東野圭吾氏ら作家7人、書籍スキャン“自炊”代行業者を提訴


 東野圭吾氏や弘兼憲史氏ら作家・漫画家7人が20日、裁断機やスキャナーを用いて書籍を電子化する、いわゆる“自炊”の代行業者2社を相手取って、スキャン行為の差し止めを求める訴えを東京地方裁判所に提起した。

 訴えられたのは、「スキャンボックス」を提供する有限会社愛宕(神奈川県川崎市)と「スキャン×BANK」を提供するスキャン×BANK株式会社(東京都新宿区)。原告は2名のほか、浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、弘兼憲史氏、武論尊氏。

 原告側は、不特定多数の利用者から注文を受け、多くの書籍をスキャンして電子ファイルを作成し、納品する行為について、書籍の著作権者の許諾なく行うことは、著作権法の複製権侵害に該当すると指摘。

 こうしたことから作家122人と出版社7社は9月、スキャン事業者98社に対して、自らの作品をスキャンして電子化することは許諾しない旨を書面で通知。あわせて、サービスの存続意志を質問書で確認していた。

 その結果、事業者の多くは「差出人作家の作品について、今後スキャン事業を行わない」と答え、その後に事業を停止していた。しかし、今回訴えられた2社を含む一部事業者は、「今後も依頼があればスキャン事業を行う」と回答。原告側は、特に悪質と考えられた2社が、今後も著作権を侵害する恐れがあるとして、差し止めを請求した

 なお、ユーザー自身が個人的な目的で自ら“自炊”作業を行うことは、著作権法上の「私的複製」として認められている。しかし、業者がユーザーの発注を募ってスキャンを行う事業は私的複製には該当せず、複製権の侵害となるとしている。

スキャン事業が違法コピー拡散の温床に、放置すれば「創造のサイクル」害する

 原告側は、スキャン事業者により大量に作成される電子ファイルは通常、複製防止処置等(DRM)が施されておらず、誰もが自由に複製できると指摘。そのため、電子ファイルは友人らに転々と複製され拡散されたり、違法なインターネット上へのアップロードやファイル交換ソフトなどにより一気に拡散する危険性があると見ている。

 「海賊版被害が深刻化する中、このようなファイルが、本来の私的複製では到底困難な規模で不特定多数の依頼者に提供される事態を、著作権者は到底看過できません。」

 さらに原告側は、原告らの承諾を得た作品の多くが、既刊本も含めて電子書籍として販売されており、今後も多くの作品が電子書籍化されることが想定されていると説明。こうした中、書籍の電子ファイルが無許諾の事業者により無秩序に、大量に作成されることは、電子書籍の市場の形成を大きく阻害しかねないと非難している。

 また、現在はネット上で裁断本を買取・販売する事業者が多く存在するほか、Yahoo!オークションで「裁断済」などのキーワードで検索すると、同時期に1338件もの出品があったと報告。流通の用途はスキャンの繰り返し以外には考えづらく、裁断本をまとめて落札し、短期間で再度オークションに出品する例もあったという。

 原告側は、スキャン事業をこのまま放置すれば、無秩序な事業者の参入が進み、作家・出版社が書籍の収益からさらなる創作を行う「創造のサイクル」が大きく害されると説明。こうしたことから、現行のスキャン事業が著作権侵害にあたることを裁判を通じて明らかにし、あるべき電子書籍の流通とルールの姿について、議論と理解が進むことを願っているとコメントしている。


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(増田 覚)

2011/12/21 15:56