期待のネット新技術

MarvellのSilicon Photonics~光源の外部配置や「2.5D」構造など独自のアプローチも

Silicon Opticsの現状(4)

 前々回前回ではBroadcomのロードマップを紹介したが、そのBroadcomの競合というべきか、同じようにNetwork製品を中心にラインアップを揃え、かつ高速なSwitchも提供しており、加えて設計サービスを提供しているのが、Marvellである。

AI向け含むプロセッサーーの設計・製造に関する総合的な能力を持つメーカー

 次の図01、図02は今年5月末における同社のCorporate Overviewからの抜粋である。

 図01では、先端プロセスを利用しての製造を行うために必要な設計能力(いわゆるLSIの物理設計能力)に加え、システム全体の設計能力(いわゆるLSIの論理設計能力)とそのシステムを利用するために必要なソフトウェアの開発、利用可能なアクセラレータのIPの提供や高速信号を含むMixed Signalのハンドリング、基本的なIPブロックの提供などを行っているほか、そのLSIを設計するにあたり、複数のダイから構成される、いわゆるチップレット構造の設計やCPO(Co-Packaged Optics)、パッケージ内のメモリ(主にHBM:High Bandwidth Memory)の統合と、昨今のAIプロセッサーなどに利用される先端ソリューションまで提供できる、ということが示されている。

図01:同社はこれまで古いプロセスを利用してさまざまな製品を提供してきており、昨今では5/3nmに加え2nmでの開発も進めている、というだけの話であり、7nm以上のプロセスに対応できないという話ではない(単に、差別化要因にならないため書いてないだけ)。

 もちろんこれは設計サービスのみならず、自社製品の設計と製造にも生かされている。図02に示されるるように、さまざまなプロセッサーだけでなく、同社のEthernet Switchやそこから一段細かくDSPやDriver/TIA、変わったところではPCI ExpressのReTimer(配線長の限界を超えて接続したい場合に利用する一種のリピータ:Ethernetで言えばL3以上のSwitchに相当する)なども、こうした技術を利用している格好だ。

図02:一番左はカスタムプロセッサーが並んでいるが、同社も汎用品のCPUやDPU(Data Processing Unit)

数十km以上の長距離通信を想定し、光源を外部に置く対応

 さて、話をSilicon Optics/Silicon Photonicsに絞っていく。同社もまずPluggable Transceiver Moduleに利用した。従来はDSPとDriver/TIA、それにTransmitterとDetectorといったかたちで個別のDiscrete部品を組み合わせる形でTransceiver Moduleが構成されていた(図03)わけだが、まずこのTransmitterとDetectorを、Silicon Photonicsで置き換えた(図04)。

図03:ここからのスライドは、Marvellが2024年に行った(Accelerated Infrastructure for the AI Eraというイベントのスライドからとなる。ここではEML Laserとなっているが、これは長距離のSMFを使う用途向けであり、MMFを利用するSR向けならVCSELあたりになる。
図04:まずは既存のDSP/Driver/TIAはそのまま流用して、Opticalの部分だけを変更した格好

 Marvellの場合、ここでTransmitterを完全にはSilicon Photonicsにしなかったところがポイントである。同社はTransmit側は変調器のみをSilicon Photonicsにし、光源(Laser Source)は外部に置いている。

 SR/DR、つまり到達距離500m以内の規格であればSilicon Photonicsを使ってLaser Diodeなどを構成することは可能だが、FR/LRとかCoherentなどで長距離を狙う規格の場合には、Silicon Photonicsで現状Laser Diodeなどを構成して十分な出力を得るのは難しい。

 ところがLaser Sourceは外部に置き、Silicon PhotonicsのTransmitter側はこのLaser Sourceを変調して出力するだけであれば、構築は容易である。Marvellは長距離向けのPluggable Transceiver ModuleにSilicon Photonicsを導入するというのが方針なようで、第1世代のCOLORZ 100はSilicon Photonicsを未使用だが、第2世代以降はSilicon Photonicsを使用することを発表している(図05)。

