津田大介氏「SARVHの東芝訴訟は補償金制度を崩壊させる」


 デジタル方式の録画機器に課金されている私的録画補償金を徴収・分配する「私的録画補償金管理協会(SARVH)」が、東芝に対して補償金の支払いを求める訴訟提起を決定したことなどを受け、主婦連合会とインターネットユーザー協会(MIAU)が29日に会見を開き、「アナログチューナー非搭載DVDレコーダー(以下、デジタル専用録画機)を補償金の課金対象とすべきではない」などと主張した。

「議論の最終調整を放棄した文化庁の責任は重い」

MIAUの津田大介氏

 デジタル専用録画機への課金をめぐっては、SARVHと東芝の間で数回にわたって話し合いを行ってきたが、議論は平行線。さらに9月に入って、文化庁著作権課が「デジタル専用録画機は補償金の対象機器に該当する」との見解を示したが、東芝側は「課金対象になるかどうか明確になっていない以上、現時点では徴収できない」として、9月末の納付期限までに徴収に協力しなかった。SARVHはこの事実を受けて、法的手段をとることにした。

 文化庁著作権課の見解に対しては、主婦連合会とMIAU、電子情報技術産業協会(JEITA)が撤回を求める意見書を文化庁などに提出。MIAUの意見書では、「文化庁は、関係者間で合意の取れていない『アナログチューナー非搭載DVD録画機器が対象機器に含まれるか』という判断を何の審議も経ず、独断で行った」として、デジタル専用録画機に対する課金について、関係者間の議論の結論が出るまで保留とすることなどを求めていた。

 なお、デジタル専用録画機への課金については、著作権法施行令の改正にあわせて2009年5月に文化庁が出した施行通知において、「デジタル専用録画機が発売されて関係者の意見の相違が顕在化した場合は調整を行う」という旨が明記されていた。にもかかわらず、文化庁が独自の見解を示したことについてMIAUの津田大介氏は、「2005年から3年間続いていた議論の最終調整を放棄した責任は非常に重い」と批判した。

 デジタル専用録画機の補償金に対するSARVHや文化庁のスタンスとしては、「現行法では課金対象」というものだ。この点について津田氏は、「著作権法はどのようにでも解釈できる部分がある。そういう意味では、この問題がかみ合わない部分がある」としたが、それを踏まえた上でも「文化庁はこういう問題に結論を出せる立場ではないと思っている」と話した。

 文化庁の見解についてはJEITAの長谷川英一氏も苦言を呈した。「文化庁は、メーカーが早い段階から(デジタル専用録画機)に補償金を上乗せせずに販売していることを知っていた。しかし、9月になっていきなり『対象だ』と言われても、メーカーとしては、すでに販売した消費者から徴収することもできず、どうしようもない。なぜこれまで放置していたのか」。

 主婦連合会の河村真紀子氏も、「文化庁は検討の場を設けると言っていたが何もせずに放置した。訴訟はどうであれ、すぐにでも検討を開始してほしい」と主張。補償金制度については、「大反対というわけではなく、払うのであれば、納得できる筋がほしいということ。複製の自由が確保されれば、なんらかの制度を許容する余地はある。しかし、DRMをかけておきながら補償金を取るという考え方はありえない」と述べた。

JEITAの長谷川英一氏主婦連合会の河村真紀子氏

「SARVHの訴訟は補償金制度を崩壊させる」

 補償金制度では、消費者が支払対象者で、メーカーには消費者から補償金を徴収する協力義務が課されているだけに過ぎないと、津田氏は指摘。そのような状況でSARVHが訴訟を起こすことについては、「権利者がメーカーを敵に回すことで、かろうじて成り立っている制度そのものが機能不全を起こす」と懸念を示すとともに、「権利者とメーカー、消費者の3者が今後協議をしても、うまくいくわけがない」とした。

 SARVHが訴訟を起こす背景については、「東芝が支払わないのが当然となれば、アナログ放送が停波する2011年には補償金がゼロになる。現状ではiPodも録音補償金の対象外で、実質的に補償金は死に体になる」として、訴訟をせざるを得ないところまで追い込まれたのではないかと推測。その上で、「裁判で白黒付ければいいという気持ちもあるが、これまでの3年間の議論は何だったのかという気持ちがある」とした。

 さらに津田氏は補償金制度の“そもそも論”として、消費者がデジタル録画やデジタル録音を行うことによる権利者の逸失利益を補てんするための仕組みであると説明。今回の訴訟で争点となっているデジタル放送の録画については、著作権保護技術(DRM)のダビング10によって、番組の複製が1世代のみ10回と、複製回数が厳密に制限されているため、権利者の利益減少をもたらす無制限な複製はできないとの見解を示した。

 また、補償金制度が発祥したドイツをはじめとするヨーロッパでも補償金が転換点にあると津田氏は指摘する。「ドイツではDRMの水準によって補償金の料率を下げたり、オランダでは制度を段階的に廃止するという流れがある。ヨーロッパは『DRMあり・補償金なしか』『DRMなし・補償金あり』という2択が原則の議論になっているが、日本はそうなっていない」。

 なお、主婦連合会とMIAUは、文化庁の「デジタル専用録画機は補償金の対象機器に該当する」という見解の撤回を求めて、文化庁や消費者庁などに意見書を提出したが、現時点で反応は「全くない」(河村氏)という。津田氏は、「SARVHの訴訟を止められるのは行政だけ。余地が残っていれば止めてもらい、再び関係者の協議の場を作ってほしい」と話した。


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(増田 覚)

2009/10/29 21:11