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インターネットがインターネットであるために、今年9月までにまとめなければならないこと

IANA機能の監督権限移管について、ICANNのTheresa Swinehart氏が講演

ICANNのTheresa Swinehart氏

 日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)が3月11日、ICANN(Internet Corporation For Assigned Names and Numbers)のTheresa Swinehart氏による講演会を一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)において開催した。

 Swinehart氏は、戦略に関する事務総長への上級アドバイザーとして、ICANNの戦略計画を統括するとともに、ICANNのステークホルダーや政府関係者との調整・交渉を担当している。講演では「IANA監督権限移管とICANNのアカウンタビリティをめぐる動向」というテーマで、ICANNの置かれた環境の話などを含めながらこれら2つの案件が説明された。

IANA監督権限移管とICANNのアカウンタビリティとは何か?

 まず、今回の主要な話題であるIANA監督権限移管とICANNのアカウンタビリティ(説明責任)について簡単に整理する。

 IANA(Internet Assigned Numbers Authority)とは、DNSルートゾーンやドメイン名、IPアドレス、AS番号、プロトコル番号など、インターネット資源のグローバルな管理を行ってきた、南カリフォルニア大学のJon Postel(Jonathan B. Postel、1943-1998)氏を中心としたプロジェクトグループの名称である。IANAというプロジェクトグループが行ってきた資源管理は、2000年2月にICANN、南カリフォルニア大学、米国政府の3者の合意によりICANNに引き継がれた[*1]。現在では、ICANNにおける資源管理、調整機能の名称として使われている。

[*1]……ICANNは、民間主導でグローバルな調整を行うことを目的に、1998年10月に設立された米国カリフォルニア州の非営利法人である。当時のインターネット関係者や米国政府などによる議論の流れを受ける形で設立され、米国商務省(Department of Commerce:DoC)との間でその役割を規定する覚書(ICANN/DoC MoU)を締結した。1998年11月に締結されたこの覚書では、2000年9月末には管理権限をICANNに完全に移行するとし、それにあたって両者が果たすべき責務や目標が定められている。
(参考)「MEMORANDUM OF UNDERSTANDING BETWEEN THE U.S. DEPARTMENT OF COMMERCE AND INTERNET CORPORATION FOR ASSIGNED NAMES AND NUMBERS」
https://www.icann.org/resources/unthemed-pages/icann-mou-1998-11-25-en

 ドメイン名やIPアドレスといったインターネットの資源、およびドメイン名とIP アドレスを対応付けるDNS機能はインターネットにとってとても重要な要素であるため、その管理および監督権限のありかは常に議論の対象となってきた。中でも、2003年12月にスイスのジュネーブ、2005年11月にチュニジアのチュニスで開催された世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society:WSIS)においてクローズアップされたインターネットガバナンスの問題は、今でも形や場所を変えながら延々と議論が続いている。その内容とは、中国、ロシア、インド、中東地域、アフリカ地域の国々などが、米国およびICANNを中核とするインターネット管理体制を批判し、より各国政府の関与が可能な、国連やITUのもとでの管理体制の構築を主張するというものである。

 インターネットは、米国防総省高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency:ARPA)の資金提供を受けたネットワークとして誕生し、米国を中心として成長してきた[*2]。そのため、現在でも米国商務省電気通信情報局(National Telecommunications and Information Administration:NTIA)が、ICANNとの間で結んだ「IANA契約」を根拠として監督権限を有している。

 IANA機能がICANNに引き継がれて以降、インターネットの資源管理はICANNによって行われてきたわけだが、そのような中、やや唐突に変化の兆しが現れた。

 NTIAが2014年3月14日に、IANA機能に対する監督権限をグローバルなマルチステークホルダーコミュニティに移管する用意があると表明したのである[*3]。そして、その表明の中でICANNを、移管後の体制を提案する検討を行うための「呼び掛け人(Convener)」に指名している。

 それを受けてICANNは、移管後の体制を検討し提案するために、ICANNの外部にIANA Stewardship Transition Coordination Group(ICG)を組成し、活動を始めている。ICGの方針は、資源ごとのコミュニティに検討を委ね、調整に徹するというものである。そして、それらのコミュニティ(ドメイン名、IPアドレスなどの番号資源、プロトコルパラメーターの3つ)の案を統合して提案を作成し、NTIAに提出することになっている。

 また、それとは別に、米国政府が監督をしなくなった場合、IANAが適切に運営されるのかという点も問題になる。アカウンタビリティの議論は、IANA機能の運営者であるICANNが信頼に足る組織であることをどのように説明できるかということに対するものである。この点はとても重要なため、「ICANNのアカウンタビリティ」として監督権限の移管とは別に議論が行われている。

[*2]……「Brief History of the Internet」
http://www.internetsociety.org/internet/what-internet/history-internet/brief-history-internet

[*3]……「米国商務省電気通信情報局がインターネットDNS機能の管理権限を移管する意向を表明」
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2014/20140317-02.html

ドメイン名グループの大幅な遅れが不安要素か?

