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世界初、6G/IOWN時代の無線リソース最適化につながる高速・高精度な電波伝搬シミュレーションの実証に成功。NTTと電機大

 日本電信電話株式会社(NTT)と東京電機大学(電機大)は10月26日、世界で初めて超高速と高精度を両立する電波伝搬シミュレーションの実現アルゴリズムを開発し、実際の量子アニーリングマシン(量子揺らぎを用いて組み合わせ最適化問題の近似解を求める、量子アニーリングの原理を利用したコンピューター。量子コンピューターの一種)上で有効性を実証したと発表した。

 次世代の移動通信システムにおいて、複雑に変化する無線通信品質をリアルタイムにサイバー空間上で高精度に推定し、フィジカル空間でのネットワーク制御に活用することで、6GおよびNTTの提唱するIOWN構想に求められる、高速・大容量かつ高信頼でつながり続ける無線通信サービスを実現することが検討されてきた。

1/100万以上に計算時間を短縮する技術に高精度の散乱モデルを取り込む

 これまでの、無線通信品質推定のための代表的なシミュレーション手法であるレイトレース法は、電波の通り道の探索や反射や回折などの電波の作用について複雑な計算を行う必要があるため、膨大な計算時間が必要となる課題があったという。この課題に対して、2022年12月にNTTと電機大は、世界で初めて量子アニーリングマシン上で動作する伝搬QUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization:2次制約なし2値最適化。2次式の値が最小になるよう、各変数に0と1のバイナリ変数割り当てを求める2次多項式問題)モデルを考案し、従来のノイマン型計算機上で実行するレイトレース法と比べて、100万分の1以上に計算時間を短縮させる技術を確率していた。

 上記の技術では、電波の散乱を全方向に対して一様に散乱する完全拡散反射モデルが使われていたが、しかし、次世代移動通信で求められる品質を確保するための柔軟なネットワーク制御を行うには、高速性を維持したままで、場所固有の無線通信品質の推定を高い精度で行う必要がある。そのために、実際の環境における電波の散乱について、下図右側の「壁面における実際の散乱モデル」に示すように、壁面などの入射角と出射角の関係性を伝搬QUBOモデルに取り込む必要があったという。

壁面における電波散乱モデルのイメージ(完全拡散反射モデル、壁面における実際の散乱モデル)

高速、高精度、現行環境で実行可能であること、の3つの課題を解決

 今回実証を行った技術では、ミリ秒単位の高速性と誤差数dB程度となる制度、そして、現行の量子アニーリングマシンで提供される量子ビット数の範囲で実行可能であること、という3つの課題を同時に解決する新たな伝搬QUBOモデルを考案。これにより、疎結合5640量子ビットの量子アニーリングマシンで実際に動作させることに成功し、アルゴリズムの有効性を実機で確認したという。

 また、建物壁面などに対する電波の散乱現象を模擬できるFraunhofer近似をQUBOモデルへ落とし込むことに成功したことで、これにより、サイバー空間での無線品質推定の精度を大幅に向上できたとしている。

 その制度は、散乱回数3回の条件のとき、厳密解となるレイトレース法と比較した従来技術での誤差が損失量の小さい上位3経路で10dB以上だったのが、今回の技術では上位2経路で1dB以内の誤差だったという。この結果は、端末の移動による通信品質の変動を安定制御しようとするときに必要な精度を満足できることに相当する。

無線品質推定例と推定結果の、レイトレース法および従来技術、今回の技術の比較

 現行の量子アニーリングマシンで提供される量子ビット数の範囲で実行可能とするためには、建物構造に対する電波の性質を考慮し、電波の通り道の組み合わせ数爆発を抑制する技術を確立。面数450面の実際の都市モデルを用いて散乱回数7回の大規模計算を行ったところ、必要量子ビット数を25分の1に削減し、現行のアニーリングマシンで提供される量子ビット数以内に収めることに成功したという。

 NTTと電機大は、今回の技術により、無線端末1台1台に対して、周波数・時間・空間といった無線リソースの最適化を実プロダクトの量子ビット提供レベルで実現できる道が拓けたとしている。

 同技術は、11月14日~17日に開催される「NTT R&D フォーラム─IOWN ACCELERATION」に展示される予定だ。