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JASRACが残念会見、最高裁の上告棄却判決を受け、菅原瑞夫理事長がコメント
(2015/5/8 21:24)
一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)が8日、同社が放送局などと結んでいる音楽著作権使用料の「包括契約」をめぐる訴訟で、最高裁判所への上告を棄却された件について記者会見を開催した。JASRACの菅原瑞夫理事長は「一言で言って非常に残念な判決だった」とコメントする一方で、放送局や他の音楽著作権管理事業者も交えながら、包括契約の使用料徴収方法を改善するための協議を進めていることを明らかにした。
この訴訟は、JASRACの包括契約が独占禁止法違反にはあたらないとする審決を出した公正取引委員会を相手取り、音楽著作権管理事業者の株式会社イーライセンス(e-License)が2012年7月、この審決の取り消しを求めて提起していたもの。これに対して東京高等裁判所が2013年11月、審決の認定は実質的証拠に基づかないものであり、その判断にも誤りがあるとして、審決を取り消す判決を出したため、公正取引委員会とJASRACが上告受理の申し立てを行っていた。それが今年4月28日、最高裁が上告を棄却する判決を言い渡し、東京高裁の判決が確定したかたちだ(問題となった包括契約の仕組みや、2008年4月に始まる経緯についての詳細は、下にリストアップした本誌バックナンバー記事を参照)。
菅原理事長は会見で、音楽著作権管理事業は通常の商品の取引の市場とは性質が異なると説明。公正取引委員会の審判の場では、そうしたJASRACの意見について十分に議論され、それを踏まえた上で独占禁止法違反にはあたらないとする審決(JASRACに対する排除措置命令の取り消し)が出されたのに対し、最高裁での判決(棄却理由)の中ではそのような理解は見あたらなかった点が「残念」と表現する。
また、今回の訴訟を提起したe-Licenseの原告適格の問題と、実質的証拠法則という「極めて重要な論点に全く触れていない点でも残念な判決」だとした。
東京高裁の判決が確定したことを受け、JASRACの包括契約が独占禁止法違反にあたるのかどうか、公正取引委員会において改めて審決を行うために審判手続きが再開されることになる。「振り出しに戻った」ことで、そうした論点を含め、もう一度、審判の場で実態・実情を明らかにしながら議論していきたいとしている。
ただし、公正取引委員会による最初の立ち入り検査が2008年4月に行われてからすでに7年が経過しているということで、包括契約をめぐる状況は当時と全く同じではないという。
立ち入り検査以降、JASRACの包括契約が違法であるかどうかは別として、懸念があるとの指摘を受けたことに対応するため、公正取引委員会と改善へ向けた協議を行ってきたほか、放送事業者との間でも話し合い、JASRACの管理楽曲の使用割合(放送に対する“貢献度”)を料金算定に反映させるとの方向で合意しているという。
2014年度からは、日本放送協会(NHK)、一般社団法人日本民間放送連盟という放送事業者・団体2者と、放送分野における音楽著作権管理事業を手掛けているJASRAC、e-License、株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)という3者による「5者協議」も開始。楽曲の使用割合によって使用料を算定する仕組みの実現に向けた検討を進めているという。
これを実現するには、各放送事業者が実際に放送で使用した全楽曲のリストと、各音楽著作権管理事業者の管理楽曲の使用割合が分かるデータが必要となる。菅原理事長によれば、使用楽曲リストについては、JASRACが包括契約を結んでいる放送事業者のうち9割以上で、すでに電子データによる報告を受けられる体制になっているという。一方で、使用割合のデータについては、曲数で算出するのか、放送時間(秒数)で算出するのかなど実務面での“統一されたものさし”が必要になる。菅原理事長は、調整にはまだ時間がかかるとの見通しを示した。