レビュー

飲食店も経営するITライターが「飲食店向けのクラウド会計サービス」を使ってみた

カシオ「HANJO 会計」の実力は?

カシオ計算機株式会社が運営する飲食店経営者支援サービス「HANJO TOWN」のウェブサイト

 確定申告の時期がやってきた。もちろん、飲食店も申告する必要があるのだが、ただでさえ忙しい飲食店経営者の場合、きちんと帳簿を付けていないケースが多いのではないだろうか。

 日々の帳簿付けをきちんとしていない場合、まとめて作業しなければならず頭を抱えることになるが、そんなときに活躍するのが確定申告の支援サービス。

 今回は、個人飲食店に特化したカシオのクラウド会計サービス「HANJO 会計」をご紹介したい。筆者はITライターだが、7年前から飲食店を経営、現在は東京に4店舗と海外1店舗に展開しており、飲食店経営者とITのプロとしての両面からチェックしてみた。

 ちなみに、「HANJO 会計」は、3月15日まで「確定申告応援キャンペーン」の申し込みを受け付け中。5月末までの利用料金が無料になるので、気になる向きは検討してみるといいだろう。

1年分の経費・領収書を5時間で入力?

 さて、いきなりだが、今回レビューするにあたって、実際に使ってみて、どれぐらい時間がかかったか紹介しよう。

 まず、想定したお店の規模は15坪25席程度で、業種はダイニングバー。客単価は3000円強というところで、このお店が1年分の領収書をためていた、という設定だ。

 これで、入力をはじめたが、実際にかかったのは後述する領収書入力の部分で3時間、銀行口座からの取り込み部分で1時間、その後、確定申告の処理も1時間かからない程度で、合計5時間ほど。入力に不慣れな人の場合でも、領収書入力で5時間、銀行口座からの取り込み部分で2時間、確定申告の処理で1時間、あわせて8時間ぐらいになるのではなかろうか。もちろん、条件によって時間は大きく変わっていくが、一つの参考にはなるだろう。

 ちなみに、飲食店経営者としての感覚では、大量の経費を次々と手軽に入力していけるのが便利だった。取引さえきちんと入力できれば、青色申告の準備も恐ろしく簡単だったのも嬉しいところだ。

 では、個別の部分を紹介していこう。

経費入力から経営、確定申告まで親切サポート!

 さて、カシオ計算機の「HANJO 会計」は経営分析機能を搭載した、クラウド会計サービスだ。「飲食店経営の繁盛を応援する」(カシオ)コンセプトで運営されている「HANJO TOWN」内のサービスで、会計や確定申告だけにとどまらない、複合的なサービスとして利用できるのが特徴だ。

 「HANJO 会計」では、とにかく簡単に、取引の情報を登録できるのが特徴。手入力はもちろん、スマホでレシートを撮影したり、銀行口座やクレジットカード口座と連携して取引を取り込んだりできる。店舗で利用しているレジが対応機種なら、売り上げ登録も直接取り込めるのだ。

 クラウドサービスなので、PCさえあれば即使い始められる。WindowsはもちろんMacでもOKで、ソフトのインストールも不要。「HANJO 会計」にログインしたら、まずは屋号や住所、会計年度を設定する。今回は、2017年1月1日に設立した会社ということで登録してみた。そして、[設定]の[会計]→[勘定残高]で年初時の資産や負債を登録すれば準備完了だ。

個人飲食店に特化したクラウド会計サービス「HANJO 会計」。起動時に簡単なチュートリアルが表示される。再表示不要なら[次回から表示しない]にチェックする
「HANJO 会計」のメイン画面。まずは[設定]を開いて初期設定を行う
事業所や代表者の情報を登録する。なお、以下の画面は全て記事作成のために作ったサンプルデータを利用している
会計年度などを設定する
[設定]の[会計]→[勘定残高]で年初時の資産や負債を登録する

経費を手軽に仕訳銀行口座との連携やスマホ撮影での入力も

 何はともあれ、帳簿を作成する必要がある。過去の売上伝票や領収書をもとに、売り上げや経費を入力していくのだ。

 メイン画面から[新規登録]をクリックすると[取引入力]画面が開く。続けて収入/支出/振替タブをクリックし、[一覧]をクリックする。すると、取引の選択ウィンドウが開くので、項目にあった分類を開き、右側から該当する取引を選択しよう。取引は多岐にわたって用意されており、一般的な飲食店が利用する内容はほぼ網羅されている。取引を選択すれば、[勘定科目]が自動的に設定され、帳簿にきちんと記録されるのだ。売り上げや仕入れ、備品の購入はもちろん、自治会費やおしぼりのリース料、店内に飾る生け花、調味料の購入といった項目まで用意されており、困ることはなさそう。

