“アプリキラー”新機能組み込みのiOS 5発表で、アプリ開発者が目指す道は?


「Instapaper」のサイト

 Appleが6日に発表した「iOS 5」では、これまでサードパーティアプリが提供していたような人気機能がOS自体に組み込まれることになったため、“アプリキラー”になってしまうのではないかとの懸念がある。開発者たちは生き残りをかけて動き出した。

 発表時点から特に注目を集めたのは、iTunes Storeで常に上位の人気アプリ「Instapaper」だ。Instapaperは、ブラウザーでじっくり読みたい記事をクリップし、読みやすいレイアウトにしてPCやiPadなど、さまざまな端末で読めるようにするためのサービスだ。この機能はiOS 5において、Appleが発表したSafariの「Reading List」と競合するものと思われる。

 これについてInstapaper開発者のMarco Arment氏は、「今後はInstapaperについて『これはSafariのReading Listと似ているんだけれども、もっとすごくて、こんなことができるんだ』と潜在的な顧客に説明しやすくなる」とコメントし、Appleの動きを半ば歓迎している。実際、Instapaperの利用者は、iOSユーザーの1%に満たないのだという。Appleがアプリの概念を代わりに説明してくれるというわけだ。

 同氏は12日、今後の開発計画についてさらに詳細な説明を行った。Instapaperでは、iOS 5で提供される新機能、例えばハードウェアによる明るさの調整機能などを利用する。しかしその一方で、Instapaperが単なるiOSアプリではなく、大きなサービスを利用するためのインターフェイスであるとの考え方を強調する。この特徴から、単に「iCloud」を利用する方向には向かない。それだけでなく、Amazon.comのKindleを含めたApple以外の端末やすべてのウェブブラウザーをサポートするという、Appleが行っていない付加価値を引き続き提供していく。今後数カ月以内には「大きなアップデート」を行う予定だとも発表した。

 一方、クラウドサービス/アプリの「SugarSync」では、Appleの動きは、Microsoft、Google、Amazon.comなどに共通した「ロックイン戦略の表れに過ぎない」と切って捨てるとともに、「クラウドはユーザーのすべてのデータを、いつでも、どこでも、どんなデバイスでも利用できるように完全にアンロックしてくれる、自由の究極の代理者であると確信している」とコメントしている。このように、「アンロック」も1つのキーワードとなる。

 同様に影響が懸念されるストレージサービスの「Box.net」もコメントを発表。同社もまた、iCloudがApple製品でうまく動作するように最適化されているサービスであることをふまえ、さまざまなプラットフォームや端末を利用する企業には全く向かず、コンシューマー向けにとどまると予測した。また、Appleの過去の歴史を振り返った時に、同社が企業にとっては重要な高度なセキュリティ、履歴管理、シングルサインオン、スケーラブルなユーザー管理機能といった機能を提供してこなかったことを指摘している。確かに、Apple製品は一般コンシューマーに向けられていることは明白だ。

 今回のiOS 5とiCloudの発表では、多くのアプリ開発者が熱狂すると同時に、懸念も表明する結果となった。良い機能を開発すればするほど、将来的にそれがOSに組み込まれる可能性は高い。これはかつてMicrosoftのソフト開発者たちがたどったのと同じ道だと感じる人もいる。米国のラジオでは「Microsoftの方が開発者たちとのコミュニケーションがとれていた」と、Appleの「傲慢さ」を指摘するコメンテーターもいた。アプリ開発者は今後、Instapaperのように、新しいアイデアを推し進める方法や、どの端末にも対応するクロスプラットフォーム戦略、さらには企業向け機能を提供することなど、さまざまな方法を試みて新時代の生き残りを模索することになっていくだろう。


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(青木 大我 taiga@scientist.com)

2011/6/14 11:55