 Swinehart氏の発表は、プレゼンテーション資料を丁寧に説明していくものであった。冒頭で今回の主要な話題であるIANA機能に対する説明を行った直後に、「よく知った顔がいらっしゃったので」として聴衆側で参加していた数名に発言を求めてマイクを渡すなどしたが、受けた側もこれまでのいきさつなどに関する話をすることで多方面での意見を聞ける形となった。以降、重要と考えられる点にポイントを絞って報告する。

IANA監督権限移管に関する状況

 NTIAが移管に際して求めているのは、スライド2の通りである。今回は、許可を得てスライドそのものを使用させていただいた。

スライド1
スライド2
スライド3
スライド4

 そのスライド2に書かれている箇条書きには、

  • マルチステークホルダーモデルをサポートし、高めるものであること
  • DNSを柔軟かつ安全、安定させる形で維持すること
  • IANAのサービスを、グローバルな顧客やパートナーのニーズや期待に合わせること
  • オープンなインターネットを維持すること

といったことが書かれているが、注目すべきはその下の文である。“not”の文字に強調が入り、「他の政府、または政府間組織がこの役割を行うことは受け入れられない」としっかり書いてある。これは、NTIAが当初より「移行計画案が、政府主導あるいは政府間組織による構成である場合、提案を受け入れない」ことを明言していることによるものだろう。

 スライド5は、移管提案依頼の構造である。ドメイン名、IPアドレスなどの番号資源、プロトコルパラメーターの3つのコミュニティがそれぞれ案を出し、それをICGがまとめる形が示されている。

スライド5

 気になるのは、スライド6およびスライド7で示したドメイン名コミュニティ(CWG-Stewardship[*4])の進ちょくである。当初定められた2015年1月15日の期限に対し、IPアドレスなどの番号資源のコミュニティ(CRISP Team[*5])は2015年1月15日に、プロトコルパラメーターのコミュニティ(ianaplan WG[*6])は2015年1月6日に提案を提出している。しかし、CWG-Stewardshipは、提案の提出予定が4月上旬となっていることが示されているのである。これは、大幅な遅れであると言わざるを得ない。

スライド6
スライド7
スライド8
スライド9

 そのため、ICGとしてはスライド10で示すように、CWG-Stewardshipの提案を待つ間に受領済みの2つの提案を先に進め、3つの提案すべてがそろったところで評価プロセスを再度実施する予定とのことである。

スライド10

 余談めくが、2015年2月8日からシンガポールにおいて開催された「第52回ICANN会合(ICANN 52)」では、NTIAのLarry Strickling長官が「ドメイン名のコミュニティにおける検討状況は、直接IANA機能に関係のない要素を検討しようとするあまり物事を複雑にしており、説明責任について検討しているワーキンググループと同じ課題を重複せずに検討を進めていくことが重要」という発言を行っている[*7]。これは、CWG-Stewardshipにおいて、IANA機能におけるICANNの説明責任を担保する仕組みの検討などが行われ、管理を米国から引きはがそうとする動きや、監督権限の移管は進めるべきなのかといった前提に立ち戻った質問が行われていることをけん制する意図があったからと思われる。このような状況は、CWG-Stewardshipメンバーに帰すべき問題だと感じるが、いずれにしてもICANNにとって悩ましい状況なのではないだろうか。

 現在のIANA契約が満了する2015年9月までにNTIAが提案を受領する形を目指していること、提案は3つ同時にそろえて提出する必要があるとNTIAが公言していることを考えれば、CWG-Stewardshipの遅れは影響が大きいものとなるかもしれない。

ICANNのアカウンタビリティに関する状況

 もう1つのICANNのアカウンタビリティについては、スライド12でそのプロセスが説明されている。

スライド11
スライド12
スライド13

1)「ICANNの説明責任強化に関するコミュニティ横断ワーキンググループ(CCWG-Accountability:Cross Community Working Group on Enhancing ICANN Accountability)」を設立

2)議題を以下に示す2つの「Work Stream」に分離

  • 「Work Stream 1」は、IANA機能の監督権限移管までに解決すべき課題を扱い
  • 「Work Stream 2」は、IANA機能の監督権限移管に間に合わせる必要はないが、その後も長期的に解決すべき課題

3)外部アドバイザーの参加

4)ICANNボードの役割

 ここで重要なのが、2)の点である。NTIAからは、IANA機能の監督権限移管による影響を受けるものについては、その対応案をIANA機能の監督権限移管に関する提案と同期して提出することを求められている。ICANNのアカウンタビリティに関する課題は数多くあると考えられるが、それを2つのストリームに分けたことで、ICANNのアカウンタビリティが明確にならない限りIANA機能の監督権限移管の提案ができない――という事態を避けられることになった。

