでの取り組みだ。
宅配事業者の自動走行車が敷地内を巡回する場合、自助でやると、事業者による投資が必要になり、ぎりぎりの採算性でやらなくてはならないため、サービスが宅配に特化され、スーパーで買い物をした人の荷物を運ぶといったことができなかったり、ほかの宅配事業者の参入ができなくなったりという課題が発生しやすい。
一方で、自治体などが参加した公助でやると、補助金を出すために、公平性やオープン性が重視され、幅広い事業者などが参加することになるものの、それによって範囲が広がったりサービスが増えたりすることで、今度は採算性が取れなくなり、継続性が生まれにくい、意見がまとまらなくなる、などの課題が発生しやすくなるという。
「宅配の荷物を自動走行車が各戸に運ぶことはできるが、スーパーで買いものをした高齢者が、重い荷物を持って歩いている横を、自動走行車が悠然と荷物を運んでいるのは、スマートタウンが目指している姿なのか」と村上統括官は指摘する。
「世界中のスマートシティで課題となっているのは、技術ではない。技術的には実現できるにも関わらず、止まってしまうものが多いのが実態である。スマートシティの理想像を描くと、その多くは技術的に実現することができる。だが、これはオセロの盤面が全て真っ黒な状態にあるものを、全て真っ白にするといっているのと同じである。いきなり白くはならない。誰が最初に白い部分を作り、そこから、盤面全体に広がっていく流れを作ることができるのかが試されている」と同統括官。
「公助では、コストシェアの仕組みが作れない。補助金をもらっても、技術の実証だけで終わってしまうのはそのためである。実証で出てくる課題はほぼ見えている。実装しなくては本当の課題がわからない」と述べたほか、「日本は人口減少期に入っている。そうした環境のなかで、自助によって、事業者が個別に自動走行車に投資をしていったとしたら、誰も投資を回収できない。DXに向けての第1の壁を突破するのは、コストをシェアしてでも、インフラを共有し、それに取り組むという特定多数の集団をつくることである。それが共助になる」と位置づけた。
「日本は、山頂なき、山登りである」
CEATECには、DXを実現するための様々な最新技術が出展されているが、それは登山をするための登山靴と同じだと例えた。
「ハイスペックの登山靴はたくさんある。しかし、その登山靴を使って、どの山を登るのかということを誰も決めない。山は、山頂が見えるから登ってみようと思える。富士山もいつも見えるから、そこに登ってみたいと思える。山梨県側から登る人や、静岡県側から登る人がいて、山梨県から登ったのに、静岡県側に回ってしまう人もいるなど、いろんなことが起きるかもしれない。しかし、8合目あたりになるとみんな仲間になっている。どの山に登るのかというビジョンを設定し、それをシェアしないと話は進まない。DXも同じである」などと比喩した。
日本企業が抱える問題点、やはりDX推進には「共助の論理」が必要
続けて村上統括官が指摘したのが、データ連携基盤を高度化することを目指すのか、サービスを中心に展開するのかという議論の重要性だ。「このバランスが大事である」と語る。
「プラットフォームをリッチにすると、プラットフォーマーがデータなどを全て押さえることになり、プラットフォーマーが用意した予約システムや、決済システムを使うことになる。ほかの参入企業にとっては、うれしくない仕組みになる。また、APIを提供するので情報を出してほしい、というように、APIエコノミーの悪い部分が出て、プラットフォーマーしか儲からない、生きたデータが出てこないという課題が生まれる」とした。
それに対して、「データドリブンの社会を作るときに大切なのは、サービス事業者が生きたデータを活用し、他分野のために掛け算するビジネスモチベーションを持てるかどうかである。データ連携基盤は薄い方がいい。データ連携基盤に多くの機能が乗ると、その上でサービスを提供する事業者は儲からない」などとした。
だが、1990年代に発行された「伽藍とバザール」の話をもとに、こんな例え話もする。
「世界のITはバザール型であるのに、日本のITは伽藍型」と前置きし、「教会を建て、信者を集めて、入ってきた人には、満足できる生活を提供するのが日本のやり方である。世界では、楽しい広場を作り、広場を維持するためのセキュリティ機能などを持ちながら、そこに新しいことをやりたいと思った人たちや、そこで楽しみたいという人たちが集まってくる。その結果、広場を作った人が儲かる仕組みである。アカウントと売上げを守ることを重視して動くか、世界で一番楽しい広場を作ることを目指し、そこに多くの人や事業者を呼び込むかという違いであり、この20年間のグローバルのITは、後者で動いてきた」とする。GAFAの成長は、まさにバザール型の仕組みだ。
「日本の企業は、担当役員が売り上げで評価されることが多いため、将来性を考えずに、いまの売り上げを守ることを優先する。これでは、人が集まるかどうかが分からない広場づくりへの挑戦はできない。しかも、気がついたら、楽しい広場を作っている人たちに、守っているはずの売上げや利益がじわじわと押されている。あっちの広場がにぎわっているのに、教会のなかにいるお客様を守っているのと同じである」とし、「この考え方は、DXには一番向かない。DXは楽しい広場を、共助の論理で作ることである。最初は、小さい広場からスタートし、賑わいとともに広げていく。世界はその仕組みで動いている」と述べた。
「横串型」でデータ連携ができる社会を目指して、デジタル庁の取り組み
最後に、デジタル庁の取り組みについて説明した。
「市民の暮らしは輪切りにされている。人口が増加しているときには、教育、医療、社会保険、市民サービスが、それぞれのセクターで次に向けた投資ができたが、人口が減少しているいまは、様々な分野でデジタルのインフラをシェアする必要がある。また、多様な暮らし方が広がるなかで、個人が、それぞれに希望のものを組み合わせていくといった活用が重要になる」と指摘。
「マイナンバーによって、データを別の病院や、別の学校に引っぱり出せるようにしていく。たとえば、すでに、特定検診と薬の処方については、本人の同意を得れば、医師が患者の情報を横から引き出せるようになる。そうした社会制度や仕組みをデジタル庁が用意することになる。制度やIDに対するストレスがないビジネスモデルを構築し、先回りをして、横串の時代に対応するように動いていく。マイナンバーの是非論だけをしていると、結局は危ないという話にしかならない。マイナンバーによって、どんなデータ連携が起きるのか、どんなデータ連携基盤が必要になってくるのか、マイナンバーがどんな実用性を提供する必要があるのかといったことを、車の両輪として考えていく」と述べた。
さらに、「サプライサイドによって縦割りにされてきた社会を、個人によるデマンドサイドから、組み合わせが自由にきき、個人がエンパワーされ、多様性が組み合わさった社会にシフトするためのベースを提供するのがデジタル庁になる。デジタル時代に向けて、技術面、制度面でも整備をしていく。横割りされたレイヤーによる構造化、個人がリードする社会変革、それに伴う特定多数でスタートする横串型で、個人が自由に振舞える社会づくりを一緒に考えていきたい。制度面での改革が必要であれば、それはデジタル庁に宿題を投げてほしい。日本のDXを一緒に加速させていきたい」と締めくくった。