 収入に関しても、普通の売り上げだけでなく、返品による返金や社員価格での販売、損害賠償金の受け取り、自動販売機からの収入なども選べる。個人事業ではよくあることだが、資金がショートしそうなので、事業主から資金を借りる、という項目もある。

 取引を入力する際、[画像追加]をクリックすれば製品の写真などを登録しておける。何を買ったか分からなくなりそうな場合は、登録しておくと便利だ。頻繁に登録する取引なら[よくある取引に登録]をクリックしておくと、そのあと入力するときに手間が省ける。電気代や家賃などを連続して入力する場合は、[同様の内容を連続で登録するので値を保持する]にチェックして[登録]をクリックすればいい。そのままの内容で再度登録画面が表示されるので、日付や金額を少し修正するだけで、次々と入力していくことができる。年度末にまとめて作業する場合は、助かる機能だ。

[取引]タブから取引区分を選択し、[一覧]をクリックする
合致する取引内容を選択して[閉じる]をクリックする
取引日付をカレンダーから指定する
決済方法や金額を入力し、[登録]をクリックすれば記帳される。経費の使用目的などをレシートに書いている場合は、[適用]に入力してもいい
[画像追加]で製品写真などを登録しておける

 スマホアプリからも入力できる。App StoreやGoogle Playから「HANJO TOWN」と検索してインストールしよう。もちろん無料だ。ログインしたら[レシート読み取り]をタップし、カメラで領収書を撮影すればいい。OCR処理が行われ、金額や勘定科目が入力される。もちろん、手書きの領収書は認識できないし、普通の領収書でも全く認識されないこともあるので、人の目でチェックするのは忘れずに。スマホでの修正が面倒であれば、[仮登録]をタップしておけばいい。そのときの情報がとりあえずアップロードされ、PCでレシートの画像を表示しつつ修正できるようになる。

【スマホアプリ】

スマホアプリで[レシート読み取り]をタップ
領収書を撮影する
認識できたら、[登録]をタップ
試しに、スキャンした日を開いてみると、きちんと入力されていた
手書き領収書など、修正項目が多い場合は[仮登録]をタップする
[取引]の[仮登録から登録]を開くと、スマホアプリで撮影した内容が表示される
詳細を開くと、レシート画像を確認できる

ネットバンクや口座からデータを取り込み面倒な「勘定項目」も自動判定で入力

 「HANJO 会計」は個人資産管理サービス「Moneytree」に対応している。

 「Moneytree」は銀行口座やクレジットカード、電子マネー、証券口座などを登録すると、残高や利用明細を取得できるサービスで、「HANJO 会計」と連携させるとそれらの情報から手軽に取引を入力できるようになる。

 口座から引き落とされる光熱費や振り込んでいる家賃など、[登録]をクリックするだけで、取引として登録できるのは大助かり。日付や金額、決済方法はもちろん、システムが自動で分析して予測される勘定科目も入力してくれる。支払手数料も正確に処理してくれるので、手間がかからない。もちろん、通帳の内容が全部取り込まれてしまうことはないので、個人で使っている口座でも問題なし。不要な項目は登録画面で[削除]をクリックすればいい。

 他社サービスからCSVで入力することもできる。ファイル形式としては、HANJO 会計と弥生会計をサポートするが、ひな型のCSVファイルをダウンロードして、そこにフォーマットを合わせれば他の会計サービスから移行することも可能だ。[元帳・補助簿]タブから[CSV取込]をクリックし、ファイルを指定すると既存の取引を取り込める。

 カシオ計算機の対応レジスターを利用しているなら、売り上げデータを自動で仕訳登録してくれるのでさらに便利。QRコード出力対応機種なら、印刷したQRコードをスマホアプリで読み込めばいい。

あらかじめ[設定]→[会計]→[口座]で連携させる口座を登録しておく
口座名や口座種別を入力して「登録」をクリックする。自動取り込みをするなら「Moneytreeとデータ連係をする」にチェックする
「Moneytree」のウェブサイト。2600以上の金融機関やサービスをサポートしている。無料でできるのがうれしいところ
ログインしたら「銀行を追加する」をクリックして、銀行口座やクレジットカードを登録する
プルダウンメニューから「Moneytree」に登録した口座を選べるようになる
[取引]メニューから[口座から登録]をクリックする
取引が自動で取り込まれるので、[登録]をクリックする
他の会計ソフト・サービスから乗り換えるなら、[元帳・補助簿]タブから[CSV取込]をクリック
ファイル形式を選択して、CSVを読み込む。[ひな形CSVダウンロード]をクリックすれば、サンプルファイルをダウンロードできる
対応しているレジスターを使っていれば、その情報も自動入力できる。写真は、QRコード対応レジスターの1つ「SE-S30」