 スライド14は現在のCCWG-Accountability概要、スライド15、スライド17は今後の予定である。

スライド14
スライド15
スライド16
スライド17

 ストレステストは、移管後の体制に伴い想定される問題、異常事態に耐え得るかのシミュレーションである。今のところ、ICANNのアカウンタビリティについてその進捗は順調のようだ。

[*4]……ドメイン名のコミュニティは、大きくgTLDの支持組織であるGNSO(Generic Names Supporting Organization)とccTLDの支持組織であるccNSO(Country Code Names Supporting Organization)に分かれている。ここに関係する人々は多様なため、何かを議論する場合には明確なマルチステークホルダー体制が取られ、支持組織を通してメンバーが参加する形を取っている。複数のコミュニティが連携することを「クロスコミュニティ(コミュニティ横断)」と呼ぶが、IANA監督権限移管について検討を行うことを目的として組成されたのがCWG-Stewardship(CWG to Develop an IANA Stewardship Transition Proposal on Naming Related Functions)である。

[*5]……IPアドレスのコミュニティは、特定地域内のIPアドレスの割り当て業務を行うRIR(Regional Internet Registry)と呼ばれるレジストリごとに分かれている。現時点でRIRは5つあるが、その連合体であるNRO(Number Resource Organization)がそれぞれのRIRからの提案を統合するために組成したのがCRISP(Consolidated RIR IANA Stewardship Proposal)チームと呼ばれるグループである。

[*6]……プロトコルなどのコミュニティは、インターネット技術の標準化を推進する任意団体であるIETF(Internet Engineering Task Force)にあり、そのIETFにはインターネット標準をはじめとする文書を作成するための確立したプロセスがある。IANA監督権限移管についてもこの標準プロセスが用いられ、設立されたのが、ianaplanと名付けられたワーキンググループである。

[*7]……「JPNIC News & Views vol.1285【定期号】2015.3.16」より引用。https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2015/vol1285.html

「未来を作って行くのはコミュニティの皆さま」

 発表後の質疑応答では、特に米国政府との関係とドメイン名コミュニティ(CWG-Stewardship)の進ちょくの遅れに対して質問が集中した。そのような質問が出る背景には、この機会に乗じてインターネットの資源管理を米国から奪い取ってしまおうとする動きをする人々が混乱を招いていると感じる人々の多さがある。

 Swinehart氏は、それらの点について次のように答えている。

「重要なことは、きちんと検討を重ねた結果(提案)をNTIAに提出することです。」

「オープンインターネット、マルチステークホルダーモデルが実現されているか、単一の政府に支配されてしまうことがないこと、安全性・安定性・柔軟性、これらの基準に立ち返ってそれらを満たしているか、そうしたことを確認しながら進めることが重要だと考えています。」

「ドメイン名コミュニティは、他のコミュニティに比べると多様な参加者がいることは確かです。参加者が幅広いことで、時間がかかっているように思われます。コミュニティそれぞれのやり方があり、それを尊重することが必要だと考えています。」

 質疑応答の後、Swinehart氏から会場に対して「移管を完成させるためには、皆さんにとって何が重要なのかをお伺いしたい」という投げ掛けが行われた。そこでは、「全体として、ICANNは良い仕事をしている」「ICANNは、他の国際的な組織と比べても、その透明さとアカウンタビリティは秀でている。政治的にも中立なのは良い」という点からの意見が多かったが、「アカウンタビリティを口実に、自分たちに都合のいいような仕組みを作りたがる人がいる。大事なのは、今のICANNを肯定して、改善すべきところは改善するということだろう。変えようとするあまり、すでに機能しているものを壊すことにならないようにしてほしい」といったコメントも出された。

 報告を終えるにあたって、Swinehart氏のメッセージをまとめてみた。今のICANNの考え方が明確に示されている。

「1998年のICANN設立以来、DNSの安定・安全・柔軟性は、マルチステークホルダー・民間主導という考え方のもと、コミュニティの皆さまによって維持されてきています。IANAの移管・アカウンタビリティのプロセスは、今すでに機能しているマルチステークホルダー・民間主導による成果を、今後さらに長期にわたり強化し、確固たるものとするためにあります。これらのプロセスを作り、それを進めていくのはICANNという組織ではなく、コミュニティの皆さまです。特に、日本のコミュニティについては、インターネットの黎明期からこの世界に深く参画されていることを、よく存じ上げています。この件についても、引き続き日本の皆さまの優れた知見をいただきたいと考えています。今後、公開で意見募集などもあると思います。その際は、ご意見をいただけますようお願いいたします。」

 なお、4月2日にJPNICにおいて「第6回日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)」が、4月14日にシスコシステムズ合同会社東京本社において「第42回ICANN報告会」が開催される。インターネットガバナンスに関心のある方は 参加してみてはいかがだろうか。いずれも無料で、登録のみで参加できる。前者についてはJPNICのサイトで申し込みの受け付けが始まっているので、検討してみていただきたい[*8]

[*8]……第6回日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)会合のご案内
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2015/20150323-01.html

(遠山 孝)