MicrosoftとYahoo!が検索事業で提携、Yahoo!の検索エンジンはBingに


Yahoo! CEOのCarol Bartz氏と、Microsoft CEOのSteve Ballmer氏

 米Microsoftと米Yahoo!は29日、検索事業で両社が提携することを発表した。提携期間は10年だ。

 この提携により、Yahoo!の検索エンジン「Yahoo! Search」の中身は、Microsoftの「Bing」に取って代わられる。その代わりにYahoo!は、大口広告主に対する営業活動や、ユーザーインターフェイスなどその他の技術に力を注ぐことになる。

 その一方、検索技術以外のサービスや製品、たとえばメールやインスタントメッセージ、ディスプレイ広告などの分野では提携せず、両社は引き続き競争を続けるとしている。

検索事業における提携の内容

 「Yahoo! Search」のWebサイトは、今後も従来と同様にYahoo!ブランドで彩られることになるが、検索結果のページには「Powered by Bing」と記されることになる。

 Microsoftは10年間の提携期間中、Yahoo!の検索技術にアクセスする権利と、その技術をMicrosoftの検索技術に組み込む権利を得る。

 Microsoftは、このような提携がイノベーションにつながるとの見方を示している。Yahoo!は検索市場のリーダーとしての多くの経験を持っており、Microsoftはより良いアルゴリズムを持っている。そして特に、検索事業では規模が大きくなればなるほど、利用者についての知識が増し、イノベーションが進む特徴があるとした。こうした理由から、Yahoo!とMicrosoftの提携によってサーチエンジンシェアが大きくなり、両社の規模が拡大することで、大きなイノベーションが起こる可能性があるとしている。

 MicrosoftのCEO、Steve Ballmer氏は、「検索技術を持ち寄ってイノベーションを起こせる環境を整えるため、直近の数カ月間の両社の交渉では財務面の話よりも、両社のエンジニア同士がどのように情報を持ち寄り、どのようなAPIへのアクセス権限を持つか、ユーザーのプライバシーをどのように保つかといった、実務的な交渉が多かった」という内幕を明かしている。

 その一方で、Yahoo!はこれまでの検索技術ではなく、検索サービス全般のユーザーインターフェイスの革新の側面に力を注ぐことになる。また、Yahoo!はYahoo! Search以外では引き続き同社の検索技術を使用する。

 さらに、Yahoo!は米国を含む世界各地でモバイル向け検索サービスを展開している。Yahoo!のCEO、Carol Bartz氏は、このモバイル検索分野にもMicrosoftのBing技術を採用する可能性を認めた。しかしこの分野では、Microsoftとの関係は独占的ではないことも強調。当面はBing技術を採用するが、その後に関しては他の技術に切り換えることにも含みを持たせている。

広告分野での提携と競争

 広告分野では、両社の提携、分業、競争が共存することになる。まずYahoo!は、MicrosoftとYahoo!双方が持つ大口広告顧客に対する営業とマーケティング活動を独占的に請け負う。一方、小口広告に関しては、両社の広告ともにMicrosoftのAdCenterプラットホームに集約し、広告価格はAdCenterのオークションプロセスで決定されることになる。また、ディスプレイ広告に関しては提携をせず、両社は競争関係となる。特にディスプレイ広告に関してはYahoo!は米国市場のマーケットリーダーであるとしている。

 特にこの分野についてYahoo!のBartz CEOは、インターネット広告は依然としてその初期揺籃期にあることから、まだイノベーションの余地が大いに残されているとの考えを示した。大口広告主や広告代理店への営業やマーケティング活動を行い、実際に利用者に対して効果のあるデジタル広告を配信するまでの一連のプロセスは複雑だからだ。

提携の財務的側面

 財務面に関して言えば、Microsoftはこの提携によって、当初5年間はYahoo!に対して、検索収入の88%をトラフィック獲得コストとして支払う。残りの5年間については、会見でも詳しくは説明しなかった。明らかにされたのは、5年経過した後に、Microsoftが大口顧客に対する営業活動を一部請け負う可能性など、いくらかの修正が行われるということだ。またMicrosoftは、Yahoo!が世界各国で運営するサイトの検索収入を18カ月間補償する。

 この結果、Yahoo!は年間約5億ドルの年間営業利益、2億ドルの経費節減、さらに年間2億7500万ドルの営業キャッシュフローを見込んでいる。

 また、両社の提携に伴う移行手続に関して、Ballmer氏は「最初の2年間で数億ドル」が必要だとし、「それは将来への投資と考えている」とコメントした。しかしそれによって、MicrosoftとYahoo!のサイトにおける検索の的確性が増し、収益化能力を向上させることから、両社ともに「良い投資だと考えている」とコメントした。

 また、人員削減の可能性について、Yahoo!のBartz氏は「人員削減が行われるだろう」との大まかな見通しを示したが、具体的な数字については決まっていないとしてコメントしなかった。ただし、提携によって、一部の社員はMicrosoftに移籍し、一部の社員は競争関係となるディスプレイ広告分野に移籍し、そして職を失うYahoo!社員もいるとのシナリオを示した。いずれにせよ、提携とそれに伴う以降が完了するまでは2年半かかる予定で、少なくとも当面の間、大きな変化が起こることはないとの見通しを示した。

独禁法、Googleとの関係

 提携は今後、米国や欧州当局の承認を得なければならないが、両社ともに2010年初頭に完了することを期待している。MicrosoftのゼネラルカウンシルであるBrad Smith氏は、来週にも米国における申請手続を開始することを明らかにした。

 また、最大のライバル企業であるGoogleの反発に関してSmith氏は、「彼らは、世界中のペイドサーチの78%のシェアを持っている。私は、これほどの市場シェアを持っていながら、それよりも小さな2つの会社が一緒になることに反対することを試みたというような実例を知らないが、彼らは彼らの決定をするだろうし、我々はそこでの議論を楽しみにしている」とコメントした。

 各国当局の承認が得られ次第、米国など主要な市場で3~6カ月以内にBingへの移行を開始する。広告分野の移行については12カ月かかり、最終的に全世界における移行手続は24カ月は必要だと見積もられている。

昨年の買収交渉の失敗について

 Microsoftは2008年2月、Yahoo!に対する買収提案を行ったが、結果としてYahoo!経営陣の激しい反対にあい、成立しなかった経緯がある。この理由についてYahoo!のBartz氏は、「事実よりもフィクションの方が多く流布している」と指摘。以前の買収提案と今回の提携の違いについて、前払金とトラフィック獲得コストのバランスの違いを指摘した。

 前回の交渉では前払金が多く、トラフィック獲得コストが低かった。またYahoo!のユーザーインターフェイスの保持についても扱いが異なっていた。Yahoo!は長期的なビジネスの存続と、将来への投資を考えていたために、提案はYahoo!が望んでいたものではなかったという。しかし今回はその逆に、高いトラフィック獲得コストが提示されているため、提携が成立したとしている。

 Ballmer氏は、前回の交渉は投資家の観点から行われ、今回の交渉は実務的経営の観点から行われていることを指摘し、交渉の種類が異なっているとの見方を示した。

 また、日本国内のヤフーとマイクロソフトの関係については、会見では触れられることはなかった。


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(青木 大我 taiga@scientist.com)

2009/7/30 11:55