「Google マップ」日本版の歴代担当者ら、5年にわたる開発の苦労話を語る


グーグル製品開発本部長の徳生健太郎氏

 グーグル株式会社は6日、地図検索サイト「Google マップ」日本版が5周年を迎えたことを記念し、記者説明会を開催した。日本版の歴代担当者が開発の苦労話を語ったほか、米Googleの幹部が今後のビジョンを語った。

 最初にあいさつに立った製品開発本部長の徳生健太郎氏は、「Google マップ」日本版がスタートした2005年7月当時を振り返り、自身が方向音痴だったこともあって、役立つ地図サービスを作りたいという思いが強かったと語る。かつて地図サイトといえば、ウェブブラウザーの技術的な限界もあり、地図の表示は静的で、紙の感覚から離れられなかったと指摘する。しかし「Google マップ」では、JavaScriptなどの能力を最大限に発揮し、現在のような動的な地図サイトを作り上げたという。

 さらに現在では、スマートフォンなどでGPS情報をもとに知人の現在地を表示し、その場所までの経路を簡単に検索できるようになるなど、「Google マップ」は今や「地図の定義を超えたものになっているのではないか」とした。

米国生まれの「Google マップ」、まずは日本向けに最適化

 続いて登壇したエンジニアリングマネージャーの上田学氏は、日本版サービスの初期の担当者であり、「米国生まれの製品をいかに日本に適合させるか、細かな部分を改善していった」と振り返る。

エンジニアリングマネージャーの上田学氏

 上田氏は、「Google マップ」の現在の地図と、5年前の地図を示して比較。5年前の画面では、地図と衛星写真の切り替えボタンが「マップ」「サテライト」となっているように、外国製品を直訳した名残があることをはじめ、地下鉄の表示もなく、ビルの表現も平面的だったことなどを挙げ、いかにこの5年間で大幅に改善されたかを説明した。

 また、住所の体系も米国と日本では全く異なる。上田氏によれば、米国では家屋の番号をベースに住所が構成されているのに対し、日本では都道府県・市区町村・エリアというようにブロックで区切っていく体系になっている。根本的に異なる住所体系を「米国生まれの製品に教え込むことから始めなければならなかった」という。

 このほか、“近くのお店”の概念も日米では異なる。米国ではクルマでの移動が想定されているため直径5kmだが、この基準では、例えば渋谷のラーメン屋を検索すると新宿や恵比寿の店までヒットしてしまう。日本では徒歩圏内とし、直径500mに変更した。

 また、目的地へのナビゲーションにおいては、目印が重要となる。米国ではほとんどの通りに名前が付いているためやりやすいが、日本では名前のない通りが多い。そこで、ビルの名称などを細かく表記したり、コンビニの位置をアイコンで表示するなど、ランドマークの表示を充実させた。アイコン表示は日本版が最初という。


現在の「Google マップ」5年前の「Google マップ」

“近くのお店”の範囲ビル名の表記やコンビニのアイコンの事例

日本発の機能も追加、地図は情報のプラットフォームに

 ソフトウェアエンジニアの南野朋之氏は、次なる段階として、より使い勝手を改善するための機能を担当した。周辺の店舗などを検索するローカルサーチについて、3年前の検索結果画面を提示し、店舗名と住所、電話番号しかリストアップされない画面を「電話帳のようだった」と表現する。


ソフトウェアエンジニアの南野朋之氏シニアプロダクトマネージャーの河合敬一氏

 これでは、そこがどのような店舗なのか、どのような料理を出すのかがわからない。そこで、インターネット上にあるその店舗に関するの写真も表示し、店舗の雰囲気などが伝わるようにした。これは日本のグーグルが始めたプロジェクトの1つだという。写真を地図上にプロットする機能も備えており、単に地図としてだけでなく、ユーザー写真を地図上に整理するプラットフォームとしての側面も持つことになった。


ローカルサーチ結果での写真表示の例地図上への写真のプロットの例

 シニアプロダクトマネージャーの河合敬一氏は、比較的最近の新機能として、2009年に実装した世界地図の日本語化の事例を紹介。都市名にとどまらず、街中の細かな地名までを「人の力と機械の力を借りた魔法」によって日本語化したという。その結果、過去の歴史において日本語で表記されたことがなかったような地名までも表記しているとし、「ここまで詳細な地図はこれまでなかったのではないか」とした。


世界地図の日本語化の例街中レベルまで対応

 河合氏はこのほか、ストリートビュー撮影用の3輪自転車を用いて撮影した京都・高台寺の事例も紹介。ストリートビューで収録してあるのは、3月のある朝に撮影した風景だけだ。しかし、「Google マップ」には、その写真をベースにして、一般のユーザーが撮影してインターネット上に公開している同じ場所の写真を機械的に収集・提示してくれる機能がある。「より立体的に重層的にその場所への理解が深まる」と説明した。「地図を、情報表現の1つのキャンバスとして整理してきた」(河合氏)。


京都・高台寺のストリートビューインターネット上で公開されている同じ同じ場所の写真を収集・表示する機能

災害や天候など、刻一刻と変化する世界を迅速に地図に反映

 Googleの製品管理担当副社長であるジョン・ハンケ氏は、今後の方向性として、地図のベースレイヤーとなる基本的な情報がない地域も世界にはまだあると説明。ユーザーが店舗などの情報を追加していく「マップメーカー」という取り組みを紹介し、190カ国以上で多くのユーザーがログインして地図情報を整備しているとした。

Google製品管理担当副社長であるジョン・ハンケ氏

 また、「Google マップ」では、世界中のあらゆる場所(プレイス)に対応した「プレイスページ」を開設しており、その場所に関連するウェブへのリンクや写真を盛り込んだ“まとめページ”となっている。現在は約1億カ所のプレイスに対応しているが、今後、これを10億カ所に拡大する。あらゆるプレイスを盛り込み、ユーザーがどこに行くのが最良の選択をするのに役立つ情報を提供していきたいという。

 さらにハンケ氏は、「世界は常に変化している。日々起こっていることを、いかに迅速に地図に反映するか」が課題だとした。これは、例えばメキシコ湾の石油流出事故でそこに何が起こっているか、ユーザーが状況を把握できるようにすることだ。

 また、常に状況が変化する事象として天候を挙げ、「Google Earth」において一部地域で導入した天候のアニメーション表示を紹介。現実のその場所の天候に応じ、雨が降っている時は雨、雪が降っている時は雪を表示することで、ユーザーが行動する際の判断の材料に役立てていく考えだ。


「マップメーカー」の例「プレイスページ」の例

災害や天候など最新状況の表示例店舗内を表示する「おみせフォト」公開に向けて、現在撮影が進行中

 なお、今回の説明会は、8月2日にグーグルのオフィスが移転して間もない六本木ヒルズ森タワー内にて行われたが、グーグルのオフィスが入居しているフロアとは別のフロアだった。実は、説明会が行われたフロアには、森ビルが制作した縮尺1000分の1の東京の巨大立体ジオラマが置かれており、「Google マップ」の説明会ということで、森ビルの好意により借りることができたという。

 説明会終了後には、報道関係者向けに、ハンケ氏と河合氏がこの巨大ジオラマの前でたたずむ様子の撮影会も行われた。ジオラマの脇には、ストリートビュー撮影用の3輪自転車も持ち込まれて展示されていた。







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(永沢 茂)

2010/8/6 20:20