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ローカルAIで企業のサイバーリスクを軽減~ディープフェイク対策からメール詐欺防止まで

WEELとトレンドマイクロが語る企業DXの未来 Intel Connection Japan 2024レポート

 インテル株式会社は9月3日・4日に、カンファレンスイベント「Intel Connection Japan 2024」を東京のミッドタウンホールで開催した。

 今回は「Bringing AI Everywhere」をテーマに、AIを活かした製品やソリューションが取り上げられた。それに関連して、「インテル パブリック・セクター・サミット東京2024」「インテル エネルギー・フォーラム2024」も開催された。

Intel Connection Japan 2024

 4日に開催された分科会セッション「AI PC導入で実現する企業のDX戦略」では、企業でAI PCを導入して業務を改善するユースケースについて、そのソリューションを持つ2社の取り組みが語られた。

 1社目としては、企業の生成AI利用の相談を受けて受託開発を行う株式会社WEELの田村洋樹氏(生成AI事業部 統括リーダー)が登壇。2社目としては、AIに関連したセキュリティソリューションを提供するトレンドマイクロ株式会社の福田俊介氏(マーケティング本部 ビジネスマーケティング部 シニアマネージャー)が登壇した。

 セッションの冒頭でインテル株式会社の上野晶子氏(執行役員 マーケティング本部 本部長)は、「みなさんのお使いになっているPCもいつかはAI PCに置き変わっていくと思うが、そのAI PCの機能を使いこなしていかないと、企業のDX戦略は進まない。それをどようにしていくといいのかについて話していただく」とセッションの主旨を説明した。

WELL:ローカルAIを活用した企業DXの4つのユースケース

 WEELの田村氏の説明に先立ち、インテル株式会社の安生健一朗氏(技術本部 部長 工学博士)が背景を説明した。

 安生氏は、企業でAI PCを購入するだけではなく、AIを企業内で活用して業務の改善そしてDXを実現することによって、真の価値が引き出されると述べ、「それはインテルでもPCメーカーでも達成できず、AIのソリューションのノウハウをもった企業に助けてもらう必要がある」と語った。

右から、インテル株式会社の上野晶子氏(執行役員 マーケティング本部 本部長)、株式会社WEELの田村洋樹氏(生成AI事業部 統括リーダー)、インテル株式会社の安生健一朗氏(技術本部 部長 工学博士)
「AI PCを活用してDXを実現するには、AIソリューション企業が必要」

 田村氏はまず、ローカルLLMに関する無料相談が、6月には1件だったのが、8月には11件になったことを紹介した。中でも多いのが、社外秘や部外秘のローカルデータの活用だという。

株式会社WEELの田村洋樹氏(生成AI事業部 統括リーダー)
ローカルLLMに関する無料相談が8月には11件に
社外秘や部外秘のローカルデータの活用が多い

 具体的に取り組んだユースケースとしては、GitHub Copilotのようなコード生成の補助をローカルで行うもの、ローカルデータを使ったRAG(検索結果をもとに生成AIが答える手法)、予定表や議事録などをもとにした日報生成、商談の会話内容から課題把握や提案などを補助するもの(ローカルのAIでリアルタイムに文字起こしして、社外情報をフィルタリングしたあと、クラウドLLMで過去事例や資料などを表示)、の4つを田村氏は紹介した。

GitHub Copilotのようなコード生成の補助をローカルで
ローカルデータを使ったRAG
予定表や議事録などをもとにした日報生成
商談の会話内容から課題把握や提案などを補助するもの

 さらに4つのうち最初の2つについて検証した結果を田村氏は紹介した。

 ローカルでのコード生成では、コーディング用LLM「StarCoder2」(ServiceNow、Hugging Face、NVIDIA)を使用。関数名やコメントなどを書いたところでコードを提案してくるもので、AI PCでだいぶ動くことを確認したという。

ローカルでのコード生成の検証
ローカルでのコード生成のデモ動画より

 またローカルデータのRAGについては、「Sentence-Transformer」ライブラリを使って、ローカルで、文章のベクトル化(意味的に近いものを検索する技術)と生成AIによる回答生成を実現した。これについて田村氏は「思っていたより速かった」とコメントした。