図05:ちなみにCOLORZ 100の開発はInphi Corporationであるが、同社は2020年にMarvellに買収された

 この第1世代のCOLORZ 100、lectrical I/FことIEEE 802.3bmに対応しているが、SMFで最大80kmの到達距離を実現するDWDM PAM4のものである。そしてこれに続くCOLORZ 400/800はCoherent対応の規格である。

 Coherentに関しては、以前こんなスライドをご紹介したが、400Gbpsだとおおむね10km以上がターゲットとなる。実際、COLORZ 400は400ZR/400ZR+、COLORZ 800は800ZR/800ZR+に対応したもので、このCOLORZ 800だと500km離れたData Centerを800Gbps、1200km離れたData Centerでも600Gbpsで接続可能とされている。こういう用途にはLaser Sourceは外付けにする方が適切なのは明白である。

 ただそれでも、例えば1.6TbpsのPluggable Transceiver Moduleを構成することを考えると、8対のOptical Unitを1つのSilicon Photonicsと2対のCW Laserに置き換えができるので、より低価格化が図れるというのがMarvellの主張である(図06)。

図06:左側は200Gbps×8で、それを8対のまま出すのかWDMにするのかは不明だが、まあ従来型の方式、対して右側はCoherentを前提にしているあたりちょっと違う気はする。もしも従来型の場合だと、CW laserは1つで済む(Silicon Photonics内部で分光すれば済む)とは思うが

Silicon Photonicsに舵を切っていく2024年時点のロードマップ

 ただ、その先は? というと、BroadcomばりのSilicon Photonics Engineを用意している(図07)。

図07:大きさが判りにくいが、4つのケーブルがそれぞれ8対16本の光ファイバーから構成されている模様である

 例えばSwitch ASICの4辺にそれぞれこれを1個ずつ置けば128レーン、2個づつ置けば256レーンの光信号を、直接Switchから出せるというわけだ。

 スライドを見ると、まるでTIAとDriver、それとModulator/Detectorが平面的に実装されているように見えるが(図08)、写真と区分けの図がまるで合ってないあたり、単に説明の都合で図を重ねただけで、実際の配置は3次元的になっているものと思われる(写真の中央にTSVと思われるBumpが見えることから、これはSilicon Opticsのダイを撮影したのではないかと考えられる)。

図08:後述するが、Marvellの方式は次回説明するTSMC同様、Silicon Optics(Modulator/Photo Detector)のダイの上にEIC(Driver/TIA)を積層する方式と思われる

 ちなみに、そんなMarvellの2024年におけるロードマップが図09だ。現時点ではまだPluggable Ethernet Moduleへの採用が始まった段階であり、SwitchへのCPOの実装とか、AIプロセッサーへの実装といった話は将来扱いになっている。

図09:Marvellは今年6月10日からInvestor Dayを開催し、その翌週の6月17日に"the Future of Custom Silicon Technology for AI Infrastructure"というWebinarを開催することを予告している。あるいはここで何かロードマップのUpdateが公開されるかもしれない

 ちなみにこの「現時点」というのは2024年4月の時点の話であり、2025年の時点の話でいえば1月に先に紹介したCOLORZ 400の特定顧客向け出荷はスタートしている模様だ。またCPOソリューションに関しては、2025年1月にカスタムAIプロセッサ向けに用意が出来たことをアナウンスしている

 そんなわけで、Broadcomに比べるとCPOそのものの提供はちょっと遅めではあるのだが、やはりSilicon Photonicsを積極的に導入しており、またEthernetだけでなくSwitchあるいはAI Processor向けのソリューションも用意しようとしているのが分かる。

「2.5D」構造を利用してCPOを構築、量産準備も整いつつある

 ところで、ここまでのスライドだとMarvellのCPOの構造がよく分からないのだが、MarvellのRadhakrishnan Nagarajan博士(SVP兼CTO)らによる"2.5D Heterogeneous Integration for Silicon Photonics Engines in Optical Transceivers"という論文を見ると、もう少しだけ構造が分かる。