実際に青色申告してみると……

 取引をすべて入力したら、青色申告の準備を行う。

 書類作成の前に行いたいのが減価償却の計算だ。いろいろな特例があるのだが、これも「HANJO 会計」にお任せで構わない。取引を入力する際に、例えば「パソコンを購入」の際、金額を入力する前に「10万円以上20万円未満」とか「30万円以上」などを選択するのだが、それで分類が済んでいるため。

 まずは[決算]メニューから[固定資産管理]を開き、仕訳帳から追加する。数量や使用開始日、耐用年数などを入力する必要があるが、自動入力されないので、国税庁の耐用年数表などを参考にしよう。リンクが張られているので、クリックするだけで該当ページが開く。

高額な商品も該当する取引を選択するだけでOK
[固定資産管理]画面から減価償却が必要な項目を検索して登録する
耐用年数などを入力して登録する。これは、国税庁のウェブサイトなどを参考に手動入力する
[2017年度の償却費を計上する]をクリックすれば登録完了

 いよいよ大詰め。青色申告の準備を行おう。

 トップ画面の「確定申告書類を作成する」ボタンをクリックすると、「確定申告NAVI」が表示される。表示された内容に従って、操作やチェックすることで、青色申告書や所得税確定申告書、場合によっては消費税申告書が作成できる。

 「確定申告NAVI」のガイドに従い、「青色申告決算書を作成する]をクリックすると作成画面が開く。4ページの作成画面が用意されているが、基本的にこれまできちんと入力しているなら追加作業はほぼ不要。[全ページをダウンロードする]をクリックして、PDFファイルをゲットできる。あまりに簡単すぎて不安になるほどだ。

[確定申告]メニューから[確定申告NAVI]を開く
申告の流れが表示されるので確認する。
リンクから該当する作業ページに飛ぶこともできる
作成画面が開くが、基本的にはこれまで入力した情報を利用する。問題ないようであれば、画面下の[全ページをダウンロードする]をクリックする
青色申告の決算書を作成できた
貸借対照表もゲット

 続いて[決算]メニューから[所得税確定申告書]をクリックする。[所得税確定申告書]は6つのタブがあるので、順次入力していく。とはいえ、基本情報や収入/所得金額などは自動入力されるので手間はかからない。同様に、消費税申告書も簡単に作成できる。

[決算]メニューから[所得税確定申告書]をクリックする
[所得の種類]から[事業(営業等)]を選ぶと金額が自動で入力される
入力したら[ダウンロード]をクリック
「所得税確定申告書」が作成できた
今回は不要だが、[決算]メニューから消費税申告書も自動で作成できる

「経営NAVI」で日報管理や資金繰りもできる

 飲食店経営をサポートしてくれる「経営NAVI」も活用したい。

 「日報」機能では、売上や経費に加えて、客数や客単価を管理できる。帳簿には出てこない情報だが、飲食店の現在状況を把握するにはかかせないところ。画像を登録したり、出来事をメモする機能もあり、本格的な日報記録サービスとして活用する手もある。

 日報をきちんと入力していれば、[事業状況]タブでグラフ表示できる。日次/週次/月次で、前の日/週/月と前年の情報を表示してくれるので、状況が分かりやすい。

 [資金状況]タブでは現金残高に加えて、見込まれる支出も管理し、使えるお金がどのくらいあるかを確認できる。お金に余裕のない個人飲食店としては、資金繰りが可視化できるので助かるところだろう。

「経営NAVI」の[日報]タブで来客数や今日の出来事などをメモできる
[事業状況]で売上や客数の推移を確認できる
[資金状況]タブでは資金繰りを確認できる
「HANJO 給与」や「HANJO POP」などは別途契約が必要。申し込みは1クリックで行える。

 今回、ダミーとはいえ、ほぼリアルな取引情報を1年分入力してみた。さすがに短時間でできるとは言えないが、1日あれば何とかなるだろう。とにかく、取引が簡単に入力できるのが助かるところ。もし、「HANJO 会計」を本格的に使うなら、今後の支払いはできる限り「Moneytree」で取り込める銀行口座やクレジットカードを利用すべきだろう。[登録]ボタンをワンクリックするだけというのはとても便利だ。

 取引さえきちんと入力できれば、前述の通り、確定申告の書類はあっという間に用意できる。あとは、プリンターで印刷して申告してもいいし、e-Taxに対応しているので自宅から電子申告することもできる。

 個人飲食店経営者が気になるコストは、月額980円(税別)とお手頃価格。本来の業務と関係ない作業は「HANJO 会計]で削減し、浮いた時間でさらなる売上アップを実現させよう。

(協力:カシオ計算機株式会社)