ローカルデータのRAG
ローカルデータのRAGのデモ動画より

 今後の展望としては、タスクに応じたローカルとクラウドの使い分けが鍵であり、両者を連携をさせるとさらにDXが進むと思うと田村氏は語った。

ローカルとクラウドの使い分けと、両者の連携がDXの鍵

トレンドマイクロ:「Security for AI」と「AI for Security」の取り組み

 トレンドマイクロの福田氏の説明の前には、インテル株式会社の坂本尊志氏(インダストリー事業本部 ソリューション技術統括部 シニア・ソリューション・アーキテクト)がインテルのセキュリティへの取り組みを紹介した。

 坂本氏はインテルのセキュリティへの取り組みとしてvProプラットフォームを取り上げ、特にPCがブルースクリーンになってもリモートから操作して復旧ができることを紹介した。

 さらにvProに含まれる、AIによる脅威検出機能スレット・ディテクション・テクノロジーを坂本氏は紹介した。機械学習アルゴリズムによる検出処理をGPUにオフロードして、アプリケーションの処理に影響を与えないようにするものだ。これが新しくNPUにも処理をオフロードできるようになったことを坂本氏は紹介した。

右から、インテル株式会社の上野晶子氏(執行役員 マーケティング本部 本部長)、トレンドマイクロ株式会社の福田俊介氏(マーケティング本部 ビジネスマーケティング部 シニアマネージャー)、インテル株式会社の坂本尊志氏(インダストリー事業本部 ソリューション技術統括部 シニア・ソリューション・アーキテクト)
インテルvProプラットフォーム
スレット・ディテクション・テクノロジーがNPUに対応

 福田氏はまず、サイバーセキュリティとAIの関係として、AIによる脅威に対応する「Security for AI」と、AIでセキュリティを強化する「AI for Security」の2つのパターンをまず紹介した。

トレンドマイクロ株式会社の福田俊介氏(マーケティング本部 ビジネスマーケティング部 シニアマネージャー)
AIによる脅威に対応する「Security for AI」と、AIでセキュリティを強化する「AI for Security」

 「Security for AI」の対象である脅威のひとつといて、福田氏は生成AIの「ディープフェイクの大衆化」を取り上げた。その例として、人が話している動画をアップロードし、テキストを入力すると、その人がその言葉を話している動画を生成するサービスのデモ動画を見せた。これにより、ビデオ会議に偽のCFOが登場して大金を送付させる詐欺や、著名人を騙るディープフェイクによる詐欺などが発生しているという。

 こうしたAIによる脅威に対抗するためのセキュリティ構築のリファレンスモデルをトレンドマイクロでは作成しているという。それぞれの段階ごとに対策がある中で、特に大事な部分としてユーザーが結果を受け取るエンドポイントをピックアップ。ここでディープフェイクを検知する技術として、空間ベースの検出と、周波数ベースの検出があると紹介した。

 実際にトレンドマイクロは、ディープフェイク検出ツール(β版)の提供を開始したことを9月2日に発表している。これは、ビデオ会議中にディープフェイクを検出したら警告を表示するというものだ。

ディープフェイクの大衆化
簡単にディープフェイク動画を作れるサービスのデモ動画
ディープフェイクによる詐欺の実例
リファレンスデザイン
ディープフェイク検知技術
トレンドマイクロのディープフェイク検出ツール(β版)
ディープフェイク検出ツールのデモ動画

 もう一方の、AIでセキュリティを強化する「AI for Security」については、NPUを搭載したAI PCの登場がある。これによって、脅威の発見や、脅威の予測、運用アシストをAIが行う。

 これについてトレンドマイクロは6月に、Lunar Lake(Core Ultra シリーズ2)のNPUを使ったスキャンについてインテルとの提携を発表している。その利用例として、詐欺メールをローカルで判定する「AI Powered Eメール詐欺対策」を福田氏は紹介した。

AI PCをセキュリティに活用
トレンドマイクロ、NPUを使ったセキュリティでインテルと提携
AI Powered Eメール詐欺対策
デモ動画より。従来はメールをクラウドに送信して詐欺メールを判断
デモ動画より。ローカルのNPUで詐欺メールを判断