 論文ではまず2D/2.5D/3Dという3種類の構造を定義した上で(図10)、現状は2.5Dを利用してCPOを構築している事を説明している。ちなみに現状はIntelやBroadcomも含めて、CPOの中にDSPまで統合しているソリューションは存在しない。勿論XPUへのCPOの統合を行う場合には何らかのかたちでDSPを実装する必要が出てくる「かもしれない」が、Ethernet Switchの場合はSwitchの方にDSPが統合されているので、特に必要がない。

図10:ここからは上記論文からの抜粋。Marvellは現状はまだ3Dは手掛けていない。現実問題、DSPの発熱を考えると、積層のためには何かしら工夫が必要そうだ

 そして、現状ではEthernet用のDSPはかなりの発熱になるため、DSPの上にSilicon Opticsを搭載する場合、熱による影響を真剣に考慮する必要がある。現状では、そこまで高密度化を図るべき理由もないので、とりあえずは2.5D Integrationでいいという発想と思われる。

 その2.5Dであるが、TIAをどこに置くのか? という議論がある(図11)。Marvellの構造はTSMC同様に、OIC(Optical IC)の上にEIC(Electrical IC)を設置する方法を考慮している。ところが信号の流れとしては「電気信号⇔DSP⇔EIC⇔OIC⇔光信号」という順になるので、OICの上にEICが置かれるとちょっと都合が悪い。

図11:中段はともかく、上段に関してはHigh Speed PCB(いわゆるInterposer)経由で配線をすればよいような気もするのだが

 案としては、EICとOICを別々に置いて間を配線でつなぐ(図11上段)か、EICをOCIの上に置くが、そのEICとDSPの間はジャンパ配線でつなぐ(図11中段)か、もしくはEICをOICの上に置いた上で、そのEICとHigh Speed DSPの上をTSV(シリコン貫通電極)でつなぐか、ということになる。

 これに関してのMarvellの分析が図12で、TSVを使うのが一番挿入損失が少ないという結果である。このことそのものは不思議はないが、実はこのTSVの構築は結構コスト増の要因になるため、IntelやBroadcomはあえてEICの上にOICを構築するという方式を取っている。Marvellは性能優先にした格好でだ。

図12:図11の上段が赤破線、中段が黒破線、下段が青線となる。上段あるいは中段だと、75GHzあたりで極端に挿入損失が増えることがモデリングの結果判明したとする

 実際に、OICの上にEIC(FC TIAとかFC Driverとか)を実装した様子が図13である。これはMarvellに限らずほかのメーカーも同じだが、Silicon Photonicsで構成したModulator/Detectorはまだ結構な大きさであり、TIAなどの回路よりもはるかに大きい。その意味では、OCIの上にEICを置く方式の方が理に適っているという気はしなくもない。

図13:FCはFlip Chipの意味で、要するに表裏をひっくり返して搭載していることを示している

 実際に、この2.5DのCPO(OIC+EIC)にDSPやMicrocontrollerを組み合わせたパッケージが図14で、そのパッケージのテスト用の治具が図15だ。大きいといっても、パッケージの寸法は1cm角かその程度である。

図14:DSPが2つあるのは送信用と受信用と思われる
図15:基板上のシルク印刷から、おおむねサイズが想像できる

 以上から、CPOの大きさはせいぜいが4×6mm程度ではないかと思われる。論文ではさらに、200mm/300mmのウェハを利用しての製造テスト(図16)なども行われており、単純な研究レベルではなく、量産に向けての準備がかなり進んでいる事を伺わせる。

 ちなみにこの論文は2023年6月付けであり、つまりほぼ2年前の状況であることや、先のプレスリリースをあわせて考えると、Broadcom同様にこちらも量産準備が整っていることを伺わせる。

図16:これは200mmウェハを利用しての製造テストと思われる。1個あたりの大きさは16.7×6.9mmほど。ただこれは図13~15と同じものではないようだが
大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/